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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『前夜祭』

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Deviance World Online エピソード6 『不死王の戦い』

 崩れ去る土の魔術、その陰で黒狼は一息付いていた。

 ぶっちゃけ、予定通りと言えば予定通り。

 序盤の流れとしては割と最悪だが、死んでいないだけ良い流れでは有る。

 少なくとも黒狼は、そう割り切っていた。


「同族嫌悪って奴だな、そんなロールプレイをしてるから嫌いなんだ」


 心底から言葉を吐き出す、怒りが溢れる様に湧き出してくる。

 結局『騎士王』は正義の皮を被った遊び人(プレイヤー)、その事実を差し置いて救世を唄うかのようなことをする。

 そんな()()()()()、とてもじゃないが認めたくない。


 何より月光が気に食わない、そんな光が飛び出るかっこいい剣を独占するなんて許し難い横暴だ。


 嫉妬と怒りを胸に抱きながら、嘲りと嘲笑を顔に浮かべる。

 黒狼とは、不死王とは我欲の証明だ。

 己が在り方を規定し、他者による自己の肯定を我慢とする。

 その罪深い在り方は、単に悪である。

 悪でなければならない、必ずだ。


「そう()()()()()()()()()()()()? ()()()


 初めて、アルトリウスは感情を見せる。

 困惑、或いは確信か。


 共存はできるだろう、目的が合致さえすれば共に生きることを許容できる。

 けれども黒狼の発言から滲み出るその悪意の、或いは絶対的個人としてはの横暴さは許し難い。

 少なくとも、()()()()()()としては()()という個人を許容するのは。


「ああ、だからなんだい?」

「お前が考えていること、当ててやろうか? 早く死なないかな? ってところだろう」

「『エクスカリバー』、どうも面白い主張だね」


 空中に躍り出た黒狼は、放たれたエクスカリバーを受け止めた。

 絶対性すら孕む超越とでも言うべき属性の塊、そのレーザービームを。

 驚愕に少し目を開くアルトリウスに対し、黒狼はニヤリと笑う。


「縦5、横10ってところか? そのレーザー。ソレさえわかれば防ぐのは難しくない、お前の攻撃に合わせて水晶剣を構えれば良いだけだ」

「少し違うね、縦4.7に横8.3ってところだよ。よくあの光に包まれた『エクスカリバー』本来の大きさを見破る事ができたね、素直に感心する」

「ご友人のおかげだよ、俺のご友人のなァ!!」


 攻勢が逆転するかと言えば、否だ。

 黒狼は黒狼なりの合理があり無理がある、アルトリウスの聖剣に対処するのは合理の範疇だが攻略するとなればソレは無理な話。


 範囲が看破できたとて、その結果に得られるのは防御のみ。

 ダメージは無力化できてもその次に迫る衝撃までは緩和できない、今にもひん曲がりそうに痛みを訴える手首がその答えだ。

 激痛を訴えるのはそれだけではない、身体のそこかしこが精神を狂わせるほどに恐怖を訴えている。

 聖剣という、或いは『エクスカリバー』という象徴に歯向かうのがそこまで許されないというのか。


「君は少し五月蝿いね、『エクスカリバー』」

「死体が喋るかよ?」

「『エクスカリバー』喋ってるじゃないか、現に君は」

「辞書で調べてみろよ!! 常識だぜ?」


 冗談に本気で返すアルトリウス、とは言え冗談が理解できていないという訳もないらしい。

 やや苦笑いで返しながら、全方位に向けてエクスカリバーで薙ぎ払う。

 技量も技もない面制圧攻撃、頭を使わない強さの極地みたいな攻撃を目の前にし黒狼は怒りを露わにしながら回避を徹底する。

 怖さはある、だが展開速度はかの極剣よりもはるかに遅く見切れないわけではない。

 万全ならば回避できないこともない、故に徹底するべきはコンディションの維持。


「(面白みのない戦い方だからこそ読みやすさはある、だから徹底的に回避し続けろ……。負けるときは何もできなくなった時、この読み合いを放棄した瞬間だ)」


 アルトリウスの攻撃は至極苛烈ではあるモノの、だが同時に分かり易くもある。

 というよりはフェイントの類がない、近接に持ち込み切り合いをすれば分からないが少なくともエクスカリバーのレーザー攻撃では読み合いが介在するほどの高度な技術を用いてこないのは事実だ。

