第140話 本編Ⅰ-29 何でも屋
予定よりだいぶ遅くなりましたがそろそろ少しずつ話が動き出します
俺の魔法は一向に上達しなかったのだがそれも『比較的簡単に誰にでも魔法が身につく』の中で著者が言及していた。
しばらく効果がみられない人はある時期になると急に能力を発揮することが多々ある。
高い本買ったんだ。
しかも著者は偉い先生だ。
信じるしかあるまい。
俺はウエンディとの剣術や格闘技の稽古も続けた。
彼女の弱点は視野の狭さだった。
左目がまったく見えない彼女にはどうしても左方向に死角が出来てしまう。
これをどうにかしなければならない。
左目の視力の回復は望めない。
となればどうにかしてそれを補わなければならない。
一つは右目が真ん中に近くなるような構えにすることだった。
しかしこれだと右端と左端が死角になってしまう。
一つは顔や体を動かすことで、右目の位置を変え、死角をなくすことだった。
これは集中力が途切れやすくなるのと、敵にそのリズムを読まれて、攻撃される可能性があるという弱点があった。
一つは左側に構えることだった。
これは単純に考えれば右の防御を少し減らし、左に移行して牽制するだけのことなので負の側面もあった。
一つは視覚以外を鋭敏にすることだった。
聴覚、嗅覚、そして第六感をおおいに鍛えた。
そして最初から左目を弱点とさらけ出し、攻撃を誘うことにした。
左目が見えないことを隠す手もあるが、これは露見した時に大きなマイナス要素となる。
ウエンディは感覚を研ぎ澄ませることで、左目が見えないことを概ねカバーできるまでに上達した。
注文していた魔石がやっと届いた。
こぶしより一回り大きな杖用の魔石が一つ、ペンダントとして加工された魔石、ブレスレットとしての魔石が一つ、小石ぐらいの大きさの魔石が三つ、計六つの魔石を手にした。
自分が貯めていた金額ではとても足りなかったがその分はヒアルが貸してくれた。
最初は足りない分は払うと言われた。
だが俺はきっぱりと言った。
「こんなことされるといつまでもヒアルに甘えてしまう。僕を一人前に扱ってほしいんだ」
この台詞を聞き、ヒアルは自分が足りない分を払うという考えをやめ、俺に貸すことにした。
ちょっと惜しい気はしたが。
一月以上経ったが魔石を手に入れても魔法は急激には上達しなかった。
しかし確実に緩やかに力がつくのは実感できた。
治癒術が少し身についたようだ。
樹木の表面の数ヵ所をを少し削る。
一部にだけ治癒術を念じる。
それもやり方を色々変化をつけて。
杖を使い、魔法陣を用いゆっくりと詠唱したところは十分ぐらいかけて元通りになる。
でも早く以前の転生時のような力を持ちたい。
俺は『比較的簡単に誰にでも魔法が身につく』に記述があったように小さな魔石を一つ、粉々にし、それを服用した。
するとチクチク胃が痛み出し、しばらくすると激痛が襲ってきた。
痛みに耐えながら治癒術をかけた。
我慢できる程度の痛みにまで収まった。
次の日トイレを済ますと嘘のように痛みが退いた。
どうやら服用は効果なかったらしい。
俺は地道に鍛錬を続けた。
鍛錬のの積み重ねの甲斐あってイデウスほどではないが治癒術を使えるようになった。
これは役に立つ。
何かあった時に致命傷でない限り復活できる。
つまりある程度ムチャができるのだ。
俺は十三才になり、実戦を積むことにした。
冒険者ギルドに登録するのが最もよいのだがこの国にもそんなものは存在しない。
それで『何でも屋』になった。
といっても私立探偵と警備会社と警察と消防を兼ねたようなものだ。
料理店はヒアルを中心に父ガウディ、母ベッキーと兄モスバが残り、俺とウエンディは『何でも屋』に力を入れた。