再び日没
すると、ガクン、としてはるかははっと目を開けました。
ガタンゴトンー ガタンゴトンー
気づくと自分は電車の中にいて、つり革を持って揺られています。
ガタンゴトンー ガタンゴトンー
目の前の窓の外を、夕日でオレンジ色に照らされたビルが流れています。
ガタンゴトンー ガタンゴトンー
次の駅が終点だと告げるアナウンスがありました。はるかの前の座席に、
ランドセルを背負った女の子がうとうととしています。
その子の顔は夕日に照らされていて、ビルや電柱の影がいくつもよぎっていきます。
はるかは、自分とまったく同じ姿をしたその子の肩をゆすりました。
「はるか、降り遅れちゃだめだよ。もう着くよ。起きて」
するとその女の子はゆっくり目を開けて、はるかの目を見返しました。
それは青く透き通った目でした。
起こす子をまちがえてしまったんだと思って、はるかは血の気が引きました。
はるかの背中側の窓の外では今、夕日が沈んだところでした。
「起こしてくれてありがとう」
と、その子はとても透き通った笑顔を見せました。
その目から目が離せなくて、そのまままばたきをして、目を開くと、
その一瞬の間に入れ替わっていて、はるかは電車のシートに座って、
起こしてくれた人を見上げていました。
「終点よ」
そう言って知らない女の人がにっこりと笑って、ホームに降りていきました。
はるかも立ちあがって、駅のホームに降りました。
日が沈んだばかりでうす赤い光の中のホームは、人影もまばらでした。
はるかは頭がまだちょっとぼーっとしていましたが、
人が自分を追い抜いて階段を降りていくのを見ているうちに、
本当は家に帰りたくなかったことを思い出しました。
学校で嫌なことがあって、このままどこかへ行ってしまいたいと思いながら
電車に乗ったのでした。
そうしたら本当に、とても変なところへ行ってしまったのでした。
はるかは砂漠にまっすぐ立った目印のように、しばらく突っ立っていましたが、
前ほど胸が痛くないことに気づいていました。
砂漠の中でも小鳥が水を運び続けてヒマラヤ杉が育っているように、
自分の心もまだまだ大丈夫だと思いました。
ちゃんと自分の力で延々と歩いて帰ってきたのです。
私は大丈夫。はるかは景気づけにぴょんと一跳ねすると、
ランドセルをがちゃがちゃ鳴らして駆け出しました。
そして、帰る帰る、と思いながら、線路の上を走ったのと同じ足どりで、
夕暮れの街を走って帰りました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。