乙女ゲームの世界なんて御免です!~「二度あることは三度ある」なんて、冗談じゃない!~
乙女ゲームの世界なんて御免です!~「二度あることは三度ある」なんて、冗談じゃない!~【1st】
二時間クオリティーです。
蒼咲猫は乙女ゲームをしたことがございませんので、ここおかしい!とかあったら教えてください!
誤字脱字なども教えてくれるとありがたいです(苦笑)
『乙女ゲームの世界なんて御免です(ねがいさげ)!
~「二度あることは三度ある」なんて、冗談じゃない!~』
今流行りの乙女ゲーム転生的な小説。
主人公は公爵令嬢のユリア・トールカレッタ。
ユリアは、やはり前世の記憶を持っていて。
そしてやはり、役割は『悪役令嬢』。
でも、「転生!?しかも乙ゲーの世界!?」「死亡フラグ回避しないと!」なんて、
一切合切これっぽっちも考えない。
じゃあ、「悪役令嬢になりきってやろうじゃないの」なんて思うと思ったら大間違い。
なら、「ゲーム知識を活かして逆ハー目指す!」
……って訳でもない。
じゃあ一体何なんだ!って聞かれたら、彼女はこう答えるのだ。
「すでに二回も転生していて、両方とも乙女ゲーム転生に悪役令嬢!もう嫌よ!」
一度目の転生では、悪役令嬢回避のために善良な模範令嬢に見えるように努力した。
お陰で、「理想の令嬢」と呼ばれるまでになった。
シナリオを必死で思い出して、暗いイベントやそのフラグは出来る限り折った。
もう、これで大丈夫だと安心していた。
けれど。
「ゲーム本編」が始まった途端に、「セカイの強制力」が働いて周囲の環境が一変していた。
身に覚えのない罪を着せられ、冷たい視線に晒されて。
やがて、叫びだしたいのを堪えた回数も、どうして!?と密かに泣いた回数も数え切れなくなって。
それでも、何時かは元に戻ってくれると、そう、思っていた。
ーーそして結局、「悪は 断罪された」。
二度目の転生は、またしても悪役令嬢。
「セカイの強制力」を恐れた私は、そもそもゲームの舞台に行かなければいいと思い、研究職に没頭した。
元々性に合っていたのか、天職だったのか。
のめり込んで、やがて功績を称えられて国の研究者になった。
ゲーム本編が終わって、かつてーーゲームの中での婚約者とは違う、同じ研究者の婚約者と結婚して。
もう、強制的に訪れる「死」に怯える必要がなくなって、憎からず思っていた彼と結婚できてーー
そう、とても幸せだった。
けれど……。
幸せは、長くは続かなかった。
その日は、どうしても彼に報せたいことがあって、ニコニコしながら玄関で彼の帰りを待っていた。
なのに。
「他に好きな人ができた。君とは別れたい」
衝撃だった。
だって、彼の隣に寄り添うように立っていたのは、「乙女ゲームの主人公」。
柄にもなく取り乱しても、彼は私に以前のように笑って優しい声をかけてくることはなかった。
彼は、私が涙を零す姿すら目に入らぬとばかりに、隣に立つ彼女に、その笑顔と甘い言葉を囁いていた。
「弁護士を寄越す。それと、この家は君の名義に変えてある。ーーもう二度と、俺に関わるな」
気付いた時には、彼の持ち家の1つに連れていかれていて、彼は餞別だと言って、背を向けて去っていってしまった。
その左手薬指に、見慣れた指輪はなかった。
それが、やけに目に焼き付いて。
それ以降、一度として彼と会ったことはない。
ーー嘘……。
外は大雨が降っていて、時折雷が鳴っていた。
その夜は真っ暗な家の中で独り、涙が枯れるまでずっと泣いていた。
彼に、報せたいことがあったと気付いたのは、翌日の昼近く。
いつの間にか泣き疲れて眠っていたようで、起きた時には太陽が真上近くまで昇っていた。
泣いたまま放置した顔が腫れて悲惨なことになっていて。
比較的ゆったりとした服を着ていたお陰か、服だけならそれなりに見れる格好だったのが救いだった。
直ぐ様服飾店に行って、ドレスを売り払い、代わりに何着かの服を買い求めた。
家から持っていくことを許されたのは、この身と着ていたドレス、そして一対の結婚指輪だけだった。
幸い、それなりの値段になったドレスに安堵して、働き口を探すことにした。
研究所には彼がいるし、第一彼と結婚するときに退職してしまっていた。
今になって思う。よくそこまで動けたな、と。
きっと、彼「ら」のことを考えたくなくて、無意識に逃げていたのだろう。
働き口をどうしようかと悩んで、実感は全くないが私の家だという一軒家に入って、屋台に売っていた果物を食べて眠った。
そして、目が覚めると、見覚えのない男たちがいた。
彼等は家に置いてあった家具や美術品などを、根こそぎ奪って行っていた。
ーー泥棒!
叫ぼうとして、声が出なかったことに気付いた。
ゴプリ、と、嫌な音がして、暗くなっていく視界の中に、鮮やかな赤が見えた。
「残念だったな、オジョウサマ。静かにしてりゃあ、生きてはいられたのに、ナァ」
男たちのうちの一人がそう言って。
やっと、あの赤は私の血で、斬られていたことに気付いた。
視界が狭まって、思考が少しずつ闇に呑まれていく、三度目の感覚に。
ただ……。また、しんでしまうのか、と。
なけなしの気力を振り絞って1つの術を編みながら、頭に浮かぶのは、どうしたって彼のことだった。
ーー結局、伝えられないままだった。
もう、二度と知ることはできないけれど。
彼は、私のお腹の中に、
私と彼との子供が居たと知ったら、どんな顔をしてくれたのだろうか。
それはきっと、私には永遠にわからない。
術が完成し、そして発動した。
ぼやけていく視界の中、駆け寄ってくる人影が見えた気がした。
間違っていてもいい。幻だっていい。
どうせ最期なら、都合のいい夢を見たっていいではないの。
ーー嗚呼、私の愛しい貴方。
私、リーゼロッテは、貴方と出逢えて、貴方と一時でも共に過ごせて、貴方との子をこの身に宿すことができて、
とても、とても幸せで、ございました。
何故かその時だけは、とても暖かい気持ちになれて。
ーーどうか、私のことなど忘れて、幸せになってくださいませ。
彼女とのことは正直、素直に祝福できないけれど、それでも彼には幸せになって欲しかった。
ーーできれば、ずっと貴方の隣に立っていたかった。貴方の隣に寄り添うのは、私だけが良かった。
でも、それはもう叶わない願いだから。
だからせめて、貴方には幸せになって欲しいと願うの。
でも……。
ごめんなさい、貴方。
私は、私と一緒にこの子(赤ちゃん)も連れていきます。
来世の私が、何れ子を宿すことがあれば、その時の子はきっとーー
「ーー大、すきでしたの……。あい、してっ、いました……わ……『 』」
本当に、ただ、幸せで。
うまく動かない体に鞭打って、意識して、いつものようにふわりと笑った。
万が一、彼が今の私を見た時に、幸せそうに見えるように。
あわよくば、彼の心の中に少しでも『私』が残るように。
ーーそして私は死んだ。
読んでくれて、ありがとうございました。
この続きを描きたいと思ってくださった方がいるのであれば、こそっと(笑)教えてくださいませ。
絶対いそいそと見に行きますので(笑)