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崩壊の音


 音が静まり、リオは目を開いた。砂埃が舞う中で視界は狭いが、見える範囲でも、重症を負った団員は多いようだ。爆発からどれくらいの時間が経ったのか、最早自分の感覚は頼りにならない。


「思ったより生きてるな。騎士団様は大層優秀らしい」


 声のする方を見ると、黒髪の男はいつの間にか地上に移動してきていた。男はわざとらしく指を伸ばしてこちらの頭数を数えていたが、リオと目が合うと、後ろをよく見ろ、と促すように首を振った。


 振り返った先にあったのは、燃えるサマナの街と、瓦礫に顔を潰された仲間の姿だった。防御魔法の範囲に入れなかった者は軒並みガラスや瓦礫の被害を受けたらしく、中には死ねずに傷だらけの顔でひゅうひゅうと息をする者もいる。いや、それよりも、何故街が燃えている?


 木製の家屋はいずれも勢い良く燃え上がり、薄汚い茶色の灰が蝶のように街中を舞っている。

 聞こえてくる悲鳴が少ないのは、上手く逃げおおせたのか、既に声も出せない状態なのか。あまりの惨状に、リオは目を背けて黒髪の男の方に向き直った。


 しかし、振り返って視線を上に向けた先にあったのは、正面が大きく抉れた本館の姿だった。衝撃で外壁はめくれ、直撃を避けた部分にもひびが走り、今朝までの面影はない。窓枠の向こうには割れた鎧や腕が転がり、それがもう助からないと悟る前にリオは視界から外した。


「街中にあった爆弾を爆発させた、あそこから逃げるのは中々厳しいぞ」


 こちらの考えを見透かすように男が喋る。リオにだけではなく、全体に聞こえるように喋っている。理由は考えるまでもない。街は焼け、仲間は大勢死んだ。生き残った騎士団の戦意をも、こいつは砕くつもりなのだ。


「まだ、まだだ!俺達にはカロリーヌ支部長がいる!あの人が来れば俺達の勝ちだ!それまでこいつを逃がすな!」


 1人の騎士が叫び、剣を頭上に掲げた。そうだ、リオ達には支部長がついている。目の前の男の実力も、その目的さえも不明である。支部長さえいれば、その全てを解決できる。そう思えるだけの信頼が、サマナ支部の団員達にはあった。しかし、

「そうか……!だから、だから支部を壊したのか!」


 リオが最後にカロリーヌを見たのは、彼女が留置場に入っていく姿だ。地下に位置する留置場の入口の真上は、抉られた本館部分だ。もしも彼等がカロリーヌを邪魔に思っていたとして、その行動を把握していたとしたら。モンスターや犯罪者相手に無類の強さを誇る支部長であろうと、建物の崩落に巻き込まれてはタダではすまないだろう。


「正解だ、水色の。カロリーヌは俺達の目的の障害になる。彼女は瓦礫と添い遂げるのだよ」

「ふざけるなよ!支部長がそんなんで死ぬかァ!」

「おいおい、彼女もいい年なんだろ?あんまり期待してやるなよ。今も音沙汰が無いのが現実だ。さて諸君、話は終わりだ」


 男はおもむろに両腕を上げると、頭上で大きくバツ印を作った。この仕草には見覚えがある。やはり近くの仲間への合図なのか、そういえば他にも侵入者がいたはず、リオがそこまで考えた時、どこからか手を叩く音が聞こえた。


 音を聞いた瞬間、その場にいた騎士全員の視界が黒く染まった。目を閉じた訳ではない。瞼を開いている感覚はあるのに、何も見えない。周囲では仲間の名前を呼ぶ声が響くが、姿はどこにも見えない。目が見えなくなっている?その考えに至った瞬間思考は止まった。怖い。リオは杖を手放し、恐怖で震える身体を両手で抑えつけたが


「見えないって、怖いよね」


 囁く声が耳元に聞こえ、腹に衝撃を受けてその場に崩れ落ちた。知らない女性の声だった。周りから聞こえる声もうめき声に変わり、すすり泣く声すら混じっている。この謎の女性が何かの魔法を使い、視力を奪った?だが、視力を奪う魔法など聞いたこともない。女性の正体に、他人の視力に干渉する方法。そもそも騎士団を襲撃する理由は?目は治るのか?帰りたい!あらゆる疑問が頭の中を駆け巡り、その全てがリオに解決できるものではない。困惑と無駄に冴えた耳から聞こえる悲鳴に心が砕けるその一歩手前に、風切り音と耳をつんざく叫び声が脳内に響いた。


「さっきのお返しだぜシオン!よくも支部長さんをやってくれたなこの野郎!」


 聞き覚えがある声だ。声に続いて何かが勢いよく突き刺さる音が鈍く鳴り、弱弱しく手を叩く音が聞こえた瞬間、リオの視界に色と景色が戻った。目を刺す日光に反応して流れる涙を拭いながら顔を上げると、目の前には3人の男女が立っていた。


 茶髪の男の拳を黒髪の男が手のひらで受け止め、黒髪の後ろでは金髪の女が酷く出血した左腕をおさえている。恐らくはこの女がリオの視界を奪い、腹を殴るかしてきた奴だ。そして、茶髪の男には見覚えがあった。質の良さそうなコートにブーツ。相手を睨みつける鋭い目つき。牢屋に居た筈のアッシュ・ラグーンだ。何故彼がここにいて、戦っているのか。


リオの疑問に答えるように、支部の残骸に残っていた共鳴魔石からカロリーヌ支部長の声が響いた。


『団員に至急連絡!現在確認できる敵は本館前の2名のみ!また、問題解決にあたりアッシュラグーンを特対者に任命!繰り返す、犯罪者アッシュを特対者に任命!』


 トクタイシャ?ああ、特対者か。リオは頭の中で聞きなれない言葉を繰り返した。特別命令対象犯罪者、略して特対者。有事の際に特別な技術を持つ犯罪者を動員し、働きの報酬として罪の帳消しを行う制度だ。戦時中に傭兵の水増しとして作られた制度を、この目で見ることになるとは。


「シオンにやられてた奴か、お前が出る幕か……?」

「話聞いてなかったのか?タンクトップ野郎。この国じゃあ、命令1つで犯罪者が正義の味方になれるらしいぜ。オラ、立ちな騎士団共!こっから逆転だ!」

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