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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章中編『黒の盟主と白の盟主』

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Deviance World Online ストーリー3『準古代兵器』

 ポケットショップの内部、そこは四つの小部屋と一つのホールで形成された二階建ての建造物だった。

 中には嫌らしくない程度に華美な装飾が施され、同時に中華的な怪しさが漂う内装となっている。

 その内装に合わせているのか、もしくは内装を合わせているのか。

 陽炎の装備はチャイナドレスの要所に金属板をあしらった鎧であり、イギリス中世を彷彿とさせる『グランド・アルビオン王国』ではミスマッチなその格好もこの場においては完璧にマッチしている。


「さて、なにが欲しいでありんしか? わちきのところには様々なモノが出揃っているでりんす。対価さえ払えば国家機密から貧民の主食まで、何でも用意するでありんすよ?」


 椅子に座り、狐獣最大の特徴であるその尾を動かす陽炎。

 周囲には彼女のクランメンバーが狐の仮面を被りながら待機しており、彼女の指示一つで即座に動けるようにしている。

 血盟(クラン)『キツネ商会』、商会クランの中で人数規模こそ中小程度ながらその影響力は酷く大きい。

 その性質は何でも屋、対価を貰えばどんな汚れ仕事であろうとも遂行すると言うので有名なクランでもある。

 だがそんな性質がある以上、このクランに自ら所属している構成員は少ない。

 背後に控えている狐面の人物もおおよそが借金返済のために契約を結ばされた上で所属させられているのだろう。

 

「喋っても?」

「手前が主題だからな、さっさと言いやがれ。」

「そうですか。さて、私が欲しいのは情報です。内容としてはミ=ゴと呼ばれる生命体、その情報をありったけ欲しいのですが……?」

「……意外でありんしね、その程度ならば探究会やキャメロットで十分得られるモノでありんすよ?」


 疑い深げに、そして睨みつけるように。

 表情は無のまま、声音こそ変化しているが込められた感情は読み取れない。

 いや、読み取れないのではなく嘘くさい。

 まるで詐欺師と会話するように、大仰に大袈裟に感情を込めたその言葉はどうにも信用に値しない。


「おい、陽炎。他人の事情に首を突っ込むのは御法度だ、それ以上何かを聞きたいんなら対価がいるぞ?」

「ソレは失礼、さて其方の要求は聞いたでありんすが出せるモノは見せてもらえてないでなんし。貴方達は、なにが出せるでありんすか?」

「私が喋りますね? 出せる対価としては『準古代兵器』、ソレに関する情報をいくつかですね。とはいえ、一つでも喋れば……、そんなに興奮しないでください『化け狐』。『探求会』や、『キャメロット』の内部に潜っても得られなかった情報がそんなに欲しいのですか?」

「煽るな、ヴィヴィアン。」


 眉間に、線が入った陽炎を見てそう告げたヴィヴィアンだったが村正はソレを軽く諌める。

 だが実際、無意識に表情を変化させた様子は『準古代兵器』に彼女の鉄面皮を剥がすだけの重要性が詰まっていたと言うことに他ならない。

 村正も意外そうに片眉をあげ、組んでいた腕に乗せている指を軽く動かす。

 

「さて、対価としては十分そうだな。」

「足りない、と告げたらどうするでありんし?」

「手前に絶対武器を卸さん、手前に武器を下ろしてる理由は金払いがいいからに他ならねぇ。その手前が儂ら相手に価値を見誤り、暴利を喰らうのであれば手前に卸す武器はねぇ。」

「……ハァ、冗談でありんし。ソレに『妖刀工』には懇意にしてもらっている現状がある以上、()()()対応するでなんし。」


 そう言って、背後の構成員に何かを持ってくるように指示を行い別の構成員に彼が持ってきたお茶を並べさせる。

 そしてインベントリを開き何かを調べると、そのまま長いため息を吐く。

 

 彼女にとってこの二人は厄介な客だ。

 片や、高品質の武器を卸してくれるお得意様。

 片や、相手にしたくもない全てを丸裸にする魔女。

 片方だけならば御し易い、だが実態はそうではい。

 村正が刀を売りにきただけならば良かった、彼が情報を欲したのならば良かった。

 ヴィヴィアンが一人で交渉に来たのならば良かった、彼女が物を売りにきただけならば良かった。


 だが、そうはなっていない。


「代表、これを。」

「下りなさい……、いえD1ーF5の資料をチャットに上げておくように番頭に伝えておくなんし。」

「そいつが、儂らに渡される情報でいいのか?」

「いえ、このイベントで『探求会』『キャメロット』『黒獣傭兵団』『12勇士』『モフモフ連合』etc……から入手した情報の全てでありんす。」


 予想外に挙げられたクランの数に若干気圧される村正、反してヴィヴィアンは眉を顰め何か気に入らないように足を組み直す。

 だがその不機嫌は、結局なんらかの思考の循環で解決したのかその雰囲気もすぐに消え去った。


「ふぅん、で? そいつから儂らが欲している情報をってことか?」

「そうでありんすね……、と。まず貴方達は『ミ=ゴ』に対してどれぐらい理解しているでありんすか?」

「私は『本来は人体の大きさ程度』であり『本来は複数の虫を組み合わせたような見た目』『骨格単位でほぼ完璧な変装が可能』『バイオ装甲なるものを用いて物理、魔術攻撃を大きく減衰させる』『複数のコロニーを作成しなんらかの魔術を展開しようとしていた』と言ったところでしょうか。我々も一度戦闘したので攻撃手段など把握していますが……、いえ念のためそこら辺もお願いしておきましょうか。」

