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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー5『血清』

 闘技場の中心、横で黒狼と村正とネロがネメアの獅子を解体している中ロッソはゾンビ一号から血液を抽出していた。

 本来的に短期間で血清を作成するのは不可能だ、これはたとえ3000年の現在でも事実として変化しない。

 しかし、毒に対抗するためのいわゆるマニュアルというものは存在する。

 簡単だ、毒の根幹となる構成を変形させればいい。

 だがしかし、それにも幾つも問題はある。

 毒の構成を変形させるのは摘出し、機械にかければ簡単に達成できるだろう。

 だが機械にかけれない、人体の中にある状況で毒の構成を無力化させる酵素や物質を錬成するのは無理である。


 しかし、ここはファンタジー。

 都合の悪い現実は、空想によって書き換えられる。

 そもそも錬金術とは置換する魔術であり、下位のものを上位のものへと昇華する技術。

 変えるべきもの、そして変化させる対象さえ用意できればどうとでもできる。


 勿論、こんなことは普通の錬金術師ではできない。

 NPCの中でもトップクラス、プレイヤーではロッソが限界だろう。

 それほどの難易度のことを仕上げろ、と言われ即座に仕上げられる彼女の凄さは語る必要すらない。


「ピャー!! 一応、こんなものかしら!? ぶっちゃけ効果に不安があるし、これなら工房にいる時に彼女の血液検査をするべきだったじゃない!!」

「お、終わった」

「終わったじゃないわよぉ、何この面倒くさいコレ!! そもそも抽出した瞬間に恐ろしいほどの速度で劣化したのだけど?」

「死の概念を羽織っている、言い得て妙ですね。確かに、生存するために必要なDNAを破壊する程度には死の概念が濃密に存在しているということに他ならない。科学でも魔術でも説明が不可解な減少です、いえ本当に」


 ネメアの獅子の肉をダークシールド越しに焼きながら、調味料のアテを聞く。

 村正は当然と言わんばかりに醤油を出してきた、さすがの村正だ。

 黒狼はその肉に醤油を振り掛けながら、ネロに肉を渡す。

 ネロは渡された肉を食べながら、微妙そうな顔を浮かべた。


「むぅ、美味とも言い難いな!!」

「そいつは結構、美食を用意したわけじゃぁねぇからな」

「ほら、ネロが文句を言うから村正が拗ねたじゃねぇか」

「普通に納得しただけじゃ惚け、そもそも肉食獣なんぞ不味いに決まってんだろうが」


 常識のように言う村正に対して黒狼はそうなの!? と、普通に驚く。

 知っている人間は知っているが、まぁまぁ雑学に位置する内容だ。

 当たり前の話かといえば、そう言うわけではない。


「全く、そっちで雑談するかこっちで真面目に話すか決めなさいよ!!」

「すまそすまそ、んで? それはポーションか?」

「そう、短時間かつ結構リスキーなアイテムだけど次の難行はそこまで難易度が高くないんでしょ? なら多少のデメリットを無視して作成したわ。服用すれば3〜5分ほどヒュドラの猛毒、そのうちの毒素の部分が防げるわ

