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あなたの中の、モヤモヤして断ち切れないもの。 大切なタカラのか、ほうむってしまったほうがよいガラクタか。 それが「物」の形をしていたら、この箱に入れてみてください。 答えが分かります。

100%の「童話」です。もしあなたに童心があるのなら、安心して飛び込んでください。

子どもでなければ味わえない、あのドキドキを体感してください。

もし、あなたにオトナ心がおありなら、自分の中のモヤッとしたもの、タカラなのかガラクタなのか決めかねている、それは何なのか。箱に入れたらどうなるのか。そんなことを想像しながら読んでみてください。

その方が、きっと楽しめます。




 あなたの中の、モヤモヤして断ち切れないもの。

 大切なのか、むしろ、ほうむってしまったほうがよいものなのか。

 自分ではどうしたらいいのかよくわからない、そんなモヤモヤが、もし「物」の形をしていたら、この箱に入れてみてください。

 もとの形ではなくなるかもしれないけれど、わかります。

 それが、ガラクタなのか、タカラなのか。

 それが「ふしぎなガラク・タ・カラバコ」

 ふいに街角にあらわれ、使ってくれる人を待っています。

 少し経てばスッとなくなり、また、別の街にあらわれる。

 これは、その「ガラク・タ・カラバコ」と魔法博士、街の人、そしてある女の子の冬の日の物語です。




 かりに「トアール町」とでも呼びましょう。

 こじんまりした町の商店街に、夕暮れが訪れました。

 街灯がともり、お家に帰る人、これから買い物、お食事をしようとする人で、商店街はにぎやかになってきました。

 そんな中、少し変わったおじいさんが歩いています。

 複雑な模様の長コートの下には古ぼけた黒いスーツ。

 ヒゲのある顔には丸眼鏡。

 しゃれた帽子に黒革の靴で、大きな木の箱の取っ手を、痩せた体でかるがると運んでいます。

 すいぶん頑丈そうな両手をひろげたくらいの大きな木の箱なのに、おじいさんの足取りはかろやかだし、なんだか楽しそう。

 おじいさんは町の真ん中、広場の前のパン屋さんの前に来ると、よっこらしょ、と箱を道の端に寄せ、その上にちょこんと腰をかけました。

 すると、ちょうど店じまいをしようとしていたパン屋のおかみが、めざとくそれを見つけ、

「ちょっとあんた、なんでここに座っているんだい!」

 いつも、だんなさんが「目覚ましよりも強烈だ」と言う、そのキンキン声で問い詰めると、おじいさんはのんびりした口調で言いました。

「いやなに、ずいぶんと歩いてきたのでな。ここで少し休んだら、迷惑かな?」

「もちろんだよ! かってに、そんな大きな粗大ごみなんか置かれたら!」

 きらり、と、おじいさんの目がおもしろそうに光ります。

「ふぅむ、おまえさんには、これが粗大ごみに見えるのかな?」

「ふん。じゃなかったらなんだって言うのさ?」

「これはな、ガラク・タ・カラバコ。世界にふたつとないふしぎな箱。この中に、大切なのかそうでないのかモヤモヤしている何かをいれると、わかるんじゃよ。そいつが本当はタカラなのか、それともガラクタなのか。おもしろいじゃろう?」

