第114話 本編Ⅰ-3 魔法が使えない状態
遅くなりました。24時前です。
今からまた設定の続きを考えます。
食が細く、発育の悪かった俺は、とにかく体力をつけ、同じ年頃の子に追いつくことを目標にした。
しかし、神々からアドバイスを受けたように、慎重に行動した。
本当ならぺらぺら会話もできるし、いやそれどころか、両親よりも大人の立場から物を言えるのだが、なるべく年相応の子供らしく振舞うことを心掛けた。
よくはわからないが、『本番』らしいから、取り返しのつかないことをしないようにしなければ。
だって俺が転生したコデウスが王神に殺された後『天神』が出てきて半分脅すようなことを言ったから。
『もしあなたがこの世界で目的を果たせないならきっと苦しみ続けることでしょう』
『目的を果たすまであなたはこの世界に居続けるのではないでしょうか』
こんなことを言われたら成功させなければならない。
まだハイハイも出来なかったが、寝返りぐらいはうてるようになった俺は脳内トレーニングに集中していた。
念のためオムツは履かされているが決してお漏らしもしない、滅多に泣かない手のかからない、いい子にしていた。
これ以上すると怪しまれるから、言葉はわかってもわからないふりをしていた。
そんなある日いきなり部屋中の色々な物が宙に浮かんだ。
いったい何が起こったんだ。
俺は落ち着いて現象を見ていたが、なんかの汁が煮えたぎっていた鍋がフワフワ浮いているのを見て焦った。
寝返りしかうてない俺の方へ近づいてくる。
これはまずい。
俺は思い切り泣き叫んだ。
あっ汁がかかる。
ヤバイ、治癒魔法も使えないし、万事休す。
思わず目を瞑った。
しかしそこにちょっと痛い衝撃があり、呻き声がした。
滅多に泣かない俺が泣いたのを見て、母親のベッキーが青い顔をして飛んできて俺に覆いかぶさったのだ。
ベッキーはこのせいで決して軽症ではない火傷を負った。
だが、この時は自分の痛みよりも俺が無傷かどうかばかりに気が取られていた。
「ラデウス、大丈夫かい、ごめんね強くギュッとしちゃって」
言葉がまだ理解できない設定の俺に向かって話しかけていた。
そして無事を確かめるとホッとして泣き出し、それから我に返り、自分の火傷の痛みに苦しみだした。
母親の無償の愛というものを久しぶりに感じた。
と同時に日本での不甲斐ない自分のことも思い出した。
この火傷がもとでベッキーは体を壊し、以前のように働けなくなった。
そして五才になる頃には同い年の子と体格も変わらなくなった。
状況もおおよそ把握できた。
家族は両親と兄が三人、姉が一人いた。
父のガウディは三十七才だと思うが確かではない。
なにしろ見かけは五十才過ぎているぐらいに見えるのだから。
なぜこんなに老けているのだろう。
実はなんかの理由で年を誤魔化しているのかとも思うが、父と同様に母のベッキーも老いて見えるから、相当な苦労をしてきたのかとも思う。
元々はジャイ魔国の都ジャイラに住んでいたらしいが十年ほど前にジャイラから歩いて三日ほどかかるこのネオスに移り住んだようだった。
俺はもっと詳しい事情やいきさつを聞きたかったが、念頭に年相応に振舞うことがあり、しばらくは我慢していた。
父はネオス領で代官を勤めていた。
赤毛の彫りの深い顔立ちで深い皺が刻まれていた。
地球で例えるなら中東周辺の雰囲気を持つ顔立ちだった。
というか母も赤毛で、兄弟は俺以外みんな赤毛だった。
俺だけはなぜか黒髪だ。
顔立ちも俺だけ、なんかいわゆる醤油顔だった。
家に一台しかない鏡で自分の顔を見たが、ほっそりとした悪いないルックスだった。
なんか親しみが持てる顔だ。
まあまだ五才の子供だからこれからどうなるかわからないが。
うちの家系は人間と魔人の血が半分ずつ混じり合った血統らしい。
俺が前回転生したザデウスも父が魔人で母が人間だったが、うちの家族はザデウスとはまったく外見が異なった。
人間との見た目における差異はなかったのだ。
ジャイ魔国の民はほとんどの者が僅かな力ではあったが魔法を使えた。
魔法の力の強い者は貴族や高級官吏、武将などの地位に就いていた。
俺の両親はどちらも平民レベルより少し上ぐらいのランクの魔法を使えた。
だがその子供、つまり俺にとっての二人の兄と姉はかなりの魔法を使えた。
しかもそのことは誇らしい筈なのになぜだか世間に知られないように隠していた。
一番年の近いすぐ上の兄であるトラバも最近その兆候が出てきた。
なんでも十才前後ぐらいから魔力を持つかどうかがわかるらしい。
俺も密かに魔法の訓練を始めた。
俺が条件なく、しかもしっかり使えるのはアーデウスに転生して取得した火系とイデウスの時の治癒系だった。
ケイティに転生したおかげで風系は使えるがその力は弱かった。
そして特殊ではあるがウーデルスが使っていた身体能力を強化する勇気の魔法、カデウスの気配を消す術、ケイティの一瞬前に察知できる術、コデウスの物質の温度を操り、凍らせたり、熱したりする術があった。
今はまだ陰神に授かった嘘を見抜く術、陽神に授かった相手の名前つまり正体がわかる術、邪神に授かった姿を消す術は使えなかった。
神々に授かったそれらの術を身につけると居場所がバレてしまう。
やはりこの体が子供だからかなかなかうまくいかない。
考えてみれば今までは出来上がった人物に転生していたからすんなり魔法や術が使えたのだろう。
今回は一から始めないと、いやゼロからか。
ポイント増えてますね。
嬉しいです。
感謝。