Deviance World Online エピソード6 『式装捌式【パイルバンカー】』
閃光、次に爆炎。
過剰なまでの衝撃に、続く振動はあり得ないほどの重さを伴う。
解説はない、何故なら先ほどその口を消し飛ばしたのだから。
だからアルトリウスは、完全な意識外から放たれた攻撃に対してこう告げる。
「まともに当たってたら即死だったよ、怖い攻撃をする」
完全な意識外からの攻撃、少なくともそうだった筈だ。
それなのにアルトリウスはその攻撃を、聖剣で完全に防いでいた。
完璧に、もしも僅か1センチでもズレていれば直撃していた攻撃を確かに防いでいた。
反対に黒狼の腕、そこに装備されていたパイルバンカー。
杭となっている剣が耐久値の消失により破壊され、黒狼の腕もボロボロのままポリゴン片に変化している。
最後の負け惜しみ、負け惜しみの必殺攻撃。
防御も回避もさせないと息巻いて放ったその一撃はただ無意味な攻撃にしかならなかった。
それが答えだ、黒狼とアルトリウスの。
不死王と、騎士王の。
悪と正義の。
埋め難い、耐え難い絶対的な差。
これが黒狼が挑むべき、強敵である。
* * *
空腹感と共に、地面に横になりながら。
黒狼は只々ソラを見ていた、何処までも青く深い空を。
意味のない行動だ、けれども無意義でもない。
少なくとも、そうするに足り得る必要はあった。
「負けか」
漏れ出た呟きが答えだ、敗北に何も感じていないという訳ではない。
ただその事実に驚くほど、感想が湧き出てこないだけだ。
負けるつもりで挑んでいない、それに最後の一撃は確実に捉えたと思っていた。
だからこそ聖剣によって防がれたという事実が、これ以上なく黒狼の自尊心を掻き乱す。
理由がなかった筈だ、負ける理由なんぞあるわけが無いだろう。
なのに何故、何故負けたのか? ならば答えは一つしかない。
結局は、天運が味方しなかっただけのこと。
「流石はレオトールを倒しただけのことはあるな、褒めてやるよ」
「……」
「なんだよ、文句あるのか?」
「まさか」
黒狼の横には一人、女が立っていた。
ただ静かに遠くを見据えながら、黒狼の横に座る。
二人の間に、しばらく言葉はなかった。
「ただ負けたのかと、あの小僧に」
「負けてやった、っていうのが正解かもな」
「かもしれん、ただ死んで漸く理解できる存在なったと思ってな。アイツもまた、人間だったのかと」
「そんなに疑って何になる? 北方の傭兵、事実は覆しようなないモノだ。お前たちは負けて滅び、レオトールは死んだ」
北方の傭兵、或いはその名をヘファイスティオンとする女は感傷に浸っていた。
未だに認め難いが、けれども『征服王』アレキサンダーは死んだ。
『白の盟主』たるレオトール・リーコスも、全てただの一夜に滅び。
慈悲と情けで自分だけが生き残った、生き残ってしまったということに感傷を抱いていた。
どうしようもない、惨めさと共に。
「無論、分かっているさ。ただあの戦いが終わって私は初めて影から人になった、人になったんだ、無意味とわかっていても感傷の一つぐらいは懐く」
「感傷なんて無駄だろ、死ぬことを誇りとする奴らに感傷を向けたところで」
「うるさいっ、それに招かれざる客人が来たぞ。どうやら、貴様への客人らしい」
黒狼が起き上がり、次の瞬間に突き付けられた剣を見る。
すでに彼女は後ろに下がり、観戦を決め込むらしい。
ハァ、静かに息を吐けば黒狼はゆっくりと相手を見る。
そこに立っている、ましゅまろを。
「戦いに来たんだろ?」
「貴方を、超えます」
「いいぜ、ケド……。その前に、だ。」
黒狼もまた、ゆっくりと剣を引き抜いた。
運命というものがあるのならば、コレは正しく運命だろう。
必然に導かれ、偶然が介在しない。
絶対的で、尊ぶべきではない意思と意志が介在する運命だ。
「お前は、どの立場でそこに立っている? キャメロットとしてか。あるいは水晶の力を得たものとしてか、闘技大会で敗れたものとしてか。悪なる王を、不死なる王を討つ者としてか」
「貴方の敵として」
「……そうか、残念だよ」
目を伏せて、黒狼は静かに息を漏らした。
求めていた答えと違う、というのは言い訳だろうか。
けれどもその言い分は分かる、彼女の心情を慮ることができないわけではない。
だからこそだ、だからこそ黒狼には戦う理由が無かった。
「『超越』、私は」
その、言葉を聞くまでは。
彼女の激情を、彼女の想いを。
それ以上に、その力を見た瞬間に。
黒狼は思考より先に、笑みを浮かべていた。
「全てを、超越する」
輝き、白銀の煌めき。
最奥に佇む彼女は悠々と、無数の煌めきを纏いながら髪が荒ぶりながら逆立つ。
握る剣は威圧が増し、彼女の力はもはや黒狼と比較しても遜色ないものになっているだろう。
もはや、人間として語るのが不可能なほどに。
「来いよ、ましゅまろ」
「『極剣一閃』」
だが、その攻撃を知覚した瞬間にその笑みは消え去った。
余裕はなく余暇はなく、ただの黒狼として笑みを消し。
ただ静かにゾッとする声で、黒狼は一言こう告げる。
「なんで、お前がソレを使えるんだよ。ましゅまろ、なんでお前が」
ただ、静かに。
けれども、叫び出したいのを押し殺すように。
「なんで、お前がレオトールになってるんだよ?」
生憎と、北極星は輝いている。
遥か頭上、ましゅまろの背後で煌々と煌めいて。
絢爛の星の元で、薄く極光が煌めいていた。
「命を賭けます、貴方を超えるために」
「……ああ、クッソ。星が綺麗だな、全く」
結局は、戦うことでしか語り合えない。
戦いの中でしか互いに答えを出せない、この物語は結局はそういうものであるのだ。




