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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー5 『戦争、もしくは蹂躙3』

 『灰の盟主』は興味を失い撤退し、『緑の盟主』は不満ながらに命令だからと背後に下がる。

 グランド・アルビオンは今日もまた生きながらえた、とある王の慈悲のおかげで。

 そう、その王の慈悲のお陰で。


「黄金の、神殿が現れたァ? なんダァそりゃ」


 竜鱗を逆立て、文句を放つ赤い髪の青年に。

 眉間に皺を寄せ、息を吐く灰髪の霧。

 黒い影が揺らめき、玉座に腰掛ける王。

 魔導書を開き、態と視線を逸らすかのように振る舞う魔術師。

 戦場から最高速度で戻ってきて、驚愕する仲間を見る風使いに。

 長い髪をいじりながら、退屈そうに王を見る高貴な者。

 白髪まじりの髪を風に吹かせながらも、剣をいつでも抜けるようにする剣士に。

 小さいからこそ、ゴーレムの上に乗っかっている子供のような大人。

 植物と皮膚が混じり合っている肌で、その神殿の脅威を悟る木人に。

 ヴェールを被って震える、脅威を知る占い師。

 刀を背負い寡黙に腕を組見ながら、今後を考える忍び。


 全員が全員、異常事態を察して焦りと恐怖を感じていた。

 そのままに、各々が各々の手段でソコを見る。


 黄金の神殿にして、黄金の居城。

 いわば、ジグラット。

 世界最古の神殿が一つに数えられる、ソレは確かにソコに聳え立っていた。


「グランド・アルビオンよりも、此方の方が数段脅威となるか……。のぉ、プトレマイオス」

「解析できないぞ? そもそもコレの理論理術は神と結び付きが強い。誠に世界最古の魔術理論を利用されている、基本的に進化進歩とは不可逆ながら魔術ばかりはそうも言ってられんのは知っているだろう? 解析は不可能と思って欲しいところぞ」

「精霊が騒いでいる、コレは恐怖? もしくは狂信?」

「……重要なのはあれが敵となるか味方となるか、だ」


 『青の盟主』は言葉を紡ぎ、解析不可能と返した。

 『緑の盟主』は恐怖と共に言葉を吐き、そして不安そうに空を見る。

 『鉛の盟主』は片目を開けて、騒ぐ全てを制した。


 一夜城、そう例える他ない。

 一瞬で建築されたソレは、一瞬で建築されたとは思えないほどの大きさと神秘を纏っていた。

 ソレこそ、人類最高と称して違いない盟主全員が一目見ただけで久しく忘れていた死の恐怖を思い出すほどに。

 ソレほどまでに、そのジグラットは美しかった。


「私、神殿素敵ト想〼。翻、恐怖狂気ヲ感〼」

「や、やはり未来は不変です……。私の未来視は確実に……、絶対に不変の未来を映すのです……」

「シュゥゥゥゥ……、勝てるかァ?」

「不可能、古代建築の様式で察せる」


 それぞれが言葉を放ちながら、相応に感想を言い合う。

 時間は惜しい、事実上空席となった『白の盟主』の座も埋めなければならないと焦っている中でのこの事件。

 グランド・アルビオンを滅ぼすことは確定事項ながら、その確定事項を無視しなければならないほどに焦っている。

 そして、それ以上に天運が邪魔しているかのようだ。

 グランド・アルビオンを滅ぼそうと行動すれば、必ず不可解な不幸に見舞われる。

 『青の盟主』の時は、不自然な魔力の乱れが発生しそれ以上の追撃を封じた。

 『灰の盟主』の時は……、まぁ本人に攻め滅ぼす意思がなかったため話にはならない。

 だが『緑の盟主』の時には、武装を破壊された。

 勿論、その程度で大きな問題となるわけではない。

 だが、盟主レベルに影響を与える何かが眠っている。


「四つめの準古代兵器、か。古代の遺物の遺物が面倒なことをしてくれるなァ!! どうケジメつけてくれるんだよ、この国はァ!!」

「落ち着け、ぞ? しかし準古代兵器の総数が多すぎる。四つも擁しているなど、本格的に恐怖を感じるぞ。北方ですら厄介な兵装として扱われるアレ。其を四つも……、まともに戦えば此方も重大な被害を受けかねんぞ」

