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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー4『再度の迷宮』

「あっぶねー、死ぬところだった!!」


 復活と共にそう叫ぶ、そのまま上半身を起こし完全に回復した自分の姿を見た。

 敗北? ああ、確かに敗北はした。

 初めての真っ向からの敗北だ、これ以上の恥はない。

 だが、恥は掻き捨て世は情け。

 戦いが始まったあの瞬間から、黒狼は敗北を前提に動いていた。


「モルガンとネロは完全にリタイア、か。仕方ない、相手の強が……」

「私がリタイア、ですか。その眼は節穴のようですね、黒狼」

「おうぁ!? 一体いつの間に!? というか、どうやって!?」

「一応、これでも分身系列の魔術が扱えますので。まぁ、完全に死んだ貴方と違い私に関しては確実に露見しているでしょう。ここを見つかるのも時間の問題だと思います、確実に」


 森の外、平野にてリスポーンした黒狼はモルガンとそう話す。

 確実に気付かれた、という事実とこれ以上に襲ってくる可能性を。

 対策方法は現状無いに等しい、転移魔術に干渉し剰えその転移魔術の発動結果を書き換えるほどの魔術師だ。

 さっきの戦闘は相手の言葉通り、まさしく兎狩りなのだろう。


「で、勝つ方法は思い浮かんだか?」

「無いですね、貴方も妨害を行ったうえであの結果です。ネロの劇場さえ開ければ突破点ぐらいは見えますが、その場合でも勝つのではなく逃げるという行為にしかならない。あれは……、盟主という存在ですか?」

