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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『終わらぬ夜の暗月』

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Deviance World Online 間話『メリー』

 これはゲームが始まるより前、黒前真狼が気まぐれで1000日程度振りに外へと出た時の話である。

 都市全体に張り巡らされた空調は温度湿度共に安定しており、それがきっかけで体調を崩すこともないだろう。

 漠然とした当然を再確認しつつ、黒前はふと空を見上げた。


 ガラスでできた天蓋には、美しい空が広がっている。


 最もそれは作り物であり、本当の空ではない。

 分かっているが美しいと感じる心は真実であり、だからこそ黒前はため息を吐く。

 その美しさを見れば見るほどに、興味がなくなっていく体。


「かのシャーロック・ホームズはこう記したと言う、『人間の脳はもともと小さな空っぽの屋根裏部屋のようなものであり、人はそれぞれ その屋根裏部屋に自分で選んだ家具を揃えておかなければならない。しかし愚かな連中は、たまたま目に入った ありとあらゆるものを見さかいなく そこに詰めこんでしまうから、その結果、役に立つ知識が押しのけられたり、または せいぜい他のがらくたの中にまぎれこんで、いざという時に取り出すのが困難になる。一方、熟練した職人は、自分の脳の屋根裏部屋に取り入れるものについては非常に慎重だ。彼らは自分の仕事に役立つ道具だけを選ぶが、それでも、その道具はさまざまな種類があり、しかも常に完璧に整理整頓されている。しかし、この小さな屋根裏部屋の壁が伸縮自在で、どこまでも際限なく膨らませると思っているなら それは違う。そんな考えに頼っていると、やがてこの小さな屋根裏部屋が満杯になって、ひとつ新しい知識をとりいれるたびに、前に覚えた何かがひとつ忘れられることになる。それゆえに なによりも重要なのは 有用なものを押し出してしまうような、無駄な情報は持たないことだ』と。納得だな、余計な思考ほど無駄なものはない」


 だが、この言葉がスラスラと出てくる時点で余計な思考が挟まっていると言うのが事実だ。

 己の不完全性に怒りを覚えながらも、その怒りはすぐに収まった。


 黒前は何処までもロマンチストな合理主義者だ、余計な事は可能な限りしたくない。


 部屋の中に居れば大抵が出来る時代だ、こうやって外に出る行動すら無駄だろう。

 また電脳の海に潜り魂を震わせるような書籍に目を通したい、己の心が擦り切れるその時まで。

 そう思いながら道を進み、半ば現実からトリップしている思考を正す。

 そうだ、態々外に出たのには目的があった。


「政府支給金増額願い、及び特別奨励電脳世界性症候群調査の実施。全く面倒な話だ、嗚呼全く」


 面白みなど生きてて感じるわけがない、世界はノベル(空想)ではなくリアル(現実)だ。

 ノベルにリアリティ(現実性)を求めても、リアルにノベリティ(空想性)は求めない。

 昨今の進歩や発展により、無意識下で放たれるカスルブレホード脳波が周囲に影響を及ぼし所謂第六感を実現しているなんて話はあるが所詮オカルトだ。

 薔薇十字や黄金の夜明けが求めたファンタジーなど、あるわけが無い。


「国、いやマザーシステムか。非合理な限りだ、()()()()退()()()()()()に何を費やしているのやら」


 1000年前の言葉を借りるのならば、この世界はメリーバットエンドなデストピアだ。

 理由なく生まれて死ねる、最高に詰まらない世界であり。

 ああ、やはり黒前にとって理想とでも言うべき世界でもある。


 何もせずに生まれて死ねる、ある種では生物としてこれ以上ない幸せだろう。

 だが同時にその幸せを感受して良いのかと言う戸惑いもある、だってそうだろう? 人間とは他者を害していかねばならない物だ。

 神を信じるのならば、人とはそう言う形にデザインされている。


「そう考えりゃ幸せか、どうなんだろうねー」


 資本主義社会は古い概念となり今は社会主義で運営されている世界、生み出される全てのアイテムは高度AIにやって生産され頂きに立った人間の才能を無作為にインプットし生み出してゆく。