「ふぅむ、まぁここは定石よなぁ? 儂は先に音響装置とやらという準古代兵器を取るべきと考える」

「シュゥゥ、笑ァわせる。あそこにはレイドボスの中でも最上級のォ、黒騎士が眠ってるぞォ? 王よォ」


 黒騎士、正式名称不明。

 だが盟主たちはコレほど離れていながら、薄々とその存在の脅威を悟っていた。

 レイドボス、人類を霊長の座から引き摺り下ろせる強き生命。

 その中でも盟主全員が厄介と称した、その騎士。

 盟主全員で戦えば、周囲の地形条件を無視すれば勝てるだろう。

 ただ、問題が存在する。


「地下駄目、概念ガ充満。潜レバ思壺」

「同感だね、私も反対。風が満足に吹けない以上闇に押しつぶされて苦戦を強いられるだろう、同様に」

「吾も反対であるな、環境を制圧されているところに飛び込むという事は見す見す首を晒すことに他ならんぞ? それに相性が悪い。地盤が崩れるが先か、我らが倒すが先か」

「あ、あの私は賛成ですぅ……。少なくともあの黄金の王と戦うためには……」


 突如、声が聞こえた。

 同時に、光が溢れた。

 『緑の盟主』が即座に針を放ち、『灰の盟主』が霧を発生させ『青の盟主』が魔術にて拘束をおこなう。

 いや、それだけではない。

 全員が最速ではなてる技を、一瞬にて展開した。

 その、そのはずなのに。


 バキバキと、バキバキと。

 まるで飴細工のように、空間ごと崩壊し。

 黄金が漏れ溢れ、警戒する盟主のことごとくを無視するかのように。

 泰然暴虐、威風堂々とそこのかの『英雄王』は現れる。


「ほう、羽虫であっても我の強さを理解するか」


 関心、などではなく侮蔑。

 侮辱であり、悪意と愉悦に塗れた一時の遊びのようなもの。

 そういうふうに、その王は語るかのように。

 息をするかのように、覇王威風を纏って。

 盟主全員の目線を集めながら、ソコに座った。

 誰よりも高い場所、すなわち空中に。


「何、荒ぶるな。どうせ十日もせずに散る命だ、精々無為に足掻くといい」


 『征服王』イスカンダルは、ゆっくりと眉を顰め。

 そのまま、盟主に命令を下す。


「お持て成しをせよ、最高峰のな」


 突如、空間が捩れ狂い周囲の魔力空気空間ありとあらゆる概念の全てがねじ曲がった。

 木は急速に成長し、地面から影の兵卒が現れ周囲は闇で包まれる。

 あらゆる行動はすでに完了し、黄金の王に向けて無限に思える量と質の攻撃が叩き込まれた上に。

 そのうえで、周囲の地形が一変するかのような言葉に書き起こすも不可能な攻撃の渦が叩き込まれて。

 その渦の中から、其でもなお高笑いが聞こえてきた。


「クハハハハハハッ、まさに余興!! まさに道化の戯よなぁ!? 緩い温い、其ではこの我たる滅びは殺せんぞ? 其ではこの割れたる破壊は潰せんぞ!!」


 竜の概念滅却の炎、あらゆる属性を混合した破壊の属性。

 巨大質量の一撃、周囲の森林のエネルギーを強制徴収したうえで放たれた致命の絶技。

 即死のアーツ、もはや数えきれない膨大な攻撃が放たれたにも関わらず黄金の王たる其は頬杖を行いながら笑いソコに座っていた。


「進化とは不可逆なもの、されど究極は時代で生まれる。原初たる俺に敵うのならば其は混沌だけであろうが、もはやその混沌すら及ぶに能わずだ。ククク、たかが人類の後継たる人類ごときに殺される我ではない。もし我を殺したくば星の終わりでも用意しろというもの」


