表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

201/359

Deviance World Online ストーリー4『集落』

 口を開く、流れるように嘲笑う。

 すべてを侮辱するかのように、己の名を名乗る。


「黒狼、孤高の黒い狼だよ」


 口に残る感触、己の名。

 いい名前だ、自分で名付けたにしては相当気に入っている。

 その名前を名乗りながら、装備を見入る。


 和洋折衷、むしろ洋服を和式で仕立てたかのような代物。

 なるほど、作成者は村正か。

 口の中で呟き、彼の方入れ具合を理解した。

 だからこそ、殺したのは申し訳なかったかなと呟く。

 すなわち、火に油を注ぐということだ。


「異邦の者、黒狼。そうか、先ほどの非礼、詫びる気はないな?」

「謝るのはどっちだ? アァ? 何回、殺されたと思っている」

「何回殺したと思っている、殺すぞ」

「やんのか、やってやんぞ?」


 メンチを切りつつ、刀を引き抜く黒狼。

 今にも殺しかからんばかりに、喜色の笑みを浮かべた。

 勝つ自信などない、だがゾンビ一号がいれば嫌でもテンションが上がる。

 手札があるのならば、使い手として戦える。


「黒狼、なんで殺意を出しているんですか?」


 しかし、そんな黒狼をゾンビ一号が諫める。

 少し嫌みが混じった言葉に驚きつつ、体の動きを止め刀を回しながら納刀した。

 精神が成熟している、その成長を喜ぶわけでも残念がる訳でもなく無視した。

 いや、無視はしない。

 一言、釘を刺す。


「成長したな、お前は」


 もう言葉を発する気はない、言葉の真意をくみ取れないのならそれでいい。

 別に意味はない、もし理解できるのならばそれはレオトールだけだ。

 理解者である彼にしか、この言葉の真意は分からないだろう。


「あ、ありがとうございます……?」


 含みを持たせた言葉に疑問を持ちながら、そう返すゾンビ一号。

 だがもう黒狼は反応しない、する気がないようだ。

 刀を納投し、ぶっきらぼうに鬼どもに尋ねる。


「テンションが乗らねぇ、何が目的だ」

「詫びを」

「許せ、俺も必死だった。殺されかけてるんだ、当たり前だろ」

「分かっているとも、我々は納得している。だが納得しない存在もいるというだけの話だ、わかるだろう」


 鬼の言葉に忌々し気に吐き捨てつつ、天を仰ぐ。

 村正に似ている、通りを通せば文句を出さない所など尚更だ。

 軽く額を抑え、息を吐き出し。


「手を出せ、握手だ。文明人なら、それぐらいしろ。できるだろ? できないなんて言う訳ないよな?」

「……、構わん」


 若い鬼に手を差し出す、相手はそれを握り返す。

 骨と、肉。

 ソレが触れ合い、互いを許した。


「さて、話をしよう。お前らの家に連れて行ってくれはしねぇか? ここじゃ、色々厳しい」

「そうだな、せめて森の中まで案内しようか」


 太陽を指さし、ダークシールドを見せつければ相手は嫌でも察する。

 骨の見た目で嫌に不機嫌な雰囲気を漂わせつつ、そのように言えば鬼は背後を指さし付いてこいといった。

 ほかの三人は一応の警戒としていたらしい、少し若い鬼と会話をすればそのまま何処かへ行った。

 

