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第5話 つばき、大混乱!ひよりは大丈夫なの〜!?


「私の名前は夜野つばき!大豪邸に住む、

最強鬼強の怒りの魔法少女アンガー☆ガールつばきよ!

ちょっと前に使い魔のクナギに魔法少女の才能があるって言われて選ばれたの!当然よね!

あの憎たらしいライバル・ひよりになんて、絶ッッ対に負けないんだから!

そして……ドールを100体集めて、愛しのあの人と結ばれることを願うのよ〜。ほっほっほ〜♡」


「……………………」


「…………ってなるはずだったんだけど……

なにこれ…?なにこの状況…?」


彼女の広くて可愛く整えられた部屋に、見知らぬ女剣士が無言で座り込んでいる。

まるで凍るような眼差しで黙り込み、腕を組んで壁を睨むように思案していた。


隣では、つばきのライバルの使い魔チュチュが、申し訳なさそうに頭を下げていた。


「つばきちゃん……ほんとに、ありがとなのだ……」


「ありがとなのだじゃないわよ! 説明しなさいよ! っていうか、ひよりは!? どこ行ったの!? なんで代わりにあの怖い人が来てんのよ!!」


「そ、それは……ちょっと長くなるのだ……」


「…………平和そうな世界だな。……妙に明るい雰囲気だ」


「ひぃっ!? 喋った!?」


「む? 喋るぞ。……それはさておき、突然押しかけてすまない。だが頼れるアテが、ここしかなかったのだ」


「た、頼れるって……ちょっとチュチュ…どういうことなの?」


あわあわと動揺するつばき、その横をスッとクナギが入り


「おふたりとも……とりあえず、お茶でもどうぞ」


「ありがとなのだ!」


「すまない、頂こう」


ズズ……


「……! これは……初めて飲むが……うまいな」


「つばきちゃんの家は大豪邸なのだ! いつも美味しいお茶が飲めるのだ!」

 

その状況をただただ呆然とつばきは眺める


(って、受け入れるかーっ!!)


(クナギ! なんであんたは普通にお茶淹れてんのよ!? ひよりと謎の女剣士が入れ替わってんのよ!?)


(そこのふたりも! なんで当たり前みたいにお茶飲んでんのよ! 動揺してる私が馬鹿みたいじゃない!!)


「……っ、ゴホン!」


「と、とりあえず……話ぐらいは聞いてあげるわよ」



「えーっとね……まず、ひよりが“とっておきの魔法”を暴発させちゃったところから話さなきゃならないのだ」


(簡略化しつつ、状況説明をはじめるチュチュ)


