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一週間短編連続投稿

メビウスの夏

遅くなって申し訳ございませんでした


一週間連続短編投稿の5/7です

 真夏の教室で三人の男女が話していた。

 終業式の後のHL後なためほとんどの生徒は帰ってしまっていた。

 少年は空を見上げている。空には真夏特有の入道雲が浮いていた。

 その入道雲は夏の香りを強く意識させる。


「夏休み始まるけど何する?」

 少年は隣に居る少年と少女に問いかける。

「どうしたんだ、キョウヤ?」

 空を見上げていたキョウヤは視線を水平に戻す。だがもう一度視線は入道雲へと向いた。

「だって、俺達もう高二だろ? 三年になれば受験に忙しくて遊んでなんて居られないかもしれないじゃないか」

「そうかもな。だから今年の夏は後悔のないように遊ぼうってか」

「タクマなら必死に勉強しないと無理だろうけど、キョウヤは頭いいからそんな心配要らないんじゃないの」

 キョウヤのネガティブにタクマと少女がフォローを入れる。

 しかしキョウヤは変わることなく入道雲を眺めている。


「ねえ、夏休み始まるけど何する?」

 少女はキョウヤが言ったことを繰り返すことで仕切りなおしにした。

 タクマもそれに乗り楽しげに夏休みについて語り始めた。

「そりゃ、夏なんだし、海とか山とか行こうぜ」

「ええ、何その定番の夏に行くべき場所みたいなの。なんかほかにないの?」

 少年の答えが平凡すぎて少女は愚痴を吐く。

「ならミカはほかに行きたい場所でもあるのか?」

 キョウヤはようやく視線を二人に向けた。その顔には先ほどまでの暗さはなくわずかに微笑んでいた。


「いや、タクマどこへ行きたいかじゃなくて、何したいかって聞いたんだ。まぁ別に山でも海でもいいけどさ」

 ミカとタクマはキョウヤが前向きになってくれたことに笑顔になる。

 再び、キョウヤを交えてミカとタクマは夏休みについて話し始めた。



 しばらく話し込んでいると教室のドアが開き教師が顔を覗かせた。

「お前ら、まだ居たのか。もう夏休みなんだから早く帰れ。こんな暑い教室よりもクーラーの効いた部屋で作戦会議でもなんでもしろ」

 教師は生徒に早く帰るように念押しをして去って行った。

 残っていた生徒達はしぶしぶ帰って行った。キョウヤ達も帰路に着くことにした。

「まぁ、夏休みの予定も大体決まったし帰ろうぜ。まずは明日ファミレスに集合な」

 タクマがそう仕切るとキョウヤ達は帰った。



 そして彼らは夏休みを満喫した。海に山にも行ったし花火を見にお祭りに行った。彼らは高校二年生の夏を満喫した。

 夏休みが終わると当然学校が待っている。

 彼らも当然学校へ行かなければ行けない。しかし彼らが学校へ行くと違和感がした。


「もう夏休みも終わりなのに暑いな。昨日なんてあんなに夏の終わりを漂わせてたのによ」

 タクマが愚痴をこぼしながら学校への道を歩いていた。

「まぁ、夏の終わりでもこういうこともあるわよ」

「そうそう、何年か前にこの時期にこんなぐらい暑いことがあったしな。年々温暖化が進行してるって聞くしありえるんじゃないか」

 三人は暑さに愚痴を言いながら歩いているといつの間にか学校へと着いた。

 校門を抜けると脇にはグランドがあり運動部が練習をしていた。


「さっきから誰も居ないんだけど、やっぱ早く着すぎたんじゃね?」

