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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー4『白痴』

 草原の中、草に包まれながら寝転んでいるネロ。

 その姿を見つけた黒狼は、ズンズンと近づいていく。


「むぅ、こうして相見えるとは思いもしなかったぞ!! 黒狼!!」

「よぉ、愉快に転がってるな。ネロ、お久しぶりでいい感じかね?」

「全く、余の歌唱に聞き惚れぬなど酷い話ではないか!!」

「いろいろ用事があるんだよ、な?」


 モルガンに迎え来させ、街の外へと転移させてもらい会いに来た黒狼。

 その視線の先には、転がっているネロが見える。

 片手を掲げ、黒狼は笑いかける。

 それに対して、ネロは詰まらなさそうに目を背けた。


「珍しい、なんで目を背ける」

「余は、今の貴様は嫌いであるぞ? 今の貴様は世を凌ぐほど輝いている。世を超える輝き、それを余は許さない」

「じゃぁ、余計見るべきだろ。他者を視界から弾き出すだけじゃ、いつかお前は致命的な失敗をするぞ」

「その失敗は誰が決めるのだ? 貴様か? 否、否である。その失敗は、余が決める。そして、世は失敗なぞしない」


 そうか、と言いたげに呆れ笑いそのままネロの隣に座る。

 夜の帳は開き始めた、朝焼けが世界を焼く。

 それを見ながら、黒狼は彼女の横に座った。


「珍しいな、お前に話が通じるなんて」

「常に余は話を聞いているとも、うむ!! うむ、うむ、うむ、うむ!!! 余は常に全てを理解しているとも、理解を介しているとも」

「……、そうか。笑えるねぇ、あいにくと比較的真っ当な感性を持っているゾンビ1号の思う感情は一切分からないのにお前のことは手に取るようにわかる。お前や、モルガンや村正やロッソだって。全員の感情を、俺は論理的に理解できる。分かるか? お前、その嘘は俺に通用しないよ」

「ふむ、王を愚弄するのか? 貴様は」


 適当に笑いながら、ネロの手を取る。

 彼女を地面から起こす、そうして背負った黒狼は彼女が何もできないことを良いことにそのまま歩き始める。

 同時に地図スキルを起動、目的地を決めた。



「どこに行くつもりだ? 黒狼」

「村正の棲家、それ以上に必要か?」

「なるほど、大体察したぞ? うむ、それはきっと正解だろう」

「いや、不正解だ。その選択肢は、現在で不正解なんだよ」


 襲いかかってきた獣を一瞥した、そのまま剣も抜かず魔術を発動する。

 発生したのはダークボール、生成された直後にそれは獣の腹に当たり弾けた。

 流れるようにダークバレットを展開して、HPを全損させる。


「ほら、正解だろう?」

「そうか、そうかもな」

「むぅ、酷いではないか!! 世界は余を忠臣としておるのに貴様は余を中心に据えん!!」

「俺が法で、俺が主権だ。バーロバーロ、誰がお前を主権にするかよ」


 ジョークとして言いながら、しかし冷徹な視線を向ける。

 黒狼として、本心で彼はネロを信用したいない。

 いや、誰も信用していないし信頼していない。

 ゲームの相手など利用できれば万々歳、足手纏いにさえならなければソレで十分だ。


「ふふ、貴様は面白いな」


 背中でネロ・クラウディアはその様に呟いた、そのまま優しく黒狼の首に手を回す。

 黒狼はソレを鬱陶しそうに振り解いた、そのまま魔法をさらに使用していく。

 獣の香りがする、血の匂いが芳醇となる。


「良い夜だ、けど少しばかり敵が多くない?」

「何故であろうな? 黒狼」

「お前が原因じゃね? ネロ」

「まさか、そんな事などあるはずがなかろう!!」


 そうかよ、そんな風にシレっと呟き一瞬にしてダークバレットを発射した。

 魔術的、魔法的な練度が向上している。

 何故か、理由は背後のネロが支援スキルを発動しているからだ。

 だが同時に、黒狼は把握する。

 背後のネロが、魔物を集めていることを。


「支援スキル、発動やめてほしいわ」

「うむ? けど、それでは死んでしまう!!」

「死なねぇぜ?」

「うむ!! なるほど!!」


 ピンチにヒットなノリで会話しつつ、支援スキルを辞める気配のないネロに呆れた黒狼は魔力消費を念頭に置きながら魔術の行使を調整する。

 魔術、および魔法。

 その双方が、黒狼の支配によって空中乱舞し襲いかかってくる獣を殺す様は圧巻だ。

 

