Deviance World Online ストーリー4『プリン』
一つ、話をしよう。
別に変な話ではない、とある服飾屋の話だ。
その店主はガチムチで、筋肉に筋肉を掛けた筋肉のような見た目をしつつ可愛らしいフリルのついた服を着ている。
そんな店主が、店の客の服を剥いだ。
結果としてどうなるか、答えは簡単だ。
「私が言うのも何だが、もう少しデリカシーを持て。エルフと言う種族には直情的な者しか居ないのか、もしくは灰汁が強い人物しか……。」
「もぅ、悪かったわよ。けど、レオトールちゃんだってメチャクチャ強い人間が錆びついた武器で戦っていれば強い武器を与えたくなるクチでしょう?」
「言い訳するな、そもそも私は戦いを手段としか認識していない。貴様と同列に語るな、この狂人め。」
「ひっどぉい!! ゾンビ一号ちゃん、庇って!!」
その言葉に全力で拒絶を示すゾンビ一号、今は奪われた服を取り戻し体に纏っている。
そもそも当たり前の話だが、他者の服を奪うのはどんな立場の人間でもやってはいけない事だ。
ソレを行ったのだからプリンには然るべき罰が必要となる。
「だけどォ、いや確かにワタシが悪いのだけどね? そもそも私が軽く引っ張れば裂ける布を服として着てる方もどうかと思うのよ。びっくりしちゃったわ、まさかあそこまで見事に裂けるとは……。」
「確かに、ソレはそうだな。だが、ソレとコレに因果関係はない。貴様が悪いと言う立場は揺らがんぞ、大人しく反省しろ。採寸などは見れば分かるのだろう? もしくは私が代行してやろう。」
「むぅ、けど仕方ないわね。取り敢えず、幾つか見繕うわ。」
そう言って、店舗の奥へと消えていくプリン。
ソレを見てゾンビ一号はホッと一息をつく。
そして、周囲の商品を見て感嘆に耽りため息を吐いた。
「性格以外は素晴らしい人物なのでしょうね、性格以外は。」
「許せ、いや許さなくて良い。流石にあの対応は私も予想外だった、心の底から詫びよう。」
「いえ、大丈夫です。貴方は悪くないので、ソレに職人は七癖もあるほどに変人であるほど腕前には信用が置けます。本当に、本当に心底から嫌ですがここに置いてある品を見る限り腕は良いのでしょう。」
「ああ、腕前は私の知る限りで五本の指には入る。少なくとも現状として彼以上の職人を私は知り得ない、本当に残念なことに。」
そう言い、再度悪かったと言葉を続ける。
ソレに対して、謝るのは十分ですよと言い慌てるゾンビ一号。
彼女にとってレオトールはもう1人の父とでもいうべき存在、ある意味黒狼よりも身近な存在でもある。
そんな彼に謝られるのは、彼女にとってもむず痒い所があるのだ。
とまぁ、そんなふうに話し合っていると幾つか装備を見繕ったのか彼女が奥から現れた。
「取り敢えず、性質なんかを加味せずに選ぶのならコレね。重鎧とかは見た感じ合わなさそうだし、全部軽装にしたけどどうかしらァ?」
「……、全部この人が作ったと思うと着たくないですが。でも驚くべき性能をしていますね、レイドボスの素材を使っているのですか?」
「いいえ、流石に竜のレイドボスはソコの彼でも無いと早々倒せないわァ。精々がワイバーンの皮とかよォ、ホント私の全力を出せる素材は中々ないわね?」
「私に話を振るな、あと不審な行動はするなよ? 私の剣に血を吸わせたければ別だが。」
レオトールの脅しに軽く返事をして、そのまま性質を加味した物を持ってくると告げ奥へ消えたプリン。
ソレを見つつ、レオトールは持って来た三つの品に鑑定スキル及び上位鑑定スキルを使用する。
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鑑定結果:翼竜皮の外套
属性:無、風、土、空
種別:外套
素材:ワイバーンの被膜、土蜘蛛の糸、ウィスプの魔力
備考:使用におけるデメリットもなく、可もなく不可もなくといった装備。
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鑑定結果:軽魔銀の鎖帷子
属性:無、火、水、土、風
種別:帷子
素材:魔銀、魔鉄(火)、魔鉄(水)、魔鉄(土)、魔鉄(風)
備考:魔術的防御、攻撃に優れた代物。
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鑑定結果:翼飛竜のレザーアーマー
属性:無、風
種別:レザーアーマー
素材:翼飛竜の被膜、翼飛龍の鱗、ウィスプの魔力、風馬の尾
備考:風属性に補正
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明確なデメリットが見当たらない装備、上半身だけとはいえこれらは素晴らしいものだ。
何かを作るというのは何かを妥協するということでもある、そのため性能が高い装備ほど何かしらの欠陥があるべきなのだ。