「そうなのかな。でも運動部はいるよ」

「いや、運動部は居るだろ。朝練とかあるし、それにしても不可解だな。そんなに早く着たつもりはないのに誰とも会わなかった」

 三人は不思議に思いながらも教室に向かうが教室にも誰一人としてきていなかった。

「もしかして夏休みは今日までとかそんな落ちか?」

「タクマだったらやりかねないけど、私とキョウヤがそんなドジするなんてことないよ」

 キョウヤが頷く。

 キョウヤは確認するように時計を見たがもうすでに九時に差し掛かっていた。始業式が九時半から始まる。それなのに生徒は一向に現れない。


「もしかして、全員寝坊じゃねえか? ほら、休み明けってダルいだろ」

「いや、ありえないと思うよ。うちの生徒が全員タクマに掏り替わってない限り」

 タクマは「なるほど」と納得したあと自分は侮辱されているのではと思いキョウヤに文句を飛ばしてきた。

 その時、廊下の方から足音がした。ドアに注目すると現れたのは夏休みの始まりに注意をした教師だった。


「なんだ、お前達。そんなに学校が好きなのか。だがな、補習は二週間後だ。それとも作戦会議でもしてるなら昨日も言ったがクーラーの聞いた部屋でやれ」

 現れた教師に事情を聞こうと視線を向けたが、教師の言っていることが理解出来なかった。


「先生、昨日ってなんだ?」

「はぁ、タクマお前、バカだとは思ってたがとうとうこの暑さで脳みそが蕩けたか」

 先生は再びため息を付いた。

 それでもタクマを始めミカもキョウヤも理解できなかった。

「先生、タクマはバカですが、今日はバカじゃないと思います。だって俺も先生の言う『昨日』の意味が分からないんです」

「先生、どうなってるんですか? 始業式は明日になったんですか?」

 ミカの言葉を聞き教師は顔を歪める。

 それはいくら教師といえども顔に出てしまった呆れの表情だった。


「お前らな、わざわざ夏休み初日に学校着てまで教師をからかうことないだろう。俺は教師をからかう生徒は沢山見てきたが、わざわざ夏休み初日にからかう生徒は初めてだぞ」

 三人は目を剥いた。今日は夏休み明け、始業式のはず。なのに教師は夏休み初日だと言う。

 確かにおかしかったのかもしれない。


 夏の暑さ、誰とも会うことのない通学路、朝練をする運動部、誰も居ない教室、携帯のカレンダーを見ると夏休み初日の日付になっていた。

 彼らは思い始めた。夢だったのではないか。今までの夏休みの記憶と体験は夢だったのかもしれないと

 しかし彼らの夏休みが夢だとしてもあまりにリアルすぎる。逆にこれこそが夢であったのだとも考えたがリアルすぎて夢だとは考えられなくなった。


「今度はどうした。一斉に驚いた顔しやがって、俺の後ろにお化けでも出たか?」

 教師は生徒の悪ふざけに軽く乗るつもりで後ろを振り返る。案の定、そこには何もなく教卓と黒板があるだけだった。

「まったく、何もいねえよ。それに朝から出るんじゃ、困りもんだろに」


 その後も教師は大人をからかうな、お化けはいない、仮にお化けがいるならダイナマイトボディがいいとか適当な話をしていたが三人の耳には全く届いていなかった。

 三人は気が付くと教師の無駄話から解放されていた。

 三人は相談の末、まずは涼しい所で落ち着いて相談をすることにした。



 とにかく落ち着ける場所を目指して校門を出ると校門の真ん中に黒猫が座っていた。普段ならミカが写真を撮ったりしてはしゃぎ始める所だが状況が状況だけに不吉に見えてしょうがない。

