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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー4『オニ』

 息を吐く、溜め息が溢れる。

 目の前の男を本当に、リーダーに据えていいのか疑問が残った。

 だが、構わないだろう。

 そんな、明確な確信もある。

 その迷いは、村正に必要な迷いだ。


「おお、スッゲェ!! 刀を作成できるっていう説明だけだったからなんも分からなかったけど、全身を刀にすることもできるんだな!?」


 目の前で、頭と魔石以外を刀に費やしているバカを相手にする気力はない。

 いや、消え失せたというのが正解か? 村正は面倒になりそのまま手に持っていた槌で殴りつける。

 彼の弱点に関しては聞き及んでいる、打撃属性の攻撃には非常に弱くだがその攻撃が死因となれば即時復活するという話を。

 現に一瞬後に、黒狼は復活し村正に声を掛けてきた。


「さて、改めて久しぶり? もしくは昨日ぶりか?」

「阿呆、ゲーム内ではもう既に三日も経過してらぁ。その様子だと、インベントリもろくに見てやしねぇな? 早く彼女を連れ戻したほうがいいんじゃねぇか?」

「え、あ、マジだ。今ここで呼んで大丈夫?」

「構いやしねぇよ、それにまとめて話したいことが幾つかあらぁ」


 村正の許可を得て、そのままゾンビ一号を召喚する黒狼。

 さて、そんなここは何処かと言えば山中に存在する武家屋敷。

 改め、村正の工房である。

 中では鬼、おそらくはゴブリンが進化した後の連中が一応とはいえ客人を持て成すために右往左往していた。

 それを横目に、黒狼は出された茶を断りながらインベントリを操作する。

 しばらくの選択、その後に現れた光の渦。

 そして、登場したのは生肉を頬張り返り血塗れのゾンビ一号だった。


「……」

「………、えっと」

「あ、これ食べ終えますね」


 ムシャムシャ、バキボリ、ゴキッゴキュ。

 そんなオノマトペが似合う食べ方で生肉……? どちらかといえば、節足動物の肉を食べているようだが。

 兎も角、そんな風に肉を食べたゾンビ一号はゲップを堪えながら状況を確認する。


「とりあえず、彼は敵ではないんですよね? 黒狼」

「それでいいぞ、ゾンビ一号」

「手前らなぁ、随分と仲が良さそうだな」

「まぁ、な?」


 黒狼がそういう風に返すと、村正は首を振る。

 そういう類の返答を求めていたわけではない、もう少しマシな返答はできなかったのか?

 文句をいう気にもなれないが、かといって黙るのは少し違うとばかり眉を潜ませ不機嫌そうな雰囲気を出す。


「とりあえず、手前が去った後で斯々然々という結果になった」

「なるほど、分からん」

「ちっ、真面目に説明するべきかぁ」


 村正が面倒臭そうに眉を顰めて、状況の説明を行う。

 それを聞いた黒狼は最初こそ愉快そうだったが、だが話が進むにつれて骨ながら表情が険しくなっていった。

 面倒になる、予感ではなく確信が黒狼を襲いため息を吐いた。

 どうすればいい? どうすればいいというのだ。

 ただでさえ、人の機敏には疎い黒狼。

 こんな面倒を仲裁できるほどには、少なくとも黒狼は他者と関わってなどいないのだ。


「とりあえず、ヤバいな。このままじゃ内部分裂が発生しそう、とりあえずその話を又聞きする限りモルガンが悪いっぽいように感じるが……」

「まぁ、そこいらは出逢った時に話せばいいだろうよ。あの魔女も魔女で冷静さに欠けるところはあるものの、最低限には大人だ。出会って即座に殺し合い、ということにゃぁならんだろうとも」

「そう願いたいモンだねぇ、で? 俺の聞きたいことを聞いてもいいか?」

「構わんさ、別段儂には隠すことなぞねぇよ」


 村正の言葉に、黒狼はそうかと一言区切る。

 そして、先ほどの鬼たちの会話を思い出した。

 彼らは確かに、村正を魔王と呼んでいた。

 何故? なんで鬼は、村正を魔王と呼んでいた? 