「おそらく? きっと、もしくはそうであって欲しいねぇ」

「なるほど、では再度森へ行きますか?」


 モルガンの問いかけに黒狼は一瞬悩む、そして思考を回したのちに結論へと至る。

 結局は、その行為は無意味になる可能性が高いこと。

 そして、もう一つ。


「いや、いい。というより、おそらく無駄だ」

「なぜ?」

「だってレオトール、あそこに居ねぇもん」

「はぁ?」


 モルガンの驚愕、それに対して黒狼は冷静に返す。

 あの森に居ない、その理由。

 それは論理的なモノではなくただの直感だ、しかし確実にあの森にはいないと断言できるだけの直感である。

 それに論理的な理由を用意するのならもう一つある、あの青年の反応だ。

 あの男がなぜレオトールのことを尋ねた瞬間に殺そうとしたのか、それはレオトールが生きていることの証明に他ならない。

 そして、同様に。

 黒狼の思案は、正解だったという証明となる。

 確実性には乏しいモノの、あの男の様相から黒狼はそう判断した。


「ふむ、なるほど。少し、説得力には欠けますが理解を示しましょう。それで、どうするのです? 次の行動は」

「決まってんだろ? ダンジョン探索だ」

「……理由は、あるのですよね?」

「レベル上げ、それと戦艦の素体となる奴の回収。噂で聞いてるんだがグランドアルビオンの周辺にはあるんだろ? アンデッドしか出てこない迷宮が」


 モルガンの肯定、それにニヤリと笑みを笑みを浮かべながら脳内で計画を推し進めた。

 前提は既に決定している、結末は未だ見えないが時間の問題だ。

 征服王軍、正式な名称は未だ不明ながらその脅威は恐るるばかり。

 しかし、恐れるだけでは何も得られない。

 恐れを超克し、されとて共存することでしか真の進化は達成し得ない。

 黒狼はステータスを開き、息を吐く。

 未来という未確定の天秤、その片方の皿に自分をゆっくりと乗せながら。


*ーーー*


「で? ここが迷宮か、随分敵の数は少ない様だな」

「計12階層の迷宮です、敵の質は変わらないものの敵の数が大きく変わるタイプでもありますので。少ないと侮れば最後に痛い目を見るのは貴方、ですよ」

「そうか? そうか、まぁ勝つし勝てるさ。雑魚如きにやられる程の、雑魚じゃねぇ」

「本気で攻略するのなら相当に労力を必要としますが、貴方がそう思うのであればその通りなのでしょう」


 黒狼の言葉に適当に相槌を打ちながらモルガンは魔術を射出、すると曲がり角の先にいたスケルトンを正確に打ち据える。

 ここは、プレイヤーが過去に発見したアンデットが屯するダンジョン。

 アンデットは弱点を突けば簡単に倒せるため、低レベル帯の人間の丁度良い狩場とされている。


 この迷宮の成立はモルガンの知識でも定かではない、原則迷宮は大災害の後や大量死滅の後に発生しやすいとされるがこの迷宮に限って言えば常に例外である。

 迷宮として巨大化はせず、出てくるモンスターは決して強くない。

 この周囲一帯で死んだ、もしくは消費されたリソースはこの迷宮に吸い込まれているはずなのに精々出てくるのは低レベルのアンデットが無数と言った程度らしい。

 地図もすでに存在しており、攻略はかなり容易と言えるだろう。


「しかし、同じ迷宮かと思ってたが全然違うな」

「はて? 貴方が語る迷宮の特徴であればここしかありえない筈ですが……」

「余りにもオンボロすぎる、俺が見たのはもっと綺麗だった」

「なるほど、それは此処が上層だからですね。下層に迎えばより綺麗になってゆきます」


 なるほど、その様に頷きながら黒狼は刀を抜いた。

 羽虫が迫っている、前には見なかった種族だと思いながらスキルを発動。

 そのまま切り捨て、納刀した。


「存外、動きがいいですね」

「迷宮という環境には適応しているからな、今の俺は三割り増しで調子がいいぜ?」

「環境に適応……? スキルですか?」

「んまぁな? 結構便利だと思うぜ、ステータスの上昇もあるし」


