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第137話 本編Ⅰ-26 魔法の書




天神との夢の中での会話を後から思い返し気づいた。


ヒアルのことも色々と聞けばよかった。

まあいい、俺がヒアルとは何か縁を感じるから確認するまでもなく信頼しているから。





料理屋は大繁盛だった。

持ち帰りのコーナーもいつも行列ができていた。


ゆとりもでき、俺が自由に使える金額も半端じゃなかった。


この世界のお金の単位はルドだったが物価は俺がいた頃の日本に近かった。

都で一部屋借りると家賃が十万ルド近くする。

お昼の定食が六百ルド、夜のディナーが千五百ルドぐらいだ。

もっともベントール亭のランチやディナーはかなり割高だが。



俺が自分のお小遣いを貯金して今の時点で八百万ルドほどあった。

本当はもっと稼いでいたが、それに関しては母ベッキーが管理していた。




魔石を買いたかった。

何軒もの魔法道具店を探してみたがなかなかよい魔石がない。


やっぱり一生ものだからいい物を買いたい。

そこでこの国一番の老舗店に行き、いいものを幾つか注文し取り寄せてもらうことにした。


もしかすると貯金した額では足りないかもしれない。

その時はベッキーにお願いして俺の資産から足りない分を払ってもらおう。



『比較的簡単に誰にでも魔法が身につく』という長いタイトルの魔法書も欲しかった。


この時代の本は大変高価で古本でも最低で十万ルドする。

ましてや普通の本だと三十万ルドは下らない。


その本は本屋に置いてあったが、中が読めないよう縛ってあった。

その帯には『これさえあれば魔石なしでも強力な魔法を使えるぞ』とあった。

魔石が届くのがいつになるかわからない俺はその本を手に入れたかったが二百万ルドもした。



俺は本屋の店主につい愚痴った。


「いくらなんでも高すぎないですか」


「何を言ってるんだ。魔石を買うと思えば、随分お得だぞ」


確かに。



俺は魔石をキャンセルしようか迷い、ヒアルに相談した。

ヒアルの答えは可能性があるならどっちも買うべきだというものだった。


金がありゃそうするが。

まずベッキーにお伺いを立てなきゃならないだろう。


自分のお金の一部しか自由にできないことをもどかしく感じた。


いっぺんに二つも高い買い物をすることをベッキーが許してくれるだろうか。




俺は次の日も本屋に行った。

すると『比較的簡単に誰にでも魔法が身につく』は売れたとのことだった。


「次入荷するのは早くて半年後かなあ。ガハハ」

店主は俺のハートをえぐるような笑い方をした。




家に戻り、ふて寝しようとベッドに横になった。

? ちょっと痛い? なんだ。

それは『比較的簡単に誰にでも魔法が身につく』だった。



ヒアルからのプレゼントだった。


俺は夢中になり読み進めた。

作者はミワキゲというラオ魔法学院の元教師とあった。



その本には知らないことが沢山書かれていた。


肉体と精神と魔法との関係は意外だった。


魔法に必要なのは強い精神力と適度な肉体だと記してあった。

肉体が強すぎてもいけないそうだ。

その理由は肉体が強すぎると無意識にそれに頼ってしまい、魔法への念が薄くなるからだ。


世間では魔法は幼いうちからトレーニングしといた方がいいというのはその通りだ。

だが大人になってから始めても効果がないというのは間違い。

実は魔法はいくつになっても始められる。


大人になってからだと魔法が身に付きづらいケースもある。

それでも正しく鍛錬すればお年寄りでも身に付くのが可能だ。



子供と異なってて大人が魔法を身に付けづらい原因は四つ。


一つ、集中力がなくなる。

子供の方が無我夢中になれるのである。

魔法に対する憧れを持てばよい。


一つ、無意識に肉体に依存してしまうことをやめる。

子供は肉体へ頼る意識がないが大人になり、生きる時が永いほど肉体に頼り、また影響を受ける。

子供は熱が出ても気づかず遊び続けるのがその例だ。

その反対で、大人になるとちょっとした不調にも敏感になる。


一つ、時間が足りない。

大人になると様々なやることがあり、子供と比べ魔法への時間が取れない。

そして子供というのは他のやるべきことを削ってでもやりたいことをやる傾向がある。


一つ、常識が足枷となる。

大人になると常識や理屈で物事を考えてしまい、これが魔法習得への邪魔となる。

魔法に関し、疑問を持たず、すべて信じ切ることが肝要だ。






そして大人のメリットも書いてあった。


大人は病への抵抗力も強く、すなわち健康であることが魔法を身に付けるうえで有利だ。


えっ? 魔法は肉体に頼っちゃいけないんだろ。

それとこれとは別なのか。

なんか腑に落ちない。

しかし度々この書に記してあるように疑いを持っちゃいけないんだったな。




体が大きければ大きいほど体に備わる魔法の素の量は多くなる。

だから太れば太るほどよい。

その反対に痩せすぎだと魔法がなかなか発動できない。


えっ太っていいんだ。

最近太らないように料理への味見を控えていたけど控えなくていいんだ。




その他にも色々なことが書いてあった。

特に驚いたのは魔石は粉々に砕き、薬のように飲むのがよいと書いてあったことだ。


そしてこの書には特別に魔法がかかっているらしい。

他人に見せたり、事細かに内容を教えると、効果がなくなるばかりか今までの魔法も段々失われ不幸に見舞われると書いてあった。



具体的な呪文は書いておらず実用書としてはイマイチだった。

だが魔力が身に付くいくつかのトレーニング法やポージング、そして呪文などは載っていた。


俺はそれらに則ってトレーニングを始めた。


そして味見を制限することをやめ、太る為にドンドン食べ出した。

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