 黒猫は近づいても逃げていかなかった。人馴れしているのだろうか。

 三人は黒猫を避けて進もうとすると後ろから黒猫が着いてくる。まるで、黒猫が三人に用があるかのようだった。


「なあ、あの黒猫ついてきてるよな。なんだか不吉でこわいんだけど、木の棒でも投げればあっち行くかな?」

「タクマ、猫と犬は進化の過程で分かれた種とはいえその習性は違うよ」

 キョウヤがそんな説明をするなかタクマは木の棒を適当に投げてみた。案の定、黒猫はそれに視線を向けるも再びついて来る。

「ねえ、ただの猫だろうけど、やっぱり君が悪いよ。すぐそこに喫茶店があるからそこまで走ろう」

 キョウヤとタクマは頷き、走り出した。


 すこし走った所にあった喫茶店に入り素早く扉を閉めた。すると店主が怪訝な目で眺めてくる。

 三人はそんな目も気にせず席につく。しばらくメニューを眺めたが特に食欲も湧かずアイスコーヒーを三つ注文した。

 アイスコーヒーが届き、それぞれが一息ついたあたりでキョウヤが落ち着いた口調で話し始める。

「まず考えるべきは今日がいつかだ」

「今日がいつも何も先生に言われただろ。それにその後、携帯で確認もした。紛れもなく夏休み初日なんだよ」

「本当にそうだろうか。それだけじゃ証拠としては薄い。例えばもっとワイドな出来事みたいな指標がないと、勘違いや故障で片付けられるかもしれない」

 それを聞いてミカは何かを思い出したのか。提案をした。


「確か、初日のちょうどお昼頃に国会議員の殺人事件のニュースやってたよね」

「それだ。もしそれが今、流れたとしたら俺達は過去へ戻ってきたことになる」

 ミカが携帯のワンセグでニュースを流すと流れているのは夏に向けた最新納涼グッズやら海でトラブル続発といった夏らしいニュースだった。

 夏の終わりの残暑でもたまにならそんなニュースもやっているだろう。

 しかし急に速報が入り、国会議員が何者かによって殺されたというニュースが入ってきた。その議員はキョウヤが記憶している夏休み初日に殺害された議員と同一人物だった。

「同じ人物が二度、殺されることはない。つまり、本当に俺達は過去にいるってことだ」

「マジかよ」


 三人は息を飲む。過去にいることにどうすればいいのか分からなくなってしまっている。

 しかしそんな中でまず声を上げたのがタクマだった。

「すげえじゃん。俺達良くわかんないけど、タイムトラベルみたいなのしたんだぜ。もしかしたら人類初かも。それにもう一度夏を楽しめるってことじゃん!」

「タクマ、そんな暢気な事言ってる場合じゃない。過去にいるんなら過去の俺達と遭遇する可能性が存在してしまう。それはこの世界に、俺達にどんな影響を与えるか分からないんだぞ!」

 二人は熱くなりすぎていた。周りの目なんて全然見えていない。周りでは店主も含め客達が不審な目で見てくる。

 それにミカは耐え切れず立ち上がった。


「すいません。演劇部で次の劇の打ち合わせしてたらつい熱くなっちゃって」

 ミカが周りに謝ると皆は納得したのか空気がひんやりするくらいにいつも通りの空気になった。

「もう、騒がないでなんだかまずいのは分かったから落ち着いて話し合おうよ」

「そうだな。まずは落ち着かないとはじまらないからな」

「ああ、ごめんな。俺が無神経に興奮するからこんなことになっちまって」

 二人は一旦の和解を見せる。しかし問題は何も解決していない。

「じゃあ、仕切りなおして話を戻すと俺達は過去にいる。ならどうすればいい?」

「やっぱ今年の夏、いや元居た夏? で出来なかったことをして遊ぶじゃ……だめだよな」

 タクマとしては再び夏が訪れたのだから遊びたかったがキョウヤに睨まれ意見を変える。


「ねえ、でもなんかすごい力でもあるわけでもないし、どうしようもないんじゃないの?」

「でも俺達の意思で戻ったんじゃないなら、俺達を戻した誰かが居る」

「でもよ、そんなことしてなんになる? 目的が分からんだろ」

 戻された意味、それについて考え始めた。しかしそんなものに答えが出るはずもなく無作為に時が過ぎていく。

「まぁ、でも初日なんだし、これからを楽しむ方向でもいいと思うんだけどね」

「確かにそうだ。でも夏休みの初日戻すわけってなんだ?」

 その質問にタクマだけでなく、ミカも頭を捻る。


「なんとなく? 戻すには区切りがいいから?」

「そう、区切りがいいからかもしれない。でも何で区切りがいいことを知っている? 学生だからか、うちの高校は他校よりも夏休みが遅い。それを知っているってことは案外身近に居るのかもしれない」


