12時
はるかは線路のわきを延々と歩いていました。
砂の上は歩きづらいし、その上スニーカーのかかとから砂が入ります。
はるかはまるで広い広い砂漠を行く一匹の蟻んこになったような気分でした。
歩いても歩いても先が見えません。
広い空と広い砂漠にはさまれて、はるかはかわいそうなくらいちっぽけでした。
日はいつまでも真上にあるので方角がわかりません。
線路は曲がったりせずまっすぐ、どこまでもまっすぐ続いていました。
はるかはどのくらい歩いたのか全然分かりません。
でも後ろを振り返るとあの恐ろしい駅が
もう地平線の向こうに消えてしまったのが救いでした。
でも、いつ後ろからあの列車が来るとも限らないので、
はるかは少しおびえながら歩いて行きました。
はるかは不思議と、あまり疲れを感じません。おなかも空きません。
ただただ足を前へ前へ、右左と交互に出して、先へ先へと進んで行きました。
そうしていてどのくらいたったのでしょうか?
空には雲一つ無く、見渡す限り線路と砂しか見えず、
太陽もいつまでもまぶしく真上から照らしているので
はるかは疲れてきてしまいました。足はまだ動くのですが、
悲しくなってきてあまり前へ進みたくなくなってきてしまったのです。
はるかは足をゆるめました。
風も全く無く、光に満ちた静かな空気があるばかりです。
あてどもなくて、ぐるりと一回転してみますが何も手掛かりはありません。
はるかはため息をついて、とうとう立ち止まってしまいました。
はるかは次の一歩を踏み出す気力が無くなっていました。
なぜなら、時間が本当にちゃんと進んでいるのかもわからなかったからです。
歩いても無駄なんじゃないだろうか、とはるかは思いました。
はるかはしばらくそうやって立ち止まっていました。
そうしていると、この世界には全く動くものはありません。
気づいてみると、この世界は水平なものばかりで、
はるかだけが地面に打ちつけられた目印の棒くいのようでした。
はるかはふと思いつきました。
自分は今までこのレールの左側を歩いていたけれど、右側を歩いてみようか。
それには線路を横切らなければなりません。
それでも、それだけの価値があることのように思えます。
たったそれだけのことですが、ずっと変わらず左側を歩き続けてきたので、
その思いつきはなんだかすてきなことに思えました。
はるかは前のほうをようく見ました。
それから後ろのほうも目をこらしてじっと見ました。
電車は来ないようです。耳をすましても何も聞こえません。
でも、自分がわたっている最中に猛スピードで電車がやってきて
ひかれはしないかという不安はありました。
そこで、はるかは自分がわたっている間に
電車がやってきてひかれるのをイメージしました。
でもこれだけ見通しがよいので、もしそんなことがあるとしたら、
地平線の向こうからここまで、この世の物では無いほどのスピードで
列車がやってこなければなりません。
はるかは渡る決心をしました。
はるかはもう一度左右を見てから耳をすませました。それから息をとめて、
枕木に右足をかけてから一気に走り出しました。
鉄のレールをまたいでじゃりの上を走り、またレールをまたいで、
それから向こう側へ飛び降りました。
渡るのに成功したのです。
その瞬間、ドオッと背後で地面が鳴り響いて体がビリビリビリッと震えました。
立っているのがやっとなほどのものすごく強い風が吹いて、
そしてキーンと痛く耳鳴りがしました。
はるかはどっと冷や汗をかいて、胸に手をやりました。
とてもドキドキしていたのです。
後ろを振り返ると、レールは知らん顔してあいかわらずそこにあります。
レールの先は地平線へと消えていて、もう一方の端も地平線の向こうに消えていました。
電車の姿は見えませんでした。どうやらはるかが線路を横切って渡り終えた直後に、
はるかの背後をこの世の物では無いほどのスピードで
電車が通過して行ったようです。
でもそんなことはどうでもよいのです。はるかは横切ることに成功したのですから。
はるかは満足しながら、今度はレールを左手に歩き出しました。
そして歩き始めました。そして、どんどん歩きました。
ふと思いついて太陽を見上げると、
レールのこちら側へ来た分だけ太陽が向こうへ行ったような気がしました。