「ふん。なにを言っているのか、てんでわからないね」

 おかみさんは首をふりました。

「さあさあ、ガラクタじいさん、うちの前にいられちゃ迷惑だ。そのガラクタ箱と一緒に、どっかに行っとくれ」

 おじいさんの目は、また、きらっと光りました。

「そうか、おまえさんには、わし自身もこの箱も、ガラクタに見えるのかね。ではまず、わしが試してみよう。そしたら、おまえさんも分かるだろうよ。この箱の意味が、な」

「この箱に入るって? 笑わせてくれるね。この箱は、あんたが入れるほど大きくなんかないよ」

「それが、入れるのさ、このわしはね。でも普通の人間はお断り、生き物はこれに入れてはいけないよ。わしだから入れるし、奇跡を起こせる。それを忘れないように」

 おじいさんは、木箱をあけました。

 箱の内側は、ただの粗末な木の作りで、他の木箱と変わったところはありません。

 それなのに、おじいさんは、あっという間にスルリと木箱にもぐりこみ、箱のふたは自然にパタンと閉まりました。

 そして、それきり。

 しばらく待っても、うんともすんとも言いません。


「ちょっと、あんた。来ておくれよ。おかしなことが起こったよ」

 おかみさんがパン屋のご亭主を呼んできました。

「なんだよ、めんどうなんか放っておいて、もう帰ろう」

「だって、いたずらにしても、気になるじゃないか。あのじいさん、いったいどうなっちゃったのか」

 二人してよいしょ、とふたを開けると、なかはからっぽ。

 おじいさんの姿は、かげもかたちもありません。

 そのかわり、さっきまではただの木だった箱の内側が、なんとも明るい空色に変っていました。

 天気のいい日の空の色をそのままぬりこめたような、ピカピカしたブルー。

 その表面はツルツルとかがやき、まるで宝石のようです。

「たまげたね! あのおじいさんは、マジシャンだったんだね。いったいどんなしかけがあるんだろう? 気をつけないと、どっかでテレビが撮影している、ドッキリかもしれないよ」

 ふたりは、箱をすみからすみまでしらべましたが、おじいさんのすがたはありません。でも、

「おや、ふたのところに、何かあるね」

 おかみさんが、さっきまではなかった、ピカピカかがやく金のプレートを見つけました。


≪ガラク・タ・カラバコ。モヤモヤしている、気になる何かを中に入れたら、元のままではなくなるけれど、タカラかガラクタ、どっちかわかる。すっきりできます。厳禁・生きているものは不可。≫


 どうやらテレビでもなさそうだし、いったい、どうしたらいいものか。

 考えているうちに、おかみさんはムズムズして、無性にためしたくなってきました。そして、えいやっと、自慢の豪華なコートを脱ぎ、ぽいっと箱にほうりこんだのです。

「おい、おまえ、なにをするんだ?」

「なにって、わかるだろう。私ゃ、こういうのに弱いんだよ。試してみたくてたまらない。それにさ、この、私のコート。ずっとモヤモヤしてたんだよ。大金はたいた一番の自慢だけれど、着ていると、宝石屋のおかみさんのより豪華なのかどうか、豪華すぎて私に似合っているのかどうか、気になっちゃってたまらないのさ。一か八か、ためしてみたんだよ!」

「ほんとうにお前はいつも、やっちゃダメってことばかりやるやつだよ」

 だんなさんが首を横に振ると同時に、箱はぶるぶるっとふるえだしました。

 おかみさんが喜びながら、ふたを開けると…箱は、からっぽ。

「ない! ないよ、わたしのコートが!」

  おかみさんは悲鳴をあげました。

 しかし、ご主人は、箱が空っぽなのに、どこかほっとしている自分に気づきました。

 去年のクリスマス、せがみにせがまれ、プレゼントしたコートですが、それ以来、おかみさんの愚痴や不満は前よりも増えていたからです。

 やっぱりあっちにした方がよくなかったか、宝石屋のおかみの方が豪華ではないか、どっちの方が格上か、より悪趣味なのはどっちか。このコートを着ていける外食がしたい、うんぬんかんぬん。

 もしや自分でもうんざり、持て余し気味で、いっそなくなってよかったのでは──────────

 そう慰めようとしたとき、おかみさんの悲鳴は、やがて、なんとも言えない、うれしい叫びにかわりました。

 はじめ、からっぽに見えた箱の底に、古びた小さなピンクの手編みセーターがあるのを見つけたのです。

 おかみさんは、夢中でそのセーターをとりだし、ぎゅっと胸におしつけました。

「ああ!! なんていうこと。なんてなつかしい。これ、これこそが、私の宝だよ!」

「こんな子どものセーターが? うちの子どもたちのお古なのか?」

「ちがう、これは、私のだ。まちがいないよ。このほころび、この編み目、私のかあさんが編んでくれたセーターだ。冬でも、元気でいっぱい遊びなさいってね。こんな、まあるい花模様なんてつけてくれたの、恥ずかしくって。あんまり着ないでいるうちに、私ゃ大きくなっちゃって、いつのまにか、タンスの中からなくなってた。捨てられたのかと思っていたのに」

