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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章中編『黒の盟主と白の盟主』

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Deviance World Online 間話『極悪』

 村正たちが洞窟の中に行き、奥の円卓で座っているモルガンを見る。

 円卓、騎士たちを象徴する一つのモノ。

 ある意味最高の意趣返しだろう、何せここで円卓を潰すための相談を行うのだから。


「全くひでぇ場所だな、暗くはねぇがそれだけだ。」

「悪の会議には地下というのは定番でしょう?」

「否定しないけど、地下に追いやられている原因は森が焼けてることよね? それを余計に炎上させてるのって誰なのかしら?」

「黙秘権を使用します。」


 ロッソの追求を雑に対応し、そのまま苦笑いする村正を睨む。

 そしてそのまま土で完成した椅子を用意し、各々が座るように手で示した。

 全員が彼女に示されたように椅子に座る……、訳ではない。

 村正は椅子を一瞥した後、何か気に食わなかったのか椅子を破壊し丸太を用意。

 ロッソは椅子を燃やして安全なのを確認してから、岩石で覆いそこに座る。

 ネロは座った橋から徐々にナニカが侵食し、数秒後には驚くべき玉座があった。

 なお、ゾンビ一号は特に何も変化せずにただ座っただけに落ち着いた。


「……警戒しているのか別の理由なのかは知りませんが、椅子ぐらいは普通に座っていただけませんか?」

「様相が気にくわねぇ、華奢な椅子なんぞ儂の趣味じゃねぇんでな?」

「なんか仕掛けられてそうだし? 貴方のことだから余計なこととかしそうじゃない。」

「他二人がやっているのなら余もやるしかあるまい!! うむ、そちらの方がカッコいいからな!!」


 馬鹿なんじゃないの? そう言いたくなったモルガンだがその意見を飲み込む。

 雰囲気が終わっている、彼女からは裏切りそうとか悪意に塗れてそうとかの印象を抱かせる雰囲気が醸し出されているからこそ。

 ……実際にキャメロットを裏切ろうとしているから、案外的を居ていると言えるだろう。

 誰が悪いかというと、まぁ彼女が悪い。


「それで、黒狼は一切来る気配が無いわね? 何故かしら。」

「あー、多分面倒くさくなっているのか抑も来る気がない感じですね。あの人やり気がある時は誰も気にしないところまで全力を尽くしますが、面倒くさい時はどんなに重要でも放置しますからね。」

