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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『終わらぬ夜の暗月』

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Deviance World Online ストーリー7『ヴィンセント』

 さて、特段今までネロの話題が上がらなかったのには水たまりほどに深いわけがある。

 意外にも語ることが少ないのだ、あるいは語れることが少ないというべきか。

 心象世界とは個人の領域だ、故に客観的視点は存在せず常に当人の思想を孕む。

 だからこそその世界においては第三者という視点はなく、物事の正しさもまた成立することがない。


「『熱烈な鼓舞』、であるぞ!!」


 そしてまた、()()()()()()がスキルを使うことは原則あり得ない。

 不可能というわけではなく適応していないというべきか、この世界の姿形にネロという壊れた悲劇は順応することができていないのだ。

 その悲劇はどこまで行っても、壊れているのだから。


「バッファーが厄介なのはどのゲームでも同じだね、まぁ壁役の君が強いからこそ厄介なんだけど」

「下手な誉め言葉こそ結構、手前を切り裂くに至らん儂の技量がみすぼらしくならぁ」

「結構強いよホント、村正さんって謙遜するよね自分の事」


 その言葉を余裕とともに吐かれても嬉しくはない、超高速の抜刀術を披露しながらも返された直剣が髪を掠める。

 ダメージ判定は、髪を掠った程度では発生しない。

 体を深く沈め一気に迫る、一瞬一瞬の駆け引きであり刹那の隙を見逃せばこちらが負ける。

 ネロのバフによってこちらのステータス強化倍率は十分にある、致命的な攻撃を放てば確実に殺せるだろう。

 そしてまたそれはヴィンセントにも同じことが言える、ヴィンセントもまた十分な攻撃力を保有しており致命的な一撃を放てば確実に村正を殺してくるはずだ。

 つまりは条件的に互角、であれば。


「手前、忘れんじゃねぇぞ?」


 そして、()()()()()条件が互角ならば。

 後衛の条件において勝る村正が、僅か数歩有利である。


 などという事実はヴィンセントが一番分かっている、その焦りは黒鉄の鎧に隠しながらも拙速な勝利を欲しがり()()()()()()()()()()()()

 自分を御し切れて居ない、ソレこそがヴィンセントを不利にしている事実に他ならず。

 数多くの条件が自分の首を真綿で締め付けている、まずは状況を打開するためにネロを。


(駄目だね、村正さんが硬すぎる)


 最高峰のプレイヤー、去れどもソレは生産職において。

 舐めていた思考は今再び覚めていた、トッププレイヤーという称号は唯秀でているだけで与えられるものではない。

 強く厄介で秀でているからこそ与えられる、プレイヤーからの畏怖と称賛の証。

 確かに自分もトッププレイヤーの端くれだ、実際に純粋な戦闘能力で姉に勝っていると自負しているしその通りだろう。

 けれどもドレイク然り、アルトリウス然り自分以上など多い。

 故に慢心などしていないと思っていたが、ソレこそが間違いだった。


(『黄金童女』ネロ、彼女のレベルは一体どれぐらいなんだ……? 鑑定が弾かれている以上は最低80あると見積もっていいだろうけれども……。それに動きがなさすぎる、動けないわけがないだろう? このゲームはスキルを持っているだけで動きが補正される。毎度公演を開き観衆を虐殺している君が何もスキルを持っていないはずがない)


 慢心していた、だから本来は及ぶはずの危険性を考慮せず無鉄砲に攻撃できる。

 だが心を恐怖に蝕まれ警戒すれば不要な臆病さを露呈することになってしまう、正解を語ることは不可能なれども事実この状況において最適解とする行動は問答無用でネロを殺害することだった。

