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「おはよう〜!」
三年一組の教室の扉を開くと、クラスメイトたちが互いに明るい挨拶を交わしていた。朝練終わりのテニス部の子たちはノートをうちわにしてパタパタとあおいでいる。いくつかにグループ分けされた人間たちのそばを通り過ぎて、私は左から二列目、前から三番目の席にぱたんと腰を下ろした。
「今日も来たんだ、恵夢。ゴールデンウィーク明けでもう来ないかと思ってたのに」
さっと現れた人の気配に、私の心臓は分かりやすく跳ねた。ああ、どうして。休み明けの一発目から、こんなこと言われなきゃいけないの——そう口に出したい。でも、見上げた先に立っているかつての友人、水原里香に、ろくに言い返すこともできない。
「何か文句でもあるの、水原さん」
「文句? そんなのあるわけないじゃん。純粋に気になっただけ。あんたがどれだけ図太いのか確認したかったの」
吐き捨てるようにそう言い残すと、彼女はさっと別の友人の元へと駆けていった。わざわざ私に嫌味を言うためだけにここに来たんだろうか。きっとそうだろう。「里香〜今日の部活休みだって! カラオケ行こう!」と斜め前の方から高い声が響く。「まじか、もちろん行く! ていうか、なんで部長の私じゃなくてあんたが知ってんの〜?」と友達を揶揄うような里香の声が聞こえて、そこで私は自分の耳をシャットダウンした。