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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『前夜祭』

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301/360

Deviance World Online エピソード6 『ニューゲーム』

 きっとミリオンタイトルを記録する一つのゲームが生まれた、西暦3022年に。

 名前を『Deviance World Online』、多種族から一つの種族を選びNPCとともに異世界と見紛う世界を歩むファンタジーMMO。

 ソレはきっと、ゲーム業界でも異例の熱狂だっただろう。


「えぇ!? 買取不可って……!! そんなのあんまりじゃないですか!!」

「品質が悪すぎます、そして数も少ない。ほかのFランクでも貴方よりうまいんですよ、態々あなたの薬草を買い取る理由がありません」


 そのゲームの中で、一人冷たくあしらわれる少女がいた。

 プレイヤーネーム『ましゅまろ』、先日起きたゲーム内戦争の話を聞き興味をもって入った新規プレイヤーの一人。

 通称『第三波(サードプレイヤー)』、一度も進化したことなくレベルアップも数回程度の『劣獣人(ロービースト)』だ。


 肩を落とす、プレイ三日目にしてこの惨状。

 辞めようか、続けようか。

 少しだけ悩み、再び息を吐く。

 溜息だらけ、とても憂鬱だ。


「とゆーか、パーティーを組みたい!! レベルアップしたい!! レベル上げないと安全に戦えないよぉー!!」


 ウェデゴミア水流都市、通称チュートリアル都市の中央にある噴水でましゅまろは溜息を吐く。

 レベルを上げるためのレベルが足りない、しかもこのゲームでは人間以外の種族はデメリットを背負っており誰もお荷物を抱えようとしない。

 少なくとも、快適なゲームプレイはとても出来そうにない。

 溜め息と共に、肩を落とす。


 誰も、誰も話しかけてはこない。


 私はゆっくりと銅の剣を握る、決して高くなどない銅の剣を。

 そうして、近くの小規模ダンジョンに挑むことを決意した。


* * *


 決して大きくはない、いわゆる小規模ダンジョン。

 初心者の狩場として認識されており、私の主な戦場だ。

 出てくる敵はそう多くなく、また敵も雑魚のゴブリンだけという場所だが。

 いや、だからこそ私はこの場所に良く来ている。

 身の丈に合わない戦いは、何処かで必ず破綻するからだ。


「あ、またいる」

「ん? あ、ドーモ。ニンジャスレイヤーデス」

「(何言ってるんだろ、この人)」


 そんな狩場だけど、私以外にもプレイヤーはいる。

 特によく見るのは目の前にあるアンノウンという人、アンさんって私は勝手に呼んでる。

 基本的に受け答えはおかしいし、彼の装備も明らかにこの狩場にそぐわ無いモノではあるのだが何故かここでずっと狩をしており殊更強く印象に残った。


「またここに居るんですね、レベルはどれぐらいあるんですか……?」

「レベルですか? 3っすねー、全然上がんねー」

「3? 私でも8レベはありますし、流石にもっと上がってるでしょ?」

「色々特別なんすよ、と……。どうせですし、ボスに挑みます? ゴブリン・ジェネラルなんて大して強くないし。そのくせ、ソロだと面倒なんで」


 是非もない話だ、私は肯定の意思を示すため全力で首を縦に振る。

 ボスの中でも特に雑魚とされているゴブリン・ジェネラル、大して強くはないが雑魚が多く確かにソロだと面倒だ。

 私は、喜んで彼についていくことを決めた。


「いやぁ、助かる助かる。いっつもソロで挑んでるけどショッペェ癖に無駄に強いんだよアレ。まぁ近場で経験値効率高めなのはここしかないから諦めてるけど、流石に効率に面倒は変えられねぇ」

「効率重視ならフィールドで狩をしたらいいんじゃないですか? こんなところで戦ってても、碌な経験値になら無いでしょうし」

「ハハ、バカを言っちゃいけねぇよ。まぁ冗談はさておき、フィールドでやってもいいんだが今はキルスコアを増やしたいんだよなぁ。エクストラスキルっていうんだっけ? そういう、特例側のスキルを持ってるからさ」


