Deviance World Online ストーリー6『雑魚』
超速再生の理屈はこうだ、そもそも肉体を切り離すことが出来るというだけだろう。
装備がはがれていないというところからほぼ間違いなくそういう事だろう、或いは武装が体の一部なのかもしれないが。
いずれにせよ、ダメージは蓄積されている。
「おおよそは理解しました、つまりは切り離した部品を隔離しろと?」
「いや、むしろ引っ付けてやれ。多分だが切り離した後に接着させれば、一定の割合ダメが入ってる気がする」
「儂が切りつけたほうが余程効率がいいのがもどかしいが、まぁいいだろう」
ギミックボスというだけで殺意が湧いてくるとは言えだ、有効な攻撃方法はあるだけまし。
モルガンの魔術で甲板に縫い付けられているワルキューレを見ながら指示を出しつつ、黒狼はぼろぼろの槍を取り出し再び投擲。
もちろん『カズィクル』のアーツも発動させ、確かに内側から破壊したが。
数秒後には再生し、融合している。
「種族は看破できたか?」
「いえ、というより初期種族に類する存在ではないでしょう」
「確かに違いねぇ、初期種族で同じ特徴や特性を持った奴は居なかった」
「となれば例外、選ぶことのできない種族か」
基本的にこのゲームで選択できる種族に制限はなく、だからこそ合計1000を超える基本スキルから10個を選択することができる。
そしてその種族から発展する種族もあり、少なくとも人型であれば殆どの種族になれるのがこのゲームだ。
だからこそ、人型であるのに進化の系譜に存在しない種族は珍しい。
とは言え一切の情報がない種族というのは先ずない、過去に存在していたのならば何かしらの痕跡を残すのが生物というもの。
もしもそういう痕跡すらないのであれば分類として分けられるカテゴリは、ただ一つ。
「天使、種族名天使。その中でも機械に傾倒した種族であると考えるのがよろしいかと、あるいはまったく別か」
「なるほど、独特な磁場で再度引っ付いてやがるのか。HPが徐々にではあるが再生しているところを見るに、個々の部品の耐久力がHPになっているんじゃなく残量動力がHPとみるが」
「納得は出来るな、となればますますHPの概念が訳分らんことになるが」
だが、ここまでは予想通りだ。
予想通りというか、予想外ではない。
大体変なギミックと理屈でできているんだろという予想でもない予想からは大きく外れていないのなら特に問題なし、改めて黒狼は武器を構える。
とある緑の剣に錬金金属をまとわせた簡素な武器、水晶剣の利便性には劣るがそれでも気に入っている武器だ。
ソレを正眼に構え、一気に地面を蹴った。
「『エンチャント:腕』」
一気に筋力が上昇し、ダメージが跳ね上がる。
剣に半透明のエフェクトがかかり、武装が叩きつけられた。
火花が軽く飛び散り、ワルキューレはうめき声とともにより一層抵抗を激しくする。
だが、モルガンの拘束は強固でありそう簡単に解けるわけがない。
一気に決めきる、宣言するように剣を構えれば黒狼と村正が攻撃を無数に叩き込み始めた。
「『スラッシュ』『スラッシュ』『スラッシュ』、ついでに『インパクトスラッシュ』『大切断』!!」
「『抜刀』『兵法:五輪の書』『縮地』『牙突』『三段突き』『一刀両断』『千切り』」
攻撃が連続する、黒狼風に言えばスキルのチェインでコンボが連続している。
一撃一撃が無視できない火力であるのは、いや別段無視できないほどの高火力ではないが。
だが相応に火力が乗った攻撃が連続し黒狼はファンタジーRPGの主人公さながら、村正は刀剣を用いる格ゲーキャラのように攻撃を連続させている。
一昔前の、絶対的強者が存在する世界ではなくなった。
だからこそ弱い存在であるプレイヤーは戦いに研鑽を積み上げ、頂へ高みへ上らんとしている。
黒狼たちも同じく、戦いのランクが無意識的にでも上がっていた。
今までのプレイヤーの戦いは強いスキルを何度も当てる、そう単調なものでしかない。
幾つものスキルや魔術をチェインさせ戦闘を押し付ける戦い方などしていなかった、あの戦争が終わるまでは。
誰もかれもが目を奪われた、或いは心臓を切り裂かれたとするべきか。
北方の王に憧憬した、黄金の王に恐怖した。
白の盟主に、あるいは憧れた。
「弱い、とは言わねぇが」
「ソレだけならまぁ雑魚だな、所詮はボスレベルだ」
人間に与えられる時間は有限であり、また同じく等価値である。
バケモノにも魔物にも人間モドキにも、同じ価値の時間が流れ過ぎ去り。
けれどもプレイヤーは、何度も死んで経験を積めるという圧倒的利点によって得られる対価は絶対的となった。
黒狼が強くなったかと言えば、Yes。
このボスが比較的弱いかと言えば、Yes。
あるいは連携が相当に上達しているかと言えば、Yes。
「悪いな、お前らNPCを俺たちは置いていけるんだよ」
「悪いとちっとも思っていないくせに、よくもイケイケシャァシャァとそんな戯言を。ソレに倒した気になっているところ申し訳ありませんが、再起動しますよ」
「警戒しろ、馬鹿野郎め」
村正の突っ込み、耳が痛いと笑いつつも黒狼はHPがゼロになったのに消えない死体を見ながら眉を顰める。
理を超えている、と言う心算は無い。
星の下で生きている人間だ、決して理を超えているとか理を理解しているとかを主張することはできないだろう。
だが倒す方法の見当が付かなくなったのは事実、ハァと息を吐いて動きを見る。
その人工的な美しさを伴う、戦乙女のワルキューレを。
「〈機能再生、攻撃目標を選定〉」
見惚れている暇はない、音声を認識したと同時に攻撃態勢に移る。
最も黒狼の反射速度はさほど早くない、真っ先に攻撃態勢に移ったのは村正だった。
刃を翻し、首を斬る。
柳生譲りの剣術は確かな速度によって振るわれ、その機械質な首を切り裂いた。
本来ならば、或いは人間ならば死んでいるであろう一撃。
だが今までのことを踏まえれば、そんなもので死ぬわけがないというのは明々白々。
「うん、無理。撤退だ、村正」
「は? 手前、なにを……」
だがその一撃の直後に黒狼が敗北を宣言する、何故? そう問いかけようとする村正の心臓に一本の槍が突き刺さった。
銀色に輝く一本の槍、金属知識や錬金術スキルを持っていればその武器の素材なぞ簡単に理解できるだろう。
答えはミスリル、ミスリル銀。
「ぐぅ、がぁ……」
「モルガン、アイツをどっかに転移魔術で吹き飛ばせ。ワルプルギスは全力で後進、おそらくは一定範囲を守る系ボスだろうから逃げればどうにかなるはずだ」
「了解しました」
「うむ!! 全力後退であるぞ!!!」
一気に加速し、黒狼たちに莫大な重力がかかる。
モルガンは自分を魔力で船につなぎ止め、ネロは近くの手すりにつかまり。
村正はワルキューレとともに空間転移させられ、黒狼は重力によって海に落ちる。
イベント二日目、黒狼たちのクラン『混沌たる白亜』の所詮は敗北で終わった。