「……つまり、ひよりは異世界に吹っ飛んで、この剣と殺気がすごい人がこっちに来たと」


「そうなのだ! とっても大変なことなのだ!」


「その結果、私は見知らぬこの世界に降り立ち……もう一人の魔術使いに助けを求めたというわけだ」


「……ああ、うん……そう……」ポカーン


呆れながら質問する


「それで…“とっておきの魔法”? 私、そんなの知らないんだけど……ねぇ、クナギ?」


「申し訳ありませんが……私も、初耳でございます」


「それはね、この前倒した本型怪人ブークンから漏れ出た魔導書に書いてあったのだ!」


チュチュは小さな前足をバタバタと振って、必死に説明を続ける。


「エターナルな異次元の力を呼び出す……そんな風に書かれていたのだ」


「……やはり、私の術式と関係があったか。やっとこれで展開が進む」



「じゃあ……入れ替わったってことは、今ひよりはあなたの世界に……いるってこと?」


アレリアは目を伏せ、唇を引き結ぶ。


「……恐らく、そうだ。だがあそこは非常に危険な世界だ。だからこそ、一刻も早く、お互いの世界に戻らなければならない」


「ところで、アレリアの世界って、どんなとこなのだ?」


「……話せば長くなるが」


アレリアは、ゆっくりと腰を下ろし、まるで遠くを思い出すように語り出した…


魔王と呼ばれる存在が世界を支配し、人々は怯えながら生きていること。

そんな中、勇者として生まれ育ち、剣と魔術で魔族に立ち向かってきたこと。

そして魔王の幹部と対峙した時、禁断の術式を使用し、異次元の力に引きずられ、ひよりと共に転移してしまったこと


「……というわけだ」


部屋は重い空気に包まれる。


「……信じられないのだ……でも……」


「ですが、嘘をついているようには見えませんな」


その言葉を聞いても、つばきは呆然としたまま、何も言葉が出せなかった。

拳を握りしめ、ようやく心の声を押し殺す。


(……嘘でしょ……ひより……本当に、そんな危ないところにいるの……?)


「……冷静になってみれば、すべては私の責任だと気づいた。

無理な術式を使ったのは、私だ……」


静かに視線を落とす。


「せめて……ひよりの無事だけでも、確認できればいいが」


その瞬間、チュチュがポンッと跳ねるように声を上げた。


「それなら大丈夫なのだ! ひよりは魔法ステッキを持っていったのだ!」


「だから、ひよりは生きてるのだ!」


「……えっ!?……て本当なの、クナギ?」


「はい。私たち使い魔は、契約した者の魂を観測することができます。」


「ただ……場所や状況まではわからないのだ。わかるのは生きてるってことだけなのだ……」


「それでも十分だ。少し、安心した」


ほんの一瞬だけ、眉間の険しさを緩めた。


(あの状況で転移し、生存している…

討伐したとは考えにくい。ネイヴは、それほど甘くない。

考えられるとすれば……撤退し、どこかで保護された可能性。

私の仲間たちは皆、冷静で有能だ。願わくば、彼らがひよりを助けてくれていれば……)


「生存しているということは恐らくひよりは、

保護されているはずだ。

私の討伐隊は信頼できる仲間ばかりだ。そこは安心してくれ」



「よ、良かったのだ~っ!」


泣きながらおどおどするチュチュ。


「……ほっ……」


つばきは、胸にそっと手を当てた。

その仕草には、言葉にならない安堵がにじみ出ていた。


「……つばき様、大丈夫ですか?」


「あっ……だ、大丈夫に決まってるじゃない! 

ひよりは私の次に強いんだから! 異界なんかにへこたれてるわけないし!

……し、心配なんか、してないんだからねっ!」


「つばきちゃんは、やっぱり優しいのだ~」


「そのようだな、チュチュ。ひよりはいい友人を持ったな」


「と、友達じゃないわよ! ライバルよ、ライバル! むきーっ!」


両手を上げて怒った素振りをして、ごまかすように叫ぶ。


「本題に移ろう。どうやって元の世界に戻るかだな」


「とっておきの魔法がもっと分かれば手がかりになるのだが……」


「えっ、100体の願いを使えばいいじゃないの」


「!! あ~~~~っ! その手があったのだ! 完全に忘れてたのだ!」


「なんだそれは?」


食い気味に聞くアレリアに丁寧にクナギが答える。


「この世界では、怪人をドール化し、それを100体集めるとどんな願いも叶えると言われる魔人が現れるのです」


「……ここに来てから驚かされてばかりだな。もう慣れたが。私の世界の魔術よりも、はるかに不理屈で、進んでいる」


「相変わらず物忘れが多いのね…

で、チュチュ。ひよりは今、何体集めてるのよ?」


「いま、55体なのだ! ひよりはすっごく頑張ってるのだ!」


「それなら、あんたたちで残りを集めなさいよ。

怪人が出たら、譲ってあげるから」


「私のはあげないわよ!? これは、大事なあの人のために使うって決めてるんだから!」


「それと、アレリア? ……だったわね」

「この部屋、貸してあげるから。さっさと帰る為に頑張んなさいよ! まったくもう……!」


「ほんとにほんとにありがとうなのだ〜っ!」


「……重ねて、感謝する」


「それでは、住み込みの準備をいたしましょう」


「まずはお風呂に入りなさい! ボロボロで、部屋汚れたら困るでしょ!」


バタン!


