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第10話  一難去ってまた一難

   



俺はさっきから何度も治癒魔法を試みていたが効果のほどはわからなかった。


子供は気を失ったままだった。

その額に触れてみたが熱が下がった様子はなかった。

父親は不安そうにこちらを見ている。


焦った。熱が下がらない。今までにイデウスの治療でこんなことはなかったはずだ。


その焦りがわかったのか父親がおそるおそる声をかけてきた。

「大丈夫なんでしょうか」


まずい、どうしよう。

「お子さんは難病です。今集中して治療にあたってますのでお静かに願えますか」


治癒の呪文は間違ってないよな。

やはり魔法陣と杖がないと駄目なのだろうか。


俺はどういう種類の神様に対してもまったく信心などしてなかったが知らず知らず神に祈っていた。


どうかこの子をお助けください。

じゃないと俺が困るんです。


なぜだか佐藤龍の時に喫茶店で会った自称神様のイカレタお姉さんを思い浮かべた。


『動機が不純だから却下』と言われたような気がした。


幼子と父親に目をやり、ろくでもなかった俺に愛情を注いでくれた両親を思い出した。

どうか治癒魔法よ効いてくれ!


幼子が目を開けヒュッと笑った。

意識が戻ったようだ。

すかさず額に手を当てる。

もう熱は下がっている。


俺はホッとした。


「もう大丈夫ですよ」


父親は俺に対し最敬礼してお礼を言った。

ポロポロと涙をこぼしながら。


それを見て俺は人助けも悪くないと思ったが、『柄にもないことだ』自分のキャラじゃないと思い直した。


しかし気持ちよかったのは確かだった。

良いことをして悪い気分になるはずがない。


日本での最後を思い出した。

体を張ってマーキームーンの三人を救おうとしたことを。


なぜあんな思い切ったことをしたのだろうか。

自分の行動とは思えない。


彼女たちは助かったのだろうか。






俺は治癒魔法の練習をするため、不味いと予想される夕飯はキャンセルすることに決めた。



教会に戻るとほとんどの者がテーブルにて食事を取っているところだった。


「お帰りなさいませ。先に頂いておりました。イデウス様もすぐ夕飯になさいますか」


「町で軽く食べてきたんで今はやめておきます。後から頂くつもりですので」

実は軽くではなくガッツリ食べたのだが。


「そうでございますか。そうそう今日はどんな時も携帯している『聖なる印』と『導きの杖』をお忘れでしたね」


「ああ? 魔法陣と魔石の杖のことですね。あれを忘れたから今日は苦労しました。だいぶ魔力を消費したかもしれません」

俺がそう発するとシーンとしてしまった。


みんな青い顔をしている。

何人かの者は卒倒した。


やばい。ななななにかまずかった?


パリボンは厳しい口調になった。

「いくらイデウス様でもおふざけを見逃すわけには参りません。魔という言葉はこの世にはございません。何か罰を……。そうですね今日のイデウス様の分の夕食は残しません。明日の朝食も抜きでお願いします」


俺にとってはたいした罰ではなかったからホッとしたが残念がった。

「ええええ、それはひどすぎますよぉ」


「イデウス様はそんな言い方なさりませんのに。本当にどうかなさったのですか」


「部屋に戻って反省します」


「明日からは神慈治療を再開してもらいますので、今日みたいに寝坊しないようにくれぐれもお願いします」





俺はうかつだった。

イデウスの記憶を探しても魔という言葉は一切出てこなかった。

魔力のことは少なくともこの時代では神慈力と呼んでいた。



部屋に戻り治癒魔法のトレーニングをしようとしたが病人がいない。

仕方なく自分の左手のひらを昨日部屋にこっそり持ってきた剣で傷つけた。


思ったより深く切ってしまった。痛い。

結構血が出て座っていたベッドや床にポタポタ落ちた。


傷口を布で縛ってなんとか出血はおさまった。

そして魔法陣の上に立ち杖を使いゆっくり詠唱を始めた。

だがいくら唱えても手のひらの痛みは消えない。


どうしよう。落ち着け。自分自身には治癒魔法は作用しないのか。


手かざしをしていないことに気づいた。

左手でそっと杖を持ち、右手を左手にかざした。

そして唱えた。


決してあきらめず何度も試した。

すると数えてなかったが十度目ぐらいに効果が顕われた。

そこからは早かった。


色々試すため体中に傷をつけた。

傷があっという間に治癒するのを見て、自分が治癒魔法を使えるのを知って、俺は剣であちこち切った痛みをさほど感じなかった。


まだまだ普段のイデウスの出来と比べると程遠い。

だがなんとかこれで神慈治療は乗り切れるだろう。



最低限のことをクリアした俺は、アーデウスの火を使う魔法ももう一度試してみた。


手のひらの出血を止めた布に着火させようと色々したが駄目だった。



そこで俺はアーデウスの記憶に一瞬出てきた魔法陣を繰り返し何度も視た。

興奮していた俺は後先考えず視たとおりに床に剣で魔法陣を描いた。


だが何度アーデウスの真似をして詠唱してみても効き目はなかった。

いつの間にか俺は疲れて寝てしまったようだ。



ドンドンドン

扉を叩く音で目が覚めた。


部屋の中を煙が充満していた。

火がチロチロ床に燃え移っていた。


やっべえ!



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