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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章中編『黒の盟主と白の盟主』

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Deviance World Online ストーリー4『孤独の死骸』

 『騎士王』


 その名前の意味は大きい、余人では計り知れないほどに意味を含んでいる。

 アルトリウスですらその諱の詳細を知らない、ある程度知り得ているのはNPCとモルガン程度だろう。

 だが、ソレでも。

 彼が、その立場に選ばれたのには理由がある。

 円卓の一席、騎士の王、エクスカリバーの担い手として選ばれたのには。


 確固たる理由があるのだ。


*ーーー*


(九死に一生を得たか……!!)


 即座に状況を見て理解する。

 自分の目にも留まらぬ弱者が、この一時の間に場を変えたことを。

 己は慢心によって、死にかけていたと言う事実を。


「ッ、サー・ガウェイン!! サー・ランスロット!! 君達は退避しろ!!」

「「了解!!」」


 アルトリウスはこの一瞬で判断した、この戦いは自分以外では着いていけないと。

 円卓を守る必要があるのなら、やはり自分は万全は出せないと判断したのだ。

 聖剣を納刀し、そして目を細める。

 自分の意思を再度統一し、そして自分の覚悟の是非を問う。

 

「力を、貸す!!」


 否、覚悟など問う必要すらない。

 目の前の二人がどうであれ、自分は協力すべきと断定した。

 返答は聞かない、愉快そうに動く黒い影と緑の剣を握った女性がアルトリウスをチラリと見る。

 そして、肩を落とすと軽く告げた。


「鍛え方が足りません、着いて来れないのなら殺します。」

『ーーーーー』


 男は笑い、女は選定する。

 そのまま二つの影は瞬時に動き出し、ヒュドラを攻撃する。

 毒のブレスを吐かせないために。

 その動きは華麗であり洗練されており、獰猛でありながら冷酷だった。


(あの二人……、どんな実力者だ!? 多分NPCだとは思うが……。)


 自分と対等以上に並ぶ存在、アルトリウスが所属する国では見かけない程の実力者。

 そんな存在が二人も存在する。

 コレは異常事態と断言しても良いだろう、動揺して動きを鈍らせても良いかもしれない。

 だが、アルトリウスはそんな事をしない。

 『騎士王』は動揺など、誰にも見せない。

 心の揺れうごきを完全に制御し、表情のひとつすら変えず騎士王は叫ぶ。


「『聖剣、抜刀』」


 納めていた剣を引き抜く、そして聖剣固有のスキルを発動した。

 聖剣スキル、この剣の担い手に選ばれた時点で獲得するスキル。

 事実上の特殊アーツでいながらスキルとしてシステムに認定されている特異なスキル。

 その中でも最初から扱える『聖剣抜刀』と言うスキル。

 その効果は、ただ一つ。

 

