2-10
「あのさー、さっきはごめん」
眠っているフリをしている私に、ボソリと彼が言う。反射的に目を開けてしまった。素直に謝られてびっくりする。
「……別に、気にしてないし」
大嘘つきだ。彼の言葉を気にしていないなら、今ここで保健室で横たわってなんかいない。
「俺、口が悪いというか、ちょっと乱暴なとこあるから。感情的になると余計にさ。怒ってるわけじゃないんだけど」
「そう、なんだ」
彼の言うことは本当なのかもしれない。
確かにさっきの教室でのやりとりも、別に彼が怒っているようには見えなかった。
ただ、作文を書いていた時の私と今の私を勝手に比べて、「仮面を被ってる」とか、「いい子に見られたいの」とか、心にもないことを言われたことに、無性に腹が立ったのだ。
私の反応が芳しくないと悟ったのか、羽鳥くんは大きく息を吐いて「はああ」と大袈裟にため息をついた。なんだ。なんなのよ、そんなに私と話すのが億劫? だったら早くここを出ていけばいいのに——と悪態をつきそうになった時。
「俺、ほんっっっとうにダメだな。だから前の学校でもコミュニケーション苦手だとか言われるんだ、ちくしょう」
「え?」
ガシガシと頭を掻きむしりながら首を回す羽鳥くんを見て、何事かと固まってしまう。
「とにかくごめん。内藤さんのこと、本当に純粋に気になっただけなんだ。あの作文を書くやつがどんな人間なのか」
「こんな陰気なやつで、がっかりした?」
素直に自分の非を認める羽鳥くんに対しても、卑屈になってしまう。病が変えてしまった性格は、滅多なことでは元に戻らないらしい。
「がっかりしたっていうか……心配になった」
「心配……」
あまりにも予想外の回答が飛んできて面食らう。心配? どうして、会ったばかりの私にそんなことを——と聞く前に、彼は続けた。