 それを聞くと皆唾を飲んだ。

 それを聞くまでは気まぐれでそうなってしまったのかと思ったが、どうやら意図的に彼らを狙ったのかもしれないそう予測したのだろう。

「まぁ、タクマに全面同意でもないけど、少しずつ調べながら夏を楽しもう」

 それを聞くと張り詰めていた空気が一点、再び遊べる時間が出来たと早速タクマとミカはプランを立て始めた。



そして二度目の夏休みも終わり始業式。

教室にたどり着くも誰も居ない。

 しばらくすると教師が現れた。


「なんだ、お前達。そんなに学校が好きなのか。だがな、補習は二週間後だ。それとも作戦会議でもしてるなら昨日も言ったがクーラーの聞いた部屋でやれ」

 再び同じ台詞を聞いた。



 そして二回目と同じく黒猫が校門に居た。また走って同じ喫茶店に入った。

「なあ、また戻ってるぞ。これでもっと遊べるぜ!」

 タクマは相変わらず暢気にしている。

 だがキョウヤは真剣な表情で話し始める。


「気が付いたんだ。朝おきた時はまだ始業式のある日付だった。でも家を出た途端夏休み初日になった」

「なんだ。進みたけりゃニートにでもなれってか」

「それも確かに方法かもしれない。でも、もしこれが過去へと戻ってるのだとしたら俺達は一回目の夏と二回目の夏の俺達に会ってない。ならこれは過去へ行っているのではなく、ループなんじゃないかってそう考えたんだ」


 そういうとキョウヤはペーパーナプキンを千切り捻って輪にした。

「俺達はこんな感じのメビウスの輪に閉じ込められてるんじゃないかって思うんだよ」

「なにそれ、変な輪だね。運気でも上がる?」

 ミカは占いが大好きだ。こういう運だの占いだのになるとタクマ並にバカになる。

 そんなミカは放っておきその輪を指でなぞりながら説明を始めた。

「いや、そういうのじゃないから。俺達はこの輪を一定ペースで走らされている。例えば、夏休みが終わる頃にはもといたスタート地点に戻るとしよう。普通の輪ならただ一周する。でもメビウスの輪では一周すると裏側に着いてる。つまり、俺達はこのメビウスの輪に居る限り一周したときに表の始業式にはたどり着けないって事だ」

