第129話 本編Ⅰ-18 ベントール家への災難
そう俺がウエンディに剣術を教えることになった。
剣術以外についてもあらゆる戦い方も知っていることはすべて教えた。
ウエンディが得意とする火系の魔法は戦いにおいて即戦力となる。
それも絡めた戦い方も教えた。
「師匠、いつの間にこんなこと知ったの?」
ウエンディは俺に指導を受ける時だけは『師匠』と俺を呼んだ。
ただし敬語は使ってくれない。
「前も言ったように夢に出てくるんだ」
「へえでも夢に出てきたのは最近なんでしょ。短期間でよく色々身についたもんね」
鋭いとこ突いてくる。
「いや実は前からいろんな人が夢に出てきて教えてくれるんだ」
「師匠だけズルいなあ」
俺とウエンディの絆は前より深まった。
転生者ではあるが、兄弟であるせいか姉であるウエンディには変なというかスケベな気持ちは抱かない。
そう、転生したての頃はやけにある意味『早く男になろう』と焦っていたものだった。
しかしギルダスの時に初体験したがそこまで気持ちよくなかった。
やはり他人に乗り移って経験したいても本来の快感は得られないのか。
それともこんなもんだろうか。
日本にいる時は知らなかったから比べようがない。
その後もコデウスやザデウスの時に商売女を買ったことがあったがなんかピンと来なかった。
そして次第にエッチに関する欲求は薄れてしまった。
ウエンディと稽古を続けているうちに俺はまた年を取った。
このままじゃザンパに勝つのだって二十年かかるかもしれない。
とても『神』の類には勝てない。
魔法を会得した方が剣を使った戦い方も活きてくるはずだ。
ウエンディに教える以外は体を動かすことはやめ魔法のトレーニングだけに集中した。
どのやり方がいいかわからないが、瞑想を取り入れてみた。
最近『比較的簡単に誰にでも魔法が身につく』といった本が売れているらしい。
なんとかしてその本を手にしたい。
だが恐ろしく高価で手が出せない。
マックから手紙が届いた。
父ガウディがみんなの前で読んでくれた。
なんだか泥棒に入られたらしい。
俺は思った。
マックのところに入るなんて、間抜けな泥棒だ。
彼はそんなに給料もらってないはずなのに。
読んでいるガウディの顔が曇った。
ベントール家に代々伝わる高価な短剣が盗まれたらしい。
その短剣はかなりいい値になるという話だった。
そして何よりも五代前の王様から賜ったものだったのだ。
よし赤山に行こう。
俺は決意した。
あそこで迷子になった時に魔石を見かけた。
もうあの頃みちに幼くはない。
迷子になることもないだろう。
赤山に入っていき温泉に近づいた。
俺は思い出そうとしていた。
ここにチョロチョロとお酒が湧き出ているところがあったんだよな。
そこから辿るつもりだった。
すると呻き声が聞こえてきた。
お化けでもいるのか怖い怖い。
誰かが血まみれで倒れていた。
まだ息はあったがこれだけの深手だともう助からないだろう。
うつ伏せだったのを仰向けにした。
顔に見覚えがあった。
「私はウルヤンキー。暴ノ神の眷属だ」
やっとの思いで彼は口を動かしていた。
何か伝えたいのか、頼みたいのか。
「もしかしてバモン?」
「お前は誰だ。なぜ私の昔の名を知っている」
息も絶え絶え言った。
バモンは俺が土地ノ神の眷属ウーデルスに転生した時に出会った。
同性愛者ウーデルスの彼氏だったのだ。
その時はバモンに刺されて死んだのだった。
浮気しようとした。
しかもよりによってバモンが可愛がっていたその妹レイラに手を出そうとして彼の逆鱗に触れたのだった。
俺がウーデルスに転生さえしなければ、バモンとウーデルスは仲睦まじかったに違いない。
「もしかしてウーデルスと同じく逆賊だったの?」
「違う。こちらは悪くない。相手がワルなんだ」
「どういうこと。マリアやリゼは」
「殺された。跡目争いに」
そこでバモンは完全に息絶えた。
ザンパの仕業に違いない。
俺は魔石を探す気になれず家に帰った。
家は大騒ぎだった。
母ベッキーが少しヒステリックな声を出した。
「どこへ行ってたの? 荷物をまとめてすぐにでも逃げるわよ」
「えっどうしたの」
ガウディが手を動かしたままで教えてくれた。
「マックの短剣が国王に刺さっていたんだ。今度ばかりはまずい。逃げるしかあるまい」
「えっマック兄さんに限って」
「そんなことはわかっている。マックは無実だ。これはベントール家を滅ぼしたいやつに仕掛けられた罠なんだ」
「申し開きは」
「国王は死んだんだ。問答無用だろう。だいたい今まで一番庇ってくれていたのは国王陛下だったのだ。その陛下がお亡くなりになった今、もう我が家に手を差し伸べてくれる者はほぼいないだろう」