表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

218/359

Deviance World Online ストーリー5『Re:ゼロから始める迷宮攻略』

 なんやかんや、合計7時間後ぐらい。

 黒狼率いる六人ぐみは、再集結したのだった!!


「あー、やる気湧かねー」

「話を聞けば嫌な予感がますます増えるわね、本当に面倒だし最悪よ」

「いくつか修正は致しましたので問題はないかと、魔術に関しての共同開発は行いませんが」

「戦力不足甚だしいですね、レオトールが1人居れば十分なのに」


 事実でもそういうことは言っちゃいけねぇよ、とゾンビ一号を嗜めて黒狼は目に光を宿し直す。

 面倒だろうが、あの王曰く結末は確定しているらしい。

 ならば、突破は容易いと思いたいところだが事実はどうだろうか? 全く人生という迷路に迷っているのに間違いはないだろう。


「じゃ、いくぞー。覚悟きめろよ、ばっきゃヤロー」

「言われずとも」

「安心して、普通にあるわよ最初から」

「うむ!! うむうむ!!」


 じゃ、問題ないな。

 そう笑いながら扉をくぐり、そしてアナウンスを耳にする。

 何度も聞き、二度と聞く気のなかったアナウンスを。


〈ーー資格を確認、本資格者不在ーー〉


〈ーー特殊大敵(エクストラボス)、座する獅子ーー〉


〈ーー『Ⅻの難行』、(始まり)の難行を開始しますーー〉


 そのアナウンスとともに、目の前に一つの獣が生誕する。

 名はない、ただし呼び名はある。

 ネメアの獅子、ギリシャ神話に登場するあらゆる武器を通さない獅子。

 かのヘラクレスが真っ先に受けた難行が一つ、人類の叡智を否定する獣。


「……、いくぞ」


 地面に爪を欹てて、一瞬で速度で迫る。

 だが、過去に一度は見た獣。

 黒狼ならば、対処は容易い。


「『抜刀』」


 カウンター、其れを行う。

 音速に迫るかのような速度に対抗するのは、黒狼が放つ骨の斬撃。

 威力の相殺としては不十分、しかし二の矢を放つまでの猶予にしては十分以上。


「『騎士の誇り』」


 ゾンビ一号の、スキル発動。

 強制的に、ヘイトが向けられる。

 理性でも獣性でも制御などできるはずがない、これは世界のシステムを用いた強制的な意識の誘導なのだから。


 一瞬地面に足をつけ、急転換してゾンビ一号に迫る。

 しかしゾンビ一号にその爪は届かない、届くはずがない。

 彼女の剣技はスクァートのもの、その程度の絶技など容易く行えないはずがない。

 大きく、威力を逸らすという側面からも大きく体を翻し地面に着地する獅子。

 

 そうして睨み合う均衡を崩したのは、モルガンだった。

 モルガンの魔術が飛来し、ネメアの獅子に無効化される。

 その様子を見てやはり、と呟いた。


「やはり、属性を霧散もしくは何にも影響させることができない属性に変質させる魔術を用いているようです。打撃でHPを減らすか、もしくは擦り潰すか以外では倒すのは難しいかと」

「拘束は? 現象として現実化している土や水なら不可能じゃないはず」

「迷宮属性により固形化しているため迷宮属性を用いて変形させなければまずまず不可能です、そして迷宮属性は私でも干渉ができません」

「流石魔女!! できないっていうのに何文字使ってるのかしら!!」


 まるでドイツの歴史書だ、というツッコミは飲み込んだほうがいいだろう。

 そもそもこのご時世だ、ドイツという名前を知っているほうが少ない。

 数百年前とはいえ、旧国家というか旧地球の歴史はもう貴重と言ってもいいだろう。

 過去の事象を探るのならば、やはり文書化された書物を探り当てるしかないのだ。


「どうする? 殺せそう?」

「むぅ!! 心象を開く必要は無かろうとも倒すのに手間は必要であろうな!! これは!!」

「儂も手を出してぇな、これは」


 消極的に手を出そうかと画策するネロにロッソに村正だが、ゾンビ一号の見事な剣技で防がれている状況を見て手を出す隙がないと諦める。

 一撃で、押し潰せるのならなんでもいいが其れができれば苦労はしない。

 というか、押し潰せないからモルガンも魔術の発動を躊躇っているのだ。

 折れた刀を再生し、手出しが難しいと悩むメンバーを見てため息を吐く。


「おい村正!! お前は前に出張っとけ、ついでにロッソは罠の用意だ!! 最後にモルガン、視覚を奪え!! 状態異常は無理かもしれないが目の周囲を暗闇で覆うぐらいはできるだろ!!」