だがここにあるのはデメリットがなく、しかし十分以上のメリットがある装備。
二流の品ではあるが、これをワイバーンという高価かつ扱いづらい素材で成し得たりミスリルという耐久性が低い金属を使いながらも防具としての欠陥が出ないほどに作成し得るのは正しく一流の職人だ。
性格以外は完璧と言い換えて良いだろう、性格以外は。
「とはいえ、この程度か。」
「アナタねぇ……、そのレベルの外套を作れるレベルと比較されたら無理も無理よ。というか、何を考えていたらそんな物を作れるのかしら?」
「い、いつの間に……。」
「ついさっきよ、ほら。デメリットありならこんな感じ、他に下半身の装備としてはこう言うのがおすすめね。デメリット有りの物だけど延焼などがメインよ、貴方アンデッドでしょ? なら肉体的なデバフは実質無いような物でしょうし、ワタシの在庫が処分できそうで嬉しいわァ!!」
在庫処分、と口にしながらも出された品物は全て最上級の品だ。
選り取り見取り、全てが選りすぐりの最上級品。
プレイヤーの中でこれと比類できる装備を持つ人物は何人もいないだろう、もちろんグランド・アルビオンに所属する人間も同じだ。
何十人かはいるだろうが……、ソレでも少ないことには変わりない。
「しかし、何度見てもすごいわねェ。装備としての威圧感? が違うわ。加工するだけで一苦労しそうね、そもそも鋏が入るのかしら?」
「私の装備か? ……まぁ確かにそうだな、質は相当のものだろう。制作過程を知らんから正確なことは何も言えんが、元となったレイドボスのことならいくらか言えるぞ? 聞くか? 面白い話などではないが。」
「ぜひ聞きたいわァ、そのレベルのモンスターの話は中々聞けなさそうだし?」
「私も聞きたいですね、絶対に強いでしょうし。」
自棄に前のめりな二人、それに対してそうかと告げレオトールは口を開く。
だが、次の言葉が出てこない。
より正確に言うのならば、吐く言葉に困っている様子だ。
「どうしたんです? 何か問題でも?」
「いや、スカーレット種というものの説明が難しくてな。こちらの住人ではスカーレットなどまず見ないだろう?」
「そうねぇ、確かにうわさでは聞いても私も見たことはないわねェ?」
「だろう? とはいえ、スカーレットの説明がまずまず難しい。一言で言えばただの強化個体、だがその内訳は強化個体などという話に収まる筈がなくてな。」
そう言いつつ、インベントリから取り出したポーションを飲み言葉を切る。
スカーレット、赫痣と言い換えても良いだろう特殊個体。
その規格外さは、凡そ説明するに困る話だ。
「そうだな、ではイメージしやすく例えるとしよう。例えばゴブリン、最弱の種として最も有名な存在だ。そんなゴブリンがスカーレットとなればどうなるか。分かるか?」
「話を聞いている限りですと、ゴブリンキング並の強さになるのでしょうか?」
「ふむ、いい答えだ。不正解、正解としてはゴブリンキングではなくワイバーン並の脅威となると考えてくれ。」
「はぁ!? 種として格が違うではないですか!!」
ゾンビ一号の叫び、だがレオトールはその言葉を否定も肯定もしない。
スカーレット種、単独の異端種。
魔物にだけ発生する突然変異種、形容し難き規格外。
ワイバーンとゴブリン、そこにある差は果てしなく広い。
いわば、象と猫ほどには違う。
天地がひっくり返らなければ、ひっくり返ったところで覆らない実力差がそこには存在する。
赫痣、スカーレットと称される魔物はソレほどまでに格が違うのだ。
「ああ、種としての格が違う。驚くほどにな? この服の素材はスカーレット・サンドワームだったが……、当時は驚くほどに強く感じた。例えるならば正しく竜、大地を揺らし天を貫く化け物。押しても引いても、ビクともせず寧ろそのまま突き進んでくるぐらいだ。」
「当時のアナタを知らないから何も言えないけど……、正しく規格外だわねェ……!? よォく殺し切れた物だわァ?」
「まぁ、ソレはこの剣の性質にもある。折れず壊れず毀れず、正しく歴戦の友にして我が魂の半身だ。ここまで戦えたのも、私がここまで至れたのもこの剣の影響があるだろうよ。」
そう告げて、彼は水晶剣を見せた。
透き通るようなほどに輝かしい鉄、水晶が混ぜ込まれた最上級の兵装にして最弱なる武装。
ただ単に折れず、壊れないだけの武器。
ただ彼が言うにはその武器がなければ最強には至れなかったらしい、そんな筈はないと言う感想を抱きながらもゾンビ一号は頷く。
「なにしろ長期戦や防衛戦、撤退戦にコレほど剥いた武器ない。私も所詮は人間、強くなるのならば遥かに強い敵と膨大な時間による経験が必要だ。大抵の話だが前者は殆どの人間ならばクリアできる、野に出てみれば自分より強い存在など五万といるからな。だが、残念なことに長時間の経験はそうもいかない。肉体が幾ら万全磐石であろうとも、武器はいつか毀れ壊れる。だが、この剣ならばその心配は無用だ。多少無茶をしようとも不変性のお陰で微塵も困ることなどない、戦士にとっては理想の武器と言うわけだ。」