 黒狼の言葉に新発見に驚くモルガン、そんな話は聞いたこともない。

 勿論、これは当然の話である。

 環境への適応、それは基本的に種族の進化か。

 もしくは、長期間極限的な環境に身を晒した末に取得可能なものである。

 黒狼や村正みたいな弱種族であれば兎も角、ソレ以外は滅多に進化を達成することはない。

 そもそも、人外種族であれば人型であるのも珍しいレベルだ。

 スライムなどは長時間をかけても流体状であるのは珍しくない、ある意味弱者に許された特権に近しいものですらある。


「環境適応、ですか。良い事です、この世界は私にとっての未知が溢れている」

「悪いことじゃねぇのか? 全てを知っているからこそ、ストレスはないだろうしさ」

「まさか、ストレスがあるからこそ。負荷が存在するからこそ、私はよりこの世界を楽しめる。貴方にこうして移動手段とされるストレスすら、耐えられるのです」

「うん、すまんな」


 移動手段代わりにされていることは不満だったらしい、とはいえ不満に思わない人間が少ないのは当然かもしれないが。

 若干の嫌味に謝りつつ、そのまま刀を振るう。

 襲いかかってきた羽虫を切り落としつつ、黒狼は息を吐いた。

 レベルが上昇する気配はない、レベルアップはまだまだ遠そうだ。

 そしてこの迷宮も決して難易度は高くない、現在は低レベルとはいえそこそこ進化を重ねてしまっている。

 そう簡単にはレベルアップはないだろう、諦めに近い感情を持ちながら『第一の太陽』のスキル説明も確認する。

 内容は不透明、だがソレでも結構面倒なスキルと察している。


「モルモル〜」

「モルガンです」

「少しスキルの検証したいから可能な限り防御姿勢をとってくれね?」

「なるほど、了解しました。『断界、断絶、私は拒む。【虚の境】』」


 空間が鏡状に変形し、空間魔術が発動したと悟れる。

 信頼があるのかないのか、よく判らないと思い苦笑しつつ第一の太陽のスキルを発動した。

 息を整え、やる気を出す。

 なんと調子がいいことに目の前には3体程度、スケルトンが屯している。


「『第一の太陽』」


 短く言葉を紡ぎ、そして訪れる変化に驚愕する。

 まず、片足が勝手に破壊された。

 全身が黒い霧に包み込まれる、おそらくは闇属性だろう。

 魔力が常に消費され始めた、同時に背中に黒い輪が生成される。

 こんなところで使っていいスキルではない、その事実を認識しながら地面を踏み込む。


 ーーーー瞬間、音をも置き去りにした。


 世界が早送りになる、壁に激突する。

 ステータスの異常な上昇に肉体が耐えられなかったらしい、摩擦で骨が軋み折れ衝突で終わりを悟らせてくる。

 AGIだけでおそらく500は超えていた、そしてその加減ができない。

 脳内に無数の文字の羅列が挿入され始めた、圧縮された権能の全てを垣間見せられる。


 脳が、震える。

 血が、乾く。

 喉が、求める。

 魔力が、蠢き。

 心は、解離し。

 世界は、貴方を認識できない。


「『ーーーーーーーーーーー(嘘だろ……?)、『顔のない人間(ジェーン・ドゥ)』!!?』」


 言語が圧縮され、解読困難な文字列に変化する。

 深淵に侵される、その体が。

 その精神が、彼を構成する骨子の全てが。

 狂気と狂乱の怒涛に包まれながら、立ちあがろうとした瞬間に体の霧が溢れ出し周囲を満たす。


 ソレは、戦争。

 ソレは、敵意。

 悪意に、魔術。

 曇る鏡、故に太陽。


 精神汚染を免れるために黒狼は自分を騙す、そのついでにスキルも発動してみる。

 どうなるかは不明だが、これで悪化する可能性は低いだろう。

 そして自分に起きている状況を俯瞰する様に思考する、いわば自己の三人称化だ。


(さて、どうなってんだ? コレ。頭がズキズキと痛むし、血と闘争を求めてるらしいじゃねぇか。環境汚染、っていうスキルの意味とか一切わからなかったけど絶対これには関係あるだろ)


