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12話

 最寄駅から五景線に乗って産益したところにあるデパート、辛うじて昨日陽菜と遊んだデパートとは違うようで安心する。


「人が一杯だね」

「お兄、手」

「はいはい」

「じゃあ、私も」

「はいはい……ん?」


 君はおかしくないかな?


「陽菜はおかしいでしょ」

「そうよ、離してよこの女狐」

「ついに梅も隠さなくなったね」


 しかし、陽菜は手を放そうとしない。それどころか、自慢の大きな胸を張って高らかに宣言する。


「私、方向音痴なの!」

「……自慢するようなことかな」

「馬鹿だから方向音痴なんでしょ」

「そうなの! よくわかったね、梅ちゃん!」

「梅ちゃん言うな!」


 なんだかんだ二人が楽しそうでよかった。


 ところで二人とも僕を挟んで会話を楽しむのはいいけど、顔が近いよ? パーソナルスペース守って?


「こうやって並んでると、影成くんが私たちのお兄ちゃんみたいだね」

「私は本当の妹だけどね!」

「じゃあ私はお義姉ちゃんになるかな?」

「字が違くない? ねえ、字が──」


 梅が最初に回ったのがアパレルショップ。どうやら最新のファッションを見ておきたかったのだそうだ。


「ねえ、お兄、見てー」

「はいはーい」


 こういうところにいると僕は置物になるのだが、唯一の仕事は妹のファッションを確認すること。


 一度、中学生になる妹のファッションについて言及する自信がないと伝えたのだが、それが兄の仕事と押し切られてしまった。まあ、ファッションセンスに関しては梅は一級品なのでそこは心配ないのだが。


「どう?」

「んー……」


 現れた梅の印象を一言で伝えれば「海外のモデルさんにいそう」だ。


 インナーはリブタンクトップ、アウターにはオーバーサイズの白いシャツジャケットを羽織っていてクールでスタイリッシュに仕上がっている。


 ボトムにはハイウエストのワイドパンツを合わせて、脚長効果をプラスし、厚底の白スニーカーでカジュアルな雰囲気を足している。


 全体的にホワイトでまとめていて、シンプルなシルバーのアクセサリーもアクセントとして機能している。ぱっと見、良いんではなかろうか。


「いいね、かっこいい」

「うわー、梅ちゃんモデルさんみたい」

「誰があんたに見ろって言った」


 相変わらず梅は陽菜に辛らつだが、本人は気にした様子がない。メンタルが相当鍛えられている。


「他もあるから、ちょっと待って」

「わかった」

「うわー、次の梅ちゃんのファッションショーは何かなー」

「あんたは帰れ」


 そう言ってカーテンが閉まる。あれだけ言われた陽菜は一切帰ろうとしない。帰ってほしいわけではないが、あそこまで言われて一切迷わない彼女のメンタルは鋼だ。


「陽菜ってさ」

「んー?」

「姉妹とかいるの?」

「んー、姉が二人いるね」

「ああ、そういう」

「んー、どうしたの?」

「ちなみに、お姉ちゃんは優しい?」

「厳しい」


 やっぱりか。


「梅についてはどう思う?」

「んー、妹がいないからよくわからないけど、こんなものなのかなって」

「すごいな。初めて梅とやっていけそうな人を見つけた」


 そうこう話していると、梅の着替えていた試着室のカーテンが開けられる。


「……どう?」

「わー、梅ちゃんお姫様みたいー!」

「あんたには聞いてない!」


 もじもじとした雰囲気で出てきたのはキュートでふんわりとしたコーディネートに身を包んだ梅だった。


 真っ白なブラウスは襟がフリルで装飾されていて、胸元にワンポイントのリボンがついている。その上にピンクのカーディガンを羽織っていて、少女らしさを演出しつつどこか大人びた雰囲気も残している。スカートはふんわりと広がったミニ丈で、梅の艶めかしい足を存分に出したファッションだった。


 ちょっとこれは可愛すぎでは?と兄としての心配が出そうになったが、あくまでフラットだ。フラットな意見を心がけよう。


「どうかな、お兄……」

「いいんじゃないかな。TPOは選びそうだけど、そこら辺の問題をクリアすればかわいいと思うよ」

「そっか、んへへ……」

「はー、ふーん」

 

 陽菜は急に意味深な納得の声を出し始めた。


「どうしたんだ?」

「いや、なんでも……ふーん」

「???」


 陽菜もそのコーデが気に入ったようで、食い入るように見ていた。


「にしても梅ちゃん、本当にコーデかわいいね。何か参考にしてる?」

「梅ちゃん言うな……別に、なにも参考にしてないし。強いて言うならお兄の好み?」


 すると、今度はじとっと陽菜の方から見られた。


「妹に好みの服着せてるんだ……」

「何が!?」


 会話の内容は聞こえていなかったが、凄く風評被害が生じているような気がする。


「私も真似しようかな……」

「……貴方にはこっちのほうが」

「え?」


 それから梅と陽菜はお互いにファッションの意見交換をしていた。陽菜の方が学ぶことが多いようで、いろいろと梅に教えられていた。


「こっちは色合い的に広がるほうだから、こっちの黒と組み合わせるときには必ず黒を下にしなきゃいけなくて……」

「へー、そういうルールがあったんだ!」

「……直感でわかるでしょ」


 女性陣の買い物というものは長いもので、それから一時間、二時間と僕は待ちぼうけを食らってしまった。


「お待たせー」

「陽菜も欲しいもの買えた?」

「うん!」

「そりゃあ何より」


 元々梅の服選びを手伝う予定だったはずだが、陽菜も買いたくなったということで梅に交じって服を物色していた。


 いろいろと梅に指導を受けながら選んでいたが、僕には試着の姿を見せないと言われて追い出されていたのである。


 まあ、女の子同士の方が気兼ねなく見せ合えたりもするのかな。梅が特殊なことは言う間でもない。


「梅ちゃんもアクセとか興味あるんだ」

「……私を何だと思ってるんですか」


 次に向かったのはアクセサリーショップだった。二人はしゃがみこんで商品を見ている。距離的に二人が何を話しているかはわからない。


「ね、お兄さんのこと好き?」

「好きです」

「私に取られたくない?」

「ないです」

「即答。そっかそっか……むふふ」

「?」


 いきなりこっちに視線を寄越されたが、僕は戸惑うばかり。遊ばれてるのかな?