 疑問が脳裏を走り、そのまま言葉に変換する。


「お前が魔王って、どういう意味だ」

「そいつは別段難しい話でもねぇ、儂はゴブリンに生まれそして刀を作るための鍛冶場を作るために人手を欲した。そん時に見つけた重宝している労働力が、まぁゴブリン達って訳よ」

「成り行きで王になったって言うことか?」

「そんなもんだ、ついでに魔王ってスキルも獲得しちまってやがらぁ。効果は配下の数と忠誠によって儂が強くなるってもんだが……、デメリットもあるし儂にゃぁ無用の長物ってわけだ」


 二つの切り札、その片方の正体を知って息を吐く。

 たかが鍛治士、などと舐め腐っていたわけではないものの鍛治士とは到底思えない戦闘スキルの豊富さ。

 そして、その戦闘能力に黒狼はより一層警戒を強める。


「しっかし、まぁこうしてみると。宛ら其処の彼女は借りてきた猫が如き、だなぁ? 吸血女」

「何か問題でもありますか?」

「いや、無ぇ。無ぇけどよ、惚れてんのか? その男に」

「まさか、無いだろ。道具が使い手に惚れるなんてこと、あるわけないだろ」


 嘲笑のように黒狼が嘯き、村正はゾンビ一号の様子を伺う。

 村正は、黒狼の主張を嘲笑っていた。

 道具に感情が宿らない? ソレは詭弁というものだ。

 道具にだって感情は宿っている、でなければ何故妖刀が成立するのだろうか。

 感情があるからこそ、執念が宿る。

 執念が宿り、妖刀が成立する。

 無機物である道具ですら、そうなのだ。

 動いて、喋り、生きている存在に心が宿っていないなどあり得るはずがない。


「その態度、いつか背後からざっくりやられても儂は知らんぞ」

「お? 俺がモテるって?」

「そういう話じゃねぇ、ったくよぉ。まぁ良い、兎も角だ。手前、血盟の長になると思うから」

「ハァ? 唐突だな、というかそんな面倒なものを俺に押し付けんなよ。モルガンで十分だろ、なぁ? ゾンビ一号」


 意見の賛同を貰おうとゾンビ一号の方へと振り向く黒狼だったが、ゾンビ一号はバカなんですか? というように黒狼を見つめ返す。

 ケッと、言葉を吐き捨てつつ黒狼は面倒そうに村正へ視線をむけ。

 だが、就任する気がないということを確認するとさらに息を吐いた。


「まぁ、良いケド。ソレならモルガンとかと話し合わなきゃなぁ? 最初に誰と会おうか」

「儂のおすすめはロッソだ、奴が一番面倒臭い」

「なんで? あの中なら一番まともに見えるぞ?」

「担い手と作り手、双方の中で厄介な性分を持つのは何時も作り手だ。そして、あの魔女は儂と比べても十分な技巧を持ってやがるだろうよ」


 なるほど、という黒狼に本当にわかっているのか? と疑心の目を向ける村正だったがそれ以上突っ込むこともない。

 どうせ、感覚的な話だ。

 もとより理解を求めた内容でもない、故に其処まで深く突っ込む気もなかった。


「じゃ、どうする? 俺はロッソの住居も知らないぞ?」

「普通に聞けばいいじゃろうが、馬鹿野郎。インベントリを開いて、血盟の場所で聞けばすぐに答えてくれるだろうよ」

「確かに、じゃぁそうするか」


 インベントリを操作して、文字を入力する黒狼。

 ソレを見ながら村正はゾンビ一号の方へと目を向けた、どうやら幾つか聞きたいことがあるらしい。

 静かに座っていたゾンビ一号だがその視線からは逃げられない、嫌々ではあったが確かに耳を傾ける。


「ゾンビ一号、手前は前回モルガンとロッソに喧嘩を売ったな?」

「はい、確かに私は喧嘩を売りましたね」

「容易く認めやがったな、糞め。さて、手前は現状儂の中で信用ならん。黒狼は和を乱すが、常識は弁えてる。だが手前は餓鬼が如く喚く癖がある、一度は見逃したが二度目はねぇ」