「む? このイベントの時ヤツは殆ど適当であったぞ? つまり、イベントに向けてのやる気がなかったということか?」


 雑に明かされる黒狼のやる気に関する話、だが実際に心辺りがあった三人は眉間を顰める。

 この中で最高に自由人を謳歌しているあの馬鹿に、戻ってきたら説教だなという心がここで一致した。

 しかしそんな中で、ふと村正が苦虫を潰したような顔をする。


「……だが、まぁこの戦いでの大金星は彼奴だが……。」


 その言葉で、再度円卓は凍りついた。

 実際にそうだから本当に世話が焼けない、彼がヒュドラを倒すために行った活躍は明確に最高峰のものだ。

 レオトールから渡された『緑の盟主(ヴェール)』の秘奥、転移魔術の術式効果を込めたマーカーを用い破ることを条件といて作成されたアイテム。

 その効果により、呼び寄せられたゾンビ一号と彼が進化を果たしたことで一度限りの使い切りの影である『黒き太陽』テスカトリポカの召喚。

 その二つの要素によりモルガンたちは勝利を収めたのだ、大金星で済むはずがない。

 ここに来ない事は確かにマイナス点だが、あの活躍と功績に比べれば打ち消しても余りある。

 むしろ、この中での活躍が甘いのはモルガンの方だ。

 何せ彼女はシンプルにヒュドラと直接対峙した時間が短く、活躍をしていない訳ではないが殆どが目に見えにくい功績となってしまっている。

 また明確に現れた功績も、程度としてはロッソと同じ。

 求められている役割に対しての功績がコレであれば、なおさら文句を言う事は厳しい。


「なんか、黒狼っていつもこうですよね……?」


 中途半端に扱いづらい人材、無能ではないがムラが多すぎて安定した性能は求められない。

 そのくせ本人の行動は安定した成果を出すための行動が殆どであり、一見すれば優秀にも思える。

 さらに言えばここの全員が認識を共有した事で見えてきた黒狼という存在は、このゲームをゲームとして遊んでいた。


 このゲームをやる上で、そのほとんどの人間が規定されてしまう型にゲームをゲームとして遊べないと言うものがある。

 この世界はあまりにも、現実だ。

 むしろ現実的でない方を探すのが困難なほどに、現実である。

 土の成分を解析すれば確かに無機物と有機物が混合されたものであり、微生物が蠢き生命の根源たるモノが然りと存在していた。

 また死ねばポリゴン片に変化するのも、実際には少し違う。

 データに回帰しているのでは無く、魔力というモノが世界に回帰するために内から弾け。

 その影響から物質同士のつながりが消失し、人の目に見えないほど微細な粉塵となって周囲数キロに急速に広がる。

 どれほどの単位で分解されているのかといえば、CO2がCとOとOになるレベルの単位で。

 全ての現象に何らかの説明がある、もしくは全ての現象に何らかの説明ができる。

 プレイヤーが再度復活するのに何故ゲーム内時間で9時間もかかるのか、それは世界に散った物質を再度集めるのに時間が要求されるため。

 何故プレイヤーがそこまで簡単に復活できるのかというと、プレイヤーを構成する骨子は全て規格が統一されているから。

 他にも、無数にその説明はできる。

 できてしまう、だからこそこの世界をプレイする内にゲームという感覚は失われてしまう。

 中にはこの世界の住人と付き合っている存在もいるそうだ、また陽炎はそれを好機と見たのか新興宗教を裏で開いているとの噂もある。

 プレイヤーの人口もいまだに増え続けている、一時的なビックバンとでもいうべき程の流入は無くなったがそれでもその数は多い。

 そしてその殆どはグランド・アルビオンに住み、驚くほどに彼の王国を発展させ続けていた。

 食料は要らず、土地も大半は不要。

 取り締まりこそ難しく、粗悪なものも多いが何度死んでも死なず未知の知恵をもたらす存在。

 自浄作用を担う『キャメロット』というクランも存在し、彼らに与えられた権力は虚像の正義によって運用される。

 あるものは異邦人(プレイヤー)をこう呼称する、贋作者どもの群れだと。

 人を真似た、人でない存在の群れ。

 ある存在は魔物であるというのも、それに拍車をかける。

 必ずしも人間の味方ではないという事実は、この過酷な世界においてどこまでも残酷な事実だった。


 だからこそ、この世界は異邦人を恐れ称える。

 だからこそ、異邦人は世界を称え魅入る。


 この世界はどこまでも現実であるからこそ、この現実である世界の旅人は現実と言う名の規定に縛られていく。

 気付かない内に、人生を謳歌してしまう。

 体が勝手に動き、この世界にログインしてしまう。

 その中の特異な例外であり、自らの意思でこの世界に訪れている数少ない存在こそが黒狼なのだ。


「厄介な野郎だ、自分の意思が明確にありながら存在しているとは到底思えねぇ行動をしやがる。」

「流されるままに、だけど流れに逆らうように動く存在。ジョーカーとしては優秀かもしれないけど、決して手札には組み込みたくないわねぇ。」

「……私では扱うことが困難な手札ですね、ええ本当に。いっそのこと、彼に盟主を譲りましょうか? 手札ではなく使う主であればもう少しマシな動きをしてくれるのでしょうか……。」

