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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『終わらぬ夜の暗月』

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Deviance World Online エピソード7 『魅了』

 モルガンの状態は、非常に不安定だ。

 簡単に言えば10徹した後の限界OL並みに不安定と言える、火が付いた導火線そのものと等しい。

 別に自殺とかはしないだろうが兎に角不安定であり、基本的にはネロを当てがってその愛くるしさに癒されるという手段を取らざる得ないほどには割かし限界である。


「うむ!! もっと撫でるのである!!」

「可愛らしいものは素晴らしい、そうに違いありませんよね? 黒狼」

「死にかけて割かし限界なんだよ、ロッソ。ポーションくれないか? 分身を作るわけにもいかないしさ」

「仕方ないわね、優先的に素材を回してくれたお礼よ」


 グビグビとポーションを飲みながら、骨折などもろもろを強制的に直す。

 正直、モルガンの不安定な精神状態はどう仕様もないことは確定している。

 ワルプルギスの稼働を始め、式装の術式構築や村正が作成した刀を利用した『超弩級魔導戦艦ワルプルギス』の整備及び維持。

 内部に巡る魔力経路の潤滑化に加え、準古代兵器『音響装置』の精査や起動する場合に行う様々な駆動機能の整備など。

 より直接的な武装をロッソに任せた関係で、その皺寄せのほとんどがモルガンに向かっているうえに。


「まさか、アルテミスに魅了効果があったとは。マジで色々予想外が重なってるんだよなぁ、ロッソ」

「否定しないわ、神の権能を舐めてたわね。VRCの精神保護機能を継続させてる私でも三日は危うかったのだから、その全てを放棄しているうえに月と親和性の高いモルガンでは先ず先ず太刀打ちできないのはどうしようもない話かしら」

「儂やネロは心象があるがゆえに左程大きな影響はなかった、黒狼も同じく状態異常に対しほぼ完全な体制を有しているがゆえに問題はなかったろう。だがモルガンだけは、完全に予想外の上に例外だった」


 女神アルテミス、黒狼達が対峙しまたゲーム開始より初めて死んだ女神。

 彼女の権能は闇でありまた月そのもの、故にその姿形には例え偶像であったとしても薄弱ながら魅了効果がある。

 そのオリジナル、本体というべき姿を見たのだ。

 SAN値チェックが入るのが当然というべきだろう、特に深き深淵を覗くが如き偉業を行う魔女であればソレに耐性があるはずはない。

 加え精神そのものが崩壊しかねない異端の魔術、自己分裂に類する術式を用いた偵察活動や数多のタスクを並列的にこなしていれば。

 ただでさえ不安定な精神が、均衡を取り戻すことはない。


「まぁゲーム内の一時的な状態異常に過ぎないわ、長期的に発症してるしとても大丈夫だなんて言えた物じゃないけど。キュアとかの状態異常回復の魔術を使えば一時的には消えるしね、そこまで心配する必要はない。って、前にも話したわよね?」

「悪いが、とてもそうには見えないぞ。本当にあのまま放置しても大丈夫なのか? 信用したいが信用できる要素が無い、特にコレを目の当たりにすればさ」

「本人の脳内は至って冷静よ、ただ感情が昂れば理性で肉体が動かせなくなるのと。あとは隠したい本心が口から溢れ出すことがある程度、典型的な魅了(チャーム)の状態異常よ本当に。全く、心配性が多くて困っちゃうわ。実際、貴方よりよっぽど理性的ね」

「全く酷くて困る、どこが狂気的だって?」


 狂人ではあっても、黒狼は理性的で理知的だ。

 ただ過程を省き最小労力の最小結果を求める悪癖があるだけ、そして己の在り方として他者の鏡になる部分が存在している。

 モルガンは違う、彼女は黒狼と異なりその在り方そのものが悪を追い求め。

 あるいは正しさによる鉄槌を望む、弱く儚いために。


「貴方は情動に突き動かされるタイプじゃ無い、内側に秘める狂気性も含めて。ノリと勢いが全て、勝利条件を定め敗北条件を標さなければそもそも真っ直ぐ歩むことすら侭ならない風来坊。けど、モルガンは違う。アレは平然と人を殺しながらその理由に酷く狼狽え後悔するタイプよ、一時の情動に突き動かされ後から理性が頭を冷やし狂気が自分の心を燃やす」