「『エクスカリバー』」


 聖剣から極光が溢れ出す、そして二人の狭間から届いた極光の濁流が毒のブレスを軽く掻き消した。

 『聖剣抜刀』、その効果は聖剣を戦闘状態に切り替える事。

 象徴としての聖剣ではなく、戦うための聖剣として。

 騎士王が用いる、最強の武器として。


 刀身から極光が奔流し、ヒュドラのブレスを掻き消す。

 ゾンビ一号とジャガーマンは溢れ出した極光を大きく避け、そのまま復活を始める頭部へ攻撃を叩き込んだ。


「『吸血』」

『ーーーーー(【テペヨロトル(山の心臓)】)』


 ゾンビ一号の攻撃はヒュドラの頭部を大きく切り裂き、奔出した血を己が身に纏う。

 その横ではジャガーマンが影を大きく伸ばしヒュドラの首を切断していた。

 そして、ソレに一瞬遅れでアルトリウスは追いつく。


「『エクスカリバー』!!!」


 聖剣から溢れ出た光がヒュドラを直撃する、同時にヒュドラの生えかけの首を消し飛ばした。

 そして、再度毒のブレスを吐き出そうとする首へアルトリウスは近づく。


「正気ですか!?」

『ーーーーー』


 まさか、そう言おうとする二人を見てアルトリウスは自分の判断が正しいと確信した。

 アルトリウスが最強である理由、キャメロットの中で頭ひとつ飛び抜けて強い訳。

 理由は幾らでも有る、だが決定的な要素はただ一つ。


         ーー聖剣エクスカリバーが強いーー


 ただ一つのシンプルな理由。

 もちろん、本人の気性や性格が関係ないわけでは無い。

 プレイスタイルや能力もソレに多大な貢献をしている、だがソレを差し引いたとしてもアルトリウスを最強たらしめる理由は聖剣が強いことに他ならない。

 何故強いのか、その理由は複数ある。

 第一に攻撃に用いられる聖剣の極光、スキル『エクスカリバー』によって発生する攻撃は事実上の防御不能攻撃であること。

 回避は可能だ、聖剣から直線上に放たれる極光を避けるのは簡単とも言える。

 だが、問題はその極光を受ければ並の防衛手段では防ぎきれないことだ。

 聖剣エクスカリバー、そこから放たれる極光は基本四属性を特定の手段にて混ぜ合わせた架空属性。

 そこに世界の浄化機構が付与された、この世界の存在に対する致命攻撃。

 もしコレを防ぐのであれば、この世界に存在しないモノを利用するしか無い。

 だがコレだけでは、アルトリウスは最強たり得ない。

 もう一つの機構があるからこそ、アルトリウスは『プレイヤー最強』なのだ。


 モルガンが保有する杖、義正の魔杖こと『ルビラックス』。

 そこにはこの世界でも珍しいほどの高性能な魔力生成炉心が組み込まれている、故にモルガンは魔力を潤沢に用いた魔術を使う。

 そんな彼女の魔杖だが、それはとある武装の前身。

 プロトタイプとして作成されたという話はあまり知られていない、モルガンですら知り得ていない。

 ルビラックスの後身、完全な兵装として作成された武装。

 その名前を『聖剣【エクスカリバー】』という。

 そう、アルトリウスが保有する聖剣こそモルガンの『ルビラックス』の完成系なのだ。


 故に、彼の剣にもその機構が搭載されている。

 無制限に魔力を生成する炉心が、アルトリウスの聖剣にも。


「なるほど、魔力を剣で補いその高火力を出力するのですか。」

『ーーーーー』

「ええ、でしょうね。」


 ジャガーマンの言葉に頷き、同時に地面に着地するゾンビ一号。

 その瞬間、彼女の頭上で極光が煌めきヒュドラを燒く。

 周囲への被害を考慮しない、彼の最大出力。

 それを何発も乱射し、ヒュドラへダメージを与えていた。


「そこの騎士!! そのままでは無駄です、この九頭竜は再生能力がひどく高い!! 首を切り落とし攻撃性能をあげながら再生能力を劣化させなければ殺しきれない!!」

「なるほど、情報感謝する!!」


 アルトリウスが攻撃していたのは胴体、そこに攻撃を与えていたが血煙が晴れると完全に再生し切った肉体が見える。

 ゾンビ一号の言う通り、確かに再生能力が高い。

 その事実と彼女らがヒュドラの首を執拗に攻撃しているのを確認し、言葉に嘘がないことを確信する。

 だからこそ、再度聖剣を閃かせた。


『ーーーーー(【シルシバー(第5の冥府)】)』


 ジャガーマンがスキルを、権能を発動する。

 瞬間、影から無数の。

 夥しい量の剣が生まれ、ヒュドラの首を切り裂き始める。

 一瞬にしてヒュドラの首を二本切り落とし、残り二本をアルトリウスとゾンビ一号に任せると目配せのみで伝える。