 再び、唖然とする。

 それもそうだろう。一度だけ与えられた機会なら全力で楽しもうとするが、それがずっとの可能性が出てきてしまった。

 これでは永遠に始業式を迎えることが出来ない。

「だけど、まだどこかにヒントがあるかもしれない。今まで行かなかった場所を探ってヒントを探そう」



 軽く方針を決めたがこれ以上は話し合える気分ではないと今日はお開きになった。

 しかし、店を出ると二回目にはなかった変化が訪れる。

 喫茶店の店先に校門から追ってきた黒猫が座っている。

「なんだよ。二回目の夏ん時は居なかっただろ。どっかに棒でも転がってないか」

「前にも言ったけど、猫と犬の習性は違うよ」


「その通り、猫というものは素早く動くものに興味を示す。だから棒を咥えては来ないよ」

「ミカのいう通りだよ。ミカも意外と博識だね?」

 キョウヤは不思議な感覚を覚える。まずミカの声はこんなに色気を帯びていただろうか。それにミカの声が下から聞こえてくるはずがない。

「え? 私なんにも言ってないよ。てかこの猫から聞こえない?」

「いかにも、私がしゃべっている。我輩は猫であるとでも言えばいいのかな」

 黒猫は自分がしゃべっていると主張している。見たところ首輪にスピーカーが仕込まれている様子もない。本当にこの黒猫がしゃべっているのだろう。

 しかし猫はしゃべるはずもない。もししゃべっていてもどこかでは否定したがっている。

「猫がしゃべるはずがない。そもそも猫にはしゃべれるだけの声帯を持っていないはずだ」

「いや、どう見てもこの猫から声がしたように聞こえたが、もしや! この猫テレパシーが使えるとか!」


「でも猫がしゃべったらなんだか可愛いよね」

 ミカ曰く、猫がしゃべると可愛いらしい。猫はしゃべらなくても可愛いだろう。むしろしゃべったら気味が悪いだろう。


「まぁ、猫だってしゃべりたくなる日もあるわよ。そもそも私猫でもないし」

 沈黙が訪れる。

 まるで猫はしゃべるもののようにも聞こえる。それにこの黒猫は猫ではないならなんだと言うのだろう。

 その沈黙を最初に破ったのはミカだった。

 ミカは屈み、黒猫の喉を撫で始めた。黒猫も猫であるのだろう。喉をグルグルと鳴らし気持ちよさそうにする。

「じゃあ、猫さんは誰なんですか?」

「我輩はこの世界の上に立つ存在なのだ」

 喉を撫でられていることが気持ちいいのか気が緩んだ声で答えた。

「上に立つ存在? 猫がか?」

 黒猫はキョウヤの言葉に腹を立てたのか、キョウヤに激しく威嚇をする。

 黒猫はひとしきり威嚇をすると暗い路地へと消えていった。


「なんだ、やっぱただの猫だったのか?」

「ただの猫はしゃべらないよ。少なくともただの猫じゃなかったよ。それに上に立つ存在ってなんだろう」

 そうして黒猫が消えた路地の前で唸っていると路地の方からコツコツというヒールの音が響いてきた。

 その路地から現れたのは黒いドレスの女性だった。全身が真っ黒でまるで喪服のようだった。

 三人はしばらく見つめていたが見ず知らずの人をずっと見ているのは失礼だと思い顔をそらす。

 すると黒いドレスの女性が挨拶をしてきた。

「こんにちは、我輩は猫である。そして上に立つ存在である」

 最初は何を言っているのか理解できなかったのだろう。三人とも戸惑った視線を黒いドレスの女性へ向けた。

 しかし、次第にその意味を理解した。

 その言葉を知っているのはさっきの黒猫しか居ない。もしも仮に黒猫との会話を聞いていたとしてもそんなことは言わないだろう。


「あらあら、驚いてどうしたんですか? 私は上に立つ存在ですから、どんな姿にでも成れますよ」

「なぁ、教えてくれよ。上に立つ存在なんだろ。なら何で俺達はループをしているんだ」

「あら、順応が早くて助かります。てっきり質問を矢継ぎ早に投げかけ続けると思っていたので」

 そういうと黒いドレスの女性はさっき出た喫茶店に入るよう進めた。



 再び入ってきたことに店主は怪訝な顔をするがそれ以上は何も示さなかった。結局は何もしない限りは客であるのだろう。

 一人新しく黒いドレスの女性を加え、四人はアイスコーヒーを注文し、一息ついた頃、黒いドレスの女性が話し始めた。


「まず、あなたたちがループに閉じ込められていることを話す前に自己紹介をしましょうか。私は上に立つ存在、分かりやすく言うなら神みたいなものね。でも神とも違うのよね」

 黒いドレスの女性は『神』という単語を口にするとため息を付いた。そこでコーヒーをひと口すすり話の続きをする。

「厳密に言えば私は神ではなく仮権限を持った神なの。まぁそんなことはあなたたちには理解できないからいいわ」


 そこでいい加減、ループの話を聞きたいキョウヤが捲くし立てた。

「あなたのことはなんとなく分かりました。だから俺達がループに閉じ込められているわけと出る方法を教えてください」

「そうね、いつまでも話していると終わらないから話しましょうか。まずあなたたちをループに閉じ込めたのはもちろん私よ」

「なんで!」

 そこにタクマが口を挟む。このループを一番楽しんでいたのはタクマだがやはりどこかで焦っていたのだろう。


「そんなことは簡単よ。あなたたちが『夏休みが終わらなければいいのに』と願ったからよ。私は純粋にその願いを叶えただけよ」

 愕然とした。ただ皆が冗談のつもりでそんな軽はずみを口にしただけなのに、それが実際に叶ってしまったことにより終わることがいとおしく感じられた。


「でも捻ったなら元に戻すことも出来るよね」

「そうね。でも」

 そこで一旦区切るとまたコーヒーを啜るそのコーヒーを啜る間はどの夏休みよりも長く感じられた。

 コーヒーの入ったグラスをテーブルに置き黒いドレスの女性はにんまりと笑った。

「でもダメよ。あなたたちは願った。だからあなたたちは永遠に夏休みを謳歌できる。それでいいじゃない。永遠の存在のあなたたちが真に永遠を手に入れたのよ。これは喜ぶべきことよ」


 その瞬間だけは時が凍り付いて感じられた。

 永遠に夏休みは明けることがない。それは希望のようで絶望に等しかった。


 再び黒いドレスの女性に視線を向けようとするとそこには黒猫が座っているだけだった。

 黒猫はにんまりと微笑んだ気がしたがすぐに店内を駆け、店に入る客と入れ違いに出て行ってしまった。


 そして彼らの終わらぬ夏休みが再び動き出した。

誰もが思う『永遠に終わらなければいいのに』という願いが叶ってしまったらというテーマで書かせていただきました。

面白かったでしょうか?

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