 リーダー格、とは違う気がする。

 おそらく本当の意味でリーダー格なのは最後に戦い、地名打を与えたあの鬼だろう。

 与えた、といえば問題はありそうだが……。


「お前の名前は? 教えろ」

「俺の名前? 俊次(としつぐ)、だったはずだ。適当に呼んでくれ、別に決まってないからな」

「俊次、ねぇ? そうかそうか。よろしく、どうせ長い付き合いにでもなるんだ」

「俺としては、早く出ていけという他。それ以上に言いたいことなど、ない」


 切れ目の目をを向けてきて、睨むように敵意を向ける様子を見て笑う。

 ようやく気分が戻ってきた、そんな雰囲気だ。

 自分のテンションが上がっていくのを感じつつ、骨のくせに表情豊かに笑い出す。

 真っ当な敵意、それが心地いい。


「いいや、しばらくは居座るさ。それにお前たちのことも知りたい、いいだろ? ダメとは言わせない」

「チッ、王がいいといっている以上何も言えないのを逆手に取りやがって」

「へぇ? 村正がお前らにとってはそれほど重要なのか、なるほど」

「黙れ、それとも再度戦いたいのか?」


 青筋を作りながらも冷静に詰め寄る鬼を見て、黒狼はここら辺が限界だと。

 これ以上は剣を抜かれても仕方ないと見極める、故に口を一度閉じ肩をすくめて冗談だと返した。

 悪意のあるその様子に、怒りを滲ませながらも冷静に落ち着こうと以下を整える鬼。

 黒狼と直接戦っていないとは言え実力は伝聞で書いている、どうやら本人は負ける気がないらしい。

 

「いいやぁ? 別に、戦いたいとは思わないな」

「なら煽るなよ、全く。調子狂うぜ、この骨は」

「調子なんてくるってなんぼだろ? なぁ、ゾンビ一号」

「調子は安定させたほうがいいと思うのですが……、普通は」


 ゾンビ一号の指摘を嗤い流し、ステータスを横目に馴れ馴れしく鬼に近づく。

 歩き進めれば森の中へ入り、そのまま歩き続ければ家が見えてくる。

 木造建築、その家が整然と並び立ち合間合間には農作物を保管する納屋もあった。

 各地に視線を向けつつ、物珍しさに目を光らせる。

 興味深い、といったところだろうか。

 弱者種族、つまり弱点が多く種全体の数を確保し生物多様性によって種族をより合理化させる類の種族は進化が発生するレベルが低い。

 つまり進化が誘発されやすく、現にこの農村を見ていればゴブリンからほぼ人間と同じである鬼まで多種多様な状態である。

 しかし、その全員が同じ方向性を志し進化している状況を見てみれば黒狼からすれば興味深い話でもあった。

 黒狼はその進化の軌跡のほとんどが定石ではない、その場その場で必要に応じ最も有用そうな進化をしていた。

 だからこそこのような進化の定石を重ねた集団を見るのは初めてであるし、その集団の生活様式に興味を持つのは必然だろう。


「そういや聞きたいことがある、何故表参道を通らずに森の中にいた?」

「表参道? 知らん知らん、イベント帰りに強制的に山中にテレポートさせられて死にかけてただけだ」

「なるほど、俺らにも悪いところはある様子だな」

「まぁ、あの鬼に仕返ししたしそれ以上にやり返すつもりはないから安心してくれ」


 肩を竦め、如何だかと鬼が示す。

 ゾンビ一号は意外にも噛みつかない、黒狼を見ながら何かを話そうと口籠もっているのみ。

 敢えてここで断言しよう、ゾンビ一号は黒狼を愛している。

 創造主、自己に命を与えた者、それ以上に守るべき存在であり、己の使用者。

 様々な理由が存在する、そしてそのすべての理由は黒狼を恋慕するに十分足りうる感情だ。

 だからこそ、黒狼に見てもらいたくて反発するし文句を垂れる。


「黒狼、そんなに呑気に話していて大丈夫なのですか?」

「シラネ」

「適当過ぎません!? 命がかかわってるんですよ!?」

「そう思うならお前が守れ、どうせ俺は復活するし」


 面倒臭そうにそう返す黒狼、明らかに彼はゾンビ一号に興味を持っていない。

 もしやこのままいけば、自分は黒狼に捨てられるのでは? そんな焦燥感を感じたゾンビ一号は焦りを感じた。

 お目目をグルグルと回し、意味のない思考から視野が狭まる。


(ハッ!? もしや女ができたんですね!? あのモルガンという女性ですか!! ソレともロッソという人? いえ、ネロという幼女……。流石にないですね、幼女趣味は)