 二人は同時に動き出した、ゾンビ一号は魔術を用いて空中に結界を作成し空中を走る。

 アルトリウスはエクスカリバーを地面に向かって放ち、ジェットエンジンのように用いることで空中へ躍り出た。

 互いに剣を握り各々の攻撃を放つ。


「『流星一閃(フルンディング)』」


 ゾンビ一号はアーツを放つ。

 その攻撃はまるで流星のようだ、剣が青白く発光し超高速でヒュドラの首へと襲いかかる。

 言葉に変換できない、想像を絶する一撃。

 以前のゾンビ一号からは考えられないほど、高出力の攻撃はヒュドラの首を切断するに十分過ぎる火力となる。

 北方のアーツ、レオトールが用いているアーツを彼女はこの短期間で習得したのだ。

 たった五日間で彼女はそこまで成長した、その事実を黒狼が知れば驚愕に顔を歪めたかも知れない。


「『正義裁定』『聖剣解放』!!」


 またアルトリウスも負けてはいない。

 剣からエクスカリバーの放出が止まり、落下を始めるタイミングでアルトリウスは聖剣スキルを発動する。

 これにより、聖剣の出力が大きく向上しこの戦い自体が聖戦と世界に認められた。

 火力が大きく膨れ上がる。

 先ほどよりも固くなったヒュドラの首が、あっさりと行かないまでもそれでも簡単に落ちる。


 ヒュドラは再度、血液を奔出させその血液を凝縮。

 全方位へ向けられる猛毒のブレスを放とうとする。

 アルトリウスはそれを阻止しようと聖剣を構えた瞬間、ゾンビ一号が詠唱を開始した。


「『呪血』『その血脈は我が鎧となりて【敵血の呪鎧(ブラッド・アーマー)】』」


 躊躇することなく、ブレスに飛び込むゾンビ一号。

 消し飛ぶと慌てたアルトリウスの心配も束の間、ブレスの圧縮が突如として停止した。

 語るまでもないが、このブレスはヒュドラの血液にしてヒュドラの毒液と同じく不死者すら殺しかねない死の呪いを含んだモノ。

 ただ新鮮度合いでは優っていても、呪いのレベルが随分下がっており吸血スキルで血液を体に鳴らしたゾンビ一号にとってこの程度の死の呪いは無効化される。

 さらに言えば、『呪血』によって自分に適合するようにしたその血液。

 それが成功した以上はゾンビ一号にとってこの血液は、ただの水と大差ない。

 その血液を魔術を持って操作しブレスのために圧縮されたのを利用する、つまりは彼女の鎧となる。

 黒狼みたいに不定形の液体鎧ではなく、凝固し固まった結果中世イギリスの狩猟装に鎧を組み合わせた鎧となった。

 それだけにとどまらず、彼女の周囲に赤いオーラが発生する。


『ーーーーー』

「ええ、圧縮度合いが良かったのでしょう。あと品質もでしょうか? ステータスにもバフが発生する程度には強化されていますね!!」

「話しているのはいいけど、次がくるぞ!!」


 アルトリウスの警告に対して、ゾンビ一号は攻撃を持って答えを示す。

 ヒュドラの首が再生した途端に、ゾンビ一号の攻撃がヒットしたのだ。

 流石に切り裂くまでは行かないものの、大きく弾かれるヒュドラの首。

 切れば切るほど増えていく首、その総数は今や五本となっている。


「残り30秒程度、ですか!! 流石にその短時間で九頭はキツいですね!?」

「どう言う話……」

『ーーーーー』

「分かってますよ、やらなければ彼らに勝機は有りません。それは黒狼の望む話ではない!!」


 その言葉と同時にゾンビ一号に毒のブレスが直撃する。

 五つ首、その機動力に回避を行えなかったのだ。

 アルトリウスは彼女の即死を確信する、こんな状態で生き残れるはずはない。


「クソッ、やられたのか!?」


 言葉が口からはみ出る、ここで1人でも死ねば戦線は維持できない。

 それは、すなわち敗北を意味する。


 そしてそれ以上に、目の前で人間が死ぬのは許せない。

 それを許した自分が許せず、その怒りを目に宿し再度剣を振り上げ……。

 彼女の姿を見た。


「ギリギリセーフっていうヤツですかね!? アンデッドじゃなきゃ死んでましたよ!!」

『ーーーーー』

「ん? 何ぼーっとしてるんですか!! 早く攻撃を加えて!!」

「ーーー、ハハ。」


 五体満足、そんな訳はない。

 ゾンビ一号の皮膚は破れ、骨が露出している。

 血すらドクドクと溢れ出し、とても大丈夫には見えない。

 だが、そんな状態にもかかわらずゾンビ一号は元気に動き回っていた。


 骨が露出しながら元気よく大地を駆け回り、毒のブレスを回避している。

 その姿はまさしく緑銀の流星、戦場に舞い降りた1人の戦乙女(ワルキューレ)