「あの、本人の前で告げるのはやめませんか? 貴方風情に如何に評価されようと何も思う事はありませんが貴方以外の意見は重視するもの。私の尊厳に関わります、理解できますか?」

「フン、何を言ってるのかしら。もとよりそれ程の精神汚染が入ってる時点で尊厳も何も無いわよ、大人しくネロでも撫でてなさい」

「確かに、ブフォ」


 次の瞬間、黒狼の首を擦るようにして氷の針が飛んだ。

 次はないと言いたげに睨んでくるモルガン、黒狼は逃げるように部屋を出る。

 館内に響き渡る駆動音はエンジンが最高出力に達していることを示している証であり、それはまた村正の炉が動いている証明でもあった。

 先程の部屋から村正も現れ、そして黒狼に向かって刀を突き刺す。


「ゲフォッ!?」

「慌てんじゃねぇ、回復用の刃だ。肋骨の五本はやられてんだろう、暫くは突き刺していると良い」

「声をかけてくれ、マジでビビったぁ……」

「大人しく刺されないんだ、刺されるだけ良いと思えや。それにあと1時間そこいらで強襲を仕掛けるってんだ、万全じゃねぇ姿で挑むのか? 海賊。それも儂ら以外でレイドボス並みを討伐した規格外の一人によ、手前は」


 ワイルドハント、ドレイク。

 彼女は単一クランによるレイドボス級ボス討伐を成し遂げた数少ない例外、規格外のトッププレイヤー。

 しかも陸生のレイドボスではなく水棲の、単純な難易度なら陸上の何倍とも言えるボスを相手に勝利を収めたのだ。

 村正からしてみれば、アルトリウス率いるキャメロットよりもドレイク率いる『黄金鹿の船団』の方が数段恐ろしい。

 特に表立って戦わず、キャメロットの影に隠れているということも益々その恐ろしさを加速させていた。


「あの船長は切れ者だ、キャメロットに対して思慮してることも人一倍だろうよ。手前の思惑を飛び越えて、何かを考えてるやも」

「ない、できない。出来るんだったらとっくにやってる、出来ないからこうして二番手に甘んじてるんだろ。実際、利益を提示し裏切る理由を与えなきゃ裏切れないほどにあの船長は臆病で、裏切る理由と切っ掛けさえあれば裏切るほどにあの女は大胆だ。ま、あの強さは認めざるを得ない。実際に正面から戦うのは避けたい気持ちすらある、だがその程度の戦いも制せないのならキャメロットに挑む資格すら得られないだろう」

「考えなしの無謀、ってわけではねぇんだな。それを聞けりゃ儂は十分、手前が本気で挑むなら儂は儂の仕事を達成するだけだ」


 信用はしていない、村正は黒狼を信じておらず。

 黒狼は誰かに何かを求めていない、あるいは黒狼が求める水準にまで誰も達していない。

 だがそれでも感じ入るモノがあるわけで、黒狼の言葉からは確かな勝算を見出せる。

 ならばだ、このひと時ばかりは信を置こう。


「十全に儂を使え、生半可なことはするな。手前が本気を出せと告げたんだ、余分を切り捨て無用を捨てろとな」

「覚悟の有無なんざ今更聞くかよ、既に決まってるだろ? それに」


 次の瞬間、船体が大きく揺れた。

 砲撃が確かに命中したらしい、いったい誰のかなどと尋ねる必要性はない。

 そもそも『ワルプルギス』にダメージを入れられる射程と火力を持った攻撃を放てる人間は数少なく、海上となればおよそ一人しかありえるわけがないのだ。

 ワイルドハントが、口角を上げている。


「総員、戦闘配置に着けッ!! 狙いは残る一つのフラッグの奪取。出し惜しみは不要、確実に殺すぜ!!」

「応よ」


 拡声の魔術を展開し、声を張り上げる黒狼の横で村正は刀を抜く。

 次の瞬間、船全体に巡っている魔力が一瞬にして塗りつぶされた。

 モルガンも本気で挑むらしい、ステータスが向上しているのはネロの影響か。

 爆音が響く、これはロッソが作り上げた自動迎撃システムだろう。

 つまりは本気、確実に殺すという殺意の表れ。

 ニヤリと笑えば黒狼は廊下を走る、背に刺さった刃を抜かれながら。


「さぁ、決戦だ」

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