 おかみさんの目が、だんだんうるんできました。

「たしかに、これはガラク・タ・カラバコに違いないよ。ねえあんた、上等なコートより、わたしに必要なのは、かあさんみたいな優しさだってことかもしれないね。なんでか私はかあさんに似ても似つかなくて、気がつけば、あんたにも家族にも、がみがみいってばかりだ。ごめんよ」

 パン屋の主人は、急に、おかみさんと出会ったばかりの頃を思い出しました。

 元気はつらつで明るくて、おしゃべりで魅力的だった女の子のことを。

 ふたりは手をとりあって、お家に戻っていきました。



 次に、若い詩人が自分のお金で出版した詩集を手にやってきました。

「ぼくの詩集、こんな薄っぺらいけれど、これはたしかにぼくのたましいのありったけ。でも、世間にはさざ波一つたっていない、評価ばかりか、何の反応も起こらなかった。これは本当にぼくの傑作、タカラなのか?それとも────────── 南無さん!」

 叫びながら、本を箱にほうりこむと、箱はぶるぶるっとふるえました。

 少したち、そうっと開けると、何もありません。

 どこを探しても今度はほんとうにからっぽで、ただ、箱の内側がピカピカと青く美しくかがやいているだけです。

「なんてこった! 無だ! ぼくの作ったものは、まるっきりの無だったのか!」

 がっくりした若い詩人がうずくまると、彼の名前を呼ぶ声がしました。

 若い詩人がずっと恋をしている女の人です。

 彼は、とても恥ずかしがり屋だったので、友人である彼女に、実は恋をしていることも、自分の詩集を読んでもらうこともできないでいたのです。

「いったいどういうことかしら。とつぜん、ここに来てしまったの。どうやったの? それに、この詩集。プレゼントかしら? でも私、実は、お友達に教えられて、ずっと前に自分で買って持っているのよ」

 彼女は、くすくすと笑いながらいいました。

 詩人がなんと言っていいか分からず口ごもっていると、

「わからないところもあるけれど、この詩集、とても素敵ね。ぜひ、作者のサインが欲しいわ」

「えっ!本当ですか?!」

 詩人は、うれしさでとびあがりました。

「ぼく、ぼく、サインなら、いつでもしますよ」

「だったら、これから、お茶をごいっしょしません?」

「は、はい、よろこんで…」

 詩人は、幸せにくらくらする思いで、歩き出しました。

 雑誌で褒められるより、本が売れてお金がもうかるより、好きな人にじぶんの作品を素敵と言ってもらえるほどのタカラがあるでしょうか?



 それを聞いて、近所の寿司屋のおおだんながやってきました。

「俺が寿司を始めて四十年。毎日手入れをしてきた、この魚包丁。初めよりずいぶんすり減って、今ではもう、大きな魚はきれいにさばけやしない。俺もそうさ、すっかり年をとってしまって。とても昔みたいに動けやしない。そう思うと、なんだか微妙なんだよ。そのうち店を閉めようかなとも思うんだが、なかなかふんぎりがつかなくてな」

 そういうと、箱の中に、ていねいに布でつつまれた包丁をおさめました。

「どうだい、俺の包丁。タカラなのか、もはや古びてガラクタなのか、答えはどっちだ」

 心配してついてきた高校生になりたての息子も、こわごわと後ろからのぞいています。

 ぶるぶるっと箱がふるえ、中身を取り出すと、・・・・・・包丁は元の大きさより、ふたまわり小さくなっていました。

 ただし、ぴかぴかに研ぎ澄まされています。

「おおっ。大きな包丁が、小出刃包丁に作り直されている!」

「それに、父さん、よく見てよ。キレイに整えられて、小ぶりで使いやすそうじゃないか。それに、包丁の柄のところに、ほら」

「おっ。ほんとうだ。りっぱな文字で、おまえの名前が」

「見てよ父さん、二代目、って書いてある」

「うーん、お前、俺の後をついでくれるのか? けっして楽じゃないし、きついし、それにお前、まだ、学生だろう? 押し付けたくなんかないぞ」

「何言ってるんだよ、卒業したら、弟子入りさせてくれって、俺、親父に頼もうと思ってたんだ」

「それじゃ、俺の引退はずっと先ってことになるな、まだまだ現役で頑張れってことか? まあ、今いる一番弟子も、いずれはのれん分けして出ていくだろうけれど、それまで、なんとかやりくりできるってことかな・・・・・・」

