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序章 すれ違う2つの世界


ここは、とある世界


ウェルミール。


レストリア王国から少し離れた高原地帯。


吹き荒れる風の中、勇者アレリア率いる四人の戦士たちは、


魔族の幹部ネイヴとの死闘に臨んでいた。



前衛に立つアレリアが、荒く息を吐きながら振り返る。


「……みんな、まだいけるか?」



ガロスが大斧を肩に担ぎ、口元を歪めて笑った。


「当たり前だ。ここでケリをつけるぞ!」



後衛では、拳を握ったコーと魔術陣を備えたセリア。


「死ぬまで付き合ってやる……ルーリーの敵だ」



「いけるわ。このまま4人で押し切る!」


敵……ネイヴ。


影のような黒色の皮膚、細長い手足、異様に肥大した頭部。


顔は無く、代わりに濃密な魔力が詰まり、怪しく脈打つように光っている。


やがて、その顔から人語に近い濁った声が漏れた。


「あ〜……ひと……ひひと……あつあつ……」


ゴウッ――!


次の瞬間、ガロスを包み込むように灼熱の炎が四方へ広がり、あたり一帯を焼き尽くす。


「……噂通り、馬鹿げた出力しやがるな……!」


「……あ……あお……えと……こ……ここ……」


炎の中心で、ネイヴの顔が青白く輝いた。


次いで放たれる、鋭い光線。


パキパキパキッ!!


青属性の解放が空気を裂き、大地を貫いた瞬間、凍結音が響き渡る。


着弾点は瞬く間に氷に覆われ、近づく隙すら奪われた。


「……近づけねぇな……!」


ガロスが舌打ちする。


「止まるな! 攻め続けるぞ!」


アレリアは掌に魔力を集中させた。炎が凝縮し、濃く溢れ出す。


(……放出、赤!)


密度の高い熱量を帯びた火の光線が、一直線にネイヴの顔面へ撃ち込まれる。


「おおおおぉ……こ、れ……おぁお……」


だが、直後。


ネイヴの足元の大地が、不気味に膨れ上がる。


ボコッ! ボコボコボコッ!!


地面が裂け、盛り上がった土が宙に浮き上がった。


瞬く間に拳大の岩塊となり、弾丸のような勢いで四人へ襲いかかる。


「ふんッ!!」


先陣を切ったコーが、一歩踏み込み拳を叩きつける。


滲身魔術で強化されたその一撃は、飛び出してきた岩塊を粉砕。


破片が爆ぜるように四散する。


アレリアは短く息を吐き、視線を鋭くする。


(やはり……黒属性か)


「コー、やつの黒属性は物を宙に浮かせる能力か?」


「ああ、私の知る限りではそうだ」


「……だが気をつけろ。もし奴が黄属性の解放を放てば、我々も全滅するぞ」


ネイヴの顔に4人の警戒が高まる。


その中心で、発動の気配を孕んだ“何か”が、不気味な沈黙のまま脈打っていた。


「……仕方ない。ここで手こずってる暇はない」


セリアが息を呑む。


「……!? アレリア、まさか……例の魔術を使う気!?」


「ああ……ここで使う」



ーーーー



舞台は変わる。


ここは、地球によく似た星の日本によく似た国。


その中心にそびえる大都市、魔法と希望がひしめく街トーキョー。


「私は桃瀬ひより!


この前までは普通の女子中学生だったんだけど、ある日、空から降ってきた使い魔・チュチュに出会って、魔法少女になったの!」


「毎回悪さをしにくる怪人を倒して人形にすれば、百体集めるとなんでも願いをひとつ叶えてもらえるんだって!」


「わたしの願いは……陽翔はるとくんと恋人になること! それまで、ぜったい諦めないんだから!」


――場所は、とある公園。


いつもなら子どもたちの笑い声が響くこの場所も、


今日は別の意味で騒がしい。


「キャーッ!」


「怪人だーっ!」


そこに立っていたのは、金属のパーツと工具を無造作に組み合わせたような異形。


全身が油と鉄の匂いを漂わせる怪人メカニーナ。


「メーカッカッカッカ! 俺様はメカニーナ! 


