TSは唐突に
「ざぁこざぁこ♡ねぇこんな女の子に惨敗するってどんな気持ち?」
そう言いながら見下ろす先には身長3メートル程のミノタウロス倒れている。
『いつきちゃん圧倒的!』
『そのあんよに踏まれたい!』
『ジト目しながら罵って欲しい』
『変態湧いてて草』
視界の端宙に浮く半透明の画面にコメントが流れる。
今は生配信中であり、ミノタウロスの変異種を探す耐久企画中だ。
今目の前で倒れているので18体目であるがまだ変異種は出てきていない。
「さて、とどめを刺しますか」
ミノタウロスが棍棒を杖代わりにふらつきながら立ち上がる。
が、背後から振り下ろされた巨大な戦斧で真っ二つにされた。
「やっと現れたか、飽きて別のことやるか考えてた所だ」
「オォオォォォオオ!!!」
先程戦っていたミノタウロスの背後から4メートルを超えそうな巨体、通常種より濃い色の毛をしたミノタウロスが雄叫びをあげて現れた。
「ミノタウロス変異種、通常種と比べ筋肉、角が異常発達し、より硬い毛皮を持つ。
場合によってはここより3層下の30層のボスより強いらしいね」
『画面越しでも凄い迫力』
『いつきちゃん大丈夫?』
『何だ、新入りか?』
『いつきちゃんはソロで60層より先にも行けるからへーきへーき』
『この耐久配信もミノ変異種の肉を取るついでだしな』
ミノタウロス変異種が戦斧を振り上げ地面に叩きつけるように振り下ろす。
その攻撃を半歩動いてかわした後、ミノタウロスの懐に潜り込み手に持った水晶のナイフで首を斬りつける。
ミノタウロスは戦斧を手放し素早く身を反らせてナイフをかわす。
俺はその隙をついて戦斧を引ったくって飛び退く。
「あっれぇ?、自慢の武器取られちゃったね」
手に持っているナイフを腰のホルダーにしまい、戦斧をバットの様に構える。
「来なよざこウシ」
挑発にのったミノタウロスが体勢を低くし、その立派な角で俺を貫こうと突進してくる。
その突進に合わせ戦斧を振り抜くと、ミノタウロスは上下に分断され光となって消えてしまった。
ミノタウロスが居た場所には巨大な肉塊が落ちている、所謂ドロップアイテムと言うやつだ。
とりあえず鑑定をかけると『ミノタウロス変異種特上肉』と出た、売りに出せば最低400万位は値が付くだろう。
その肉と手に持っている戦斧を腰につけたポーチ型のアイテムボックスに放り込む。
「さて、目的も達成したから配信終わるね」
『ミノ変異種討伐乙』
『嘘みたいだろ、メイン職業テイマー系なんだぜ、これで』
『今回もいいもの見れたわ』
『ミノ肉使った飲み配信はいつ頃予定ですか?』
「飲み配信は明日の21時頃かなぁ、じゃあその時までばいばい」
そう言いながら撮影に使っているドローンに向かって手を振り配信を終了した。
事の起こりは1週間前、何処にでも居るようなおっさんが朝起きたら美少女に変わっていたという話。
✦1週間前
「おう、今日もつまらない配信に付き合ってくれてありがとうな」
『いやいや、そんな事無いですよ』
『いろいろ勉強になります』
『この前の罠判別見てて助かりました』
『で、今日は何食べるの?』
この世界にゲームによく似た別世界、正確には神々がその世界にゲームが似るように確率調整したらしいしいが、その世界と混ざりダンジョンが出現して4年、ダンジョン内やそれに類する配信者が増えている。
俺もその配信者の一人である、登録者は19人と少ないが。
「今日は今まで貯め込んでたレア素材を酒のツマミにした」
俺は手元の皿に乗せた調理済みの素材をカメラに見せる。
『うわぁ、全部60層以降の素材ばかり。有名なのだと世界樹の葉、マンドラゴラ、コカトリスと黒竜の肉だな、値段ヤバそう』
『鑑定ニキから見てもヤバ物を天ぷらにしたのか』
『素材喰らいのスキルが羨ましいけど羨ましくない』
『まぁ◯◯喰らい系のスキルはチート級に強いけどレア素材の消費が半端ないからな』
素材喰らい、食材に分類される素材を食べるとステータスが上がったり、確率で素材の元となるモンスター等のスキルが発現するスキルだ。
かなり強いスキルではあるがデメリットは高額な素材を食べなければならないと言う事だ。
素材のレア度が高い物程の効果が高く、発現するスキルも良くなっていく。
「一応売るつもりではあったんだが、ギルドの自称エリートが馬鹿な事の言い始めてな、こうして食べて消費しようかと」
『その時近くに居たけどあれは本当に酷かった、俺でも樹さん同じ事すると思う』
『あれな、イチャモンつけてタダ同然で引き取ろうとしてたやつ、受付嬢が泣きそうになってたのが可愛かったです』