「多い多い、マジで多い!! 無理無理無理無理ィッ!!」

「おお!! 良いぞ良いぞ!! 良いではないか!!」

「お前も戦えよ!! ネロ!!」

「余は童であるぞ? 童を戦わせるというのか!! 全く酷い話ではないか!!」


 物理的にお荷物なネロを抱え、全力で魔術を行使する黒狼。

 だが成果は芳しくない、敵の数以上に槍剣杖を失ったのが結構な痛手である。

 杖とは魔術魔法を発生させる補助と仕手の役割、機構を併せ持つ。

 黒狼の槍剣杖も例外ではない、確かにその機能を保有はしていた。

 別に火力上昇に寄与せず、別に魔力の消費が変わる訳ではなかったが確かに魔術魔法の発動に関わっていた。

 しかし、それ無き今では能力効率が格段に劣化している。

 経験でカバーしているが、魔力制御の難易度が大幅に上昇していると言い換えてもいい。


「仕方ねぇ!! こうなったら……!!」

「うむ? 何をするのだ!?」

「出て来い!! 俺の友達!!」


 黒狼が叫ぶ、すると周囲の草陰が急にゴソゴソと鳴り出してなんとシャルが登場した。

 血盟『十二勇士』、その盟主にして『冒険王』ことシャル。

 何故ここに!? と驚くネロと黒狼、しかしシャルはそんなことを気にせずモンスターを一瞬で切り裂いていく。


「よーし!! これで一旦終了か? と、よぉ!! 黒狼、久しぶりだな!!」

「な、何故お前はここに!?」

「分かった上で言った訳じゃねぇんだな、ある意味お前のミラクルを引く力はすげぇよ」

「いや、褒められても出せるのは骨ぐらいだぜぇ?」


 自分の骨の刀を差し出そうとする黒狼、それをやんわり断りつつ剣の光を見せつけるシャル。

 無駄に輝いている、鬱陶しそうに見る黒狼とは対象的にネロは目を輝かせていた。

 綺麗、ともまた違うだろう。

 嫌味なく、ただ無駄に輝いているその剣をネロはじっくりと眺める。


「うむ、魂の輝きが素晴らしい!! 其方の剣でなくば余が奪うところであった!!」

「随分な評価だな!! うん、けどコレはオレの相棒なんだ。残念ながらあげることも奪うこともさせないぜ?」

「そんなことはどうでもいいだろ? なんでお前はここにいるんだよ……?」

「ああ、クエストで倒さなくちゃいけないボス級の敵がいてな? 周期発生型っぽいんだけど中々に強いらしいし。とりあえず、今回はワンデス前提って感じだ」


 なるほど、と頷く黒狼。

 ボス級、それはゲーム内でレイドボスコールが発生しないものの明らかに通常のモンスターよりも強いモンスターを指す。

 基本的に長期的なクエストやダンジョンで10階層ごとに出てくるモンスターなどが該当している、またこれは一般的に知れ渡っているので黒狼も当然知っていた。


「ワンデスで済むか? どんな感じ? 相手次第では協力も……」

「いや、いいって。聞いた感じだとそこそこだしな!! 相手の強さ次第だけど、本格攻略する気もないし!!」

「そうか、じゃ!! 俺は今から村正に会ってくるわ」

「頑張れよ〜、場所はわかってる感じか?」


 そう尋ねてくるシャルに適当に返事を返す、地図スキルで位置は把握している以上問題はないだろう。

 多少回復したネロを地面に下ろし、手を引きながら目的地に向かう。

 ついでにネロに話をし始めた、例の血盟の名称に関する話だ。


