Deviance World Online ストーリー5『輝ける輝けるべき一等星』
息を整える暇がない、上手く力が入らない。
震える体が、全身をめぐる電気信号のこと如くが。
悲鳴を、限界を。
あるいは、限界のその先を叫んでいる。
「『孤立無援』」
そのスキルで、一体何人が死んだだろうか。
キャメロットとの対決、それと同時にレオトールはプレイヤーを相手取りながら以前健在。
むしろ、未だ圧倒している。
結局、彼は限界すらも超越しているのだ。
一挙一動悉くが、一瞬一秒のそのすべてが。
震え慟哭する心臓すらも、水晶が如く凍てついた意志の前には無力である。
ただただ、蹂躙するだけだ。
目の前に見える総て、あるいは悉くを。
自分の剣が持てなくなる、その瞬間その一瞬まで。
誇りに従い、盟約の下で、己が意志を貫く。
それが出来ずして、何が傭兵か。
何が、北方に生きる『伯牙』か。
「『一切断頭』」
攻撃は失敗だ、プレイヤー幾人しか切れず。
だが集う騎士たちは増えるばかり、一撃必殺など既に遥か遠くにあり攻撃できる体力は限界値を大きく下回っている。
執念か、あるいは他の何かか。
理性と合理の化け物、鋼鉄よりも冷え切った水晶が如き心をもつはずなのに。
ある種の誰よりも激情を抱えて居ると、言ってもいいだろう。
一歩踏み出す、もはや戦闘描写も要らないだろう。
「残り、8分だな」
絶対的時間感覚、たとえ意識を失っていても分かる。
本能に刻まれている、一瞬一秒という秒間が。
己のスキルのクールタイムを一ミリ秒たりとも間違えないために、最初に学んだことだ。
地面を踏み鳴らす、拳がようやく届いた。
皆殺しだ、全身が乾く暇すらない。
手を引きずり出す、とりあえずは周囲にいた存在を殺した。
つまりは血盟『キャメロット』に所属する円卓が三人、ケイとギャラハッドとパーシヴァルを倒した。
二分も掛けて、円卓は其の三人しか倒せていない。
「いささか、貴様らを相手にするのは骨が折れそうだ」
そして、目の前に見える残り7人の円卓を見る。
どこまでも面倒で、そして面倒でしかない相手と悟りながら。
あと1分、あと1分だけ休めれば『絶叫絶技』を振り回し強制的にスタンさせて。
その隙を狙い、全員を殺し尽くせるというのに。
なんとも、レオトールに対して致命的な嫌がらせが行われている。
回復のポーションはもうすでにない、そして自らに発生したダメージや受けたダメージの合計は1割を切り出した。
つまり、残りHPは17967である。
「嗚呼、面倒だな」
だから、そう言葉を続けるより早く到来した一撃を受ける。
「だがいい加減、期待できそうな顔が見える」
顔が青ざめた、無論レオトールのではない。
そして円卓でもなく、つまりは円卓の騎士でもなんでもないプレイヤーの顔だ。
動きのキレが変化したと言えばいいのか、或いはいまだプレイヤーは目の前の怪物を舐め腐っていたのか。
あるいは、どちらもか。
「何を掲げて、ここに来た?」
傭兵は、騎士に問い。
「正義を、誓い」
騎士は、傭兵へ返す。
鍔迫り合いの硬直が崩れたのは、円卓の騎士が1人。
ガウェインによる、炎熱を司る太陽の聖剣が一撃だった。
背後に迫る攻撃を、防御を捨てて身体で受ける。
肉が焼ける音、状態異常:火傷の発生。
彼は動きを、回避から防御に切り替えた。
今まで一切の傷を負わないことを念頭に戦っていた彼が、ついに防御を捨てたのだ。
まともに相手をする気がない舐め腐った戦い方から、肉を切らせる程度には全力の戦い。
一房垂れた前髪が、騎士たちの剣戟を前に揺れる。
剣戟によって生じる風が、肌を撫で。
「『孤高にて』」
なおも、活路を見出す。
絶対強者の驕りなどない、驕るという思考すらない。
ただ対等な目線で、対等に剣を交え、遥か高みにいることを理解させているだけ。
「『聖剣、解放』!!!」
スキル発動、ガウェインの言葉に呼応し刃の熱気が上昇する。
黒狼の『第一の太陽』を思わせる、その熱量。
さしたるデメリットの一切なく、通常攻撃として扱われるソレは聖剣の核の高さも示している。
だからこそ、悲しいかな。
神性が一切ない攻撃だ、レオトール相手には致命打になりえない。
左腕で受け止めた攻撃を、そのまま弾く。
そして剣を素手で掴むと、強制的に生成されている魔力を吸収し。
その上で、嘲笑う様に口角を吊り上げるとアーツの発動を告げる。
「『厳骨』」
防御など、出来ようはずもなかった。
左手でガウェインの剣を握ったまま、右手で拳を叩き込む。
踏み込みも無し、急造的に放たれた一撃にもかかわらずその重さはガウェインを軽く吹き飛ばす。
勿論、彼の聖剣『ガラティーン』を奪い。
振り返る、白い閃光のような速度で。
放つ裏拳、ランスロットの行動の一切合切を赦さず暴虐たる暴力を与える。
