零章「謎の声」
人の一生、運命は最初から決まっている
決まっているとは言ってもそれは一本道では無く、自身の行動・他人の行動・置かれた環境、それらを混ぜ合わせ導きだされた未来、それが『運命』
つまり膨大なパターンの中から1つを知らず知らずの内に選んでいるのだが、当の本人はその事には気付かない
――良いことが起これば運が良かった
――悪いことが起これば運が悪かった
ついそう勘違いしてしまうもの
自分自身で選んでいる事も知らずに……
でもそれは仕方がない事、運命を左右する出来事も、その結果待っている未来も普通の人間には視る事が出来ない、だから自分の運命に気付けない
そう――僕以外は
僕には視えていた、未来の『一部』が
『フラグ』というのをご存知だろうか
元々はコンピューター用語で後の展開や状況を決める事柄や出来事の事で小説・ドラマ・漫画等の演出で使われる、伏線と言ってもいいかも
だがこれはあくまでフィクション、現実にはほぼ存在しないだろう「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ……」なんて言ったところで死ぬ確率が上がる訳ではない
……と、思うだろう?
僕は視える未来とはこの『フラグ』の事
ただ漠然と未来を予知できる様なものでは無く、自信の行動・発言等がどんな未来に結びつくのかが視えるのだ
例えるなら結果の見えたあみだクジ
自分で『道』を選択できるのならその中から一番良い未来へ進むことができる
つまりくじ引きでは駄目なのだ
この力は自分に関するフラグしか視る事ができない、天候等の自分の力が及ばないものは視ることが出来ない
だがそれでも膨大に分岐する運命の別れ道の全てを自分の思うままに進むことができる、それだけで十分だ
数あるパターンの中から常にベストな選択をしてきた僕は
常人なら不可避の不幸を退け
数々の偶然が重なった上に生まれる幸運を得て
何の苦も無い人生を過ごしていた
あの日までは――