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14話

 5月11日14時11分、米ヶ丘高校周辺にて。


「きゃぁぁぁあああ!」

「ん?」


 学校の廊下を歩いていた影成は窓の外を見た。そこにいたのは──


「怪異!?」


 繰り返すが14時11分、昼の出来事である。


 ◇

 

 僕はすぐに学校の外に出るために急いだ。


「影成くん!」

「陽菜!」


 途中で陽菜に出くわす。


「今、外で誰かの悲鳴が──」

「外に出るなよ、それから大人の言うことをちゃんと聞くんだ!」

「えっ、影成くんはどうするの!?」

「いいから、絶対に危ない場所に行くなよ!」


 これで伝わったかは分からないが、とにかく先を急ぐ。


 階段を滑るように下りて、昇降口に出る。それから、正門を出てあたりを見回した。


「なんだこれ!?」


 怪異が日中に人を襲ってる。見れば、かなり危うい場面も多数あるが、僕が動けばどうにかなるものじゃないものばかり。


 すると、その中に見知った人影を見つける。


「梅!?」

「はっ、お兄!」


 なんと、梅は僕の高校の周辺に発生した怪異たちと戦っていた。


「お兄は大丈夫だよね、心配してないけど」

「なんでここにいるんだ!?」

「私の中学にも怪異が出て、もしかしたらお兄もって思って、急いで飛んできた!」


 結局、心配してるんじゃないかという言葉は今は飲み込んでおく。


「とりあえず、照魂会に急ごう。この数の人、僕らだけじゃ守り切れない」

「そうだねっ、私らだけならしのぎ切れたけど」

「……」


 そこを私だけに変えてほしいな、お兄ちゃん。


「とりあえず、急ごう!」

「うん!」


 道中、梅に露払いをしてもらいながら市街地を進む。


 どうやら静景の街全体で怪異が発生しているようだった。


「何この騒ぎ、意味わかんない!」

「昼から怪異が出てる……異常だね」

「そんなの見ればわかるでしょ!」


 梅に素で突っ込まれてしまう。


「それより、もっち急がない?」

「あー、えっと……」


 梅一人なら【疾踏】でもっと早く走れるところを、僕がいることで行軍速度が著しく遅くなっている。しかも、梅は僕がもっと速く走れると思っているのだ。どうしたものか……


「できるだけ、道中で人助けしながら行こう。梅ならすぐに着くし」

「……もう、分かったよ」


 完全に妹任せで静景の照魂会の近くまで来る。すると、道中で琴乃ちゃんに出会した。


「影成様!? ……っと、お付きの人」

「誰がおつきの人よ!」


 今は遊んでる場合じゃないんだよなぁ!


「影成様は大丈夫でしたか?」

「愚問でしょ。それより、そっちはどうなの?」


 梅の言葉に琴乃ちゃんは若干いやそうな顔をしながら答える。


「照魂会はすでに出動しています。私もこれから持ち場に向かう予定で……」

「急に怪異が出てきたの! どうなってるの!?」

「私に言われても……」

「ん?」


 二人が口論している間に見かけた人影に見覚えがある。それをよく見ると、以前に見かけたあの怪しい人影だった。


「あ、あれ!」

「ん?」「どうしたの?」

「あれ、あそこに前に見た人影が!」


 フードろかぶったその人物は向こうのほうに去っていく。


 それを聞くと、琴乃ちゃんは目の色を変えた。


「追いましょう」

「え!? どういうこと!?」

「影成様が言っていたあの怪しい人影ならこの事件と関係するかもしれません。追いましょう」


 言うが早いか、琴乃ちゃんは【疾踏】でフードを追っていく。


「あっ、待って!」

「あっ、まっ、二人共!」


 僕は必至で本気の疾走をする二人の後を追う羽目になった。

 

 ◇


「はあ、はあ、ようやく追い詰めたわよ」


 三人でフードの人物を追い詰める。相手のほうも僕らに追われていると気づいて逃げていたが、本気の二人をまくことはできなかった。


「ちっ」


 すると、練魂の火が現れる。


「やっぱり闘魂士!」

「……」


 透明感のある陽炎のような揺らぎが漂う中、二人も構えの姿勢をとる。


 そして、戦の火が切って落とされた。


「はっ!」


 一番最初に切り込んだのは【疾踏】で加速した梅だった。ここの誰よりも練度の高い【開】を使える彼女の加速力は、僕を含めた三人の反応を超越する。


「くっ……」


 しかし、今日で三位になる梅の烈魂を相手はかろうじて受けた。それにとどまらず、自身を梅ごと練魂の幻輝した炎で包み込んだ。


「アッツ!」


 思わず梅が飛び出す。そこへ琴乃ちゃんの巨剣が飛び出した。


「『天刺あまさす』」


 歪な大剣は琴乃ちゃんの言霊を受けて加速する。そして、今までフードのいた場所に突き刺さった。


「『爆ぜろ』」


 琴乃ちゃんは何かを握る動作をする。その瞬間に、巨大な剣が爆散した。


「あっぶな! 危ないでしょ!」

「この程度よけられないのなら足手まとい」


(……巻き込まれかけた)


 ひやひやしながら三人の戦いを見守る。すると、今度はフードの方が仕掛けてきた。


「はぁっ!」


 威勢のいい掛け声と同時に、僕らの周りが火で囲まれる。


 そして、それはホーミングをするように次々に梅と琴乃ちゃん目掛けて射出された。


(あっち、あっち! 点いてる点いてる!)


