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「なになにどうしたの、結叶くん。あいつのこと——内藤恵夢のことが気になるの?」
しれっと羽鳥くんのことを「結叶くん」と名前呼びにした女子の一人が、私の方を一瞥してそう言ったのが聞こえた。突如離れたところから自分の名前が飛び出してきて、心臓が縮み上がりそうだった。集団が一気に私の方を見やる。その中に里香も混じっていた。
やめて。どうか私を見ないで。
心で念じながら、咄嗟に彼らの方から顔を逸らした。
もう、早く向こう向いてよ。
どうせ誰も、暗い性格の私になんて興味ないんでしょ。
くすくすと、静かな嗤い声がどこからともなく聞こえた。
両手で耳を塞ぎたい衝動に駆られて、そっと手を伸ばした。その時だった。
「あの人、内藤恵夢っていうんだ」
聞き間違いかもしれない。
転校生の羽鳥くんが、私の名前を呟いたのは。
「え……?」
思わず首を羽鳥くんの方へと傾ける。彼は真面目な顔をして私をじっと見つめていた。
「なになに羽鳥くん、内藤さんのこと知ってるの?」
「もしかして内藤さんみたいなのがタイプ?」
「うわー、あれがタイプならあたしじゃどうしようもないわ。だってあんなに暗くなれないし」
みんなが各々に好き勝手なコメントを述べる中、ただ一人羽鳥くんだけは、私を視線から外さない。しばらくじっと見つめ合った後、「そうなんだ」と意味深に納得してやっと目を離してくれた。
一体なんだったの……?
私の記憶の中に、一度たりとも彼と会ったり話したりした経験はない。
彼だって同じだろう。それならば、どうして私のことをあんなふうに見てきたんだろうか。
やっぱり私、初対面の人から見ても陰鬱そうなやつって思われのかな……。
病気を発症してからの癖である被害妄想が止まらない。
昼休みが終わって、午後からの授業中も、一直線上にいる羽鳥くんのことが気になって、授業に集中することができなかった。