強めに扉を閉める音が響いた。


「つ、つばきちゃん……怒ってたのだ?」


「……いや。そうは見えないな」


遠ざかっていく足音。

廊下をドタドタと走る、つばきの靴音。


(ひより……!変な世界に行っても、負けんじゃないわよ……!

あんたが強いのは、私が一番よく知ってるんだから。

あんたを負かすのは、この私。だから……それまで、絶対に負けないでよね!)


ーーーー


「では、浴槽へご案内いたします」


静かに頭を下げたクナギに導かれ、アレリアとチュチュは豪奢な廊下を進んでいく。


「こちらが浴室でございます。そして、こちらが着替えになります。どうぞごゆっくりおくつろぎください」


「風呂か……ちゃんと温水に浸かるのは、いつぶりだろうな……」


「それは身体によくないのだ。今日はしっかり休むのだ!」


「……休める状況ではなかったからな。

魔族の襲撃は、いつも予期せぬ形で訪れる。

常に戦えるようにしておかねば、誰かが死ぬ」


そう言いながらも、湯けむりに包まれた浴室に一歩、また一歩と足を踏み入れる。


「……ところでチュチュ、この世界にも刻印術式のようなものはあるのか?」


「えーと、それは……んー……たぶん、ないのだ」


(……しばらくは苦労しそうなのだ)


ーーーー


湯から上がり、支給されたパジャマに身を包むアレリア。

装飾は控えめだが、肌触りはよく、動きやすい。


「これは……いいな。関節がよく動き締めつけもない」


「アレリアの世界って、もしかして結構、不便だったのだ?」


「ここと比べると不便だろうな。

そう見えるかもしれないが、それが“普通”だったんだ」


やがて、2人は部屋へ戻った。

ふかふかのベッド新たに設置され、アレリアは思わず一息つく。


(非常事態だというのに、これほど安らげるとはな……

だが、生活の快適さは戦闘への集中を助ける。今だけは……甘えるとしよう)


コン、コン


ノックの音に振り返ると、扉の向こうからつばきの声がした。


「入るわよ……コレ。今日の晩ごはん。置いておくから、勝手に食べて」


そっと差し出されたお盆の上には、味噌汁、焼き魚、煮物、ご飯と質素だが、栄養の整った温かい御膳が並んでいた。


「……すまない。何も礼はできないが」


「…………じー……」


「む? どうかしたか?」


「い、いやっ!? な、なんでもないわよっ!? 私はもう寝るから!じゃあねっ!」


バタンッ!


言うや否や、慌ただしく扉を閉めて姿を消すつばき。


「……?」


「つばきちゃん、顔が赤かったのだ」


「熱でもあるのか……?」


その頃、部屋へ戻ったつばきは、布団をかぶって顔を赤くしていた。


(アレリアってさ……外国人なんでしょ? 

鎧脱いで風呂に入ってパジャマ着てると……なんかこう、意外と……いやいやいやいやいや! ”あの人”には及ばないわよ?!)


(でも……ちょっとだけ……ずるい……かも)


深夜。


カーテンの隙間から差し込む月明かりが、柔らかなパジャマに身を包んだアレリアの横顔を照らしていた。横ではぐっすりと眠るチュチュ。


「すぴー……くぴー……」


彼女の瞳はまだ眠りに落ちることなく、天井をじっと見つめていた。


(これがもし、予期せぬ転移ではなかったなら…

私の世界が平和で、戦いもなかったなら……

この異界の文化や技術を観察し、仲間たちに自慢していたかもしれない。応用できる術式や生活を見つけて、生かす方法を考えていたかもしれない)


思考は自然と、懐かしい顔ぶれへと向かう。


ガロス。

セリア。

コー。

そして…ひより。


(……私は今のところ、無事だ。だから……お願いだ。みんなも、どうか無事でいてくれ)


夜の静寂に紛れて、目を閉じる。

あたたかな布団に包まれながら、アレリアはようやくまどろみに身を委ねた。


勇者の眠りは、やさしく深い夜に包まれていった。



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