「うむ? いい案であるな!! あの骨は責任に弱いタイプと見たぞ!!」


 ボソリと、モルガンが呟いた内容にネロは大きく同意する。

 実際に彼女が気まぐれに行った提案は彼の性質を規制するものだった、それも悪い意味など一切なく。

 黒狼は自由を求める、だが同時に自由に束縛されるのは非常に嫌う。

 理由は単純だ、彼が求めるのは自由であり束縛ではないから。

 

 彼のいう自由をより正鵠に示すのなら、その自由は混沌だ。

 法のない正義、もしくは法の庇護がない統率なき自由。

 ある者は『自由に埋め(サンズ・オ)られた天国(ブ・リバティ)』と称するだろう、暴力によって守られた暴力のみで構成される世界だからこそ。

 ある意味では『征服王』が理想とする世界でもあり、彼が唾棄した世界でもある。

 だからこそ、彼は見もせず会った事も無い彼を『黒の盟主』に認定したのだろうが。


 この世界は個人の武力が全てとされる、何故なら水面下で企まれ一切も悟らせず狙い済ましたタイミングで行われた暗殺行為を生き残った人間。

 というか、これ以上言葉にする必要のないほどに最強と称するに相応しいレオトールがいる以上それが答えだ。

 彼一人で半端な国を壊滅させられるだろう、故に彼が北方最強なのだ。


 そういうわけでそんな最強がいる世界だからこそ黒狼の掲げる自由という代物は混沌と規定され悪として排斥される……、のが普通だ。

 だって最強という一強が強さを誇示すれば自ずとその下に人が群がり、群がった人から現れる最強が王という最強を打ち倒していくうちに優秀な王が現れ安定と安息の王国を作成していくことになり。

 そうなってくれば、結果として個人の武を誇る輩はその安定と安息を破壊するモノとして弱い内に消される。

 排斥されるということは正義の敵であり、だからこそ悪だという考え方ができるだろう。

 まぁ、詳しい説明は不要だ。

 彼は自分の自由を掲げる限り、悪としてしか君臨できないという事実があるだけなのだから。

 だが残念かな、彼は排斥されなかった。


 何が悪いかと言えば天運だろう、ぶっちゃけレオトールと出会ったのが全て悪い。

 社会性が致命的に欠如し、それこそ現実でもほぼ引きこもって小説を読んでいるだけの社会性の欠如ぶりを発揮する彼だからこそ普通に人間を選んでいたらそのままゲームをアンインストールしていた。

 だが不自由極まったアンデッドを選び、この世界の究極形であるレオトールと出会ったこと。

 そして、そんな彼と互いに理解者とでもいうべき存在になったことで彼は自ら排斥されず他者から排斥されることもあり得なくなってしまう。

 いわば古今最強の厄介者、台所に潜む黒い悪魔がごときバカが爆誕したのだ。


 さて、少し目を瞑って考えてみよう。

 あのバカが他人に責任を持たせた上で、自由気ままに人生を謳歌する姿を。

 レオトールという傭兵が友人であるというのをいいことに、比較的安い対価で自由に暴れさせられる未来を。

 その状態でグランドアルビオンにカチコミを掛ける、そんな未来を。

 どう頑張っても、モルガンが現実世界で豚箱に入れられる未来しか見えない。

 おそらくその時の罪状は威力業務妨害罪、それに加え誹謗中傷なども該当しそうだ。


 ゾンビ一号以外の全員がその未来を幻視し、青い顔をする。

 何気にあの男は優秀だ、自分だけは必ずちゃっかりと素知らぬふりをするだろう。


「まずいですね、そうなれば確かに……。確かに彼に責任を負わせた方がよさそうです、ええ本当に。」

「冗談はよしてくれや……、ともいえねぇな。手前の大義に乗っかって、最悪以上の成果を出しかねねぇ。」

「やりますねぇ、ええ。彼ならば確実に、やるでしょう。」


 二人の脳内に広がる未来、それは真夏の夜の悪夢を連想する。

 かのウィリアム・シェイクスピアはこんな至言を残している。

 Present fears Are less than horrible imaginings、翻訳すれば『想像の恐怖ほど目の前の恐怖は怖くない』という。

 実際その言葉は現状を見ればわかりやすいだろう、確かに黒狼の行動を想像すればその恐怖は肥大化していく。

 真夏の夜の夢のように、最後はハッピーエンドを迎えられるのならばそれは結構。

 だが彼が配下として動けば、それはもう悲惨な結末しか迎えないだろうと確信を抱かせる。

 

