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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー5『信念』

 恐ろしく強くなっている、その実力の高みを知っていたと慢心していたのは私の方だったか。

 そう零したくなるほどに、彼らは私に有効打を与えていた。


 回避に専念すれば避けられ、攻撃に専念すれば命を奪えるだろう。

 だが、そのはずなのに。

 四分経過して、奪えた命は未だ2つだけだった。


(流石、流石だとも。ユダよ、ユーダー・アルマスよ)


 素直に褒め称えるしかない、驕りではなく事実として私相手に時間稼ぎを実行できるのはお前ぐらいしかいないだろう。

 他の面々では時間稼ぎではなく殺意を前提とした、殺害が主目的になる戦いしかできん。

 だが、ソレほどの殺意を抱きながらも確かに時間稼ぎを実行しているのは確かにその腕あってのもの。

 恐ろしいだろう? 怖いだろう? 一瞬後に殺されかねないと言う恐怖が全身を襲うだろう?

 それが生きていると言う実感だ、いつか殺されると言う恐怖だ。

 私の元で安寧と平穏を享受していた日々はどうだったか? よかったか? ならばその時間は終わりだ。

 裏切りの代償を支払うときだ、たとえソレが双方望まぬ結末といえども。

 私は誇りの元で生きている、故にその選択を選んだ時点で私はこうなる運命だったのだろな。

 必定であれ、ソレは確かに。


「『剣限』」


 先ほど投げつけた剣を手元に引き戻す、この戦いでは音速での行動が命取りだ。

 そうなるように、組まれている。


 少なくとも、空に地に緻密に組まれたトラップが偏在している。

 下手に速度を出し、単騎撃破を狙えばその時点で私が競り負けるだろう。

 だが同時に、この陣形の狙いも読めている。

 スタミナを削り、そのまま殺すと言う算段なのは違いない。

 では、ではどう戦うか? 簡単だ。


 スタミナが消し飛ばない程度に、動き回り潰す。


 相手の術中なのは百も承知、だが術中に抜け出す労力はいささか大きすぎる。

 緋紅羅死を装備するのも一手であるが、限界もあるだろう。

 装備すれば見えて来るだろうが、当然概念攻撃に対するトラップがあるはずだ。


 少し、『極剣一閃(グラム)』を使い空間を切り裂くように魔力を入れる。

 そうすれば、何か明瞭でないものの糸らしい何かに触れた。

 なるほど、やはりトラップを展開していたわけだ。


 即座に魔力を絞り、気付いたことに気づかせ無いようにする。

 児戯だが、拘束系統の術式だ。

 先ほどは限定的な斬撃だったからこそ回避可能だったが、緋紅羅死を用いれば毎秒付着し千切り拘束を強める。

 やはり、それも悪手だろう。


 ならばどうすればいい? 結局はそう言う話だ。


 魔力を広げ、幾つか襲いかかる魔術に干渉し無力化する。

 そして目の前の攻撃を剣で受け流し、スキルを使用。

 だがこれもまた外れる、外される。


「『聖感の言説(セントナイズの言説)』」


 概念的な衝撃、感応魔術。