「なるほど」

「理解したわ、了解」

「ふん、確かに押し留めれるのならそうしたほうがいい」


 連携のれの字もないメンバーを見ながら指示をする黒狼に脅威を感じたのか、もしくはスキルの効果が切れ始めた結果黒狼にヘイトが向いたのか。

 どちらでもいい、どちらにせよ結果は確実である。

 超高速で迫る獣を前に、黒狼はモルガンに目配せを行う。


「『ダークシールド』」

「視界を、奪いましょう『サミング』」


 黒狼のダークシールドに直撃し、その目には濃密な闇がまとわりつく。

 革に、それ以上に肉体に接触しなければそもそも掻き消されるはずがない。

 

 目が見えない、その恐怖は想像を絶するだろう。

 隙が発生した、そこに村正の刀が奔る。


「ちぃ!! 切断できねぇな、此奴め!!」

「魔法陣も設置型は掻き消されるわ、本当に厄介極まりない」

「ラァ〜、うむ!! バフの意味も無し!!」

「流石の身体能力、およそ180km/h以上でなければ命中もしない」


 呑気にそんなことを言う集団を見て結局の悪い顔で、青筋を立てるゾンビ一号を見ながら黒狼は地面に足を踏み込んだ。

 そのまま、流れるように刀で切りつける。

 狙うは顔面、口でも目でもどこでもいい。

 革のない場所こそが狙い目となる、しかし現実はそうもうまく行かない。


「チッ、避けたか」

「よく狙いましたね、質量攻撃を行うほうが容易いと愚行しますが」

「じゃぁ、やれよ」

「誘導は任せました」


 直後、モルガンはスキルを発動する。

 スキル名は、サンドボール。

 上位スキル、もしくは亜種スキルと言い換えてもいいだろう。

 土スキルの変則的なスキルを発動し、その過程で必要以上の魔力を注ぎ込んでいく。

 徐々に、という速度ではない。

 脅威的な速度でサンドボールは膨れ上がり膨張していく、彼女のいう質量攻撃とはまさにこの通りなのだろう。

 しかしこれでは速度が出ないのではないか、そう疑問に思う黒狼だが何やら小細工を仕掛けているのを見て口にするのはやめた。


「ふぅん? その方法で行くの? じゃぁ、相乗効果を狙いましょうか」

「おや、邪魔はしないで欲しいですね」

「何をいうのかしら、そもそも其れじゃ途中までは良くてもそこまでじゃない」


 2人の会話を聞く、そしてロッソの方へ視線を向ける。

 ニヤリと笑い、装備を換装した彼女は一気に魔法陣を大きく展開した。

 モルガンが魔力量による卓越した1を放つのならば、ロッソは汎用化された100を用いる。

 系統も手段も全くの別物、しかし及ぼす結果は同じ舞台であるのならば。

 結果を混合するのも、また可能。


「『渦巻け、【水天華混】』!!」

「では添加します、『振動する【サウンド・ウェーブ】』」


 量にして数トンにも及ぶ砂が放たれ、そこに莫大な量の水が発生し、音によって意図的にネメアの獅子だけを拘束する。

 いくら魔法魔術を無効無力化するとはいえ、もっぱら程度が存在している。

 確かに直接拘束するために物質的なものを使えばその魔術魔法の効果は失われ、ボロボロと容易く壊れるだろう。

 しかし、戦う場所全てを覆うだけの魔法を使い魔法や魔術として最初から操作しなければ簡単に拘束はできる。


「窒息死させる?」

「面白くはないですね、残念ながら」

「殺せたら一切問題なし!! チャチャっとやっておしまい!!」

「なんでそんな変な言い方をしているのですか? 黒狼」


 しらねぇよ、などと宣いながら浮き上がってきた砂に身を任せる。

 ロッソが制御している姿を確認できたのだ、水が黒狼を包み込み一気に砂の影響がない場所まで押し上げた。

 ふぅ、と一息をつきつつHPバーを表示させた上でいつ死ぬかとゆっくり観測する。


「まぁ、普通に強敵だったな」

「ですね、本当に」

「倒した気でいるんじゃないわよ、今にも起き上がってきたらどうする気?」

「しねぇだろ? 手前らなら」


 少し顔を赤め、まっすぐ村正を見れなくなったロッソとは反対にモルガンは念の為と言いながら巨大な石板を数枚作成し砂の上に設置していく。

 コロッセオ、闘技場と言い換えるべきこの場所はそこまで大きくはない。

 10メートル程度の板を数枚作成すればそれだけで全面を終えてしまう、無論隙間は多かれ少なかれ存在するが。


「しかし元気ですね、あの獣」

「対処があれより遅ければ私のSTRでは防げませんでした、剣の弱点としてやはり追撃能力の低さが挙げられますね」

「一撃で殺せりゃなんの問題もねぇんだがな、其れを極めた刀は脆すぎるし話にもならねぇ」

「量産は不可能なのですか? いえ、不可能なのですね。残念です、その刀を壊してもいいのならば解析したのですが」


 物騒な発言にモルガンの頭を小突きつつ、全員が埋まっているネメアの獅子の様子を確認している。

 突破は、されそうにはない。

 だが、其れでも不安があるのは間違いないだろう。


「やっぱしあの規格外、マジで規格外なんだな」

「まさか鎖で簡単に拘束していましたが、普通はできませんよね? あんな芸当。ステータスや知識が増えたから余計に、本当にあの規格外は化け物しています」

「レオトールって人? この獅子を鎖で拘束したって言ってたけど本当なのかしら?」

「マジマジ、おおマジだよ。あの時は流れで気にしてなかったけど、普通に考えてあのレベルの動物を拘束できるってマジで何もんだよ」


 一応、黒狼の知っている肩書だけで話せば征服王の傘下の1人にして伯牙という肩書きを持つ貴族ということのみだ。

 正式な肩書きで書き直せば、征服王の双腕の一人にして北方で最も過酷な大地に住まう臣民をまとめ上げる伯爵でありながら傭兵団『伯牙』を率いていた人物にして炎竜帝を殺した立役者である。