 だが内なる恐怖がその行動を遅らせ村正に、ひいてはネロに次の行動を行わせる。

 その時点でどうしようもなく、ヴィンセントは負けている。


「『蝶の舞』『蜂の舞』であるぞ!! 存分に踊るがいい!!」

「『抜刀』『舌切紅雀』」


 直撃はしない、だがDEXが増幅された村正の一撃はその緻密さを以てダメージ判定がある部位に触れた。

 何十倍にもカットされ、ソレ一つが致命傷になりえない攻撃であっても。

 その攻撃は確かに、触れたのだ。


「『さてさて此れ選り語るは御伽噺、悪徳三昧な御爺様と雀の話』」


 魔力が、糸のように結びつく。

 剣聖が語った戦いの極意、最も重要なのは後の先に至るという事。

 戦場において常に先手を取ることは難しい、ソレができるのならば既に勝者だ。

 だが常に先手を取ることは不可能でも、一手だけ先に至るのならば別段難しくない。


「なんの語り、いや詠唱かな? 村正さん」


 すでに後手、攻撃の対応にこそすべての意識が向く。

 だからこその打開策、この一手をあきらめ一撃を受け止める覚悟をし詠唱を続行する。

 そしてヴィンセントは、その行動に何もしない。

 いや、何もしないのではなく何もできないのだ。

 体が凍り付いたかのように動かなくなっている、当たり前だ。

 動くわけがない、村正の攻撃は従来の魔術に存在するセオリーというものが存在しないのだから。


 頭でっかち、脳内で様々な可能性を憶測し無理な干渉をすることが出来なくなっていた。

 DWOにおける魔術には様々なギミックが存在し、使い手によって効果は多様化している。

 モルガン並みに著名な魔術師であればそのギミックのほとんどは公開されているに等しく、ヴィンセントも攻撃していた。

 だが今の今まで魔術を使うそぶりすらしなかった村正が魔術を扱う、その行動に無数の選択肢が湧き思わず出す手を渋ってしまう。


「『嘘付き嘘吐き御爺様はあれよあれよと舌が斬られる』」


 だから、村正が勝るに決まっていた。

 ヴィンセントが行うべきは如何なるカウンターを出されても無理に攻略すること、カウンターが用いる魔術よりも致命的な攻撃に繋がるわけないのだから無理矢理に止めるべきだったのだ。

 後手に自ら回った、自分の有利を捨て自ら不利な渦中に飛び込んでしまったことが敗因となる。


 収束する魔力は、遅れながらに動き出したヴィンセントの舌に絡みつく。

 何をしたのか、嘲笑するように言葉を発そうとして初めて気が付いた。

 声が、出ない。


「手前さんよ、そりゃ悪手に尽きるぞ。『血花伴蘭』」


 無理矢理、剣を掴み青ざめた顔で魔力を収束させようとした。

 この一撃でせめても発動中の魔術を中断させることが出来れば或いは、だからこそ村正にその剣を破壊されその足で顎を蹴り砕かれてしまう。

 地面を軽くバウンドし怯えながら、淡々と刃を向けてくる村正を見上げた。

 どうにも冷徹に見えてしまう、感情が揺らいでいるはずなのにその興味が自分に向けられていない視線は。

 どうしようもなく、冷たく凍っているようにすら感じてしまった。


「手前の武器は魔力の霧散だろうが、まかり間違っても魔力の収束なんかじゃねぇだろう。武器の性質を完全に把握し切れて居ないにも拘らず持ち出すなんざ『黒鉄』の名前が聞いて呆れる、無茶に集めた僅かばかりの魔力で儂の刃を上回れると思ってたのか?」


 ネロのバフはもうそろそろ終了するだろう、決め切るための残り一瞬。

 だが村正は負ける気がしなかった、言葉が喋れないという事はスキルの発動すらもできないという事。

 先ほどの戦いにおいて互角に等しかったのならば、これより先はスキルの発動が行えなえないヴィンセントが敗北するに決まっている。

 もはや彼に勝ち目はない、だからと言って諦めようともしていないのが最後の抵抗か。

 けれども斬鉄すらも容易い刃が彼を象徴する黒鉄の鎧へ突き刺さった、首をそのまま力任せに切り裂き別れさせる。

 出ているダメージは低い、だが頭部が分離したことで発生した固定ダメージおよびなくなったことにより発生する毎秒間の割合ダメージが一瞬で彼を蝕んだ。

 もはや、誰が勝利したかなど語る必要もないだろう。

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