 精神的な衝撃、思考の漂白化。

 思考を単純化させ、信仰心で埋め尽くすことを目的とした魔術。


 脳髄に衝撃を与え、脳液を抉り出すように短く一撃を与えた後にポーションを用いて回復する。

 流石にダメだ、この攻撃を放置すれば後に響く。

 当然、相手もこう理解しているだろう。

 ソレを把握しているからこそ、今ここでその技を放ったのだ。


「抜刀、」


 だから、ここで大技を用いるべきだ。

 回復や再生を望むと言うことは打たれて痛い急所を晒していることの等しい、故にここで攻勢に出るのが正解だ。

 腰に村正に造らせた一振りの刀を携える、魔力を練り上げそして完成させるように。

 微細に魔力を練り上げ、かつて見たあの一撃を再現する。

 否、ソレは再現ではない。

 再現ではなく、ソレは会得した上で改造したモノ。


「『桜花泰然万象捨斬(擬)』」


 桜花乱れ、泰然と万象全てを切り捨てる。

 ソレは北方にいた剣に至ったヒトの技、人類において技の極地に至ったソレ。

 切り裂く対象は、選ばない。


 全てを切り割こう、命の一つも無駄にせず。


 桜の花びらの形をした、斬撃属性で成立する魔力が溢れ出る。

 まるで千本桜、乱れる桜吹雪の乱舞は北東の国の一景を想起させて。

 その桜吹雪が、今に迫る攻撃の悉くを切り裂いていく。

 周囲の草木も、血肉も、ありとあらゆる総てを。


「貴様ら……」


 目の前で、パリンという音が響いた。

 同時に、私は抑えきれぬ思いを。

 これを例えるのならば、ソレは激情だろう。

 その激情を、吐き出さなければならないほどに。

 頭蓋の奥から、言葉が溢れ出る。


「そこまで、誇りを捨てたか」


 ゾッとするほど、凍えた声だった。

 凍てついて、本来の意味すら据え切った声。

 その声が響くように、周囲の音を止めて。


 四分経過、ソレと同時に私は手から()()()刀を手放す。

 耐久値的には、絶対に折れるはずのない。

 そのはずなのに、折れた刀を。


***


 北方、そこでは武器とはすなわち墓だった。

 傭兵は獣葬の如くに魔物に食われ死んでゆく、だからこそ屍山血河に残る持ち主の血液すらもこびり付いた武装を墓とし受け継いでゆく。

 そうして、何十にも何百にも世代や人を跨いでゆき。

 一振りの頂に、到達する。


 ソレこそが、北方においての誇りなのだ。

 そのようにして死にゆく事こそが、北方の誉である。


 だからこそ、北方における最大級の禁忌(タブー)として武器破壊というものがある。

 意図した武器の破壊、狙った上で放たれる武器破壊の一撃は。

 誇りを捨て去った醜い獣、ソレが行う技でしかない。


「ああ、少し感情的になってしまったな」


 彼は、レオトールはそう告げるといつも通りの無表情で。

 いつもと同じ様相で、いつものように剣を握りながら。

 荒れ狂う魔力を、一切の乱れなく荒れ狂うその力を。

 ソレを、振るうために剣を握る。


「しかし、貴様らは誇りを捨てるというのか。そうか、そうか……、なればもはやこれは誅伐ですら無くなった。道理を捨て、己が領分を弁えぬ獣が如き下郎どもの殺戮以外に成り得ない」