 仰々しいにも程があるが、強さに見合うだけの肩書とも言えるだろう。


「是非、教えを乞いたいものです。特に近接戦は私の不得手とするところ、せめてアルトリウスと戦いが成立する程度に近接戦闘能力が欲しい」

「うーん、まぁ頼めばいけるだろ。無理強いには強いが契約には弱いし、契約を結べば普通に教えてくれると思うぞ」

「優しいのね、その人」

「ふひゃひゃ!! おい聞いたか!? あいつが優しいらしいぜ? 笑わせてくれるよ」


 嘲笑い、嘲笑し、侮蔑する。

 あの傭兵が優しいはずがない、もしも優しいと感じたのならそれは黒狼を正しいというようなものだ。

 あの傭兵はどこまでも冷徹無血であり、依頼であればどこまでも。

 其れこそ地の果てまで追いかけてでも殺すだろう、そんな存在が優しいはずがない。


「……予想外に耐えますね、転移魔術で空間断裂を引き起こすべきでしょうか」

「うーん、ありっちゃありだな。けど、もしそれで殺しきれず砂上に上がってきたらどうする?」

「確かに、愚考でしたね」

「加熱するのも辞めておいたほうがいいわね、私たちまで焼かれて死にかねないわ」


 困った、と言った様子の三人。

 ネロと村正はその会話に加わらず、後ろで指遊びをしている。

 どうやら飽きたネロに村正が付き合っているらしい、ある種微笑ましいものだと黒狼は思いながら村正に声をかける。

 一応、念の為というものだ。

 黒狼は呑気に質問を投げかけ、村正は適当に返答する。

 どちらにせよ、この瞬間で即座に殺す手段はない。


「ま、いっか」

「放置すれば必ず死ぬものですものね」

「じゃぁ、ゆっくりあの王様について話す? 少なくともモルガン、貴方何か発見しているのでしょ?」

「一応は、しかし生憎と望むだけの回答は用意できないかと思います」


 モルガンは、あの王によって首を切り飛ばされていた。

 しかし、部屋を出た後に再度接着している。

 この事象、この現象に関して黒狼は尋ねていたがその時ははぐらかされていた。

 しかし、時間を用いて解析を終えた現在はどんな現象が発生していたのか、その半分程度は説明できる。


「一つ、あの剣に関してですが……」

「ありゃ、妖剣聖剣魔剣の類だ。しかも相当古いな、見れただけでも幸運物。普通は一生かけてもお目に掛かるこたぁ出来やしねぇよ」

「そうでしょうね、真っ当な解析ではそもそも弾かれるので世界に対する影響によって測りましたが……。まさしくあの剣が与える影響は規格外でしかない、あの王の力ではなく武器の力として一度振えば使用者の肉体を強制的に支配するほどの魂の核が高い」

「マジかよ、どうにか奪えなかったかなぁ?」


 不遜にも、そう呟く黒狼だが本人が一番其れを理解している。 

 不可能だと、そんなことは不可能であると理解しているのだ。

 理性でも、本能でも、生きているからこそ不可能だと理解している。


「後天的に魂が宿ったのでしょう、其れも恐ろしいほどの大戦を乗り越え剣に執念と意思を託しそれでも尚勝ったとは言い難い。そんな、古い古い大戦を経て」