「待て、村正。さっきも話しただろうが、今回ばかりはモルガンが悪い。違を唱えるのならまずはモルガンを呼ばなきゃ話にならんだろ、それにこいつの責任は俺の責任だ。俺の顔に免じて許せ、許さなきゃ暴れる」


 黒狼の脅し、ソレをやれやれと肩を竦め了承した村正は面倒臭そうに片目を閉じる。

 そして二人の関係性を察した村正は難儀なことにないそうだと諦めるように天を仰いだ、人の心を知らない自分ではこの関係性を真っ当にするのは不可能だと。

 反対では黒狼が囲炉裏に興味を示している、火は消されているがどんな風に使っているのかは想像がついているようだ。

 火かき棒でその火種を突いている、小火騒ぎを起こさなければいいと適当に監視しつつ血盟のチャットを確認した。


 まだ返信はない、なので過去ログを眺める。

 過去ログでは黒狼を盟主に据える場合に行うべきことがまとめられており、その全てはモルガンと会う必要から都市へと侵入しなければならない。

 そしてたいていの主要都市には魔物判別の機構が存在しており、侵入自体は容易いが面倒である。

 村正ですら事情を話して特別許可をもらうまでは一切立ち入ることができないほどだ、ましてやここまで世俗に疎そうな男がソレに対する対策を保有しているとは思えない。

 ソレに隣のゾンビ一号も厄介だ、雰囲気でしかないが彼女は黒狼から離れなさそうな感じがある。

 どうしようか、そんな風に悩む村正だが呑気にステータスを操作している黒狼を見て考えることが無駄だと察した。

 なるようになる、その時に考えればいい。

 その意思と共に、村正は話を切り出す。


「そういや手前、街にはどうやって入るつもりだ? 魔除けの結界の関係で儂らのようなモンスターが侵入したら一発終わりだ」

「マジ? どうしようか、人化の薬って余ってるっけ」

「持ってるとしたらレオトールですね、私はインベントリも持ってないですし……」

「だよなぁ、どうしようか。見た目だけ化けるのなら全然できるんだけど、魔物で弾かれるのならどうしようもない」


 どうしようかといよいよ試行錯誤し出した黒狼、遅いんだよと暴言を吐きたくなる村正ではあるが強い精神力で堪える。

 呑気なのは今に始まった話じゃない、ソレに知らないのは罪だが知った後にどのような行動を取るべきか考える時点でまだマシだ。

 チャットでモルガンは頑張ればどうとでもなるなどと言い出したりするのだ、まだ試行錯誤するだけマシだろう。


「……ったく、この面倒を全部何で儂が背負わねばならん……」


 本人が了承したからこそリーダーを譲れそうだが、もし拒否していれば即座に抜けていたところだ。

 そう言いたげに眉を顰め、黒狼に受け継ぐべき内容を精査する

 元々モルガンは計画性がない、本人の才覚でどうとでもできるからこそ下手な計画を立てる気にならないらしい。

 ではロッソは? 彼女も彼女で忙しいと本人が語っている、特殊なクエストを進行中で血盟での招集なら応じるが中枢に食い込む気にはならないとのこと。

 ネロは論外、となれば自分以外でできる人間はいない。


 雑多に考えられていたプランをまとめ上げ、叩き直す。

 やっていることは鍛治仕事と同じだ、余分な物を叩き振るい必要なものだけ残していく。

 三十分程度もすれば内部の状態を正確にまとめ上げられた、そんな時に黒狼も村正に声をかける。


「村正、聞きたいんだけど。お前ってキャメロットに縁を持ってる? 持ってたよな?」

「んぁ、まぁな? だが儂の推薦で入れるのは無理だぞ。流石に人型でもねぇ存在を迎え入れるほど奴さんは気狂いではねぇ、やるのならこっそりと裏口で入るしかない」

「ふぅん? なるほど、つまりお前はパイプを持ってるんだよな? なら一回ぐらいはどうにか出来るだろ。ゾンビ一号の姿も大きく変わってないっていうし、ロッソにあったら化粧を借りるか。ロッソも化粧をしてたはずだし、いけるっしょ」