 感じているのは、露出しない感情に抱く言葉は何か。

 ソレを読み解くことは難解だろう、ソレを読み解けるのは一人とて存在しない。


 当然、そんなものを読み取らせるレオトールでもない。

 地面に這う獣相手に掛ける思いはない、言葉も同じく。

 故に、これは独り言だ。

 独り言であり、死者へ向ける軽蔑だ。


「さぁ、命を賭けろ。月が、見ているぞ?」


 これ以上なく冷徹で、これ以上ない音を響かせ。

 最強の男は、剣を握る。


 瞬間、独特なエフェクトを帯びた攻撃。

 試すこともなく、その剣を避けて肉体に剣を突き刺す。

 背後から刺してくる一撃、ソレをそのまま肉体で受け。

 そして筋肉の収縮で刃を固定すると、背後へ向けてククリナイフを刃向けた。


 瞬間、各方面から数人に囲まれ攻撃を与えられる。

 防御のために武装を出せば、ソレすら砕かれた。

 無表情でその一連の動きを確認し、レオトールは矢を取り出す。

 勿論、ただの矢では無い。

 竜の鱗を削り出し、剣にも矢にも使える強度を持った竜矢。

 ソレを手のスナップを効かせて投げつけ、相手の膝関節を破壊する。


 同時に、全方面から切りさかれ血が噴き出た。

 割に合わない、ある意味ヤケクソじみた戦い方だ。

 だが、そうしなければ武装が次々に破壊されるだろう。

 戦いの中で、誉ある状況でなく。

 ただただ、誇りも無い中で。

 無意に、北方の強者たちが生きた意味がなくなる。


 ソレは許せない、許してはいけない。

 許せるはずがない、許して置けるわけがない。


「『斬散』」


 一瞬にして、地面から無数の斬撃判定が出現し周囲を切り裂くように荒ぶる。

 ソレを認識して避けるように動く傭兵たちに向けて、レオトールはその武装を取り出した。


 過去の英雄の遺物、至上の武装と言っても十分過言ではない。

 ソレは最強、ソレは王を殺す帝の剣。

 手にした彼は、技を使う。

 特殊、アーツを。


「『帝帯(ていたい)』」


 幻視するは死体の山、尸の頂にて握る刃からは血が滴る。

 巨大な体躯を持つソレは、明けの暁を背後にし振り返るようにしてレオトールに問いかけた。


    直後、暴風が吹き荒れる。


 前方から血に渇いた風が吹き荒れて、周囲は王侯の血液が飛び散って。

 そこは山岳か、雪原か、砂漠か、草原か。

 もしくはどこでもない、どこかか。

 大英雄は、その境界で。


「寄越せ、神々の栄光」

「……使いこなせるのか? これを?」

「使い熟すさ、私を誰だと思っている?」


 幻想、もしくは架空の一瞬か。

 そんなことはどうでもいい、そんなことなど関係ない。

 目の前で血走った目で、逃げ延びようとする傭兵に向けて。

 レオトールは、冷徹無慈悲に剣を振るう。


 『極剣(レオトール)