「俺たちの血盟、そのリーダーが俺になるのと血盟の名称を『混沌たる白亜(カオス・グウィバー)』にする予定だけどそれでいいか?」

「白亜!! ギリシャ!! すなわちロマン!! うむ!! 構いはせん!!」

「OK、結構あっさりだな。後寝るかと思ったんだけど……、なんで?」

「ロマンではないか!! うむ!!」


 答えになっていない答えを聞きながら、黒狼はまたもや襲ってきたモンスターを倒す。

 基礎的なステータスがやや向上しているが、体感はあまり変化していない。

 ネロのバフもようやく発動を止めたようだ、魔物の集まる速度も相当遅くなっていた。


 魔物を倒しながら、入手しているスキルを確認しつつそれぞれのスキルを鑑定に掛ける。

 前回の戦闘から碌にステータスを確認していない、HPとMP欄の上昇は確認していたがそれ以上は全くといった感じだ。

 ネロが剣をインベントリから取り出したのか、振り回している姿を見て微笑ましく? 思いながら歩く。

 

「いい天気だな、ネロ」

「うむ!! ほのかに感じる爽やかさこそ余らが心を躍らせる!!」

「相変わらず訳わかんねぇな、というか聞きたいことがあるんだけど。お前の心象世界? ってやつってどんなんなんだ? 主に理屈とか」

「分からん!! だが人の魂を一つの世界と捉え、その象徴を現実に具象化しているなどと聞いた記憶があるのである!!」


 誰に聞いたのか、それを聞けば本人も分からないと返してくる。

 しかし、その話を聞いて黒狼はある程度確信した。


 絶対碌なことではない、という事実を。


 心象世界、それにおいて現在判明している情報は少ない。

 尚更、使用者であるネロがこんな様子であれば余計だろう。

 しかし、断片的に判明している情報から分かることは個人の才覚10割のものであるということのみ。


「ふぅん? 魔力消費とかは?」

「知らん、魔力を消費するといえども余の心象で即座に回復しているのだ」

「へぇ、永続的な展開は?」

「貴様は心の風景が一切変化しない、などと錯覚しているのであるか?」


 ネロの返答、それを聞き満足そうに頷く黒狼。

 欲しい情報は十分だ、それだけわかればどうとでも対処できる。

 そんなふうに話を聞いていけば、太陽も中天に登りだし黒狼は村正の根城に到着した。

 前回は中腹に転移しており、色々見て回る暇などなかったがしたから見てみれば中々に整備されている。

 石畳に灯籠、今現在では炊かれていないが夜半になれば灯っていた。

 苔が生えている、同時に緑林が生い茂っており正しく和を感じさせる。


 石畳を進み、非常に長い階段を進む。

 朝日が眩しい、だがこれもまた風情だろう。

 照らす直射日光を浴びながら、沐浴が如く階段を進む。

 100をも超えんばかりの階段、ネロは再度早々に値を上げ休みを要求する。

 確かに村正の居拠は高所であり、とてもではないがやすやすと行ける場所などではない。

 ネロのステータスは魔術系に傾倒しており、簡単にスタミナが消耗するのだろう。

 此れもまた宿命、そんな風にも思える諦観と共にネロを背負って黙々と階段を上っていたのだが……。


「む? 黒狼、貴様……。何やら面白いモノを作ろうとしているな!! 余にも教えるがいい!! 魔道戦艦? であるのか? そんなモノ、絶対的なロマンの塊ではないか!!」