 黒にプラチナを混ぜ込んだかのような綺麗な髪を棚びかせ、赤黒い鎧装をはためかせる。


「負けてられないな、僕も。」


 アルトリウスはそう呟くと、聖剣を握り直す。

 直後、真横で大きな爆発音が鳴り響いた。

 煙だ、黒い煙がヒュドラの口の中で急速に広がり爆発させたのだ。

 強い、そして上手い。

 圧倒的なまでの技能、再現性は高く新たな知見を得られる。


「『エクスカリバー』!!」


 アルトリウスが剣を振るい、漸くにしてヒュドラの頭を潰す。

 出力が足りていない訳ではない、コレは純粋な技量不足だ。

 まだ、アルトリウスが聖剣に見合うほどに使い熟せていないだけ。


「『騎士の誓い』」


 技巧が足りない、工夫が足りない?

 ならば、それはスキルで補おう。

 アルトリウスは即座に判断を下し、スキルを発動する。

 その騎士系スキルは、『騎士の誇り』と同じ入手経路を要求するスキル。

 だが、その効果はヘイトの搔き集めでは無い。


「『エンチャント:腕、脚』!!」


 自己強化バフ、その効果を増強する。

 しかもその強化は数値では無い、%での強化。

 規格外とも言えるスキル、入手難易度を比較しても決して劣るモノでは無い。

 そのスキルと自己強化を施したアルトリウスは、地面を蹴り着ける。


「『エクスカリバー』!!」


 幾度目の乱射、その攻撃はヒュドラの頭部を正確に捉え大きく弾く。

 その先にはゾンビ一号、肉が禿げ骨が露出していた部分はいつのまにか回復しておりそのまま武器を振るう。


「『腐血大斬』」


 武器を振り上げ、振るう。

 その動作の間に、ゾンビ一号からは莫大な量の血液が放出され大きな刃を形成する。

 そのまま振るわれた斬撃は、ヒュドラの頭部を切断し地面に落とした。


『ーーーーー(【(ヤヤウキ)】)』


 その横で迫っていたヒュドラのもう一つの首、それをジャガーマンが牽制する。

 ジャガーマンの手から黒い影が発生し、それがヒュドラに飛ばされたのだ。

 その黒はヒュドラの頭部に張り付き、侵食を始める。

 徐々に蝕んでいく黒、最終的にはその黒はヒュドラの頭部を覆い尽くした。

 そこに軽く触れ、黒を消すジャガーマン。

 同時にヒュドラの鱗が取れ、中の皮膚が露出する。

 そこに蹴りを放ち、首を捥ぎ取るジャガーマン。

 確かに荒々しいが、その荒々しさには技巧の影が見え隠れしている。


「『騎士王(アルトリウス)』」

「『孤独(蠱毒)の死骸』」

『ーーーーー(【第一の太陽(ファースト・サン)】)』


 三人が、三人ともスキルを発動する。

 アルトリウスは英雄の雛から発展した己が名前を冠するスキルを。

 ゾンビ一号は幾度の進化の果てに手に入れたスキルを。

 ジャガーマンは己が権能の象徴を。


 三者三様、だが全員が己を象徴するスキルを発動する。

 その目線の先では首から先を失ったヒュドラが再度全方位に向けてブレスを撃とうとしている姿が。

 それを視界にとらえた三人は、一斉に動き出した。

なお、他のプレイヤーはブレスの余波を避けるのに必死な模様。


どうも黒犬です。

私事になりますが、本日から四日ほど海外旅行へ行くため更新がなくなるかもしれません。

無くならないかもしれないので、更新されていたら是非読んでください。

以上でした。


(以下定型文)

お読みいただきありがとうございます。

コレから黒狼、および『黄金童女』ネロや『妖刀工』村正、『ウィッチクラフト』ロッソ、『◼️◼️◼️◼️』    (ヴィヴィアン)の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!

また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね

「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!

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