一章『B1・異世界の入り口』
《希望ヶ丘学園》
学力・クラブ活動共に県内トップクラスの大学。特にスポーツに関しては数々の大会で華々しい成績を収め、国内最強を誇ると言っていいかもしれない。中でもスポーツ推薦で入学した生徒達はメディアや雑誌で《希望戦士》と紹介され、日本のスポーツ界に大きく名を馳せることになる。
そんな文字通り希望に満ちた学園にやって来た一人の青年、彼の名は
筧 進十路
進十路はもうすぐ受験を控えた高校三年の男子生徒、彼は友人に誘われて希望ヶ丘学園のオープンキャンパスに訪れていた。彼はその途中で友人とはぐれてしまい、探し回っている最中だった。
オープンキャンパスとは入学を希望・考慮している学生に施設内を公開し、学校に興味を持ってもらう為のイベントだ。しかし彼にとってこの学園はあまり居心地の良い場所ではない様子。
「……ハァ」
さっきから周りの視線が痛い、明らかに浮いてるだろ……俺
彼の通う高校は悪い意味で有名で進学率は最低、不良の多さは最高という地元でも噂の高校だった。そんな高校の生徒がこの場所に相応しくないのは彼自身も理解しているようだ。
彼自身は勉強は割と得意で、サッカー部で鍛えられた運動神経は中々のものだがこの学園に合格するレベルには遠く及ばないだろう、ただし顔面偏差値だけはこの学園でもトップクラスかもしれない。
ん~とりあえず戻るか、校門の前で待っていれば帰り際に会えるだろ
進十路が一階へと向かうエレベーターに乗り込むと遅れて来た4人の高校生を乗せてエレベーターは下降を始めた。
この4人も何かしらのエリート様なんだろうなぁ、何かもう天才っぽいオーラが見えるし、まぁ俺には関係ない、か
「……」
無言の中エレベーターは5人を乗せて静かに下降し続ける。ゆっくりと……
「……?」
(……そろそろ着いてもいい頃だよな?)
進十路が異変に気付き始めると他の4人も異変に気付きエレベーターの中が急に慌ただしくなる。
「ねぇコレって絶対変だよね!?」
「変に決まっとるやろ!」
「な、何が起こっているのですか……」
「騒ぐんじゃねぇよ、非常ボタンか何か……」
一人の青年が慌ててエレベーターの非常ボタンを押す
すると照明が不規則に発光し、エレベーターは大きく揺れ始めた。それはもう大地震と言っていい程に
その時――頭の中に最悪の予感が過り身体中の血を凍りつかせる
「ちょ、まさか……!」
次の瞬間エレベーターは激しい音を立てて急降下、デジタル計は凄まじい勢いで階数を刻んでいく
「嘘っ!ちょっと待っ……!!」
「いやぁぁぁああああああ!!」
「何なんやぁぁぁああああ!!」
「きゃぁぁぁああああああ!!」
「……!!」
あり得ない速さで落ちていく5人を乗せたエレベーター、身体を包む浮遊感がこの先に待つ死を予感させる
ヤバい、マジでヤバいって!このままだと全員……
本当に死――
ガシャンッ!!
大きな音と共に彼らは意識を失った
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――俺、死んじゃったのか?
深く暗い視界の中で自問自答する。強い脱力感に包まれながら漆黒の世界を漂っていると奥から溢れんばかりの光が近づいて来ていた。
この光の先は現実かそれとも天国か或は地獄か
光の先を抜けると心臓の鼓動と共に身体に流れる血と体温を感じ取れた
「ん、生きて……る?」
目が覚めるとそこはやはりエレベーターの中だった。怪我はしてないし、足もちゃんとある、俺はまだ生きているらしい
「いや~日頃の行いってあるよね」
そういえば一緒に乗っていた4人の姿が見当たらないが、全員無事なんだろうか?扉が開いてるのを見る限り外に出ているのは間違いなさそうだが……
冷静さを取り戻した進十路は徐々に違和感に気付き始める。
最初に目に留まったのはエレベーター上部の地下1階を意味する表示《B1》
それはつまり自分がエレベーターに乗り込んだ地上5階からたった5階分しか離れていないという事になる。
「いやいや……そんな筈無い」
あの急速落下の衝撃は体感的に地下500階ぐらいはあった……気がする。
多少気が動転してたかもしれないが、それでも地下1階なんて事は有り得ない、此処はもっと地下深い場所の筈……だがそれはそれで何で大学にこんなバカ深い地下が?という疑問は残るが……
不可解な現象が重なる、考えを巡らせる度に渦巻く不安は少しずつ彼の冷静さと余裕を削り取っていく
ま……まぁ超エリート様の大学だし?地下がどれだけ長くても不思議じゃないかも?《B1》の表示は多分落下の衝撃で液晶がバグっただけだろう
携帯を確認すると時間は13時を少し過ぎていた、いつまでも考え事ばかりしてる暇は無い、思考を強引に結論付けて進十路はエレベーターの扉を開き外へと踏み出した。
エレベーターを出た先は無機質な広い空間が広がっていた。コンクリートに覆われた部屋は広さの割には妙な圧迫感に包まれていた。
「あ……!」
進十路は部屋の奥で一緒にエレベーター事故に巻き込まれた4人を見つけた。1人が自分の事に気付くと駆け足で近付いてきて彼に話しかけた。
「君、体は大丈夫なの?」
「俺は平気だけど、お前等こそ怪我とかしてないの?」
「うん、奇跡的に皆無事みたい、でも君だけ目を覚まさないから心配したよー」
なるほど俺が最後に目が覚めたのか、でもあのクソエレベーターの中に1人置き去りってどうよ?まぁ死人とかでなかったから良かったけど
「そういえば警備会社とかにはもう連絡したのか?」
「あ、その事なんだけど……」
「え、何かあったの?」
彼女から詳しい話を聞くと、どうやら携帯の電波が届かないらしく警備会社等に救助を求める事が出来ないらしい、エレベーターの非常電話も壊れているそうだ。
「……マジで?」
「はい、マジです」
……いや大丈夫、遭難した訳じゃないんだから、誰かがエレベーターが動かない事に気付いて通報してくれる筈だ。
「ハァ……待つしか無いよな」
「あ、今みんなで自己紹介してるの、助けが来るまで暇だし君も一緒に――
ピンポンパンポーン!
彼女が言葉を言い終わる前にスピーカーから聞き慣れた電子音が流れ出すと誰かが話し始めた。
『はい、皆さん初めまして、やっと5人全員集まりましたね、それでは今から――』
『ゲームを開催します』