 そう言って立ち上がり、地面に降り立つと『紫の盟主』の目に指で触れる。

 誰も動けない、魔術的な拘束ではなく目の前の存在が放つ存在感に。

 そしてその目的を探るために、全員が警戒をより一層強めた。


「どうだ、我が見せた未来は。地獄だったか? 煉獄だったか? 其とも天国だったか? 最高だったか? もはや分かっているであろう。能うすべなし、と。敵うすべなしと、我に無様に殺されるその未来を」


 指を外し、良い眼だと告げると『黄金の王』。

 否、『英雄の王』にして『破壊者』は満面の笑みと共に宣戦布告を行う。

 無慈悲に、残酷に。


「今宵より僅か8と幾ばくか後に、我はお前らたる下郎どもを殺戮する。とある契約を結んだのでな、後顧の憂を断つと。さぁ、我に退屈な劇を見せてくれるなよ? 下郎ども」


 恐ろしい言葉、目の前の存在が一体どれほど強いのかを否が応でも悟らせる力強い言葉。

 其を聞いて身震いする、存在はいない。

 むしろ、全員が好戦的な笑みを浮かべ帰りゆくギルガメッシュの行く手を阻む。

 阻むように、全員が武装を展開し。

 その上で、イスカンダルは其らを制した。


「まぁ待て、黄金の。ほれ一献、酒を飲み交わそうではないか。儂の流儀としてな、戦う相手とは一度酒を飲み交わすのだ。そうして戦う、それが儂の流儀である。其に、勝手な宣戦布告をされただけで名前すら聞いていない。コレでは墓標に刻む名がないではないか、のぉ?」


 帰ろうと、帰ろうとしたギルガメッシュの足が止まる。

 そのまま、片目を見開き怒りを露わにした上でかの王はこう囁いた。

 まるで、面白い犬を見るように。


「我の、俺の名を知らぬと申すか……?」

「おおよそは推測できよう、だが名を名乗り身分を示し首を晒すのが王たる役目であろう? 其方も王であると見受けよう。なれば、名乗る名の一つや二つはあろうなぁ?」

「……そうか、であるのならば敢えて名乗ってやろう。その魂に、流れる血液の螺旋に刻み込むといい。この我こそが、始まりにして終わり。原初の支配者にして天秤を壊すモノ、古代に生きた先史の王。すなわち、『英雄の王』にして『破壊者』ギルガメッシュである」


 無知蒙昧に呆れ、怒りが湧いてくる。

 今すぐ雁首を掻っ切ってやろうかと、そう怒れるギルガメッシュ。

 そのまま最低限の名乗りはしたとばかりに、そのまま顔を背け去ろうとするその背中に。

 傲岸不遜にも、手を掛け振り向かせ。

 征服者にして征服の王、『征服王』イスカンダルは名乗りを上げる。


「我こそは、地平の彼方!! 見果てた先の果てまでもを手中に収めんと勇む北方の王!! すなわち、征服王とはこのアレクサンダー・イスカンダルなり!!! 魂の奥へと刻むがいい、黄金の王。転じて、ギルガメッシュよ!!」


 互いに、王は名乗った。

 二人の王は名乗りをあげた、すなわち戦前の準備は整ったということ。

 先ほど、怒り心頭に眉を顰め目を見開き吐き捨てるように叫んだ名乗りを思い出し。

 そうして、ギルガメッシュは暫し己を恥じた上で機嫌を直す。


「宣戦布告など認めん、常に儂が攻める側でないと気が済まんのでなぁ? こちらから宣戦布告としよう。『英雄の王』、ギルガメッシュよ。貴様に倣い、八と幾ばくかの後にその首を貰い受けよう。無論、万全たる準備を整えた上で」