「そもそも触れないように私が結界を用意します、気にする必要などないでしょう?」


 背後で睨み合いを始めた二人をよそに、ロッソが作成したポーションに鑑定を行う。

 確かに、彼女の言う通り毒を防げる。

 と言うよりは、毒を防げるのではなく毒を破壊するのが正しいのだろう。

 その処理を行うことで、毒としての効果を減衰することが望めるらしい。

 しかし、その反動として服用後には幻覚作用、気分の高揚、吐き気、頭痛、目眩などが発生するようだ。

 実戦で使うにしてはデメリットが多い、と文句を言いたくなるが逆にこんな短時間で作成してもらった品でここまでデメリットが少ないのは彼女の優秀さゆえだろう。

 一息つき、ロッソとモルガンの喧嘩を止めてから返す。


「俺とゾンビ一号はいらない、だろ? だから四人で使ってくれ」

「そうか、貴方達は状態異常無効を持っているものね」

「ああ、意図的に取り込まない限りヒュドラの猛毒でも影響を受けることはねぇ」

「肉体がないが故に、状態の異常もない。なるほど、馬鹿馬鹿しい話ですね」


 視界の端でネロがダンスを踊っている、なかなかに可愛らしい。

 こんなガキっぽい思考と感情を持つ魔女二人の相手をするぐらいならば、あのネロを相手にする方が何倍も精神的に楽だろう。

 というか、ゾンビ一号。

 お前も一緒になって踊り出すな、微妙に上手いのが腹立つだろう。


 腹いせにダークボールを当てつつ、二人の話に耳を側立てる。

 理論なんぞ聞いてもわからないが、実際のところ一切の理解を示せないわけではない。

 魔術とはすなわち既存概念の再認識、そこにあると言う事実を再発見することにより意味を付加していく。

 ことその一点に関していれば、黒狼は二人の叡智を上回っているのだ。


「とまぁ、無駄に長々と話し込みましたがシステムと魔術の関連性に関しては探究会の発表を待つ方が吉でしょう」

「そうねぇ、アソコ本物の学者が何人もいるし。多分ここで得たデータを他企業に販売してるわよ、私聞いたことあるわ」

「あり得ない事ではありません、集積したデータを販売することをこの運営は許可しています。おそらく再現出来無いと高を括っているのは間違いないでしょう」

「もしかしたら、どこまでが自分のところの技術なのか解明できていない可能性もあるぜ?」


 ニヤリと、意地悪く笑う黒狼へバカにしたような目を向けるモルガン。

 そんなことはあり得ない、というかあり得るはずがない。

 マザーコンピューターとでも言うべき人間の支配者にして人類の保全を行う装置が許可を出さないのだ。

 最近流行しているという電脳麻薬ですら情報の圧縮体を詰め込むことで現象を過剰に感じさせるに留まっている。


「ま、とりあえずヒュドラをどうこう出来るだけの準備はできたな?」

「一応は、ま? モルガンの準備次第といったところかしら?」

「魔力濃度、および魔力量も完全に回復しました。念の為、魔力を凝縮した結晶を作成していますがまず間違いなく不足はないでしょう」

「行けるな、結構余裕っぽい」


 ニヤッと笑い、遊んでいる三人に声をかける。

 彼らも準備が整ったのかと動き出し、準備運動を始めた。

 それぞれが体を伸ばし、整える。

 分かりやすくいえばこっから先は一方通行、負け犬は尻尾を巻いて逃げ帰り進む意志のあるものだけが進める絶対戦線。

 そして、最も手強い中間ボス。

 黒狼は意思を定めて、こう笑う

 準備は、終わったか? と。


※ーーー※


 モルガンは、楽観視していた。

 勝てる、と。

 今回も容易く突破できるだろうと、黒狼の話を聞いてなおそう思っていた。


「は?」


 なので、彼女は驚愕する。

 いや、驚愕で済むはずがない。

 モルガンの目が、展開されている空間魔術の術式から逆算し行われた結果結末を認識する。

 そうあるはずがない、そうあって欲しくないと願いながら。


「まさか、死んだのですか? あの一瞬で。全ての分身体が解除されるほどの死の概念を浴びて、殺されたのですか!?」


 再度、視点を黒狼の方へと戻そう。

 あの一瞬で、扉を潜った瞬間に何が行われたのかという。

 その事実を、説明するために。


 扉に、黒狼は足を踏み入れる。

 若干の違和感、それとともに捩れ歪み黒狼は転移した。

 