「親父さえ許してくれるなら、俺、今のバイトの代わりに、店の手伝いするよ。厳しくても、俺、頑張るからさ」

 握手をしている寿司屋の親子のまわりには、いつしか人が集まっていて、しぜんに拍手がおきました。


 その人の輪をくぐりぬけて、きれいな金髪のお人形を抱いた七才くらいの女の子が走ってきました。

「これは、この前の誕生日プレゼントよ。嬉しいんだけど、どうしても、こころから好きになれないの。可愛がりたいのに可愛がれなくて、ずっとモヤモヤしっぱなし。どうしたらいいのかしら」

 ぶるぶるっとふるえた箱からでてきた人形は、それまでの金髪カールから茶色の三つ編みに代わり、顔には、たくさんのそばかすが。

「まあ! これって、春にひっこしていった、なかよしのお友達にそっくり。わたし、前よりずっと、このお人形が好きになったわ!」


 次は、街で評判のおりこうな男の子が、百点のテストのたばをかかえてやってきました。

 夏休みも塾の合宿に行き、こつこつ努力してきた男の子です。

 ものも言わずテストを箱に投げ入れ、待つことしばし。

 ゆっくりふたをひらくと、あたりいちめんに、キラキラした夏の海のまぼろしが現れました。

 セミの鳴き声やうっとりする夕焼け、新鮮な森の空気があたりに流れ出したのです。

 最後に、花火大会の音や光までも。

 みんな、うっとりと身をのりだして、夏の光景を楽しんでいましたが、やがて、まぼろしたちはゆっくりと消えていってしまいました。

 男の子はしばらく目をぱちくりさせていましたが、今の現象を科学的に解明できるよう、りっぱな学者になろうと決意して、さらに勉強をするためにおうちに戻っていきました。


 次は、たくさんの求婚者の中から選んだ相手が正しい人だったのか確かめたい、クリーニング家の奥さん。

 結婚指輪をガラクタカラバコに入れました。

 どきどきして待つと、箱の中には、二人で過ごしてきた年だけ寝かせたワインが、かごの中で横たわっていました。年をとっても酸っぱくなっていない、極上のワインです。

 奥さんは、安心しておいおい泣き出しました。

 ほんとうは、自分がいい奥さんだったかどうかも、心配だったのです。

 きっと今夜は、二人で美味しいワインをゆっくり味わうことでしょう。



 次には、チラシを手に、あわてて男の人が箱の前に立ちました。

 お得で見栄えのいい中古車が、まさに大幅値下げのチャンス!

 決断の時だったのです。

 結果、チラシは、二年後の膨大な修理代の請求書に変わっていました。

 男の人はあわててそれを破り、せいてはことを仕損じる、果報は寝て待て、そんなことを呟いていましたよ。



 それから、たくさんの人がやってきて、いろんなものを箱に投げ込んでいきました。

 その結果に、あるものは喜び、あるものは首をかしげて立ち去っていきます。

 

 この様子を、パン屋の真向かいに住むユウナちゃんは、ずうっと二階の部屋の窓から眺めていました。

 ユウナちゃんは十三才ですが、しばらく学校に行っていません。

 両親が離婚のいざこざで争い、両方の家を行ったり来たり。

 ひとりきりでいることが多くなってから、学校もお友達も、勉強もきらいで、ずる休みがつづいてしまったのです。

 自分が悪い子だとは思いましたが、どうしたらいいかわからず、ずっと病気のふりで、窓から外をながめていました。

「あれは、きっと、リサイクルできるゴミ箱ね。みんな、楽しそうにものを投げ込んで、何かを受け取っていくわ。ゴミが、すこしはましなものに変わって出てくるのかしら」

 ガラク・タ・カラバコをゴミ箱だと思ったユウナちゃんは、考えました。

 そうだ、わたしも中に入ってみよう。

 そうしたら、少しはいい子になれるかもしれない!