 名付けるのならば、それが相応しいだろう。

 それ以外に、名前などないのだから。


 青白い煌めきと共に、周囲一帯を粉砕する。

 あまりの速度で振るわれた攻撃は周囲の木々から土塊まで等しく切り飛ばし、砂塵に総てを変えていく。

 早い、早すぎる。

 あまりにも早くて、早すぎるのに。

 なのに、ここにいるすべての生命が認識している。

 その刃の動きを、レオトールの剣戟を。


 停滞している、時間が。

 認識速度が、知覚速度が、あらゆる感覚と認識が遅延している。

 ゲーム的に例えればラグ、意図的に発生させられたようなラグが発生して。

 だから、異様に早く遅い攻撃を認識できてしまう。


「『偉大なる海神(ポセイドン)(擬)』」


 次に放たれた攻撃、次に発生したアーツは認識を超えて届いた。

 今度は反応速度を停滞させた、その速度を停滞させて回避行動を封じたのだ。

 動けない中で、どうしようもない状況で放たれた一撃は傭兵の半身を粉砕しながら吹き飛ばす。


 アーツ名、『偉大なる海神(ポセイドン)(擬)』

 ヘラクレスが用いた、ヘラクレスにだけ許されていたアーツを変則的に発動させた代物。

 本来の動きの模倣が不可能と悟ったが故に、帝帯により強制的に必中にさせた攻撃。

 類種としては、『流星一閃(フルンディング)』と同類ではあるだろうが当然それだけではない。

 性質、属性は海。

 文字通り、海を背負う一撃にて相手を粉砕する攻撃であり。

 その重さは、空から降り注ぐ流星と同じだ。


「『武装破壊(ブレイク)』」


 攻撃が届く、独特なエフェクトを纏ったその攻撃をレオトールは斧剣で受け止めた。

 斧剣は、砕けない。


 武器破壊、少なくともその攻撃には多大なデメリットが伴う。

 一つ目に消費魔力、一度の消費する魔力は通常魔術の数倍だ。

 何せ、性質としては即死攻撃と同類なのだ。

 即死攻撃をより限定化しているとはいえ、耐久力という絶対数値を無視して砕く以上は絶対的にそこを免れることができない。


 二つ目に格上の武装への攻撃の通りづらさ、むしろこれの方が影響が大きいだろう。

 武装にはいくつかの格が存在する、性質としての呼称であれば『聖剣』『魔剣』『妖剣』の三種類が存在するが格に限っていえばそれだけではない。

 武装の格、ランクと言い換えてもいいだろう。

 ステータス上では品質と記されるソレ、中でも伝説級や英雄級と称されている武装に対してはその攻撃は通用しない。

 当然、ヘラクレスの斧剣もそのランクに存在し武装破壊は通用しないのだ。


 とはいえ、レオトールの持ち得る武装の殆どの品質は『上等』であり『極上』や『至上』にはなり得ない。

 つまりは伯牙の攻撃、伯牙の武装破壊が通用してしまうということだ。


「『我知者、天也か』」


 スキル発動、認識阻害により攻撃の照準が狂わされる。

 だがもはや迫っている攻撃は当たる、ソレは間違いない。

 同時に斧剣を振るうのならば、ソレは防御ができないだろう。

 大きさ以前に武器の格が高すぎる、特殊アーツを使用した直後ということもあり動きが大きく鈍っているのだ。

 だから、レオトールはソレすら受ける。


「なんだ? 致命傷の8や9を与えた程度で……」


 真っ赤に染まって、装備に刺さった矢からナイフから。

 それら全てを引き抜いて、ソレでも表情一つも変えずに歩き出す。

 見る見る内に再生する、その傷もアザもあらゆる傷が。

 装備も同様に再生していく、一秒も経過すれば完全回復した姿がそこにあった。


 パッシブスキル、ソレが相互的に関係している。

 時間経過で魔力が回復するのを持続させる『魔力回復』、魔力貯蔵量を増加させる『魔力保持量増強』、魔力を用いてスタミナを回復させる『スタミナ回復』、スタミナを消費してHPを回復させる『傷害再生』、神経を無視し魔力を消費させて動く『人体構造無視』、痛覚を鋭敏にする代わりに障害を無くし再生させる『自己再生力向上』、傷による感染症伝染病を軽減する『対疫毒耐性』、血液欠乏を補う『魔力血液転嫁』、血液が少なくなっても動けるようになる『貧血耐性』、発生した障害を正常化させる『自己破壊再生』、ポーション効果を持続させる『バフ効果持続』、ポーションの効果をより早く適応させる『薬液順応』など。

 レオトールを不死身のように思させるスキルの数々、一つでも滞れば再生速度は大きく低下するだろう。

 そして、どれ一つとっても莫大な苦痛を覚えなければ習得できない。


「随分と、思い上がった物だな?」


 一瞬にして、完全に再生した。

 相変わらずの無表情で、斧剣を握りながら。

 そこに、レオトールは依然代わりなく佇んでいた。


(しかし、不味いな)


 だが、その姿とは反対に彼の思考は冷静にレオトールの敗北を告げている。

 視界の端に表示されているステータス、刻一刻と減りゆくスタミナを見てその解答を弾き出していたのだ。

 無論、回避を重視して動けば黒狼の言っていた三十分は容易く稼げるだろう。

 だが、ソレは一つの否定的な解答を導き出す。

 つまりは、回避を重視しなければ十分な時間を稼げない。

 一度のミスが致命傷になる戦い、この傷すらも計算通りではあるが。

 同時にこの傷を負い続ければ、間違いなくスタミナが消えていく。

 レオトールのスタミナは膨大であり、また同時にレオトールの魔力も膨大である。

 だがソレは、彼自身の必勝を約束する物ではない。


(緋紅羅死はまだ使えない、否。全てを焼き尽くすには、いささか早すぎる)


 迫り来る攻撃を回避しながら、斧剣をインベントリに収納し飛来する攻撃を弾くと共に砕けた槍を見ながら。

 レオトールは確信と焦りを、同時に抱く。

 如何にして倒すのか、如何にして勝つのか。

 全ては、総ての勝利の為に。

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