「ですが、バフとかが乗らなければ火力は出ないのでは?」
「そこはほら、努力の賜物という奴だ。」
笑いながら、お茶目に言い返すレオトールの顔。
表情自体は硬いが、笑っている。
ソレを見てフッとゾンビ一号も笑った、そして呆れた。
努力でそんな実力が手に入って堪るか、と言いたげな目を向けて。
「さて、装備は決まったか? おすすめはコレだな。呪いなどヴァンパイアであれどアンデットのお前には関係あるまい? ソレに呪いは実質デメリットなどではない、運用次第でバフにもなりうる。」
「そうですね、私もソレにしようかと思っていました。呪いの種類は体力の奪取と血液を求める性質ですが……、吸血スキルで敵の血を吸わせながら戦えば丁度良い感じになりそうですね?」
「あらァ? その使い方、思いついちゃう? いいわねぇ、若いってこう言うのかしら?」
「黙ってくれません? その顔で言われるとムカつくので、最悪レオトールを嗾けますよ?」
ゾンビ一号の物言いを諌めつつも、半眼で睨むレオトール。
先程のこともあり、立場が弱いプリンは大人しく装備の性能を告げ始めた。
解説された性能はアンデットには無視できるデメリットに対して、得られる効果は防御能力の向上と運動能力の向上。
ソレを聞き、レオトールは満足そうにコレにするか? とゾンビ一号に聞いた。
反面、ゾンビ一号は少し悩みながらも他の装備を見始める。
悪いわけではない、悪い訳ではないのだが布地面積が多すぎるのだ。
イメージ的にその装備は貴族が着る狩人装束、見た目も実態も悪くはないのだが少し派手すぎる気がしたのだ。
とは言え、それ以上に合う装備は見つからず少し悩んだ末にその装備を購入することを決意する。
「結局ソレにするのねェ? 代金は端数を省いて金貨2枚よ。」
「ふむ、そんな物か。では金貨3枚支払っておくとしよう、釣りは要らん。」
「あっらァ? 態々オマケしてあげてるのに律儀ねぇ?」
「私は貴様の腕を買っているし、原価も決して安くはない。相場通りだろう、この程度。」
金貨3枚、Gに変えて10000000G。
下手な貴族の総資産の一割に匹敵する量の大金を、あっさりと手渡したレオトールはそのままゾンビ一号を連れて店を出る。
価値がインフレしている? そうかも知れない。
何せ、この装備は重度の呪いに侵されてはいるものの素材自体が超高級品である悪魔に連なる魔物の革なのだ。
コレぐらいの金額でも妥当でしかない、流石に金貨3枚は少々出し過ぎだが相場から見ても悪くはない金額なのだ。
だが、その金額を聞いたゾンビ一号は即座に固まる。
動きが硬直し、ワナワナと震え出す。
例えるなら、全身に宝石をあしらった規格外の超高級品を見に纏っているようなレベルの金額なのだ。
半端な貴族ではこんな簡単に出せるはずもない金額、ソレがただのアンデットに渡されたのだから震えるしかない。
金銭感覚が壊れている、そう叫び出したくなる喉を抑えアワアワとするしかない状態なのだ。
「何を硬直している? 早く行くぞ、ポーションも買わねばならんのだからな。」
「あ、いえ、あ、あのぉ、え、あ……、え? 嘘? えぇ? はぃ……? ちょっと……?」
「値段か? 気にする必要はない。Ⅻの難行を乗り越えた末に飲んだ酒の方がよほど価値が高い、アレに比べればコレは端金だ。レイドボスを一体倒せば収支的にはプラスだろうよ、ワイバーンの1匹でも十分だろうな。」
「えっとぉ……、普通はソレを倒せないのですが?」
「ははは、可笑しな事を。世界の常識とは広いものだ、お前一人でもワイバーン程度ならば倒せるようにならなければ困り物だぞ?」
朗らかに、さも当然かのように告げられた言葉に再度ふざけるなと叫びたくなるゾンビ一号。
間違えてはいけないが、ワイバーンというのは竜の端くれにして最弱竜。
だが、グランド・アルビオン王国周辺に生息する中では天空の支配者にして空の絶対種とも言われている。
そのブレスは弱いながらも大抵の敵を消し飛ばせ、老齢に至ったモノはレイドボス並に強いとされる存在。
ソレを単独で倒す? 普通は頭がおかしいのではないかと言いたくなる話である。
いや、コレを平然というのは狂人か一握りの強者のみ。
本当に、レオトールが恐ろしく強いという事実を再認識し自分がここにいる必要性はあるのかと戸惑いながらゾンビ一号は彼に続いて木を飛び降りた。
陽炎「ーーーーーーー、寄越せやぁ!!」
(以下定型文)
お読みいただきありがとうございます。
コレからのレオトールとゾンビ一号の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!
また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!