愚かな人間どもよ、全員、機械の部品にしてやるぅっ!」


怪人から放たれた光線が、公園の遊具や木々、ベンチまでも次々に機械化していく。


色鮮やかな緑は消え、鉄と歯車が軋む音だけが響く魔境へと変わり果てた。


「そこまでよっ!」


甲高い声と共に、風を切るスカートのひらめき。


ピンク色の衣装は朝日にきらめき、胸元のハートモチーフが光を反射する。


その手には、宝石の装飾にハート型の魔法ステッキ。


瞳は真っすぐ、目の前の怪人を射抜いていた。


「きたなッ! 魔法少女ひより!」


ひよりは一歩踏み出し、澄んだ声で名乗りを上げた。


「ラブリー☆ガール、ひより!参上っ!」


その隣で、ふわふわと宙に浮かぶ


うさぎのような耳に小さな翼、ぬいぐるみのような愛らしさを持つ使い魔が手を挙げる。


「そしてチュチュなのだ~!」


2人は息を合わせ、変身後の決めポーズ。


背後にはキラキラと舞い降りるハートのエフェクトが輝き、風が舞台を整えるように吹き抜けた。


ひよりはステッキを構え、唇に笑みを浮かべる。


「今日はね……とっておきがあるの。覚悟しなさい!」


ーーーー


再びウェルミール。


炎と氷塊が入り乱れる高原。


灼熱と冷気が交錯し、地面はめくれ上がる。


その中心に、アレリアは静かに剣を構えた。


「アレリア、本気なの!? あの魔術はまだ未完成なのよ!」


「……わかってる。一刻も早く、魔王を討たねばならない。……皆、時間を稼いでくれ」


冷ややかでありながら、その声には焦りと決意が滲んでいた。


剣が、淡い光を帯び始める。


周囲の空気が、何かに吸い込まれるかのように揺らめく。


「……総員、アレリアを守れ!」


ガロスが咆哮する。


「元より、倒すつもりだ」


「大丈夫なの……!? ああもう、仕方ない! ……青!」


セリアが手を翳すと、青属性の解放が迸り、冷気の光線がネイヴの足元を凍りつかせた。



「お……おぉ……おお、あし、あしぃ……」


ネイヴの巨体がよろめく。


「任せろ!」


コーが拳に魔力を集中し、波動のように地を駆けさせる。


ドォンッ――! 衝撃がネイヴの身体を揺さぶった。


「…………う、うぅぅ……おい……」


その刹那、アレリアが詠唱を続ける。


「Velmyr, Þarnveil, Sevnith... Aetherforc……!」


詠唱が完了する。


剣から眩い白光が炸裂し、空間そのものがきしむ音が響いた。


光の裂け目が宙に走り、周囲の景色が歪む。


「一体どうなるんだ……!?」


ガロスが声を荒げた。


ネイヴが顔を上げ、濁った声を放つ。


「き……きい……ろ……きいろぉぉ……!!」



顔の中心が、まばゆい閃光に満たされていく。


それは極限の魔力効率を誇る黄属性の解放。チャージが始まっていた。


「……ッ! まずい、ヤツが溜めを始めた!」


「それなら俺に任せな。


俺の結界は、今まで破られたことがねぇ」


ガロスが前へ躍り出た。


だが――。


アレリアの剣が異常な振動を始める。


「……っ、な、なんだ……この力……っ! 制御しきれない……! ぐっ……!」


パァアアアアッ――!!


光が爆ぜ、アレリアの全身を包み込む。


「ぐっ……う、うわああああああ!!」


次の瞬間……。


放たれた光が戦場を貫き、アレリアは包みこまれた。


「アレリアァ!!」


セリアの悲鳴が、熱と冷気と光の渦に掻き消されていった。


またまた舞台は変わる。


トーキョーの公園。


「いくよ、チュチュ!これが、


私のとっておき!」


「おおっ!? まさかあれを使うのだな!? 大丈夫なのか!?」


「だ、大丈夫! ……たぶん!」


ステッキの先端がきらめき、小さなハートが溢れ出す。


空気がきゅっと引き締まり、足元の地面さえ震えた。


「ミラクル! エターナル! ラヴァーーッ!!」


キュイイイイン……!