「何を考えてやがる? 手前……」


 疑る村正だが、黒狼は秘密だと言ってニヤリと笑う。

 半ば、殺意を滾らせて。

 しかしその殺意の無意味さ故に吐き捨て、息を整えた。


「儂は刀を作らなならん、奥に入っとくから手前らは適当に寛ぎやがれ」

「了解、一先ず下山したいんだけど案内人とか付けてくれないか?」

「無理だ、と言いてぇところだが適当な鬼に声をかけろ。敵なら徹底的だが味方なら異様に可愛がってくれる、話せば悪い奴でもねぇ」

「そりゃ有難い、色々申し訳ないな」


 これも儂の仕事だ、そう言いたげに目線だけを向けると村正は屋敷の奥へと入っていった。

 ソレを骨ながら、いや骨であるのにも関わらず明確にわかる程度にニヤニヤと笑いながら黒狼は見送る。

 そして、身辺の武装を整えると黒狼は息を吐いた。


「さて、やるか」


 何を、そう聞こうとするゾンビ一号だったが溢れ出るその雰囲気に圧倒される。

 黒狼のテンションは現在、爆上がりしていた。

 先程まで殺し合っていた相手とはいえ、純粋な戦闘で黒狼を軽く上回る規格外ども。

 一体どんなカラクリか、そして交友関係を持ちたいという思いからそのテンションは非常に高い。

 息を弾ませ、心躍らせ、骸ながらにテンション高く部屋を出る。

 入った時は縁側からであり、玄関方面は見ていなかった。

 故にこそ興味津々で玄関の外を見てみるが、その先はまさに圧巻と言うべき光景が広がっている。

 和洋折衷、色取り取りの服を着て歩く鬼に畑を耕すゴブリンども。

 時に子供が走り回り、田畑に突っ込んでは鬼に叱られている。

 素晴らしい光景だ、曰く旧日本国の西暦2000年周辺までは存在していた風景だろう。

 その風景に感動とも言えぬ何かを感じていると、何人かの鬼やゴブリンが騒ぎ出す。

 どうやら黒狼を見て何か言っているらしい、目を凝らせば怪我をしている者もいる。


「ああ、そうか。俺が殺したんだな、そういや」


 何気なく、昨日の晩飯を思い出すかのようにあっさりと言いゴブリンたちに近づいて行く。

 鬼の連中は眉間を顰めて見ているだけだが、ゴブリンたちは口々に騒ぎ立て始めた。

 言語スキルのレベルが低いのか、決して上手くはない言葉の数々。

 だがソレら全ては黒狼を呪うかのような言葉に聞こえる、いや実際に呪っているのだろう。

 仲間を、子を、友を殺した黒狼を。


「どうしますか? 殺します?」

「思考が物騒だな、ゾンビ一号」


 彼女を見ながらやれやれと肩を竦める、物騒な手段に出るとは短絡的すぎると侮蔑しつつ黒狼は奥から現れる四人の鬼を見た。

 それぞれが特異な刀を保有している、特に二人は黒狼にも見覚えがあった。

 言わずもがな、先ほど戦った鬼である。

 警戒心を隠すつもりもなく、しかし手出しはしてこない。

 ただ静かに、睨みつけるだけだ。


 その間、十秒。

 大した時間ではない、ただ明確に時間は過ぎていく。

 張り詰めた雰囲気が、一気に崩れ去った。

 何故か、ソレは四人の鬼のうち最も若く見える一人が口を開いたから。


「異邦の者、名を教え願えるか?」


 警戒心をそのままぶつけたかのような言葉に、黒狼は苦笑しながらこう返した。

 威風堂々、そのままに。


「黒狼、孤高の黒い狼だよ」

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