 どうして、そう一足飛びに思いついたのかわかりません。

 ずっとひきこもりで、変わらない日常に飽き飽きしていたのかもしれません。

 ラクチンなパジャマから、お気に入りの白いセーターと赤いスカート、紺色のコートに着替えて、裏口からそおっと表に出ました。

 

 ひさしぶりの部屋の外の空気はぴりりと寒くて、心臓はドキドキしています。

 そして、周りの大人が止める間もなく、思い切って、箱に飛び込みました。しぜんにガタンとふたがしまります。





 ──────────箱の中は、思いがけず、森の中でした。

 緑がしげり花々が咲き乱れ、川が流れ、遠くに小屋が見えます。

 小鳥が鳴いていて、頭の上には青空が。

 その時、耳元で声がしました。

「博士、女の子ですよぉ。人間の女の子。物ではなく、人間の女の子です。自分で入ってきました」

「そりゃ当然じゃ、自分の望みでなく入れられた生き物は、箱がはじきとばして、中には入れないからな」

 可愛い子どもの声と、いかめしい大人の声です。

「あんがい、元気そうですよ。どうします? はじき飛ばしますか? それとも、鉢植えのサボテンにでも変えましょうか。この子のハート、それくらいトゲトゲしてますよぉ」

「まあ待て。人間の子どもは実に久しぶりじゃ。まずは話してみよう、ここまで連れてきなさい」

「わかりました」

 すると目の前に、うっすらと青く光る小さな妖精があらわれました。

 ばたばたする羽があり、白いパジャマのようなものを着たかわいい生き物。

 これってたぶん、妖精ですよね。

「やあ、お嬢さん。ぼくの名前はティアリー。魔法博士の研究所まで案内するよ。足元に気を付けてね」

 山道を進んでいく間、数字が流れていく小川を越え、誰かの書いた手紙の文字がそのまま虫みたいにバタバタと飛んで行くのをやり過ごし、少しでも多く光を受けようと、希望の花たちが空に向かって伸びていくのを見ました。

 ユウナちゃんは、すっかり胸がどきどき。

 夢でも、映画でも、こんなにエキサイティングなシーンは見たことがありません。

 いかにもあやしげなたたずまいの、ツタのからまったガラク・タ・カラ研究所につくと、中はいろんな実験道具やオブジェで埋め尽くされていました。

 不思議な形のパソコンや書物に埋もれていた魔法博士のおじいさんは、パソコンから目を上げて挨拶してくれました。

「はじめまして。私はガラク博士じゃよ。おや、ちょっと待って、今、あたらしいお題が降ってきた」

 天井から、らせん状になった透明のパイプが博士の机まで続いていて、丸い透明な容器に入った依頼人のお題がコロコロと転がってきます。

「中身は、うむ、野球のボールじゃな。ある日のホームランボール。夢をあきらめずに野球を続けるべきか、いっそ捨ててしまって、第二の人生を進むべきか、ずいぶん深刻にモヤモヤしているな、この持ち主は」

 博士はパチンと指を鳴らすと、これとそっくり、だけれど十年後のボールを空中から取り出しました。ボールには、いくつかの選手のサインが書き加えられています。

「これを戻すように。どんな意味があるか、本人には分かるだろう」

 わかりました、と博士のすぐそばにいたピンクに光る妖精が、ボールを透明のパイプに載せると、ボールは天井に向かってらせん状に登っていきます。

「あそこの穴が、箱の内側に続いているのよ。ここから登ったものが、箱の中身となって、持ち主に届くの。ところで、私の名前はミュアリーよ」

 ふんわりしたネグリジェを着たミュアリーは、長いまつげをぱちぱちさせました。

「はじめまして、私はユウナです」

「わかっているわ。あなたは、とても、とても、悪い子ね。人間はここには来てはいけないことになっているのに」

「知らなかったんです。これはきっと、いいリサイクルをしてくれるゴミ箱だと思って・・・・・・」

「まあ、当たっていなくもないけれどね。ねえ博士、ユウナちゃんをどうします?」

「そうだな。ここはしばらくの間、テュアリーと君に任せて、わしはユウナちゃんとガラク・タカラの山の見回りをしてこよう。処理するものが降ってきたらコンピューターに打ち込んで、出てきた答えを送り戻すだけだから、たいていのものなら君たちに処理できる。そろそろ、あの山をチェックしなきゃと思っていたところだからね。ユウナちゃんは私に着いてくるといい」