 ただ圧倒的な面制圧を行ってくるだけ、回避も防御も難しいというだけ。

 全部見切れば、ノーダメージクリアは出来ないことは無いだろう。


 そう考えながら、右腕に『エクスカリバー』が掠める。

 痛みはない、焦げ付くような匂いが漂うだけ。

 そして力が入らない、手に持つ剣を今にも手放しそうだ。


「まぁ、そうだよな」

「何がだい? 『エクスカリバー』」

「こっちの話だ、『復讐法典:悪(アヴェスター)』」


 もうこれ以上のダメージは許されない、それが黒狼の判断であり黒狼が導き出した回答だ。

 だから本来は必殺にも盤面を塗り替える奥の手にもなりえる『復讐法典:悪』を切る、そうしなければ油断と慢心が全身を包み込み土壇場での逆転を願うと察したから。


 アルトリウスは黒狼と同じ存在だ、自分の願ったように自分の望む回答を導き出せる主人公だ。


 黒狼がそうであるように、アルトリウスもそうである。

 無限に広がる可能性という選択肢から無造作に引き抜いた一本の糸が、緋色の糸であるのと同じように。

 あるいはロッソという女が定義したように在り得ないが可能性に存在する回答を、唯の間違いもなく引き抜くことが出来る存在。

 安易な言葉を使うのならば主人公、仰々しく言うのならば英雄。

 そう例える他にない、確固たる存在そのもの。


「腕が……、驚きだ。初めて見るスキルだね、ソレも君の切り札だったんじゃないかな?」

「切り札を温存して負けたら意味がねぇだろ? ソレに、必殺は一つ二つじゃねぇ。お前と違ってな、騎士王アルトリウス」

「なるほど、じゃぁ僕も本気を出すとしよう。『エンチャント:エクスカリバー』」


 怖気が走る? まさか、発言が発されるよりも先に黒狼は動き出していた。

 面白くない戦いをする連中は決まって、面白くない必殺技を持っている。

 ソレはロマンの欠片もない、駆け引きの一切もない全てを蹂躙するかのような圧倒的暴力。

 あるいは、全ての駆け引きを無に帰す絶対的な攻撃か。


「『交差するは思念、願い給うは未練』」

「させるかッ!!」

「『森羅を紐解けば、久遠に眠るは真理』」


 黒狼が一気に迫り、顔面に向けて剣を振るう。

 それを軽く往なしながら、アルトリウスは卓越した剣技で黒狼のソレを捌いた。

 面白くない戦い方をするモノの、アルトリウスは面白い戦いができないわけではない。

 圧倒的技巧、絶対的破壊、超越的堅実。

 その三つを兼ね備え、その上で一切の慢心に油断を行わないからこそ『騎士王』はプレイヤー最強なのだ。


「『紡ぐは光輝、【ムーンライト(月光)】』」

「『ダーク……、いやッ『ライトシールド』ッ!!」


 黒狼の判断は拙速だった、アルトリウスが聖剣を触媒にし放った魔術は月を象った魔力の塊。

 その魔術が形成され、阻止するのが不可能だと判断した瞬間に黒狼はそれでも不得手な『光魔法』の防御魔法『ライトシールド』を展開する。

 直後にその魔術が破壊された、そのまま黒狼も吹き飛ぶ。


「(危ない所だった、というのは早すぎるな)」


 もしも、ダークシールドを用いていれば受けていたダメージはこの数倍では済まないだろう。

 数十倍、或いは数百倍か。

 『ムーンライト(月光)』と呼ばれたその魔術は、簡単に言えば黒狼の『始まりの黒き太陽(ファースト・サン)』のソレと酷似している。

 黒狼の『始まりの黒き太陽(ファースト・サン)』ほどは無法ではないが、デメリットの少なさや詠唱を行う際の節の少なさを考えれば『始まりの黒き太陽(ファースト・サン)』以上の性能を誇っていると言っても過言ではない。


「レオトール・リーコス、史上最強の男が放った技を参考にしてみたんだ。まだまだ発展途上だけど、相応に強いだろう?」

「馬鹿言え、オリジンは俺が作った。俺の技の真似事をして、楽しいかよ」

「生憎と僕は君との戦いに楽しさを見出す気はない、求めているのは万人の安寧と平穏のみだよ」


 黒狼は息を切らし、アルトリウスは静かに剣を構える。

 突破口が一切見えなかった、という訳ではないが……。

 思わず口に浮かべていた笑みが崩れそうだ、何しろ。


「クッソ詰まらない戦いをしやがって」


 何しろ、これほどまでに面白くない戦いなど。

 人生の中で、初めてだったのだから。

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