鍛え上げた体は聖剣にも勝る、たとえ疲弊していようとその事実は変わらない。
「良い剣だな、利用させてもらおう」
剣を握る、それだけで剣に宿る精霊が悲鳴を上げた。
だがその悲鳴すらも押しつぶす、卓越した魔力操作は有無を言わせず効果を発揮させるに至る。
つまりは、太陽の疑似的な降臨。
輝かしい、輝かん、輝くその刀身は熱というエネルギーを帯び担い手の力を最大限に昇華する。
直後、絶対たる火炎が。
世界を照らす、光輝が生まれた。
刀身から幾何学的に線が放射され世界を焼き続ける、或いは。
もしくは、遍く照らす太陽が世界にあふれる。
「聖剣、開放か。何を開放していた? 全く、剣が泣いているぞ」
次の瞬間、レオトールは『ガラティーン』を空に放り投げ。
そのまま拳を、剣の柄に叩きつけた。
赤い流星、剣が飛翔しプレイヤーの群れを次々と焼いていく。
その勢いは地面に刺さるまで衰えず、地面に刺されば巨大な爆炎を噴き上げ。
限界だ、確かにレオトールは限界だ。
「馬鹿な、そんなことができる余力などある訳がない!!」
ランスロットが驚愕の声を漏らす、ガウェインが目を見開く。
すくなくとも、立っているのも怪しく見えるほどに体が痙攣し始めた化け物ができる攻撃ではない。
左腕をだらりと垂らし、地面に両足を突き立てて尚まともに動けない人間ができるわけがない攻撃のはずだ。
「言っただろう、私は命を賭けた。ならば、我が鼓動が消えるその時まで私は戦えるに決まっていようが」
インベントリを開き、盾を取り出す。
先程まで使っていた剣を取り出し、捨てる。
もはや耐久度が残っていない、そんな武器を使えるわけもなく。
剣のストックが尽きた、あまり好まない盾が数個程度しかインベントリにない。
ほぼ空っぽだ、『万里の長鎖』みたく通常運用が不可能な武器以外はもうインベントリに残っていない。
英雄の武装、ギルガメッシュから齎された二つの兵装も残っている。
だがアレはレオトールの背後に広がる数キロを超える概念上の防御壁を展開するために用いており、そのためこの状況下で活用しようとすれば無為に耐久度を削り黒狼が求めた時間までは守り切れなくなってしまうだろう。
ココに存在しているガウェインの持つ聖剣『ガラティーン』と、ランスロットが持つ聖剣『アロンダイト』を相手にして耐久度を守り切る自信はない。
自分の体より脆い武器を、守り切れる自信など。
「命は、命は惜しくないのですか!! 大人しく道を明け渡せば……!!」
「命を惜しむのならば、誰がここに立つか」
狂気じみた、唯の無表情だ。
問いかけたベディエールがたじろぐほどの、その顔に一切の感情がない。
一歩踏み出す、剣を構えたその上から盾での攻撃が到来した。
剣を砕き、破壊する。
衝撃で飛んでいくベディビエールを見ながら、眉間に突き付けられたマグナムを知覚した。
アグラウェインの銃だ、そしてこの距離で外れる訳もない。
連続的に引き金がひかれる、弾丸がレオトールの眉間に突き刺さって。
血液が垂れる、初めての出血だ。
「人間か、本当にッ」
「或いは、私のどこが人外に見える?」
何もかもだ、そう言い返したそうに顔を歪めるアグラウェインを見下した。
次の瞬間に、レオトールの全身が拘束される。
魔術の展開が行われている、大地に拘束されるような魔術の展開。
かつてヒュドラ戦で使われた拘束術、だがここにトリスタンはいない。
ならば誰が、いや答えは目の前にある。
「なるほど、多彩だな。だが温い、驕りが見える」
「容易く突破されること前提で作っているわけがないのでな、本当に」
その拘束をただのSTRで突破したレオトールの言葉に、アグラウェインは冷や汗と共に返す。
直後、アグラウェインのこと如くが肉片と血煙に変化した。
魔力操作、純粋な技術で用いられた糸を逆に操作仕返し武器にしたのだ。
そのうえで、レオトールは告げる。
「『殺煙血糸』」
周囲一帯、半径50メートルのプレイヤーに対し強制的に即死という状態異常を強制する。
そのうえでのたうち回る糸が、プレイヤーを次々と切り裂き始め。
殺戮の中央で、レオトールは次の一撃のために動き出す。
「『湖の精霊に請い願う、我が尊剣の真の力を。【アロンダイト】』ぉぉぉおおおおお!!!!!!」
「また面倒で、厄介な」
意識を集中させ、迎撃を行う。
盾を握り、攻撃を受けるか避けるかを即座に判断するとともに。
手に握る盾を構えて、そして。
視界の端に見える、白銀の輝きを見た。
***
「クカ」
「クカカカ」
「クカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ」
騎士王、アルトリウスが其処に立ち。
『伯牙』、レオトール・リーコスはその半身を消し飛ばされながら立っている。
限界って?(某遊戯王風)
次回は状況説明です。