 至って冷静に、落ち着いて。

 しかし、苦痛に顔を歪めながら自信は平気であると偽る。

 それだけで、痛みはまるで引いていく。

 自分を、心の底から騙しているからこそ感覚も騙される。

 だが、一時凌ぎでしかない。

 このままでは、最終的にMP不足で死んでしまう。

 スキルの解除は儘ならない、行動が全て圧縮されているらしい。

 一つの行動を行おうとすれば、その行動を超えた動きを始める。


「ーーーーー!! ーーー!! ーーーーーーーーー!!」


 そしてよく声は聞こえないがモルガンは興奮しており、場を納める気は無いようだ。

 つまり、頼るだけ無駄。

 諦めて、詠唱を開始する。

 迷宮内には迷宮属性という属性が溢れており、ソレはあらゆる属性からの干渉を防ぐ性質を持つ。

 だからこそ、効果の程は不明だが全力で魔術を扱えるのだ。

 『戒呪』で魔力を吸収させやすくする、そのまま消費魔力を補う。

 ダメ元でやってみれば、案外成功した。

 推論を語る時間はないが、ソレでもなお推論を語るとするのならば迷宮という環境に適応しているからこそ多少の融通が効くのだろう。


 何気に下手なボス戦より緊迫し、切羽詰まっている雰囲気の中黒狼は詠唱を始める。

 右手に魔力を圧縮し、はち切れんばかりに暴れ狂う術式を暴走させてゆく。

 奇跡の惨状、もしくは奇跡の三乗。

 圧縮された魔力が火属性に染まり、権能によって太陽へと変質する。

 権能、概念による熱の膨張。

 一瞬にして、その全身を熱が絡め取り黒狼を内側から焼却し始める。


 だが、遅い。

 異常に、遅い。

 普段ならば一瞬で死ぬはずの致命の一撃であるはずなのに、中々死なない。

 一秒未満以下ではあるが、明白に余裕がある。

 熱に対する脆弱性が消えつつある、その様に予想した黒狼の次の行動は早かった。


 インベントリから左手で棍棒を取り出すと、全力で自分を叩く様に行動する。

 念には念を入れろ、そう自分に叫び全身を可能な限り叩く。

 普通ならば、一秒以下の行動を行うことは不可能だ。

 しかし、ステータスがこれほど上昇し全ての行動が圧縮化されている今ならば不可能では無いだろう。

 恐ろしい速度で全身が砕けていく、HPが恐るるべき速度で消し飛んでゆく。

 そしてそのまま、黒狼は死亡し……。


「モルガン、そろそろ復活よろ?」

「ああ、すみません。話を聞かせていただいてもいいですね、まずあの言語ですが」

「話を聞く気は無いんだな、よし諦めよう」


 復活する、当然の様に。

 そのままモルガンの横に立つと、スキルの効果を確認していく。

 確認、すなわち事象の脳内反芻。

 先ほどの行動、その結果を再認識しそして頭を悩ませる。

 全くの不明、何も知りえていないからこそ何も考察できない。

 水があっても、土がなければ植物は育たないのが通り。

 過程があっても、考証に必要な知識がなければ考察は不可能だ。


「モルガン、お前から見て俺はどうだ? どうだった?」

「……、落ち着きました。それで、先ほどの形態に関しての感想ですか。しいて言うのであれば、貴方が過去に呼び出した神の力を纏っているのではと感じましたね」

「ほう、神の力ねぇ?」

「ええ、神の力。貴方はヒュドラ戦の際に、黒き神を招来せしめました。その黒き神の力、形態と貴方のソレは酷似していましたね」


 その言葉に、黒狼は少し頭をひねった。

 面白い、と言いたげな黒狼。

 その様子はどこか少しワクワクしているかのような、そんな様子すら見受けられる。

 しかし、そんな黒狼だが疑問も同時に沸き上がってきた。


「しかしおかしいな、力を貸すのは一度だけとか言ってた記憶があるぞ? これはどういう風に説明したらいいんだか」

「さぁ、神話関係には生憎と。むしろ、そちらはロッソのほうが熟知しているのではないでしょうか?」

「ん? 何故ロッソ?」

「彼女は未来を作り、時代を変革せんとする魔女です。ゆえに過去を知り、今を知ろうとする。私は歴史に固執しますが、その果ての目的は結局のところ探究心ではなく義を正すため。無窮の叡智を欲する彼女のほうが、この事実に関してはおそらく詳しい」


 モルガンの返答に、黒狼は二人の関係性を再確認する。

 やはり、所詮は同類という話なのかと。

 何かわかったような笑みを浮かべ、少なくともそんなつもりでモルガンを見る。


「気色の悪い、何か言いたげですね? 黒狼」

「いや、傾向が同じ人間ってどうしても似るよなと思ってな? やっぱり嫉妬とかしちゃう感じ? お前もロッソに対して」

「嫉妬? 何故、何故私があの魔女の称号を持つ忌まわしき女郎に嫉妬をせねばならないのでしょう? 私は私、彼女は彼女です。ええ、そのとおり。何故、私は彼女に対して嫉妬していると思ったのか? 黒狼。早く、すぐに、その理由を述べなさい」

「嫉妬してんな、コイツ」


 半眼呆れを隠さずにそう言い返すと、黒狼は魔術を展開する。

 魔力には幾分も余裕がある、回復手段には乏しいがステータスの高さで十分カバーできる範囲だ。

 それにINTが上がった結果か、消費魔力も減少していた。

 気にせず使っても、さしたる問題はないだろう。


「『理を紐解く、その形容は影の剣』『動きたまえ、我が意のままに【舞い踊る黒剣】』」


 影の剣を展開し、そのまま飛ばしていく。

 それだけでアンデットが死に絶え、静寂が訪れた。

 モルガンのほうを振り返ると、彼女も魔術を発動しようとしていたようだ。

 しかし黒狼が倒した姿を見ると同時に杖をさげ、そのまま歩き始めた。


「あまり、遅れないように」

「こっちのセリフだばっきゃろー」


 黒狼の返答に満足げに微笑むと、そのまま黒狼を通り過ぎる。

 その背中を、黒狼もあわてて追いかけた。

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