「……そうか? まぁ、いいけど。ちょっと待ってな、データファイルを送るから」


 ステータスの操作、それによりロッソに共有したのと同様のモノをネロにも送り付ける。

 内容は複雑怪奇、だがそれでも凡人にも分かり易いようにまとめられている。

 だがその内容を一目見たネロは、VRCに付随する機能を使いより高度に閲覧を始めた。


「おいおい、やめろって。背中で暴れるなよ、ネロ」

「むぅ、構わんではないか!! 智への探究には必要な犠牲などもあるものだ!!」

「不必要だろ、別に必要な犠牲とは思えねぇぞ」

「むぅ、しかし!! しかしであるぞ、黒狼!! こんな()()()()な設計図を修正もせぬものに言われたくない!!」


 ネロのイヤイヤを宥めつつ、黒狼はふと考えた。

 非効率的、というのはどう言う意味だ? と。

 世界最高峰、という訳ではないがそこそこ優秀なAIを用いて演算させ作成した代物だ。

 ロッソのようなこの世界の技術者であれば看破されるだろう欠陥はあっても、基本的な構成としてこれ以上はあり得ないだろう。

 では何故、彼女はそう指摘した? 疑問を用いて思考をする。

 停滞こそは腐敗の達成、とはよく言ったものだ。

 人とは、進み続けるからこそ霊長である。

 だが同様に、進捗こそは盲目の証明という言葉もある。

 つまり、何を言いたいのか。


「どういう事だ? ネロ、説明責任を求めるぜ?」


 つまり、恥を忍んで聞けということだ。

 進みすぎて他者を置いていき、結局孤立するのならばその進捗に意味はない。

 立ち止まりアイディアを発酵させるのも、また必要だ。


「むぅ? 魔力集積回路を知らんのか? これでは魂に刻印された集積回路と肉体の魔力循環経路が大きくずれているではないか!! 此れでは余のスキルの通りや、心象世界からの魔力の通りが……!! いいや、うむ!! なんでもない!! 余の意見こそが絶対であるのだ!!」

「なんでもねぇって、そこまで言っておいてなんでもないは無いぞ。最後まで全部いい切れや、ネロ」

「し、しかし!! しかしであるな!!」

「なんで言えないんだ? 理由次第では許してやる」


 黒狼の高慢ながら慈悲的な態度に反し、ネロは一切口を開かない。

 狼狽、とはまた違う。

 その様子に、少し頭をひねり黒狼は押し黙る。


 別に、言わない言えないのなら構わない。

 だが事情説明もなし、そんな状態では築ける信頼関係も築けるはずがない。

 押し黙り、沈黙を貫くネロに対してかける言葉を思えずまた押し黙る黒狼。

 彼女の思惑は不明だ、しかしここに所属し続けるのならば確実に腹に一物を抱えて居るのだろう。


 周囲の木々に目をめぐらす、知りもしない虫が知りもしない歌を合唱していた。

 星間運航では感じない、四季とやらを感じる。

 知っている語録に今の季節を当て嵌めるとするのならば、今は夏なのだろうか? きっとそうだろう。


「ああ、世界が煩せぇな」


 眩しく、燦燦と輝く太陽を望む。

 気味が悪い、この体がこの風景を知っていると喚く事が。

 遺伝子に刻み込まれた、進化の軌跡がこの情景こそあるべき姿だと叫ぶのが。

 

 未だ、この世界の概要は解明できていない。

 もしも、だ。

 もしも、遺伝子が誤認するレベルで現実世界を演算しているとするのならば。

 この世界を演算する、その機構は現行のマザーコンピューターを上回る。

 本来的には泡沫の夢、無限無窮の宇宙の最奥にして沸騰し湧き立つ原始の混沌の中心。

 あらゆる次元から切り離され、時間を超越した無明の閨房である神なき世界であるはずの此処にそれほどの現実が存在するのであれば。

 それはもはや、くぐもったフルートとオーボエ。

 ソレと共に野蛮な太鼓の連打に合わせて踊り続ける蕃神に囲まれて無聊を慰め、白痴の夢を見ながら増殖と分裂を繰り返し飛び散りながら冒涜的な言葉を吐き散らして玉座に寝そべり。

 齧り付く盲目白痴にして全知全能、万物の創造主。

 敢えてその名を口にするもののない魔神が存在することに他ならない。


 黒狼は、あえて思考をやめる。

 その思考の行きつく先には、何もないからだ。

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