 おじいさんは立ち上がり、ユウナちゃんの手をとりました。

 細くて、でも、とても温かい手。

 思わず、ユウナちゃんはぎゅっと握り返します。


 小屋の後ろのガラク・タ・カラの山に向かう間、ユウナちゃんはパパとママのこと、おばあちゃんのこと、学校のことなどをおじいさんに話しました。

 ずっとずっと、誰にも言えなかったことを。

 おじいさんがユウナちゃんの涙をぬぐうと、キラキラしたチョウチョとなって飛んでいきました。

 人間たちが箱に放り込んだガラク・タ・カラたちは、それぞれ透明な丸い球に収まって、裏山に積もっていました。

「どうだい、ずいぶんな量だろう? 気になったものがあったら、手に取って、その想いを感じてごらん。その後、それがどうなったのかもね」

 なにしろ、学校の校庭よりも広い場所に積もった球たちです。

 歩くなんて無理かと思ったのですが、それぞれの球はなんとなくくっついていて、じょうずにバランスを取りながら歩くことができました。

「これは、誰が捨てたのかしら?」

 ユウナちゃんが手にしたボールには、古びたウサギの人形が入っていました。

「これは、女の子らしく、可愛く育って欲しいと両親にプレゼントされたものじゃ。でも、もらった子は、女の子らしく生きるのがとてもとても苦痛じゃった。だから放り込んだのじゃ。結果、ウサギは、アメフトの服に着替えさせておいたよ。これを放り込んだ子は、今、自動車の整備工場のオーナーをしておるよ。ご両親ともうまくやっているみたいだ」

「そうなの! こんなにロマンチックで可愛いバニーなのに、アメフトの服だなんて。ちょっともったいないみたい」

「そう、人の目からしたらね。でも、本人には、それが一番よかったのじゃ」

 次に、ユウナちゃんは、ぼろぼろの分厚いノートが入った球を取り上げました。

「ずいぶんと勉強熱心な人なのね。これは、どうして?」

「長年の研究に行き詰った研究者のものじゃ。未来に希望を見出せなくなっていた」

「それで、どうなったの?」

「百年後のカレンダーを送ったよ。彼の理論が、なんとか世界に認められるのはそのあたりだから。それを知って、彼は以前よりも意欲を燃やしはじめたのじゃ、後世のためにちゃんと理論を整理しなきゃ、とな」

「気が遠すぎて、よく分からないわ」

 その日は二十五個、カプセルの中身を確かめました。

 疲れてきたユウナちゃんを気遣って、博士はきちんとした夕食を空中から取り出して食べさせ、屋根裏のベッドに寝かせてくれました。

 テュアリーとミュアリーが子守唄を歌ってくれ、ユウナちゃんはうっとりして眠りにつけました。


 


 次の日は五十五個、その次の日は七十五個、ユウナちゃんは博士と共にカプセルを開けていきました。

「ユウナちゃんはなかなか優秀じゃな。ユウナちゃんがチェックしたカプセルは、なぜだか、ゆっくりと空気に溶けてから消える。あのままカプセルの山が増えて行ったら、やがてこの研究所になだれてくると案じていたから、助かることこの上ない。ユウナちゃんには、モヤモヤを溶かす才能があるようじゃ。このままずっと、ここに居てくれてもいいな」