「儂もその程度の理解だ……、ついでに儂らが把握している武器だが電気銃だな。ドロップはしなかったぞ?」


 自分の理解度を事細かに話すヴィヴィアンに便乗し、余り理解はしていないが理解している風を装う村正。

 細かい考えはヴィヴィアンに丸投げする気の村正である。

 まぁ、連れてこられているだけなのでその対応でも問題はないだろう。

 

「であればより詳細な能力などを告げた方がいいでありんすね、戦闘行動をおこなった記録ではまず最初にあのバイオ装甲なるモノは通常攻撃の『クラレント』や『ガラティーン』を防いでいます。おそらくバイオ装甲となる液体のストックが切れるまでダメージが発生する攻撃を無効化するのでありんすね。」

「……手応え的には切れそうだったが? そこはどうなんだ?」

「武器種が違うため推測にはなるでありんすが……、おそらく斬撃属性の属性値。つまり鋭さでありんすね? その鋭さが村正殿の武器の場合高く、バイオ装甲を切り裂けるだけの値に到達しているのでは?」

「いや、『鈍』は……。いや、そういうことか。」


(確証はないが、あのバイオ装甲を切るまでは斬撃属性のままでダメージが発生する時に打撃属性になるという性質か? だったら柳生のばーさんが儂を傷だらけにしたのにも納得がいく。あのばーさんは数回振っただけで使用を感覚的に把握し、打撃属性に変換されるより早く……。化け物か?)


 『鈍』の仕様を推測しつつ、改めて柳生の化け物具合を痛感する。

 笑えない、刀の仕様を超える速度を軽く叩き出すその能力が。

 しかもソレができるということは、打撃攻撃と斬撃攻撃を自由自在に変化させらることにほかならない。

 たった一つの武器で、二つの攻撃が繰り出せる。

 ソレはソレで酷く脅威だ。


「さて、話を戻しましょう。『バイオ装甲』及び『バイオ結界』でありんすが、破壊可能であることは確認されておりアルトリウスが放つ『エクスカリバー』……、あの砲撃の方です。あれならば一撃で結界を破壊できるでなんし、他に『ガラティーン』も完全放出、つまり擬似太陽の顕現を行えば容易く破棄可能でありんす。」

「ああ、『エクスカリバー』はしらねぇが『ガラティーン』の方はガウェインから聞いている。」

「そうでありんすか……、まぁいいでしょう。ここまでがゲーム内で判明しているミ=ゴの情報でありんしね。」


 そこまで言い切ると、卓上のお茶に手を伸ばし軽く啜る。

 未だ湯気が立ち上るそのお茶、その温かさを噛み締めつつ唇を濡らした陽炎は話を続けるためそのままコップを置く。

 一連の動作は見せ付けるようにしていたが、ソレがわからないほどに自然でありながら非常に様になっており、そこには然とした美しさがあった。

 もしここに居るのが凡夫であれば見惚れていただろう、だがここにいるのはそんな美しさに微塵も興味ない朴念仁とそもそも圧倒的に顔がいい魔女。

 見惚れるはずがない。


「で、ここからが現実世界にある情報でありんしが……。まぁ、書かれている情報をそのまま言うので問題ないでしょう。『ミ=ゴとはクトゥルフ神話作品に登場する地球外生命体である。ユゴスよりのものまたはユゴスよりの菌類とも呼ばれており初出は、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの小説『闇に囁くもの』。もしその存在を地球の生物でたとえるなら、容姿は甲殻類風、性質は菌類風。暗黒星ユゴスから地球を訪れる。初出作品では「忌まわしき雪男」、「ユゴスよりのもの」と呼ばれていた。体長は1.5mほど、薄桃色の甲殻類のような姿だが、性質としては菌類に近い生物である。渦巻き状の楕円形の頭にはアンテナのような突起物が幾つか生えている。鉤爪のついた手足を多数持ち、全ての足を使って歩行することも、一対の足のみで直立歩行することも出来る。背中には一対の蝙蝠のような翼を持つことがある。また写真に写らず、死体は数時間で分解して消える。エーテルをはじく翼で宇宙空間を生身で飛行する。一種の冬眠状態になって生命活動を中断でき暗黒世界の出身であるために光を苦手としている。仲間同士では、頭部を変色させたり、ブザー音のような鳴き声かテレパシーで意思の疎通を行うが人間の発声も可能である。科学や医学が非常に発達しており、外科手術は頻繁に行われる。通常、テレパシーを使用するため発声器官はあまり発達していないが、他の種族との会話に対応するための手術も存在する。また生きたまま人間の脳を摘出し、特殊な円筒に入れて持ち運ぶということも行う。この時、体は処理が施され、脳が戻るまで老化することもなく生き続ける。円筒を専用の装置に接続すれば、人工的に視覚・聴覚を再現し、会話も可能である。ミ=ゴはこの円筒を自らの最も気に入った個体、あるいは最も軽蔑する相手に対して使用されるとされている。邪神の崇拝、身体改造を忌避しない点に代表される精神構造が人間と相容れない思想面であるとされている。このため利己的で人間と敵対的な種族として扱われる。また異性に赴くときに用いる道具として電気銃、噴霧銃、地震採掘装置などがあるとされている。』ということでありんし。」