「ふぅん、再現性はなさそうね。じゃ、あのインベントリっぽい何かは? 私の解析じゃアレは既存属性では規定できない何かを用いて行なった技術と思っているけど」

「そこは同意見です、問題は規定するための物差しが機能していないところですね」

「魔力量とかじゃ、概要もわからん感じか?」


 黒狼の問いかけに一斉に二人が頷く、流石に素人考えのことでは判明させるのは不可能だろう。

 と、そんな雑談をしているうちに再度HPが減少し始めた。

 どうやら再度酸欠になったらしい、放置すれば遠くない未来で死ぬことだろう。

 だから黒狼は、あのギルガメッシュの話をするのを打ち切りにして直近の。

 そして、この先に進む以上それ以上に厄介な話を始めた。


「さて、どうやってヒュドラを攻略する?」


 その言葉に、モルガンは楽観的にロッソは深刻そうに眉間を叩く。

 最大の難問にして難関、ヒュドラの毒への対処法。

 モルガンは魔術による対処療法を完成させているからこそ、楽観的になっており。

 ロッソは錬金術などによる原因療法を探っている最中だからこそ、深刻に考えている。


「一つ、少なくともヒュドラのリンパ液と血液があれば純粋な毒性に対抗できると思うの。問題は概念として仕込まれている死そのもの、アレは科学的な治療法を用意するのじゃ絶対に無理。組成とか、毒性とかそんなんじゃないわ。あの毒は、触れれば死ぬという概念を浴びているからこそ絶対的な致死性を帯びている」

「すべての毒を最初から結界で防げば問題ないでしょう、その原因療法は無駄にすぎません」

「いや、そういうわけにはいかねぇよ。少なくとも、あの毒は環境を形成している。しかも、イベントに出てきたヒュドラの数倍は濃いだろう毒で。俺の環境適応が不完全だったんだ、まずあの毒性は間違いない」


 黒狼のかたる言葉に、頷くゾンビ一号。

 どうやら彼女も黒狼の言葉に同意するらしい、まぁあの毒の中を移動した仲間だし? そういうこともあるのだろう。

 さて、困った。

 そんなふうに悩む三人の心を知らず、勝手に討伐される獅子。

 武器が通用しない程度であれば、攻略の方法などいくらでもあるのだ。


「とりあえず、私としては誰か一人でも死んでヒュドラの血液サンプルが欲しいわ。其れこそ、DNAが残っていればいい」

「あのー、それって異邦の祝祭に出てきたヒュドラじゃダメなんですか?」

「構わないけど……、いくらインベントリに入れてるとはいえもうすっかり壊れているわよ? 死の概念が強すぎるのか、解体の時に下手を打ったのか知らないけど血清を作成しようとしても無理だったし」

「多分私の血中に含まれていますよ、ヒュドラの血液。吸血行動で捕食した関係で、多少なりとも私はヒュドラの影響を受けていますし」


 瞬間、ロッソがゾンビ一号に掴み掛かろうとし。

 黒狼が足を引っ掛け、それを牽制するとともに。

 モルガンが、彼女の怪我を瞬時に回復させた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