「マジかよッ!! ゾンビ一号!!」

「ッ!!!!」


 瞬間、だった。

 一瞬で、反応が遅れたモルガンにネロが消滅する。

 ロッソは幸いにも、ゾンビ一号が引っ張ることで対処できた。

 村正は直感が働いたのだろう、運よく回避ができたのだが。

 ヒュドラの攻撃が、それで終わるはずがない。


「動きやがったなっ!!? しかも威力も太さもあのヒュドラとは桁が違ぇ!! 殺意の塊、まさしく固定砲台じゃねぇか!!」

「グッジョブ、ナイス回避!!」

「黒狼、彼を犠牲にして逃げます!!」

「HPが減少してる……!? やっぱり、毒はどうにかできても死の呪いが厄介ね!!」


 モルガンの消滅はすでに全員確認済み、ネロは最初から戦力と見做していないため全員無視している。

 この状況を受けて、黒狼は焦りに焦っていた。

 泥沼が如き地面を駆ける、村正は空中で飛び回りながらも巧みにヒュドラのブレスを往なしているがまず間違いなくこのままでは互いに死ぬ。

 ゆえに黒狼は決断する、もとより短期決戦が命の戦いだと覚悟を決めた。


「『環境適応:猛毒』!!!!!!!」


 毒を、操作する。

 此処こそは彼の領域にして、彼の戦場。

 毒に適応し、毒のダメージを受けることを許容した結果の共存の末。

 環境に適応した彼は、一気に前に進む。


「手前っ!!」

「無謀よッ!!?」


 二人の言葉に、背中で答える。

 任せろ、と。

 任せておけと、背中で返す。


 瞬間飛来する毒のブレス、二本目のブレスを黒狼はギリギリで回避した。

 そもそも、ステータスが違う。

 相手がいかに最強がごとき猛毒を撒き散らそうとも、黒狼はそれを対処可能な程度には成長している。


「逃げて、『騎士の誇り』!!!」


 そして、ゾンビ一号も手札を切る。

 ロッソを片手で放り投げながら、騎士の誇りを使用することでヘイトを稼ぎ村正に向かっていたブレスを自分の方に収束させた。

 死の概念が詰まった猛毒、常人においては絶死のそれであっても不死者の二人にとっては格好の的だ。

 確かに正面から受ければ死ぬ、だが正面から受けなければいくらでも対応可能。

 襲いかかってきた毒に対し、超高速で地面を走り抜けることでそのブレスを回避する。


「『我が道にそれは在らず』」


 かの騎士王はエクスカリバー地面に向けることで空中での立体機動を行った、バカの所業であり非合理的ではあるが確かにそれは有益だっただろう。

 しかし、バカの所業には変わりない。

 だが確かに、それは黒狼にインスピレーションを与えた。


 なおのちに、モルガンはアルトリウスに聞いたらしい。

 光の集合体であり衝撃そのものがないエクスカリバーによる光の砲撃でなぜ空を飛べるのかと、回答は何となく出来たであり。

 モルガンはバカらしくなりその後彼に質問したことはないとのこと、やはりトップ層は頭のネジが数本飛んでるのがデフォルトなのだろうか。


「『我が胸にソレは有らず』」


 地面から飛び上がった瞬間に、自分の足の真下へブレスが横切る。

 だが同時に、三本目のブレスが到来した。

 地面に落ちながら、毒を用いて壁を作成する。

 一時的に毒を操作し、厚さ1メートルを上回る壁。

 しかし、それでも継続的な防御は不可能。


「『されど、我が名を持って告げる』」


 恐ろしいほどの速度で、黒狼を弄ぶ二つのブレス。

 これで一本がゾンビ一号の方へと向いていなければ、まず間違いなく回避不能となっていた。

 少しの安堵と、それ以上の焦りを持ちながら。

 黒狼は、ヒュドラを睨む。


「『万象を照らし光り輝く極光、あり得ざる十三よ』」


 魔法陣が完全な形で形成される、黒狼は魔力を一気に注ぎ込み指先にエネルギーを収束させ。

 突破された壁に対して、黒狼はダークシールドで対抗する。

 ギリギリ、どうにかなる。

 最後の詠唱が完成するその一瞬だけの、時間は稼げる。


「『今ここに、あり得ざる光を放て。【光り輝け(エクスカリバ)悪虐の聖光(ー・アコーロン)】』」


 タッチの差、指先に触れるか否の間の瞬間。

 そこで黒狼は、確かに放った。

 『光り輝け悪逆の聖光』を、ヒュドラに対して。


 黒狼の体は一瞬で背後に吹き飛ばされるように動き、ヒュドラのブレスは切り裂かれていく。

 そのわずかな空間を、村正が走りロッソが宙を飛んで進んだ。

 黒狼の意思は、黒狼の目的を理解していたのだ彼らは。


「お前の注意は俺に向いている、そしてその俺が背後に飛べば安心するよなぁ!!」


 そう、()()()()()()()()()()()()()

 ヒュドラは取るに足らない二人から注意を外す、少なくとも数秒間は。


 強化されたステータスを持つ二人が走り抜けるだけならば、その時間は十分過ぎた。

 ふっと、そんな風に笑いながら黒狼は消滅する。

 流石に、ダークシールドなしでこの量の光を受け切るには未だHPが足りない。

 すなわち、残る結末は死しかない。


「生きろよ? ゾンビ一号」


 消失する中、黒狼はそう笑う。

 十秒だ、10秒さえあれば黒狼は復活可能だ。

 

 誰よりもその特性を理解しているゾンビ一号は、そのまま地面を蹴り飛び上がった。

 耐えるだけ、で済むはずがない。

 耐えるだけをできるのならば、もうすでに行っている。

 それができないから、こうして真面目に戦っているのだ。


「無茶を言いますね、黒狼!!」


 四本のブレスで狙われながら、地面を超高速で駆け抜けるゾンビ一号。

 飛んでくるブレスの余波を剣で弾きながら、そのまま地面を滑っていく。

 そう、滑っている。

 魔力で足を薄くコーティングし、沼の上を滑っているのだ。

 その速度は波の移動速度の比ではない、だがその速度と同等の速度でブレスが迫っておりコーナーで差をつけるしかなくなっている。

 そこで体のインド人を右に持っていきながら、急ターンを決めるゾンビ一号。

 重力により体がバラバラになりそうなほどの衝撃を受けつつ、迫るブレスを薄皮一枚切り裂かれながら回避を達成。

 残り3秒、余裕はない。


「本当に、全くッ!!」


 飛来する余波を、『極剣一閃』で破壊。

 だが足を止めざるを得ない状況に陥った、万事休す。

 囲まれたのだ、ゾンビ一号は。

 これではどうしようもない、回避は不能。

 逃げる手段を、ゾンビ一号は持ち合わせていない。


(腕を犠牲に、いえ無駄ですね。腕から死の呪いが侵食してしまう、あの雑魚ヒュドラとは比較にできないほどの呪いの密度です!! 死そのものである概念、深淵の女神が一柱である彼女がいてもこれでは……!!)


 死亡は確定的だ、外的要素がなければ。

 それこそ、黒狼が復活しなければこの局面で生存することは不可能。

 否、復活したところで無理である。


「うむ、即ち余の出番であるな!!」


 だから、ゾンビ一号は驚き。

 そして、目の前で蒸発したヒュドラの猛毒のブレスを見て再度認識する。

 そこにいる、そこに立っている。


()()()()()()()()()()、即ち燃え上がるほどの激情こそ余の到達点!!!」


 そこにいる、ネロ・()()()()()()を見てゾンビ一号の顔は歪んだ。

 その現実を、認められないように。

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