「貴方はどうなんですか?」

「え、私?」

「貴方はお兄とどうなりたいんですか」

「……」


 急に陽菜の動きが止まる。何の話をしているんだろう。


「……そこらへんがあやふやな人に、お兄は絶対あげません」

「……あはは、辛らつだなぁ」


 梅のほうから終わったようでこちらに来る。後を追うように陽菜もこっちにきて、俺の持っていた籠の中に商品を入れていった。


「じゃあ、お兄。お会計よろしく」

「影成くん、お願い」

「え、あ、はい」


 またしても奢らされる。

 まあ、いいけどね。大体予想してたし(負け惜しみ)

 

 会計を済ませて二人に商品を渡すとずいぶんと喜んでくれた。


「お兄が付けて」

「あっ、じゃあ私も!」

「えぇ~?」


 まるで妹が二人に増えたようである。

 

 梅には髪飾りを、陽菜にはネックレスをつけてあげた。


「はい。二人とも、どう?」

「……うん、いいね」


 やっぱり梅の目線はモデルさんみたいだ。自分に似合うかを見ている。


 それに対して陽菜は僕から受け取ったアクセサリを大事そうに見ていた。


「……ありがとう、影成くん!」

「そんなに喜んでもらえたのなら何よりだよ」

「わ、私も感謝してるんだからっ」

「あはは、なんだか梅、ツンデレみたい」


 すると、梅は顔を真っ赤にして叫ぶ。


「ツンデレじゃない!」


 そんなこんなで時間は過ぎていく。陽菜は自分から帰ると言い出した。


「それじゃあ、そろそろ私は帰るね」

「はいはい、帰った帰った」

「あはは、梅ちゃんは辛らつだなぁ」

「梅」


 僕がちょっと怒った口調で言うと、急にシュンとして梅は陽菜に向き直る。


「……あの言葉、忘れないでね」

「……わかった」

「……?」


 二人だけで何か通じ合うものがったようだ。僕は全然わからない。あの言葉って何だろうか?


「なあ、何の話してたんだ?」

「乙女の秘密」

「……」


 ずるいよなぁ、女の子って。


「だから、女の子なのか」

「何言ってるの?」

「別に」

「ね、お兄。もうちょっと付き合ってよ」

「はいはい。お姫様」

「あははっ」


 梅は楽しそうに笑っている。朝は低血圧なのかあまり笑っているところを見ないのだが、今はこうして笑顔な梅を見れて安心した。

 

「お兄はあの人どう思ってるの?」


 梅が選んだのは女子高生に人気なSNS映えするカフェスポット。チェーン店のそこはコーヒーや甘味などを提供している。


 梅は向かい合う席でコーヒーを片手に持ちながら、僕のことを見定めるように覗いてきた。


「あの人って陽菜のこと?」

「……私の前で陽菜って呼ばないで」

「あ、ごめんごめん」

「……」

「いい人だよね、陽菜さんは」

「……それだけ?」

「え、うん」


 梅の動きが固まる。


「女としてありとかなしとか、そういうのは?」

「こーら、なんでもかんでもそういうことに結び付けちゃいけません」

「でも、実際にはそういうこともあるよね?」

「え、うーん。あるにはあるけど……そういうの考えるのは失礼じゃない?」

「これっぽっちも?」

「これっぽっちも」


 すると、梅は何かを考えたように背もたれにかけて、窓の外を見た。


「……私、あの人に同情してきたかも」

「なんだそれ。馬鹿にしてるのか」

「んーん、それよりお兄。そっち行っていい?」

「え、うん。いいけど」


 すると、席を移ってきた勢いで、梅は僕の肩に頭を乗せた。


「梅、ここ人がいるけど」

「いい」

「……」


 彼女はこうして時折何かに縋るように僕に温もりを求める。

 

 ハグをしてとねだってきたり、キスしろと言ってきたり、様々だ。


 多分、闘魂士としての業務が彼女の精神に影響を与えているのだろう。怪異との戦闘は恐怖だけでなく魂波に直接悪影響を及ぼす。それ以外にもパトロールは深夜まで続くし、思春期の女子高生が起きていい時間帯ではない。


 彼女が自分のニキビを必死に隠しているのを、僕は知っている。


「梅は頑張ってるよ、すっごく」

「……うん」

「大丈夫。兄ちゃんがいるからな」

「……うん」


 しばらく梅は、ここ最近充填できていなかっただろうものを受け取っていた。


 すると、梅がガバッと起きる。


にい、キス」

「ここ外」

「ハグ」

「もうしてる」

「……ベロチュー」

「頭しばくぞ」


 梅はべーっと舌を出して反駁する。こりゃどうやらもう大丈夫そうだな。


「ほら、行こ。お兄」

「はいはい」


 カードを切って、僕たちはカフェを出た。

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