おまけSS+α ②
⑤濡れ濡れ
「それじゃあ、私はここで降ります」
「うん、気を付けてね」
あれから、なんてことのない話をして時間をつぶした。
そうすると乗り換えの時間がやってきて、すぐに琴乃ちゃんの最寄り駅となる。
「……今日は帰りたくありません」
「こーら、帰らないとお父さん心配するでしょ?」
「……我妻家から連絡していただいてもいいんですよ? 琴乃ならうちにいますって」
「別の意味でお父さんが心配するからやめなさい」
あと一駅。次に止まったときが最後だ。
「……離れたくないです」
「……」
「何か言ってください」
「返事はしないんでしょ?」
「……ずるい」
「そうあれと望んだのは?」
「……私です」
彼女の顔がだんだんと暗くなる。こうなるとわかっていたけど、いざなると堪えるなぁ。
「じゃあ、こうしよ」
「え、わっ」
「ぎゅー」
僕は彼女を思いきり抱き締めた。
「はい、これで充電完了」
「……またやってください」
「はいはい、お姫様」
「あと、好きって言ってください」
「えぇ、それだと返事をいうことになるんじゃ──」
「嘘でもいいから」
彼女の顔は真剣だった。真剣に僕に奏することを望んでいる。
「……大好きだよ、琴乃」
「……私はあなたの妾になってもいいと思っています」
「妾って……」
「本心です」
彼女の顔を見る。嘘はついていない。でも、絶対それは公開する選択だ。
愛した女性に序列がついているなんて、そんなのあってはならない。優柔不断もたたかれるかもしれないけど、そのほうが余計に僕にとっては堪えるのだ。
「止めるよ、絶対」
「……だから、貴方のことが大好きです」
停車する。そして、その瞬間に彼女は耳元で言い残して去っていった。
「貴方の傍にいると、それだけで濡れ濡れです」
「……濡れ濡れって」
僕はその場に一人寂しく残された。
⑥その後のLANE
{好き}
「どうしたの、琴乃ちゃん」
{事実を言ってはダメですか?}
「ダメってことはないけど」
{好きです。大好きです}
「梅に見られたら殺されそうだ」
{それは面白そうですね。あなたのあーんなところもコーンなところも}
「ちょいちょい!」
「ていうか、コーンになってるね! トウモロコシだね!」
{……茶化す影成様は嫌いです}
「そりゃ茶化すよ」
「琴乃」
{どうしました?}
「バレました」
{ありゃ}
「根掘り葉掘り聞かれて、キスしたこともばれました」
{そうですね。影成様、自分がキスした女の子としゃべってるんですよ?}
「やめて、言わないで。意識するから」
{どんどん意識しちゃえー}
{しこしこ}
「やめて」
{ごめんなさい}
{今日の夕食はチャーシューでした}
【写真1.png】
「いいね」
「うちはお魚だった」
【写真2.png】
{食べ終わった後じゃないですか}
「だって急に出さなきゃいけなくなったんだもん」
{用意が悪いですね}
「ごめん」
{んふふ}
「何?」
{いえ、面白いなと思って}
「なにが?」
{こうやって影成様をからかえるのが、普通なら絶対に無理ですもん}
「あー」
(実際はもっと簡単なんだけどなぁ……)
「そうかもね」
{ね、影成様}
「何?」
{また前みたいにどこか一緒に行きたいです}
「二人で」
{はい、絶対}
「梅がついてくるかもなぁ~」
{絶対おいてきてください}
「できるように努力するよ」
{お願いしますよ?}
「分かった」
◇
休日、僕は琴乃ちゃんとの待ち合わせで、とあるカフェに向かっていた。
隣には梅が革ジャンの格好で歩いている。
「いーい!? あの女狐には絶対に騙されないでね! 絶対裏があるんだから!」
「裏って……何にもないよ」
「いーや、絶対に何かあるね。私の勘がそう囁いている」
(梅ちゃんに働いているのは勘じゃなくて色眼鏡でしょ……)
僕らが大通りを歩いていると目的のカフェテリアが見つかる。中を見ると琴乃ちゃんが座っていた。
「あ、いた! あの女狐!」
「梅ちゃん、あんまおいたしちゃだめだからねー」
「はーい!」
返事はいいのだ。でもわかってる気がしない。
「まったく……」
「楽しんでるね」
振り向く。そこには誰もいなかった。
「……なんだ、今の」
おかしな気配があったと思ったんだが……気のせいか。
「今のうちに楽しんでおくといいさ、我妻影成」
黒づくめの女が電柱の上に立つ。彼女を見る者は誰もいなかった。
「我らに勝利あり。怪異の皆様に栄光を」
その日、ニュースが報じられた。
内容は路上に「宵月会、参上」の五文字が刻まれていたというものだった。
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