Deviance World Online ストーリー7『戦いの極意』
Q.戦いにおいて最も重要なことは?
『そうさねぇ、重要とすることならば幾らでもある。精神面の話をすりゃ相手の目を見る、気迫で負けない怯えず震えず鏡面止水を心掛けいつでも何処でも心だけは万全に保つ。なんてもんが当たり前に出来なくちゃならない、けどそうじゃ無いだろう? 私に尋ねてるのは精神面の話じゃなく戦いにおいてどのように動くか。そんな実践的な話を聞きたいはずだ、となれば答えに貧するねぇ』
さながら柳生の部屋というテレビ番組が出来上がりそうな状況で、綺麗に整えられた白髪を触りながら柳生は考え込む。
3000年から続くご長寿番組『貴方のパッション フォーリンラブ』という所で組まれた特集で有り、人間国宝『剣聖』柳生に聞いてみた戦いの秘訣という回だ。
画面上で悩みながらも愉快そうに笑い、どんな答えを用意しようかと思案する姿はただの近所のお婆さんには見えずましてや『剣聖』であるとは到底思えない。
『そうさね、ボールはあるかい? ソレを私に投げてみるといいさ。こういうのは理屈じゃなく感覚、実際に体験することでしかわからない話しだしねぇ』
というわけでアイドルの一人がボールを手に取り柳生に投げた、特段早い球ではなく山なりに投げられたソレはとても遅い。
ゆっくりと空中を舞い、なんの邪魔をも受けることなく柳生の胸にボスンと当たる。
ソレで何が分かるのか、そう期待しながら見るカメラマンは次の瞬間驚愕に顔を歪めた。
そのカメラマンだけが、その事実を知り得たのだ。
『後より出て先に至る、戦いの究極とはソレ即ち久遠の先手を取り続けること。ほら、最近話題のカードゲームとやらもあるらしいじゃ無いか。噂によれば無限に自分のターンを取れるんだって? 戦いも同じさ、常に自分のターンを取って自分の有利を押し付ける。ソレこそが私の考える戦いの極意、って訳さねぇ。ほら、アンタの首飾り切れちまってるよ』
人間の脳は200fps程度しか認識していないと言われている、これ以上の速度は認識するのが非常に難しい。
強化人間ならばこれ以上も目指せるだろうが、そもそもその情報を処理する能力は人間に不要だ。
柳生も同じく、その速度を処理出来ていない。
だからこそ、この中で唯一強化人間であったカメラマンだけは認識できた。
人間が認識できないわずかのその一瞬、ボールに意識が向けられていたその刹那。
柳生は手元にあった爪楊枝を飛ばし、アイドルがつけていたネックレスを切断せしめたのだ。
驚きに青ざめ、思わず体が後ろに傾くカメラマンを見てニッコリと笑う。
先に投げられていたのはボールだ、先に動いたのはアイドルだ。
そうだというのに辿り着いたのは柳生の一手、後より出て先に至る。
なるほどと、カメラマンは驚愕と共に感嘆した。
Q.戦いの極意とは何か?
『また、珍しい質問だ。鍛冶師である貴様が戦いにおける理念、精神性を問うか。ただ一振りの頂へ立たんとするのならば、その思考自体余分ではないかね?』
傭兵はどこか面白がるようにそう問いかけ、いつもと同じくただ無機質な瞳で周囲をまさぐる様に動かす。
椅子をインベントリから取り出せばその体を投げ出すように座り込み、魔力を放出し始めた。
その傭兵がいつも行っているトレーニングだ、体内に存在する魔力回廊を拡張し最悪の事態であっても万全の出力を発揮できるようにするための事前準備。
異なる境界から供給され続けるその属性は特異の限りであり、放置すればその体を恒久的に蝕み続ける。
未だ完全に抜けきらぬその属性を適切に処理するためには、この些末なトレーニングを行わなければならない。
『余計な質問だったか、戦いの極意とは何か。まぁ簡単な話だ、勝つことを考え続ける。想像するのは常に勝利し続ける姿だ、不可解な能力を使われようとも不条理な状況に置かれようとも致命的な一手を示せ。自信ほど恐ろしいモノはないぞ? 黒狼を見ていれば分かるだろう、あの男は常に自分の勝利へ酔いしれている。どれ程の苦境、難行に置かれても自らの敗北を信じず勝利を必然のモノとして扱っているのだから。私にとって嗚呼云う手合いは恐ろしい、手札の底が見切れんのだからな』
ひょっこり顔を出した骨を手で追い払い、傭兵は独自の戦闘哲学を語った。
難しい話などではない、究極それは精神論でありだからこそ非常に有益である。
鍛冶師は眉間に深く皺を刻み、到底実践できそうにない戦闘哲学を咀嚼しようとして。
けれども自分にその考え方は似合わない、常に勝利を翳すなど自分には到底考えが及ばないとあきらめる。
『難しいという顔をしているな、まぁ正解だ。それができるのならば誰かに相談することはない、このアドバイスは貴様にとって不適切だろう。心の中に留めておくことを推奨はするが、実際に実践する必要はないとも。より貴様に合うアドバイスはそうだな、自らの成果物を信じろという方がいいかもしれん』
北方には、極まった剣技をふるう怪物がいる。
『剣至』と、呼ばれる怪物は余りの修練と心象たる境界の最果てで自らの剣に至った狂気の具現。
生れ落ち一生を掛けて遍く才覚と体躯をささげ至った存在、技量において最先端を走ると確信している北方最強ですらも彼らと比類されれば自らを下げる。
そんな化け物を示し、傭兵は村正を同類であると示した。
『貴様の在り方は彼らに近しい、ただし剣技ではなく剣造りにおいてだが。故に自らの成果物を信じるがいい、貴様が真に頂へ迫らんとし己の存在意義たる真理の一端でもを垣間見たのならば。下手に思考するよりも、やはり思うが儘に体を動かす方がよほどその性と合っているだろう』
ただし、言葉を続けず傭兵はその頭蓋の中で考え続ける。
自らの真理、心象世界という最果てで己が止まるのならばこれこそが極意足りえるかもしれない。
けれどもされどもだ、傭兵が盲目的な目で見る彼の存在はそこで止まるわけがないとも感じる。
たとえ自らが規定した結論へ到達したとしても、この存在は果たして満足するのだろうか。
『ただそれでも不足足りえると思うのならば、その時は四天王が一人。【桜花】へと尋ねるがいい、私が知りうる限り【桜花】たる奴ほど理性的で話が通じる奴は居ないからな』
そして同じく、それは四天王と呼ばれる中でも最も弱いとされる理由に繋がるが。
虚空に消え去る言葉を放ち全身の魔力の鼓動を止めた、十分に解されたと解釈するべき状況でありこれ以上のトレーニングは返って体への負担となる。
椅子から立ち上がり近くの槍にかぶせていた外套を手に取れば、傭兵は軽く足に力を籠め空を跳んでいるワルプルギスへと戻った。
こののちに、決戦が始まる。
* * *
答えなどない、戦いにおける極意など千差万別千色千有だ。
故にその問いかけこそ無意味であり答えが得られるわけではなく、けれどもキッカケにはなる。
プレイヤー『黒鉄』ヴィンセントを相手にしたとき、村正には彼彼女の極意を思い返す猶予など与えられずけれども重ねた訓練により条件反射として動く体は最適解を示す。
燃ゆる体は幾重の刀、炉心の火種はただ一振りの頂に至るために。
後より出でて、先へ至る。
己が、勝利を確信し。
「うむ、余の出番であるなッ!!」
黄金の美声が世界を包む、ただ一人の焔を加速させながら。




