第13話 さよならイデウス
なんと天使が助けに来てくれた。
やっぱり転生って素晴らしい。
俺は今ミリヤという名の天使と手を繋いで逃亡中だ。
実際は天使のような猫耳娘なんだけど。
まあミリヤが俺に憧れていたこと知ってたけど。
厳密には聖なるイデウス様にだけどね。
うんイデウス様サマサマだね。
でもイデウスは今俺なんだから、ミリヤは俺に惚れてるってことでOKだな、決まりだな。
二人でどこか知らない土地に行き住むんだ。
俺はミシュ語が話せるからミシュ大陸に渡ってもいい。
ミシュ語が話せないミリヤは俺に頼りっぱなしだろうな。
ウッヒッヒッヒ。
俺は治癒魔法は使えるし、修行すれば火も扱えるかも。
今朝方のボヤ騒ぎは多分俺の魔法が関係しているはず。
ってことは火の魔法に関しても潜在能力がある。
日本に住んでいた時の知識もきっと役に立つぞ。
今は思いつかないが、俺の知識はこの世界の誰よりも秀れている。
で金儲けして豪邸建てて、ハーレム作って……。
「イデウス様大丈夫ですか」
可憐な猫耳娘が俺を心配そうに覗き込む。
スマホで撮りてえ。
超キュート。
この娘は命がけで俺を救おうとした。
だから裏切ってはならない。
愛人ではなく、正妻として迎えよう。
可愛がってやるぞウッヒャッヒャッヒャ。
段々笑い方が下品になってる気がするが気にしない!
「イデウス様! イデウス様! お気を確かに」
不安そうに猫耳ミリヤが俺を見守っている。
ああまた妄想に浸っていた。
しかしこれはリアルになることだから妄想ではなく予定だ。
将来の計画だ。ウフッ。
「うん、大丈夫。君を後悔させたりしないよ」
そう宣言し俺はまた考えた。
ミリヤが不安なのは俺の愛を獲得できたか自信がないからだ。
そうに決まっている。
彼女の心配を取り払ってあげよう。
そのために何をすべきか。ウフッ。
答えは一つ。
二人が一つになることだ。
いつの間にか人里離れた山の麓あたりまできていた。
「イデウス様取りあえずここまで来れば大丈夫です」
「うん、しかしこんなところでいいのか。どこか小屋はないのか」
「そうですね、ここだと人に気付かれますし」
あっやっぱり人に見られるのは最初のうちは嫌だろうな。
俺は経験ないけどそういうの平気なんだけど。
「廃墟となっている小屋とかがあればいいんですけど」
ミリヤのリクエストに応えなきゃ。
「あれはどうだ!」
いい感じにボロい小屋が見つかった。
中に入ると粗末な寝床が一組だけある。
ラッキー!
「ちょっと疲れた、横になって休もうか」
「イデウス様どうぞお休みください。私は番をしてますので」
「いや人など来ぬはずだ。君も疲れたろう。また何があるかもしれないし、今のうち休んでおきなさい。いや一緒に休もう」
「では治癒神慈法をお願いできますか。その方が休むより手っ取り早く回復できますので」
「うむ、ただ知ってのとおり治癒術をしようにも一昨日ぐらいから本調子ではないのだ。おまけに先ほどまで囚われていて拷問を受けていたから自分に治癒術をかけようにもその力が残ってないんだ」
「ではどうぞお休みになられてください」
「ミリヤ、君を残して私だけ休むなんてできない。二人でこの寝床に横になればいいではないか」
「そんな! イデウス様と二人きりなんて恥ずかしいです。何も変なことなさいませんか」
「しようと思っているよ。君のためにも。その方が安心できるだろ」
俺には君の不安がよくわかる。だからそれを取り除いてあげようと思っているんだ。察してくれたまえ。
「えっ何をおっしゃってるのかわかりません」
またまたーわからない振りしちゃって。恥ずかしいんだね。
「私への気持ち、隠さなくてもいいんだから」
「いいえ隠してなど」
「君のために一肌脱いであげようと思ってるんだよ」
と言いながら俺は脱ぎ始めた。
「どうしてそうなるんですか」
「ミリヤ、命懸けで私を助けてくれた君の想い。ちゃんと受け止めたよ。私と結ばれることは君が望んでいることじゃないか」
「とんでもなく思い違いをされてますね」
「じゃあ私と結ばれなくてもいいんだね」
「当たり前です。我々神に仕える者はすべからく俗世のことなど捨てなければなりません」
「それは建前でしょ。裏で色々やってる人も多いんだよ」
「はい、知ってます。ですがイデウス様の教会にはそういう輩はおりません」
「わかった。添い寝するだけにしよ。お互いのこと話してもっとわかりあわなければ」
「本当にそれだけですか」
疑っているようだった。
「本当だってば」
彼女は俺の顔を穴の開くほど見つめた。
「わかりました。信じていいんですね」
「聖なるイデウスを信用してくれ」
「わかりました。そこまで言うなら」
あれ、気のせい? 低くて可愛かったミリヤの鼻が高くなったような。
「ねえ、ミリヤ鼻が高くなってない」
「えっえっえっそんなはずはないです」
あきらかに動揺していたがまた彼女の鼻が高くなったような。
「不思議だね。でも高い鼻も似合うよ。カワイコちゃんから美人さんになったね」
「もしかして鼻が伸びること、知らないんですか」
意味不明なことを彼女は言った。
「なんのことだい」
「ううん、気にしなくていいんです」
「そっかあ」
と言いながら俺は彼女の体を撫でまわした。
「いけません」
「いいじゃないか」
そう言いながら彼女の尻尾を軽く握った。
「やめてください」
と彼女は言いびっくりした表情で俺を見た。
そして
「どういうことなの。怖い」
そう呟いた。
「? 怖がらなくてもいいんだよ」
俺は服の上から胸を触った。
「ははは鼻が伸びてない」
ミリヤは吃ったような怖がったような声を出した。
「ああん? 鼻の下は伸びてるかもね」
「 普通の人ならば嘘をつくと鼻が伸びるのよ。知らなかったの? あなた本当に悪魔じゃないの?」
言われたことで俺はパニックになった。
訳のわかんないことを言って。
取りあえずミリヤの口を塞いじゃおう。
少し強引になったがミリヤに軽くキスをして決め台詞を言った。
「大丈夫、大切にするから。信じていいんだよ」
ミリヤはニコッとではなくニヤッと笑った。
「イデウス様!今悪魔から解放して差し上げます。成敗!!!!」
一瞬心臓の辺りがチクッとした。
そして俺は意識が途絶えた。
ハッと目を覚ました。
このオンボロな感じの天井は見たことないなあ。
あっ今誰かに気づかれたらまずいと、慌てて目を閉じた。