 僕はお尻に点いた火を消すために必死となり、二人は華麗に宙に逃げ、地を駆けていく。


「ちっ、小賢しい真似を!」

「……『天穿あまうがつ』」


 琴乃ちゃんが再び言霊を使用する。今度はフードの頭上に歪な巨剣が現れた。


「ちっ!」


 フードはそれをすぐに小走りでよけていく。


(ん……?)


 少々の違和感があったが、戦闘中ということもあってすぐにそれは結実しなかった


「こなくそぉ!」

「くっ!」


 琴乃ちゃんの蹴り、突き、流れるような殴打が連続してフードに差し迫る。


 三位の烈魂にさすがに対処できないのか、全て同じく烈魂の【岩健】で対処していた。


「もう一発!」

「がはっ!」


 好いのがもろに敵の腹に入る。フードは若干声を上げ、空気という空気を吐き出した。


「くぅううう!」


 まるで調子に乗るなと言わんばかりに先ほどと同じ手法で琴乃ちゃんを追い払おうとするフード。しかし、予期しても尚、梅は退かなかった。


「何度も同じ手は食らわないのよ!」


 それは烈魂ではなく武術における炎返し、一時的に腕を回すように動かすことで炎を一時的に弱める技術だった。


「ふっ」


 フードが笑う。琴乃ちゃんが【天刺】の準備をし、梅が渾身の一発を叩き込もうとする時だった。


「『爆ぜろ』」

「っ!?」「避けて!」


 フードの異様に低い声が聞こえた瞬間、琴乃ちゃんの叫び声が路地に響いた。フードの出していた練魂の火が突如として爆散したのだ。


「くぅうううううう! 小癪な、真似を!」


 梅はすべてを闘魂によってガードした。しかし、予期しない瞬間から無理やり魂気を練り上げたせいで消費がとんでもないことになったらしい。息を上げ、地に膝をつこうとしていた。


「『天刺』っ!」


 一体何個の効果付与を行っているかわからない言霊が、琴乃ちゃんから炸裂する。しかし──


「甘い!」


 低い声はフードをはためかせて、炎を一陣の鳥に仕上げた。


「っ」

「『進め、爆ぜろ』」


 フードが言霊を羅列する。すると、蛇のような尾をもった火の鳥は怪鳥のごとく琴乃ちゃんに迫ってきた。


「っ……『爆ぜろ』!」


 仕方なく琴乃ちゃんは巨剣を自爆させることを選択する。


 火の鳥と剣が交差する中、突如として轟音が鳴り剣のほうから爆散、それにつられて火の鳥も命令を一足先に遂行する。


「きぃぃぃぃええええええええええ!」

「何あれ、式神!?」

「いいえ、簡易な降霊術式です。おそらく鳥か何かを宿したのでしょう」


 火の鳥は爆発によってあたり一面を火の海に変え、僕はさらに後ずさった。更に火の鳥はしばらく消えることなく、何かを叫んでいる。


「これが厄介なんですよ……練魂の場の掌握。あたり一面を自分の得意なフィールドに変えてしまう」


 勿論、それぞれに得手不得手が存在する。


 練魂は燃費が良く、やろうと思えば場の掌握もできるが、その場合多大な魂気を必要とする。

 精魂は燃費が悪く、その代わりに一発一発が強力である。

 烈魂はもっとも燃費が良く、その代わり他二つにある強みに欠けている。


 フードがどれだけの魂気を持っているか確かめることはできない。それがこの場で最も恐ろしいことだった。


「……」

「あっ、待て!」

「待ってください。今追えば、あれの術中の餌食になります」

「でも!」

「逃すしかありません!」


 二位と三位で追い詰めて鍔迫り合ったのだ。フードの人は相当な術者の人に違いない。


「っ……」

「それよりも一度、照魂会のほうにいったほうがいいんじゃないかな」

「行ったほうがいいんじゃないかなって、お兄も戦ってよ! いつもいつも、私たちばっかり!」

「あはは、ごめん……」


 戦えないんだよね、とはいえない雰囲気だった。


「私たちがいたので本気を出せなかったのでしょう。『千影』様は人前で本気を出されたことが一度もありませんし」

「……私たちじゃ足手まといってこと?」


 むしろ僕が足手まといですと言いたいぐらいだった。言っても聞いてはもらえまい。


「とりあえず、照魂会に急ごう」

「はい!」「分かったわ……」


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