「頭に来ますよ、ここで彼の手綱を手放したいぐらいです。」

「余は反対!! 悔い改めてくれない限り、あの骨は絶対しでかすと思うのだ!!」

「……本当に申し訳ありません、うちの黒狼が……。私にできて、彼に得になることならなんでもしますので許してくれませんか?」

「ん? 今なんでもするって言ったのか!? では余と共に劇場で踊り狂おうではないか!!」


 謎にオカンキャラになりつつあるゾンビ一号に、ネロが抱きつきながらそう言う。

 なんか色々ひどい絵面だ、黒狼がいたら全力で笑うだろう。

 そんな絵面の中、モルガンは思考を巡らす。

 黒狼をリーダーに押し上げる方が、結果的に自己利益につながる。

 それは彼女らが黒狼に対する考えを改めない、もしくは黒狼がその性質を変更しない限り真実である訳で。

 だがそうなれば、モルガンの義正は成し得ない可能性も発生する。

 モルガンの義正は悪性を孕むモノではない、義正を成し得た瞬間に彼女は大衆の悪となるのだ。


 義正、それはグランド・アルビオン王国をよりよく導くための必要悪とされる機構。

 初代国王を支えた一人の妖精が用意した、悪としての舞台装置。

 遥か未来、強大な兵器である『エクスカリバー』を使う存在が現れた時にその使用者の正義を糾すためのモノ。

 モルガンは、その対象として選ばれた。


 彼女の中には複数の想いがある、一つは私怨。

 グランド・アルビオン王国建国記に記されていた初代国王に、脳を焼かれ厄介ファンになったことでアルトリウスが聖剣を持っていることが許せないと言う想い。

 もう一つは遥か昔に生きた、生きていた魔女の無念を晴らすと言う想いだ。

 魔女は精霊だ、だからこそ彼女は長く長く生きた。

 だがそれでも、彼女は気の遠くなる時間を生きてもいつかは死亡することであり。

 伴侶となった初代国王が築き上げた国の安寧を永遠と見続けることができない、それが魔女の無念だ。

 だからこそ、モルガンはグランド・アルビオン王国を正すためにアルトリウスを敵視する。

 この世界に生きていない存在が聖剣を握り、この国を正しく導くことなど不可能と思っているからこそ。


 騎士王の座から、最高峰の権力者の座引き摺り落とす。

 そのためならば、モルガンはリーダーである必要はない。

 その思いから頭の中で未来を描く、どんな結末でも荒れ狂う愛すべき敵国を。

 騎士王という偽善者を、この国に関わる異邦人を引き摺り下ろすその未来を。


「ええ、悪くはない……。悪くはない案です、彼ならば必ず。」


 義正を成し遂げる、自由を愛する極悪だからこそ規則に縛られた正義は敗北する。

 そのためには何が必要で、何を捨てればいいか。

 なれない計画だ、何せ彼女は自分の才覚さえあれば大抵のことをアドリブで熟せる。

 そんな彼女が初めて、初めてこの世界に対して本気で策を張り巡らせた。

 彼女も、この世界に本気となったのだ。

貴方は淫夢語録を幾つ見つけましたか? え? 日本語全てが語録だと?


……クッ、やりますねぇ。


というわけで、モルガンの目的とか色々。

モルガンもゲームに本気になれていなかったのですが、目的を遂行できるだけのモノが整いつつあるので否応なく本気になってきました。

次回もまだ作戦会議かな? 今回作戦会議してないしね。

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