 だけれど、ひとつひとつのカプセルを開けていくうちに、ユウナちゃんには、ある考えが浮かんできたのです。


 次の日、博士とカプセルを開けている時に、ユウナちゃんは思い切ってその考えを口にしてみました。

「ねえ博士、私、人間はここには入っちゃいけない、っていう意味がわかった気がするの。だって、ここに放り込まれたガラク・タ・カラには、ひとつひとつ迷いがあって、ひとつひとつが真剣で、そんな気持ちは、ガラクタでもなければタカラでもなくてあいまいで、だから人間だっていう感じがするわ。パパとママの言い争いも、どんどん言い分がちがってくるのも、きっと、タカラとガラクタがごっちゃになっていたから。わけがわからなくて混乱しているけど、人間だったらしょうがないのかも」

 ユウナちゃんは、ここに来てはじめて、しっかりした顔つきで博士を見つめました。

「タカラになったり、ガラクタになったり、両方を行ったり来たりできるのが人間なんじゃないかしら。人間は、ひとりひとりが、いつだって、どんなガラクタもにタカラに変えられる、タカラもガラクタにしてしまえる、ガラク・タ・カラバコなのよ」

 その言葉を聞くと、博士は眉をあげて、ちょっとこわい顔でユウナちゃんを見つめました。

 そして、ゆっくりと大きな微笑みを浮かべ、

「ユウナちゃん。君はほんとうに才能がある子じゃ。できれば、ずっとここでガラク・タ・カラの整理を手伝ってもらいたかったけれど、どうやら、そうもいかないようじゃ。そろそろ君を帰さねばならんな」

 研究所に戻ると、テュエリーとミュエリ―が出迎えてくれました。

「わかってくれるよね、ここであったこと、誰にも言っちゃいけないって」

 テュエリーはきらきらと輝きながら、ユウナちゃんの周りを一回りします。

「ううん、言ってもいいんだけど、きっと誰も信じてくれないわ。それに、一度誰かに話したら、ユウナちゃんは、二度とここには戻って来られなくなる」

 ミュエリーがユウナちゃんの目の前に浮かび、にっこりしながら言います。

 二人の妖精は、とても親切でした。

 余計なことを根掘り葉掘り聞こうとはせず、妖精の世界のおもしろい話を眠るときに聞かせてくれました。

 それがどんなにうれしく、ありがたかったことか。

「それじゃ、私、いつかまた、ここに戻って来てもいいっていうこと?」

 ユウナちゃんが声をはずませると、

「そうじゃな、ユウナちゃんがいつか心からそう願ったら、ガラク・タ・カラバコが、また君の街に現れるかもしれん。まあ、次に箱に入る時には、くれぐれも誰かに見られないようにな。しかし残念じゃ。君は、じつに優秀な助手じゃったが、それでも──────────、なぜだか、わしには、君がまたここに戻って来る気がせんのじゃよ」

「そんなこと、わからないわ、だって」

 ユウナちゃんは頭をめぐらします。

「この世界でただひとつ確実なのは、すべてが不確実であること。だから美しくて、だから面白い。博士がガラク・タ・カラバコを発明したのは、人々にそれを知らせるためなのでしょ」

 ユウナのその言葉に、博士は深く二度うなづきます。

「その通りじゃよ。ガラク・タカラの整理の時、わしが言ったのを覚えてくれていたのじゃな。ユウナちゃんは、すぐれた助手であるばかりか、研究者のタマゴでもあるらしい。つくづく、手放すのが惜しい。しかし、さあ」

 ミュエリーが魔法の杖をひとふりすると、ユウナちゃんの身体は透明で小さなカプセルの中に閉じ込められました。

 そして突風に吹き上げられて透明なレールをくるくると登り、屋根の上の穴、箱の外へと飛び出していきました。




 ああ、とユウナちゃんのママが声をあげます。

「目を開けたわ。やっとこの子、目が醒めた!」

 そこはおうちのベッドでした。

 街の広場に見世物小屋が来た日から、ユウナちゃんは原因不明の病気でこんこんと眠り続け、今日で七日目でした。

 熱もなければ、なんの病気の兆候もなかったのですが、不思議だったのは、ユウナちゃんの髪の毛が、輝くような空色に染まっていたことです。

 美容院のおかみさんは、もちろん、ユウナちゃんの髪を染めた覚えはないし、どんな染色剤をつかっても、こんな瞬間ごとに色が変わって見える染め方は不可能だ、と言いました。

