Deviance World Online ストーリー4『王』
血を吐きながらも、無理やり立ち上がりポーションを飲み込む。
息を整え、心臓を落ち着かせ。
苦痛に顔を歪めながらも、それを見せないように顔を伏せる。
「大丈夫だ、へファイスティオン。王の元に案内を、イスカンダルの元へ案内をしてくれ。」
「だが、しかし……。」
言葉に言い詰まるへファイスティオン、そんな彼女を無視して一人の女が躍り出た。
そう、ゾンビ一号だ。
彼女が剣を片手に二人の間に割り込んできた、流石に彼女はへファイスティオンがレオトールに味方するとは思っていないらしい。
非常に、非常に警戒しながら先程までの戦いの再現をするように自然を利用した魔術を展開できるように動く。
彼女も戦いになるとは思っていない、だが一瞬でも時間を稼げればレオトールが逃げられると判断したのかいつでも迎え打てるように警戒する。
レオトールも止めはしない、むしろそれを煽るように体の重心を動かしていた。
話し合いをするつもりではあったが、もうすでに其の状況は通り過ぎている。
『賢者の叡智』プトレマイオスと『王の友』へファイスティオンとの短期かつ全力ではないとはいえ大規模な戦闘を行い、周囲へ被害をもたらした。
敵対行動の極みだ、普通であればここでへファイスティオンが刺してきても可笑しくない。
だが不思議なことに、彼女は武装を解除した。
「王からの命令がある、『伯牙』を迎えろという。流石に其の前に私は殺さないさ、しかし其の状態では連れて行く前に死にそうだな? 『伯牙』。」
「馬鹿を……、ハァハァ……。馬鹿をいえ、どこが死にそうだと?」
「そこが。」
「どっからどう見ても死に体でしょう!? なんでそこで煽りに行けるんですか!?」
驚愕に顔を歪ませつつ、思わずと言った様子でツッコむゾンビ一号。
其の二人の様子を見て苦笑いするへファイスティオンだったが、少しすると気持ちを整理したのか表情が抜け落ちる。
スンッ……、という効果音が付きそうなほど一瞬で変化した表情を見てゾンビ一号は少し驚き疑問符を頭に浮かべた。
「王はどこにいる? 早速だが面会したい。お前が、貴様が其のように出張ってくるのならばあれも暇なのだろう?」
「というか、この戦いも余興程度に見ているぞ? 私の目を通じてな。」
「そうか、随分と暇だな。大規模召集を行なっている癖に、そこまで暇だったとは予想外だ。」
「逆だ、大規模召集を行なっているからこそ暇なのだ。」
そういうと、へファイスティオンはタバコを取り出しレオトールに向ける。
それを見たレオトールはやれやれと肩を竦めながら、『津禍乃間』で切りながらタバコを着火させた。
深く吸い、長く吐く。
そのまま煙をゆっくり眺めたへファイスティオンは、周囲の瓦礫を集めると簡易的な椅子にした。
「さて、『征服王』の御前に出向く前に私がいくつか質問をしてやろう?」
「時間がない、と言ったら?」
「通すさ、ただ侍女が慌てるだろうな。急な来訪者、それも北方一の強者と来た。化ける時間は必要だろう、そうは思わないか? そちらの彼女も。」
「うーん、彼に恋慕することを考えられませんが……。確かに化粧は女の嗜みですからね、私はしませんけど。」
ゾンビ一号は相当顔がいい、相手が朴念仁であり物理的に枯れている黒狼と性欲以前に人間性があるのか疑わしいレオトールだから欲情しないだけで実際には十人中六人が振り返るほどの美女なのだ。
まぁ、腐乱死体の状態を見ていたということもあるが。
それに彼女の精神的骨子でもある大抵の人間が、基本的に化粧と縁のない生活を送ってきている。
本人は化粧という概念を知っていても興味が湧かないのは当然かもしれない……、いや当然か?
