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四つ上の兄に頭を撫でられながらそう言われた時、とても誇らしい気持ちになった。
確かに自分が明るい性格であるのを自覚していたし、その特性を活かせる仕事があるなら就いてみたい。純粋だった頃の自分は、まっすぐに夢を抱いた。
作文には、中学校の先生になって、生徒たちを日々笑顔にさせたい——そんなことを書いたような気がする。
私の書いた作文は、先生たちが提出した県の作文コンクールで入賞した。職員室前に飾られているのは、私と同じくコンクールで入賞した人たちの作文だ。たぶん、あと一ヶ月もすれば今の二年生が書いた作文に取って代わられるだろう。羽鳥くんは、そんな私の作文を見たんだ。まだ病気にすらなっていなくて、夢いっぱいにただ目の前の日常を謳歌していた頃の私の作文を。
「あの作文書いたやつがどんな人間なのか気になってさ。教室で内藤恵夢って名前聞いて、ああ、こいつかーって分かってすっきりしたんだけど」
思ったよりも砕けた口調で話を続ける羽鳥くんに、私は分かりやすく戸惑ってしまう。
なんだろう、この距離感は。
初めて言葉を交わす相手にしては近い? いや、羽鳥くんはそもそも誰に対してもこういうラフな喋り方をするのか。自分だけが特別だと思うのはやめなくちゃ。
「でもなんか、作文読んだ時のイメージと、実際会った時のイメージと違うんだよな」
「……え?」
なんの話? と聞くまでもなかった。
彼は、「内藤さんは」と言葉を続ける。
「文章では活き活きと語れるタイプ? 口下手だから話したいことを溜め込んでるの?」
ずしん、と、ド直球で胸に突き刺さる台詞だった。
文章では活き活きと語れる?
話したいことを溜め込んでる?
確かに後半はそうかもしれないけれど、あの作文は違う。だってあれは、まだ病気になる前の私が書いたものなんだもん。ありのままの私。今の私の方が、変わってしまっただけ。あの作文を書いていた時の自分が、本物の私なのに。
だけどそんなこと、目の前にいる転校生の彼に分かるはずがない。
彼にとっては今対峙している私が本物の私で、作文から見えた私の人物像こそが虚像だ。