「つまり儂らが見たミ=ゴと同じってことだろう?」

「まぁ、DWOで観測されているミ=ゴと大きな差はないでありんしね。」

「おそらく現実世界のミ=ゴと呼ばれるモノをテーマに作成されていますからね、大きく変化することはないでしょう。」


 分かりきった事だ、そう言わんばかりにヴィヴィアンが言葉を吐き陽炎がヴィヴィアンを睨む。

 その二人をドウドウと宥めつつ、ハァ……と村正は息をはく。

 背後にいる『キツネ商会』の構成員、ここでは店員と言い直そうか。

 店員は誰一人として村正を助けようとはせず、ソレどころか関わらないように目線を背けている。


「ヴィヴィアン、余計なことを言うな。手前がしゃべると脱線する、っと連れ……、連れ? まぁいい、此奴が迷惑をかけてるな……。すまねぇ。」

「……謝るぐらいなら一銭でもわたしていただければ……。まぁいいでありんす、とりあえずこれが今公開できる情報の全てでありんしね。」

「公開できるって言うのは? 何故公開できねぇ情報がある。」

「ソースがないでありんし、掲示板で騒がれているだけの情報など渡しても仕方ないでなんし。」


 そう言ってハァ、と見せ付けるように息を吐きそのまま真っ直ぐにヴィヴィアンを見る。

 その目に宿っているのは期待、そしてソレを超える疑心。

 陽炎は情報を全て渡した、次はソレに見合うだけの情報を買うばんだ。


「本当に、間違いないのでありんしか? ()()『準古代兵器』、その情報を貴方が持っていると言うのですか? あちきがどれほど調べても手がかりしか掴めず、その手がかりもなんらかの意思によってすぐに消された。そんなこの世界の謎、我々プレイヤーが、すくなくとも『探求会』や我ら『キツネ商会』が必死となって探しているソレ単体で世界の情勢をひっくり返せると言っても過言では無い、そんな兵器である『準古代兵器』。その情報を本当に知っているのですか?」


 興奮、そして怒りと焦燥。

 もしソレを知れば、情報戦で。

 いや、もし手に入れれば現在プレイヤー最強クランと噂されている『キャメロット』すら打倒可能な兵器。

 そんなものの情報が、手に入れられる。


 嘘である可能性は捨て切れない、欺瞞の可能性は無きにしも非ず。

 なのになぜ、こんな話を受けたのか? 答えなんて決まっている。

 目の前の女は、偽りの名としてヴィヴィアンを名乗っている彼女は。

 間違いなく知っててもおかしくない人物の一人なのだ。


 もし、全プレイヤーに誰がプレイヤー最強かを問えばその殆どは『キャメロット』の盟主であるアルトリウスを。

 『騎士王』アルトリウスを挙げるだろう。

 だがもし、魔術で最強を上げるとするのならば? 魔術分野において最強と噂されるのは誰だ?


 ソレこそが『◼️◼️◼️◼️』    (ヴィヴィアン)である。

 彼女はまごうことなき天才であり、魔術の分野において最前線を走る人物が一人。

 純粋な魔術分野においては彼女に敵う人物は数少ない。

 この世界で誕生し生きて研鑽してきているNPCと肩を並べるほど卓越した魔術師。

 ソレが彼女なのだ。


「ええ、勿論です。私はソレを知っていますし見ています。貴方も見たことがある筈ですし、その脅威を知っている筈です。」

「禅問答はいいでありんし!! 重要なのは一体ソレが何でどれでどのような機能を持っているのか、でありんす!!」


 勿体ぶるヴィヴィアンに対して、半ば激昂しながらそう告げる陽炎。

 ソレもそうだ、この世界最大の兵器。

 興味がないプレイヤーはいない、ソレが強欲な商人であればなおさら。

 だが、そんなふうに急かす陽炎に対してヴィヴィアンは冷静に。

 そしてゆっくりと噛み締めるように言葉を吐く。


「ソレ以外は結局のところソレに敵わない、そう思わせるほどに最上にして最強とも言える兵器が一つ。名を、()()()()()()()()()』ソレが私が貴方に教えうる準古代兵器の名前です。」


 空気が、凍った。

やっぱり話の主導権を村正に握らせれば早く書ける。


(以下定型文)

お読みいただきありがとうございます。

コレから黒狼、および『黄金童女』ネロや『妖刀工』村正、『ウィッチクラフト』ロッソ、『◼️◼️◼️◼️』    (ヴィヴィアン)の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!

また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね

「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!

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