「そういうわけだ、しばらく語り合おうじゃないか? 『伯牙』レオトール。」
「……、仕方あるまい。早く質問を言え、『王の友』。」
挑発、だが話し合う意思は双方共にある。
建前は別にして時間が欲しいのは、どちらも同じなのだろう。
弱体化したとはいえ、一応は市街地である場所で盟主にして北方最強でもある『伯牙』を凌ぐのは相当に難しいのは当たり前の話だ。
この時点でもしも『万里の長鎖』を用いた『絶叫絶技』でも発動されれば、防ぐ術のない非戦闘員や下位の戦闘員は死亡しかねない。
死に体なのに決して油断ができない、それが『伯牙』レオトールに対する総評だった。
「ひとまず、軍から離れて何をしていた? 随分と晴れやかな顔をしているじゃないか。」
「少し、迷宮をな? 中々に手強く、難解で。だが新たな出会いがあった、私は良き友を得たと思っているとも。」
「……本当に戻る気は無いんだな? レオトール。残念な話だ、貴様ほどの強者が抜けるという事実だけで王は耐え難いだろう。」
「いいジョークを言うじゃないか、『王の友』。あの征服王だぞ? 表面上はともかく、実際は冷徹に計算高く意向を巡らしているに違いない。」
確かに、と同意の意を示しだが本当に残念そうに顔を振ってタバコを吸い込む。
吸って、吐いて、吸って、吐いて。
豊満な双丘が揺れ、民族衣装が如き装備が艶かしさと雄々しさで魅了する。
吐かれたタバコの匂いは、周囲へ満ちながらもあっさりと消えた。
諸々の要素から話をするだけだと判断したゾンビ一号は、剣を下ろしながら息を吐く。
「故郷の煙草は最高だな、こうして不安をかき消してくれる。」
「不安? 何を不安に思うことがある?」
「レオトールが抜けた、牙の抜けた傭兵団『伯牙』は強くとも必死さがない。それに予言もある、黄金の王だと? 敗北し、全滅するだと? 巫山戯るな、と言いたくもなるさ。」
「『紫の盟主』による予言、か。信頼の程度は……、ああ最悪だが確実だろうよ。何せ、私は其の黄金の王を知っている。」
迷宮を抜けた先、囚われていた黄金の鎧を纏う王。
『英雄王』? いいや、まさかそんな高尚な名前が似合う存在であるはずがない。
ふと思い出す、あの名乗り口上を。
『『英雄王』ギルガメッシュ、又の名を『破壊者』ギルガメッシュ。とく尊ぶが良い、我の名を知れたことをな。』
思い出すだけで、心底震える。
北方最強でも其の底を計り知ることなどできない、故に王などと言う肩書きが正解とは到底思えない。
王ならば、もしも王であると言うのならば何故彼は最強と揶揄われるレオトールですら恐る力を単独で保有している?
何故生物としての核が違うと、全身の細胞が叫び全てのスキルが全力で警告を知らせる?
答えは単純だ、そして推測も簡単である。
『英雄王』と言う肩書きは、おそらくは大した意味を持たず本質的な肩書きが『破壊者』であると言うこと。
あの傲岸不遜な態度を除き、そう考えれば非常に納得がいく。
「……、お前はそれに与するのか?」
「ハハハ、面白い冗談を言うじゃないか? はっきり言おうか、あの存在は私が協力せずとも。いや、所感にすぎないが私と言う存在すら守るべき弱者と捉えているのではないか。少なくとも、そう思わせるほどには狂気的な強さを誇る。」
「何故それを知っている? 手合わせでも行なったか?」
「太陽を見て、戦えると思うのか?」
それが結論、全てに対する答えだった。
レオトールから見て、『破壊者』ギルガメッシュは太陽ほどに大きく強い存在であった。
北方で最も強く、誇り高い傭兵を持ってしてなおそう語られる存在。
それを知って、へファイスティオンは……。
目を伏せた。
「我々は死ぬのか、レオトール。」
「少なくとも、な。」
続く言葉はなかった、其の一言で伝わならいほどに浅い中ではないが故に。
其の覚悟を聞き、全てを察したへファイスティオンはタバコの火を消し語気を強めながら椅子から立ち上がる。
準備ができたようだ、『征服王』と面会する準備が。
「来い、二人とも。王との謁見の時間だ、早くしろ。」
ここで行う、最後の目的が今から始まる。
その結果がどのように転ぶかは、賽の女神にしか知り得ない話だろう。
*ーーー*
道を歩いていく、その足取りは間違いなく最強の足取りだった。
ただし、その実態は今にも死にそうな男が歯を食いしばって無茶をしているだけに過ぎないが。
王の街、その中央にあるのは王の城。
高い塔も、高貴な装飾もない合理性のみで完成していたその城。
そこの中央の広間、その扉が侍女によって開かれる。
「どのような了見でそこに立っている? のぉ、『伯牙』レオトール。」
そこの中心、華美な装飾がなされた玉座に座る一人の大王。
筋骨隆々にして、その双眼は叡智を湛えた征服者。
短髪を雑に切り揃えた、金と赤の装いを纏う好青年。
その王の名は、『征服王』アレクサンダー・イスカンダル。