「クク、クハハハハ!! 不遜不遜傲岸不遜!! 不敬にも程がある、だ其もまた良しだ!! なるほど、イスカンダルなどと申したな? なればそちらの流儀に従いここに集う勇士英雄紛いの悉くを殺し尽くそう、鏖殺死尽くしてやろう。なれば戦いの前に酒も飲み交わすべきであろう、ああそうだろうとも!! クハハハハ!!! クハハハハハハハハ!!!!」

「舐めるなよ、儂らが兵卒を。一兵卒に至るまでの悉くが死兵足らんとなるものだ、その御首を切り落とし地面にその血を吸わせてやろうとも。グハハハ、ハハハハハハハハ!!!!!」


 満面の笑みだ、満面の笑みで互いに殺意を囁く。

 殺意を叫び、笑みを叫び。

 その上で殺すという意志を込めて、笑い合う。

 清々しいほどに、満面の殺意だった。


「アレが黄金の王か、まさしく絶対の強者であるな」


 征服王がそう言葉を漏らし、そうして天を仰ぎながら息を吐いた。

 緊張、などしていない。

 恐怖に身慄いもない、これは戦いを前にして。

 人生最後の戦いの予感を感じて、体が震えたのだ。

 命を競り合うという、狂気があると。

 殺されるという、確信と共に。


「のう、へファイスティオン。もしもだ、我ら全てが死んだとしよう、であらば次の王は誰が継ぐべきであるか」

「……、僭越ながら申し上げますとレオトール・リーコスの妹殿か。もしくは、大王ダレイオスか」

「ならばダレイオスであるな、かの娘は妄執に囚われている。確かにレオトールの先進的な施策を継続させ、火の大地で最も繁栄している都市とまで言わせしめたとはいえいささか不安が残るな」

「しかし、ダレイオスは齢18です。王を務めるに問題ない年齢とはいえ、未だ精神的な若さが目立つというか……」


 目線を向ける、へファイスティオンに。

 そして、目の前にいるすべての盟主に。

 笑顔を、ちょっとした笑顔を浮かべそのままイスカンダルは目を閉じると。

 そのまま、周囲が再生する様子を見つつ言葉を紡ぐ。


「若さなど、儂を見れば関係ないとも。其にあの大地は若さや弱さを許容せん、あらゆる言い訳は死に直結しよう。この儂に付いてくる物好きならばいざ兎も角、些か若いながらも己の領分を弁えてなお国のために儂に挑んだあの男ならば広い北方を治められよう。少なくとも、この愚王イスカンダルよりも遥かに良いな」

「王よ、貴方は賢王ではなかったが愚王ではない。愚王であれば、我らはここまで付いてこなかった。貴方が我らに夢を見せたからこそ、我らは貴方に付き添ったのです」

「いいや、儂は愚王である。こうして己が好奇心を満たすため、己が夢を紡ぐため。見果てぬ夢を追い続け、見果てた星を蹂躙せんと歩み続ける愚王である」


 拳を握り、目を見開いて。

 愚王にして、征服王。

 最高の、愚王は満面の笑みで問いかけた。


「ここに集う、我らが盟主よ。血を分け合った、我らが友よ!! 今一度ここに問おう。その命、その生涯、その魂に至るすべてを儂に捧げるか? あの日あの時に誓った言葉と共に。その生涯果てるその時まで、その生涯果てたその先まで儂に付き添うと申するか?」


 誰も、言葉を返さない。

 答えるまでもない、それが彼らの言葉だった。

 故に、イスカンダルはならば良しと返し。

 そのまま、目の前のテーブルにナイフを突き刺す。


「なれば、全身全霊を注いであの王を殺さんと動こうぞ。資材の用意は、資源の用意は十分であるな? であれば今宵一気に攻め立てグランド・アルビオンの都市およそ半数を征服する。森林での停滞もまた良き日々であったが、安寧は我らに似合わん!! 攻め立てよ声を上げ。我らの鬨の声と共に、まずは我らの居住を開くぞ!!」


 全軍、『王の軍(ヘタイロイ)』全軍3000名。

 其がここに集い、そうして動き始めた。

 決戦のための前座として、征服王は叫びを上げたのだ。

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