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この夢がきみに喰われても  作者: 葉方萌生
最終話 この夢がきみに喰われても

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66/73

7-2

「あのさ、恵夢」


 不意に結叶が話しかけてきた。医者が「それでは治療を開始します」と告げた瞬間のことだ。


「この治療が終わったら、水原とちゃんと話したほうがいいよ」


「……え、里香と?」


 なぜ、こんな時に里香の話を持ち出してくるのか不思議だった。けれど彼は、最初からこの話をするつもりだったようで、ピコピコと音を立てる機械に動揺することもなく続ける。


「俺には、あいつが恵夢のこと嫌ってないように見えるから。恵夢と話したいことがあるんじゃないかって思ってる」


「里香が私と……」


 一週間前に里香が結叶のことで私の家の近くまで来てくれたことを思い出す。あの時、何か言いたげにしていた里香。あまり彼女と長く話している時間がなくてスルーしていまっていたけれど、彼の言うとおり、私は里香ともう一度じっくり話さなくちゃいけないという衝動に駆られた。


「ああ。きっと水原は待ってると思う」


「……うん」


 なぜ結叶が里香の気持ちを知っているのかは分からないけれど。結叶には、私が気づけない、周りの人たちの機微に気づくことのできる力があるのかもしれない。そう思った。


 こうして話している間に私たちの治療は進み、一時間ほどですべてが終わった。


「なーんか、あんまり変わり映えがしねえな」


 治療が終わった直後、結叶は不思議そうに頭をぽりぽりと掻いた。私も、頭に装置をつけて寝そべっていただけなので、治療前とあまり気分は変わらない。どこかすっきりとした感じはするけれど、劇的に変化があるようには思えなかった。


「お疲れ様でした。治療直後であまり効果が分からないと思いますが、内藤さんの方は今日からでも変化が見られると思いますよ」


 医者の言葉を聞いて、ほっとしたことだけは確かだ。

 今日から夢が見られるかもしれない。

 普通の人にとってはなんということもないことなのに、胸がバクバクと高鳴っている。と同時に、夢を失った結叶のことを思うと、切なくもあった。


「俺は大丈夫だ。前にも言ったとおり、夢はまた見つけられるから。それに美結の症状も一旦は落ち着いたことだし、気にすんな」


 そうは言われてもやっぱり大切な夢を奪ってしまったことは気になる。

 だから私は、結叶にそっと今の気持ちを伝えることにした。


「結叶、私に夢をくれてありがとう。もし結叶が夢を失ったことで傷ついたり後悔したりすることがあったら、絶対に私に話して。夢を取り戻すことはできないかもしれないけど、話を聞いて励ますことはできるから」


 今私にできる精一杯のこと。

 結叶の想いを無駄にしないこと。

 元気になった身体で、前向きに生きること。

 それが、彼が願ったことでもあるのなら、私はもう後ろを振り返らない。


 私の目を見つめていた結叶の顔が驚きに見開かれ、それからゆっくりと破顔した。私が大好きな彼の笑顔だ。出会ってからずっとそばに寄り添ってくれていた。これからも、隣にいてくれるかな——。


「好きだよ、結叶。私、あなたのことが好きって、気づいた。これからも、よろしくお願いします」


 病は気から、と人は言う。

 私の病気はどこまで良くなったのか、今は分からない。

 けれどもう、教室の隅で俯いて不貞腐れながら過ごす自分はやめにしよう。

 彼がくれた未来への時間を大切に生きるのだ。


「ああ、俺も。好きだ、恵夢」


 病室の窓から差し込むきらきらとした陽光が、私たちをやわかく包み込んだ。


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