 幾つかの宇宙コロニーでは一種の社会実験とされるモノの延長線で企業や資本主義システムを継続しているらしいが、その結果に電脳薬物が流行しているらしい。

 マザーシステムはその不合理を自ら生み出さないから、きっと何処かのバカがやらかしたんだろう。

 この世界はバカばかりで困る、その思考を行う自分の愚かさに反吐が出つつ公的機関に着いた。


「お? 黒じゃん!! こっちこっち!!」

「にゃー!! おっひさー、ここで黒前きゅんと出会えるのも運命……!? はっ、閃いた!!」

「よ、久々。何してんの、暇なんか?」

「まさか、お前もアレだろ?」


 こちらの名前はともかく、方や後の『冒険王』。

 もう一方は例のアイツ、思考から追いやるように目線を外し黒前は欠伸をする。

 その頬をツネった冒険王は、黒前の嫌そうな顔を見て笑う。


「久々に出会ったな、お前のところは何年経過した?」

「知らん、読者に没頭すると時間なんて忘れるもんだ」

「大体5年と8ヶ月ってところだよー、黒前きゅんの事はなんでも知ってるのさ!!!!」

「キッショ」


 しかし、そうかと。

 しかしそうかと黒前は合点が入った、それだけ現実世界に戻ってきてないのだ。

 道理で反応が鈍い筈だ、欠伸をして頬をツネられながら納得する。


 読書とは、文字の中に浮かぶ姿形顔のない誰かを羽織る行為だ。

 誰でもない誰かである事により、この歪な幸福感を忘れて誰でもない誰かに成れる。

 幸福感を忘れ罪悪と満足を与える、魂を震わす誰かに成れるのだ。


 故に黒前は物語を貪り食らう存在で良い、その中身がなんであれさして問題ではない。

 己の魂を壊すほどに面白い物語が欲しい、己を殺すような絶世が欲しくて。

 そんな絶望はないと知りながら、この安寧たる幸福を噛み締める。


 長々と書いてきたが、けれども黒前の本質はやはり。

 ただの人間、でしかないのはこの世界の面白いところだろう。

 少し本が好きなだけの少年、現実ではなく架空に想いを馳せる夢見の少年。

 けれども現実しか目には映らず、幻想を肯定する事はなく実在こそが全てとしか語れない可哀想な一般人。

 何処か壊れているよう(狂人に思える)で壊れておらず、ネジ(理性)が無くなっているようで確かに存在し。

 理解が出来ないほどに異質な筈なのに、その言葉には何処か納得と理解を示せてしまう。

 その行動目的が分かれば、賛同すらしてしまうだろう。


「そういえばこの前、ベータテストに参加したんだけどクッソ面白くてさ。お前もやらないか? 黒前、発売は来年あたりだけど」

「んー、いいぜ。いつぐらい? タイミング次第じゃ、金がないかも」

「来年の11月とかそこらへん、ほぼ丸一年後だな」

「おけ、金を貯めて待っておくよ」


 空を見よ、天仰げ。

 今宵星揃う時、遥かな星雲の果てから天命を齎されるだろう。

 黒前の人生を変える事は叶わないまでも、その中で確かに大きな傷跡を残す。

 そんな絶望をきっと、黒狼は体験するのだ。


「名前は確か、そうそう。Deviance World Onlineってやつで━━━━━━━━━━」


 愚かな狼よ、ゆっくりと眠りなさい。

 次なる世界は貴方のことを、歓迎します。

メリークリスマース!!

今年のサンタからのプレゼントは保存がうまくできず600文字ぐらい消えた事です。

クソが!!!!


今年も彼女は出来なかったよ……orz

さて、来年には2章中編を終わらせられると良いな

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