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「……違うよ」
何がどう違うのか、上手く説明することができなくて、つっけんどんな物言いになってしまった。私の反応を見て喧嘩を売られていると思ったのか、彼は「へえ」とちょっとだけ口の端っこを持ち上げて頷く。
「じゃあ、仮面かぶってるんだ? いい子に見られたいとか、そういう感じ?」
「は?」
最初は私の作文を純粋に褒めてくれていると思ったのに、だんだんと彼の言葉が意地悪なものに変わっていく。
なんで初対面でいきなりそんなこと言われなくちゃいけないの。
もしかして里香や他のクラスメイトの差金だろうかと勘繰ったけれど、私たちが会話する姿を見て、楽しんでいる様子の人はいない。むしろ、みんな何が起こったんだろうと不思議そうにこちらを眺めている。
「いや、別に責めてるわけじゃなくて、純粋に気になっただけ。何か、窮屈そうだなーって」
そこまで聞いた時、私の中で何かがぱちんと弾ける音がした。
「あなたに何が分かるの」
思ったよりも鋭い声が響いて焦る。他人に対して、こんなふうに気持ちが熱くなったのは初めてだ。しかも、プラスの感情ではない。怒り。彼に対して抱いた感情はドロドロのマグマみたいに溶けていく。
「分かんねえよ。分かんないから聞いてるんじゃん」
悪気のない様子で平然と答えてのける羽鳥結叶の態度を見て、とうとう堪忍袋の緒が切れた。
バンッ、と机に両手をついて立ち上がる。クラスメイトたちが一斉に私の方を振り返った。
諸悪の根源である彼を振り切るようにして教室の出口に向かってずんずん歩く。頭上から、朝のHRが始まる五分前の予鈴が降り注いだ。教室から、「内藤さんのこと気にしないほうがいいよー。あいつ、いっつも暗いし、突然キレるなんて意味不明だよね」と、誰かが羽鳥くんに話しかける声が聞こえてきた。私に聞こえるように、わざと大きい声で伝えているのが分かって余計むしゃくしゃした。羽鳥くんは、「ああ」と気のない返事をする。もう聞いていられなくて、教室を飛び出した。