 エクストラスキル、特例側のチカラ。

 通常の入手経路では手に入らず、ある程度のクエストや条件を達成しなければ入手する権利すら得られないスキル。

 ソレらのスキルは全て、過剰とも言える効果に過大とも言えるデメリットを背負っている。

 ただ、中にはさほどデメリットがないスキルもあるが……。


 と、斯くいう私もそのエクストラスキルを保有している。


 スキル名は『亜神眼』、鑑定スキルとほぼ同じだがソレに追加してフレーバーテキストが付くスキル。

 効果に多大な力がないため、デメリットもさほど多くない。

 強いていえば目が乾燥することだろうか、本当にデメリットはない。


 そんなことを考えながら、ダンジョンの中を歩く。

 このダンジョンは珍しいことに迷宮型ではなく、小規模な要塞が埋まっているようなタイプのダンジョンだ。

 歩きながら装備を整える、準備は万全にしておきたい。

 このゲームで死ねば、現実世界で三時間の間復活することができ無い。

 このゲームは現実世界の3倍の時間で進んでいるため、実質九時間を無駄にすることとなる。

 ソレは、絶対に避けたい。

 私はそう考えながら、バフアイテムの在庫や武器の摩耗具合を確認する。


「お、着いたぜ? 早速やるか?」

「準備しなくていいんですか?」

「ラクショー楽勝、レイドボスでもなきゃ準備なんていら無ぇよ」


 そう言って、彼は扉を開ける。

 その先にはいつも通りのゴブリン・ジェネラルと、複数のゴブリンがいた。

 まぁ、確かに強くはないだろう。

 ほっと、軽く息を吐き剣を構える。

 大丈夫だ、十分戦える。


「あ、どうせだしこのアイテムを使お」


 嫌な声が、聞こえた。

 何を使おうとしている? 振り返りながらスキルを発動する、他人のアイテムを鑑定するなど無作法極まりないが許して欲しい。

 明らかに、おかしな雰囲気が漂ってきたのだから。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 アイテム名 深淵結晶

 深淵の魔力が込められた結晶、砕いて使用することでモンスターの強さを飛躍的に上昇させる。

 かつての時代には神の遺物と囁かれたこともある結晶、現存する数は少ない。


 心せよ、悪意の坩堝にして神の眠る地。

 恐れ瞬き眠りとともに、幽谷よりて舞い戻ろう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 明らかにおかしなフレーバーテキスト、禍々しさすら感じるソレ。

 足が思わず止まり、体が暫し硬直する。

 だからだろうか、一瞬だけ彼を止める行動が遅れた。

 その一瞬が、致命的だった。


「何を、して……!? アンさん!!」


 叫ぶ、嫌らしい笑みを浮かべた彼を止めようとする。

 だがその行動はすでに無駄だ、もはや止められない。

 結晶が砕かれ、魔力があふれ出す。

 魔力視も魔力感知を持たない私でもわかる、重厚で重圧な魔力そのもの。

 それがゴブリンに浸透し始め、明らか強化される。


「アンさん? ああ、そういやアンノウンって名乗ってたな」


 剣を抜く、常に腰に掛けているだけの飾りかと思っていた剣を。

 半透明な、水晶を思わせるその剣。

 薄く光を乱反射させる、水晶剣。

 ソレを抜いて彼はおもむろに言葉を綴る、目の前の強敵を目にして。


「心配は不要、杞憂は無用。一切合切、俺に任せろ」


 次の瞬間に、黒い魔力が唸りを上げた。

 飛沫のように魔力が巡り、強化されたボス達に襲いかかる。

 私は一瞬呆気に取られて、だけど即座に意識を切り替え。


「次やるときは、事前に言ってくださいね!! アンさん!!」


 感応する、鼓動する。

 体を巡る血飛沫が、体を包む大気が私に高揚を与えてくる。

 何故だ、問いかけは無意味だろう。


 初めて、肩を並べられる。

 戦うのに、これほど楽しい理由はない。


 私も、出遅れまいと剣を握った。

 

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