 まるで、ユウナちゃんの髪の毛に、空の一部が住み着いてしまったようでした。

 それがなぜか、ずっとヒキコモリだったユウナちゃんを、健康的にいきいきと見せています。

 不思議なのに、自然。

 ママは、この髪の色のユウナちゃんが大好きでした。

 いえ、無事に目覚めてくれるなら、他の何もいらないと思いました。

 もし、この空色のパワーがユウナちゃんを生かさせてくれたのなら、誰が、何がこの髪を染めたにせよ、ありがとうと言いたかったのです。


 目覚めたユウナちゃんは、大きな伸びをして、最初に、なんと言ったと思いますか?

「ママ、お腹すいた!」

 こんなに機嫌よく目覚めたのも、起きるなりお腹が空いたと言われたのも、ここ数年はなかったことです。

 ママは涙ぐみました。

 ユウナちゃんが目覚めたと聞いて、別居中のパパも駆けつけてくれました。

 今までまともに口を聞いてくれなかったユウナちゃんが、とても自然に話をしています。

「ユウナがどんなにがんばっても、ダダをこねても、パパとママの問題はパパとママの問題でしかないって、気づいたの。ユウナにできることは、ユウナがユウナでいることだけ、だね」

 ベーコンエッグを食べ終えると、ユウナちゃんは微笑みました。

 パパとママは、ちょっぴり寂しいような、頼もしいような気持ちでユウナちゃんを見つめました。


 ユウナちゃんの髪の毛は、しばらく空色のままでしたが、だんだんと、しぜんに元の茶色に戻っていきました。

 その頃には、ユウナちゃんは、また学校に通うようになっていました。

 誰も髪の色のことはからかわなかったし、学校をお休みしているあいだのことも尋ねませんでした。

 そんなことは気にならないほど、ユウナちゃんは明るく、人の気持ちが分かり、楽しいことを見つけ出すのが上手な子になっていました。


 けっきょく、ユウナちゃんは誰にも、あの箱の中での出来事を話しませんでした。

 だって、おじいさんは、ほんとうにユウナちゃんのことを気に入っていたのでしょう、ことあるごとにシグナルを送ってくるのです。

 体育の授業、鉄棒の逆上がり、足元にある水たまりが、くるりと一回転の間だけ夕陽に変わっていたりします。

 クラスメイトが先生の机にいたずらでカエルを隠していたら、先生が見つけた時にはチョコレートに変わっていました。

 もちろん、クラスメイトは先生の注意を引きたくて、ほんとうは先生に好かれたかったのです。

「ガラクタはタカラ、タカラもガラクタ」

 不思議なことが起こると、ユウナちゃんはそっとつぶやきます。

 それが広まって、学校中の流行になっていきました。



 いつかまたあの箱に出会った時、今度こそ正式な助手になれるよう、今、ユウナちゃんは勉強をいっしょうけんめい頑張っています。

 でもいつか、一番素敵な魔法、誰かと恋に落ちて、そんなことはすっかり忘れてしまうかもしれません。

 大人になれば記憶も薄れ、あれは両親が離婚の時、不安定だったから自分で作った夢物語だったかも、と。

 記念にひとふさ切り取り密封している、すばらしい空色の髪の毛も、今では少しずつ色あせてしまっているのですから。

 それでも、今のところ、毎日のようにユウナちゃんは思うのです。

 ふしぎなタカラバコ、そしてあのおじいさん。

 今は、どの街を旅しているのでしょう。

 誰かを笑顔にしているでしょうか。

 誰かの心に、空色の奇跡を起こしているでしょうか。



                                  了



いかがでしたでしょうか。

あなたのお気に入りの「ガラク・タカラ」のエピソードや、ご自分の「ガラク・タカラ」は何なのか、それにまつわるエピソード、また、作品に対するご感想を歓迎いたします。

こらも、ジャンルを問わず書いて行こうと思う私ですが、童話はとりわけデリケートで、すぐにファンタシーに押しつぶされてしまいそうな、繊細なジャンルだと思っています。

童話好きに、悪い人はいないような気がしております。

みなさま、今後ともよろしくお願いいたします。

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