 愉快な様子だ、だがそんな愉快な思考をしていてもいつでも戦えるようにしているというのは流石だろう。

 しかしそんな警戒とは反対に、周囲が殺気立っているわけでもなければ武器が多いわけではない。

 都市というには規模が些か、と言った様子だが人口は多いらしい。

 普通に子供も騒いでいることから、徐々に警戒心は絆される。

 また一応主人でもある黒狼が無警戒なのも、警戒心を絆すのに一助と言ったところだろう。

 若い鬼と話すその様子に敵意を持ち続けるのはどうか、最近得たスクァートの記憶が言ってくる。


「しかし、良い街だ。ガキは騒いでいて、夫婦も多そうだな? 夜は五月蝿いんじゃないのか?」

「フン、うるさいって物ではない。ゴブリンの種族柄、そういう事は盛んだ」

「へぇ、ということはお前も?」

「……、嫁自慢して良いのなら語り尽くすぞ?」


 その返答に黒狼は笑う、妻帯者らしい。

 見た目、20代前半といった様子なのに中々のプレイボーイだったことは面白い話である。

 下衆びた笑み、もしくは雰囲気を浮かべ妻の話を聞き始めた。

 意外に結構な愛妻家らしい、話を聞けば上機嫌に話し出す。

 数分程度の会話だったが、偏見さえなくなれば結構仲良く話せた。

 となれば次だ、相手のことを知るために自己紹介を。

 そして、疑問を尋ねていく。


「とりあえずお前は何歳なの?」

「年齢か? 5歳ぐらいだ、斯くいう骨のお前は幾つ程度なのだ?」

「うーん、まぁ魂の年齢は25ぐらい。この肉体は一ヶ月程度の赤ん坊だぜ? 嬉しがれよ」

「嬉しがれ、と言われても20近い同胞を殺してくる相手を赤ん坊などと侮れるか。しかし、面白くない話だ。わずか一ヶ月程度のガキに我々は殺されたのかぁ」

「逆に自慢すべき話だぞ、こう見えて俺は結構強いからな。タイマンで戦えば村正といい勝負、ノってたら多分勝ち越すぞ」


 冗談だろ、と驚く鬼に黒狼はマジだと返す。

 ああ見えて村正は結構強い、作り手の癖に担い手として不足無い実力を持つ。

 本人は弱い弱いというが、刀剣の真髄を引き出す技術や刀を利用した独特な魔術様式は黒狼では真似できない存在である証明となる。

 黒狼は借り物にして紛い物の太陽を降臨させる魔術を用いるが、村正の実力を考えれば詠唱中に十分殺してくるだろう。

 まぁ、その程度で負けるとは思えない黒狼ではあったが。


 そんなふうに話しながら道を進めば、広場が見えてきた。

 中心には丸太を切って作った椅子や机があり、子供がいる。

 どうやらその過半数は鬼らしい、ゴブリンから進化したという話だったが。

 醜悪な見た目のゴブリンから発展したはずの鬼は存外に眉目秀麗、人が人なら惚れても仕方ない連中だ。

 合わせてここにいるのは夫帯者だけらしい、何せここにいる子供は人間換算1〜5歳程度の見た目が殆ど。

 そんな子供を見ているということは、つまりそういう事だろう。


「なんで此処だ? 危険人物を連れている、ってことにならないのか?」

「最悪女は攫えばいい、ソレに子供は産めば増える。ゴブリンは多産だ、鬼の子は成長が遅く戦力になり難いしな」

「合理的、とは言えないなぁ? 女を軽く見る奴マジで危機感持った方がいい」

「価値観の差だ、文句があるなら村正さんに言え」


 そうかよ、と言いたげに顔を背けつつ椅子に座る。

 机を挟んで対面すれば、そこに鬼も座った。

 机に肘をつき、話を促す黒狼。

 背後ではゾンビ一号が近くの鬼の女性に話しかけられている、困ったように黒狼を見ていたので黒狼はシッシッと手で追い払っておいた。

 そのまま絶妙に生暖かい目で見てくる鬼に対してヤレヤレと両手を挙げると、耐久度がそこそこ減少していたダークシールドを再展開する。