別名、イスカンダル大王、アレクサンダー大王、ノース民族の大王、地平の征服王etc……。
挙げ出してはキリがない、大王の名前の数々。
その全てが、彼への畏怖であり尊敬であり恐怖であり。
そして、実績である。
「今更、語るまでもないだろう。この日、この一幕を以って私は『王の軍』から脱する。その宣言のため、私は此処へと赴いた。」
対して、正面から対抗するのを選んだのは『伯牙』レオトール・リーコス。
別名、リーコス伯爵、砂漠の白狼、北方の最強、傭兵の鏡、伯牙etc……。
コレはすなわち、彼も征服王に比類するほどの畏怖され恐怖され尊敬されたと言うことに他ならない。
文字通り同格、どちらも王と言う立場に近しい存在であるが故にこの場に立っている。
双方共にその宣言と、ぶつかり合う重圧は違わない。
近くに控えているゾンビ一号は、空気が震えていると錯覚するほどにその重圧は恐ろしかった。
「……カカ、クカカカカカ!! なるほど、ソレは……。儂を侮辱していると、そのように捉えていい訳だな?」
「何とでも捉えるといい、ここで叛逆者として処分するのならば私の剣が其の首を捉えるまで。」
「その発言は見過ごせない、『伯牙』ッ!! その場合は、貴様を確実に殺すぞ。」
「一刀にて二の首を落とすことなど容易い、たとえ直後に我が首が落とされようとも。」
ヘファイスティオンは、足を止めざるを得なかった。
負けない、負ける気はしない。
だが残念なことに、勝てないのもまた事実だったからだ。
レオトールの手札は多い、多すぎると言い換えてもいい。
故に、彼が選ばんとする手札が読めないのだ。
概念による即死、物理的な手段での断頭、アーツを用いた肉体破壊。
彼にとってそのどの手段も、一息を吐く間に終わることだろう。
そして、ヘファイスティオン含むここに立つ全員はその一息に反応できず。
結果として王は、死ぬ。
かといって先手を取れば倒せるのかと言うと、そう簡単な話でもない。
その場合はヘファイスティオンが、王に連なる人物に手を挙げたとして処罰を受けるだろう。
また、その一撃で北方最強が倒れるとも考えにくい。
つまりどう足掻いても詰みなのだ、この盤面は。
だが、ソレでもと。
王を殺すぐらいならばと足を再度動かそうとしたヘファイスティオンは、再度止められる。
今度は他ならぬ、征服王に。
「コレは王としての対話だ、ヘファイスティオン。逸るでない、でなくては先に一つ首が飛ぶこととなるぞ。」
「……、王のご意向であれば。」
その言葉と共に、構えを解いて錫杖を手放す。
仮にでも同胞、離脱するとはいえその思いが消えたわけではない。
彼女にとってもレオトールを殺すと言うことは本意ではないのだ、だが必要ならば行うだけで。
「随分と緩いじゃないか、アレクサンダー・イスカンダル。友情ごっこは嫌いではないのか? ソレとも、人の心を慮ることが出来るようになったのか?」
「カカカカカ!!! 其れこそまさか!! 儂が人の心を慮る? であれば儂は羊飼いにでもなり、見果てる地平の隅々まで方々に歩いていたろうよ。」
「だろうな、お前はそう言う男だ。」
そう吐き捨て、レオトールは玉座に座る征服王に近づいて行く。
玉座から続く赤の道、王の数メートル手前で立ち止まるとインベントリから複数の武器を取り出しその道に突き刺した。
つまりは椅子だ。
彼は自分が持つ武器の数々で、自分の玉座を作り上げた訳である。
ソレを見たゾンビ一号は驚きながらも、その椅子の右後ろに控えた。
「さて、王の話をしようか。『征服王』アレクサンダー・イスカンダル、まさか断ることなどあり得ないだろうな?」
「ク、カカカカ!!! まさかまさか!! 良い、良いとも!! さぁ、王の語らいを始めるとしようか。」
玉座に座り込み、足を組みながら侍女が用意した机にワインを並べハムを取り出したレオトールに対しイスカンダルは右手を静かに上げた。
それだけで侍女たちはもう一つ、机を用意しそこに多様なワインと様々な果実を彩った皿を用意する。
そして銀の食器と取り皿が用意され、コレでもかと言うほどに貴族然とした食卓が完成した。
ーーー今宵、この時を以て『伯牙』レオトール・リーコスは『征服王』アレクサンダー・イスカンダルの『王の軍』から離脱する。
後の世界史に語られない、だが現実に存在した王の対話。
歴史の裏に記された二人の対話が、今始まるーー
今回は少し短いっすね。
久々に六千文字以下を投稿した気がする。
(以下定型文)
お読みいただきありがとうございます。
コレからのレオトールとゾンビ一号の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!
また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!




