表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この夢がきみに喰われても  作者: 葉方萌生
第二話 きみの前ではおかしくなる
16/28

2-4

 四つ上の兄に頭を撫でられながらそう言われた時、とても誇らしい気持ちになった。

 確かに自分が明るい性格であるのを自覚していたし、その特性を活かせる仕事があるなら就いてみたい。純粋だった頃の自分は、まっすぐに夢を抱いた。

 作文には、中学校の先生になって、生徒たちを日々笑顔にさせたい——そんなことを書いたような気がする。

 私の書いた作文は、先生たちが提出した県の作文コンクールで入賞した。職員室前に飾られているのは、私と同じくコンクールで入賞した人たちの作文だ。たぶん、あと一ヶ月もすれば今の二年生が書いた作文に取って代わられるだろう。羽鳥くんは、そんな私の作文を見たんだ。まだ病気にすらなっていなくて、夢いっぱいにただ目の前の日常を謳歌していた頃の私の作文を。


「あの作文書いたやつがどんな人間なのか気になってさ。教室で内藤恵夢って名前聞いて、ああ、こいつかーって分かってすっきりしたんだけど」


 思ったよりも砕けた口調で話を続ける羽鳥くんに、私は分かりやすく戸惑ってしまう。

 なんだろう、この距離感は。

 初めて言葉を交わす相手にしては近い? いや、羽鳥くんはそもそも誰に対してもこういうラフな喋り方をするのか。自分だけが特別だと思うのはやめなくちゃ。


「でもなんか、作文読んだ時のイメージと、実際会った時のイメージと違うんだよな」


「……え?」

 

 なんの話? と聞くまでもなかった。

 彼は、「内藤さんは」と言葉を続ける。


「文章では活き活きと語れるタイプ? 口下手だから話したいことを溜め込んでるの?」


 ずしん、と、ド直球で胸に突き刺さる台詞だった。

 文章では活き活きと語れる?

 話したいことを溜め込んでる?

 確かに後半はそうかもしれないけれど、あの作文は違う。だってあれは、まだ病気になる前の私が書いたものなんだもん。ありのままの私。今の私の方が、変わってしまっただけ。あの作文を書いていた時の自分が、本物の私なのに。

 だけどそんなこと、目の前にいる転校生の彼に分かるはずがない。

 彼にとっては今対峙している私が本物の私で、作文から見えた私の人物像こそが虚像だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