 そのまま、魔術を展開したことで一層警戒した目の前の鬼を宥めつつ話を切り出した。


「さて、ぶっちゃけ聞くけど村正ってどういう存在?」

「鍛治士だ、合わせてゴブリンというか既に鬼の里になっているが……。まあ、この里の支配者。つまり魔物の王、魔王になる」

「魔王、魔王ねぇ? ソレは称号? ソレとも……」

「称号とスキル、どちらも。ソレに使用すれば相当ステータスも跳ね上がる、一度見たが相当な物だった」


 その評価を素直に受け取った黒狼は、なるほどと言葉を漏らす。

 見た事はない、だが相応にといった話だろう。

 そして、ミ=ゴの拠点を突破するときに話していたことにも合点がいった。

 切り札は二つ、そのうちの一つが魔王のスキルでありソレが嘘ではないという確証に繋がったからだ。


「ふーん、なるほど。まぁ、触りはこの程度でいいか。本命に入るぞ、お前らのこの村。その一角でいい、俺たちで自由にしていいか? もちろん村正にも許可をとってくる」


 黒狼が切り出した言葉、ソレを聞いて目の前の鬼は少し息を呑み考えた後に考えさせてほしいと黙考する。

 一つ、黒狼には考えていたことがある。

 キャメロットに喧嘩を売る、その中で黒狼たちには突破点が存在しない。


 確かに、レオトールは強い。

 確かに、モルガンは優秀だ。

 確かに、ネロは可愛い。

 確かに、ロッソは賢い。

 確かに、村正は名匠だ。

 確かに、ゾンビ一号は成長した。


 しかし、その程度ではキャメロットを攻略できない。

 キャメロットの構成人数は千人以上、その実力は未知数。

 対抗する黒狼たちは、構成人数わずか7名。

 しかも、レオトールの所在は不明であり内部分裂も全然あり得るだろう。

 ソレに、盤面をひっくり返せるだけのモノも存在しない。

 つまり、戦う前から敗北が決定している。

 しかしその詰みである盤面をひっ繰り返せるだけの代物を用意する自信が黒狼にはあった、それだけの手札が黒狼の内に存在していた。


 その切り札、その鬼札。

 すなわち、ジョーカー。

 その正体は、ゾンビ二号だ。


「大きさは要相談だ、そこそこデカい感じにはなるだろうケド。もちろん村正にも相談する、後他に4人ぐらい連れてくる予定だ。つまり予定、明確に作るかは決まってない。ケド、他の奴らが賛成するのなら俺は作りたいものがある。だから、場所をもらってもいいか?」

「……、なら村正さんに。王に対して言ってくれ、空いて居る土地なら王の方が知っている。協力はしかねるが、個人で勧誘する分には自由にしてくれ。王の友達とはいえ、流石に20人斬りした相手をこうも無罪放免はできないから連れてきたまでだ」

「へぇ、了解了解。じゃ、後で村正に聞いてくる」


 黒狼の適当な頷き、ソレとともに再度雰囲気が軟化した。

 考えて居る切り札はモルガンやロッソと話さなければならない、だがもし許可できるのならば面白いことになるだろう。

 そして、これ以上ない象徴にもなりうる。


 早速後悔し始めた、ゲームをやめようかと考えたことを。

 この世界のいいところは、どれほど犯罪を働いても黒狼の問題であり黒前真狼の経歴には関わらないこと。

 つまり、どれだけ非人道的な行為を働いても文句は言われない。


 そして、もう一つ幸運があった。

 黒狼が所属した血盟は、生産主体のメンバーが殆どだ。

 生産能力は力に直結する、人手の少なさは目立つがこれだけの優秀な存在が揃っていればソレすら覆せるだろう。

 また少数といえば聞こえは悪いが、少数精鋭と言い換えればそうでもない。

 黒狼はニヤリニヤリと笑いながら、取らぬ狸の皮算用を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