杖に溜まる強いエネルギーが超えてしまい…


「えっ……ちょっ……これ、やば……」


チュドォォォン!!


ピンクの閃光が公園を包み込み、ハート型の衝撃波が花火のように広がった。


「キャーーーーーッ!!?」


可憐な悲鳴を残して、ひよりは爆風に巻き込まれる。



「ひよりが爆発したのだーーッ!! 


無事なのだかーーッ!?」



煙がもくもくと渦を巻き、


敵も味方も、何が起こったのか理解できていない。


「なにぃ!? じ、自爆!? あいつ、自爆したのか!? オレ様なにもしてないのにー!?」


混乱する怪人と、半泣きのチュチュ。


そして煙の中心から、“何か”が現れた。


ゆらりと立ち上がるシルエット。


ボロボロのマント、実戦的な戦闘服、腰には聖剣。


まるで戦場から抜け出してきたかのような姿。


「……うっ……私は、生きているのか……? 何が……セリア……ガロス……コー……?」


焦点の合わない瞳であたりを見回し、見慣れぬ街並みに眉をひそめる。


異界の勇者アレリア。


彼女は今、この世界へと転移してしまった。



ーーーー

 


そして、舞台は再びウェルミール。


バァァァンッ……!


激しい魔力のうねりと共に、光が炸裂した。


「……アレリア!? 成功したの!?」


「わからん! 戦闘に集中しろ!」


焦げた空気の中、三人は構えを崩さない。


「はぁ……はぁ……! クソ……! 隙だらけなのに……!」


コーの波動は確かに命中しているが、決定的な弱体化には至らない。


「あぁ……これ……これこれこれ……」


ネイヴの顔が輝きを帯びていく。


黄の魔力が螺旋を描き、チャージが最終段階に入った。


光が収まり、空間が静まる。


そこに現れたのは、アレリア……ではなかった。


「…………へ?」


ピンクのリボン。フリルの服。目をぱちくりさせる少女。


明らかに戦場の住人ではない。


「む? アレリアが……変身したのか?」


「なにあの衣装……若返った? ……いや、別人……?」


ガロスのセリアが困惑する。


「へ……? えっ……? ここ……どこ……?」


見慣れぬ魔物の姿に、ひよりは悲鳴を上げかけた。


「おおおおぉ……」


光の収束音が高まる。


「キャーッ!? こ、怖い! 怖すぎる怪人!!」


腰を抜かしかけながらも杖を構える。


「ラブリー☆ビーム!!」


――だが、何も起こらない。


「えっ? なんで……? ラブリー☆ビームが……出ない……?」


この世界では、彼女の魔法は一切反応しなかった。


「嬢ちゃん! こっちだ!」


「えっ? な、何? 外国語……? 今なんて言ったの?」


お互いに異界の語源を理解出来ない。


「もう何もかも意味不明だ! 撤退するぞ!」


ガロスは駆け寄り、ひよりを軽々と抱え上げる。


「ひ、ひぃぃ!? な、なに!? 誘拐!?」


「すまん、あとで説明する! セリア、魔車だ!」


「ぐっ……! みんな、急いで!」


魔車の後部扉が開き、ガロスがひよりを放り込む。


「クソ……クソックソッ……!」


怒りと無念を抱えるもコーも飛び乗った。


「飛ばすわよ! 捕まって!」


セリアが両手を供給台に置くと、車体が光を帯びる。


ゴオオォン!


魔車が急加速。


煙を巻き上げ、地を這うように走る。


「……はっ……しゃ……」


黄属性の解放が完成する。


ゴウウウッッ!!


超高出力の光線が魔車を狙い撃つ。


「うおぉぉおおおおおッ!!」


ガロスが巨大な結界を展開。


「がああああっっ!! やらせん……!」


結界は焼けつくような光を受ける


一度でも気を緩めば無事では済まない攻防


バチィィン!


そして……ついに耐え切った。


魔車はそのままレストリア王国へと走り去っていく。


「えっ……えええええ!? わたし、どうなっちゃうの~~~!!?」

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