日没
ある日の夕方のことです。はるかは電車の中でうとうとし始めました。
ビルとビルの切れ目から、オレンジ色の夕日がときおり顔を出すのがまぶしくて、
はるかは目をつぶっていたのです。
そうして、目の裏にオレンジの光と、ビルの影との点滅を感じているうちに、
自分が起きているのか眠っているのか分からなくなってきたのです。
さみしい夕方でした。
いくつ駅を過ぎたか分かりません。周りの人が入れ替わっていって、
ふと目を開けると、誰もいなくなっていました。
終点まで行けばよかったので何とも思わず、
はるかは再び目をつぶって、電車のガタンゴトンという揺れを感じていました。
するとだんだん砂漠のようなにおいがするなあと思えて来ました。
砂漠なんて行ったことはないのですが。
太陽の光のにおい。乾いた空気のにおいです。
たぶん夕日に照らされて、電車の中がカラカラに乾燥しているのです。
そう思っていたとき、電車がゆっくりになって、とても静かに止まりました。
目を開けると、終点のようなのですが、駅に見覚えはありません。
乗る電車をまちがえたとも思えないので不思議に思いながら、
ドアの外へ出たとたん、頭の芯がきゅっと冷たくなりました。
砂漠が目に入ったのです。
そこは不思議な駅でした。人は誰もいません。
ただ砂の上に、プラットホームと、トタン屋根がついているだけなのです。
そこには、はるか以外誰もいませんでした。
改札も無ければ、ホームも一つきりで、上り電車用の線路もありませんでした。
どうしようかと考えて、運転手さんに聞こうと思って、
電車の前の方の運転席をのぞいてみましたが、
もう仕事を終えて帰ってしまったのか(それとも初めからいなかったのか)
誰もいませんでした。
どうやってうちに帰りましょう。困ったなと思いました。
でも、それほど不安にはなりませんでした。
線路のレールを逆にたどっていって引き返せばよいのだとわかっていましたから。
はるかはプラットホームの端から砂の上に飛び降りました。
少し涙が出そうになりましたが、気を強くもって、
どこまで行ったら前の駅が見えるのか予測もつかなかったけれどとにかく歩き始めました。
オレンジ色の夕日はいつのまにか白っぽい昼間の太陽になっていて、
空は薄青くなっていたのですが、あんまりまぶしいので足元を見ながら歩いていて、
はるかはそれには気づきませんでした。
はるかは日の光で熱くなったレールのわきを歩きました。
歩きました。歩きました。くつに砂が入りました。
足は一歩一歩砂にうまりそうでした。
でもレールの上にあがって歩くと、
なんだか後ろから(それとも前から?)電車にひかれそうで怖かったので、
レールのわきを歩きました。
歩いて歩いて歩きました。景色はちっとも変わりませんでした。
後ろを振り返ると、もやもやした空気の向こうに
あの駅が恐ろしげに見えました。はるかは歩き出してよかったと思いました。
きっとあそこはいてはいけない所だったのです。