「まぁそう言うわけで呑んで憂さ晴らし、で今回メインの酒はこいつだ」
そう言いながらテーブルの下に置いていた瓶を持ってカメラの前に置く、中には琥珀色の入っている。
『マジかぁ』
『どうした鑑定ニキ?』
『軍隊蜜蜂の蜂蜜酒、しかも60層の世界樹の花から出来たやつ』
『前に採取配信で入手してたけど、アレを酒にしたのか』
『てか酒造って大丈夫なんですか?』
「一応家柄で酒造の免許は取ってるし、造ってるのは俺じゃなくてテイムしてるモンスターだしな」
スキルで亜空間に手を突っ込んで中から一匹のモンスターを引っ張り出す。
手に掴んだモンスターは昆虫型で体長60センチ程、丸っこく黒と黄の縞模様、本来はリアル系だがこいつを含め俺がテイムしているモンスターの一部はぬいぐるみのような姿に変化させている。
ぬいぐるみのような巨大な蜂が掴んでいる俺を見ながら首を傾げている。
触角には娘達が着けたピンク色のリボンがある。
軍隊蜜蜂、30層から出現するモンスターで性格は穏やか、こちらから手を出さない限り安全なモンスターだ、一匹では階層相応の強さではあるが複数になると厄介さが跳ね上がり、5匹程になると70層のモンスターを狩ることが出来る。
「蜂蜜酒は蜜蜂に任せるのが一番だからな、10匹テイムして全匹に酒造スキルつけて半分は常に酒造らせてる」
✓『御神様、此の度は大変申し訳ありませんでした。つきましては後日、再度素材を納品していただけないでしょうか。買い取り額は依頼額の2倍で如何でしょう』
『あ、探索者ギルドの公式アカだ』
『買い取り云々の前にやらかした自称エリート(笑)を処分するのが先じゃない?』
『でも何故コメントに、普通は直接連絡取るものでは?』
ふとコメント欄を見ると探索者ギルドの公式アカウントからのコメントが入っていた。
まぁ心当たりはある。
「あー、多分電話線抜いてスマホ電源落としてるから、今はここでしか連絡取れないからだろうな」
『笑』
『www』
「まぁしばらくは探索者ギルドにアイテム売ることは無いな、少し面倒だけど商業ギルドの方に売る予定だし、一部はもう調理済みで酒のつまみになってるし。
と言う事でいただきます」
酒を飲み、つまみをつつきながら雑談をしているとこのようなコメントが目に入った。
『商業ギルドに売るのが面倒と言っていましたが、探索者ギルドと商業ギルドの素材売却の違いを教えてください』
『お、新入りか』
『囲め逃がすな』
『探索者としても視聴者としても新入りかな?』
「各ギルドの違いな、簡単に言うと買い取り価格に変動が大きいか小さいかだな。
探索者ギルドは値段の変動が少ないから定価、商業ギルドは需要と供給の状況によって大きく値段が変動するから株みたいなことも言われてるな。
有機物は腐ったり干からびたり品質変わるからアレだが無機物系なら長期保存出来るからおすすめな」
『前に生の食材寝かせて駄目にしたことがあるわ』
『俺も』
『俺は生素材寝かすための時間停滞付与された箱買った、なお元は取れていない模様』
「時間停滞便利だけど高いんだよな、俺は買うか迷って諦めた」
そんなこんなで配信を始めて1時間。
質問に答えていき、用意していた酒とツマミが無くなった。
「さて、酒とツマミが無くなったので今日の配信はこのあたりで終わりにします」
『ホントだ、いつの間に』
『今日も勉強になった』
「じゃあまた次回」
そう言って配信を切り、パソコンをシャットダウンした。
「さて、歯ぁ磨いて寝るか」
そうして俺は諸々のことを済ませ寝る事にした。
システムログ↵
女神フレアリーゼがミカミイツキの蜂蜜酒の残り香に惹かれました。↵
フレアリーゼがミカミイツキを鑑定しています。↵
調薬スキル遠隔起動、ミカミイツキの胃の内容物で調合開始。↵
性転換薬調合、成功率0.0007%↵
フレアリーゼが天元の賽を振りました。↵
100d1000↵
0クリティカル。↵
調合の成功率が100%になりました。↵
ミカミイツキの性別を変更、容姿は遺伝子を参照、フレアリーゼの趣味で調整されました。↵
性別はフレアリーゼにより固定されました、以後の変更は不可能となります。↵
フレアリーゼによりスキルが生成、付与されました。↵
女神フレアリーゼは大変満足しています。↵
目を覚ますと体の違和感に気付く、まず身体が異様に軽い。
体を起こすと長い髪が視界に入る。
「は?」
そして声が高い、聞き慣れた声では無い。
慌てて洗面所に行き鏡を見る。
「えぇ…」
鏡の中には美少女がいた。