Deviance World Online ストーリー3『究極極限最強魔術』
全身鎧の騎士、彼は鎧が擦れる音や草木を踏み締める音と共に目の前に現れた。
幽霊の正体見たり枯れ尾花、正体が判明した途端息を吐いたロッソ。
だが、その安堵は一瞬で崩れ去った。
ドンッッッツツツツ!!!
黒狼がキッルの背後にいたロッソを突き飛ばし、また同時に村正が迎撃態勢を取る。
即座に剣を引き抜いたキッルはキツく目を吊り上げると、目の前の騎士を睨みつけた。
「何故、剣を向けるのですか? イケタ!!!」
「……、お前こそ!! なんのつもりだ!!」
激昂、同時になにかの恐怖に駆り立てられるように剣術も何もなく只々暴れ回るように剣を振るう。
それを見た村正は、即座に刀を閃かせると応戦の構えを取る。
ロングソードから放たれる鈍重な攻撃、技がないとは言え間違いなくソレは脅威であるにも関わらず村正は刀で流すことにより全てを捌く。
もし、技術があれば話は変わったかも知れないだろう。
だが、ただ振り回される剣に苦戦する村正ではない。
一瞬、キッルに目配せをすると村正は即座に喉笛に刀を突き立てた。
ポリゴン片になるイケタと呼ばれた騎士、彼は最後に言葉にならない言葉を上げるが……。
村正は、それを見て小さくうなずいた。
「痛ったぁ……、レディに何すんのよ!!」
「いや流石に許して? 急に剣で斬りかかられたらああいう対応をするしかないだろ。」
「分かってるわよ!! ただの八つ当たり!!」
怒り心頭と言った様子で黒狼を攻めるロッソだが、その行動の正当性を理解しているためか本人も八つ当たりと認めている。
だが実際、黒狼も割と雑に突き飛ばしたことを考えると責められても文句は言えないだろう。
互いに非がある状況、それを双方理解した上でこういう会話をしているのはある程度気心が知れた仲になったからだろうか?
「……、しかしイケタが何故急に……。」
「急、急ねぇ? まぁ、儂から言えるこたぁねぇが……。一体後どれぐらい歩くつもりだ? キッル。」
「え、あ、どれぐらいと言われれば……、後100メートルもないぐらいですよ。」
「そうですか、それはそれは。」
ファタがそう言い、村正に向けて目を向ける。
一瞬消えたファタとしての表情、魔女と己を定義する純粋無垢からかけ離れた邪悪すら感じ取れる美貌。
そこに描かれた感情はヴィヴィアンもこの状況を訝しんでいるという事を村正に理解させる。
それに対し、村正は肩を竦めることで返答とした。
つまり、同意そして此方で上手くやるという意。
それを見たファタは片目を窄め返答とすると、ネロを抱き抱えながら純真無垢のような笑みを浮かべた。
「女って怖いな、平然と嘘を纏いやがる。儂みたいな職人にゃぁ、出来ねぇなぁ。」
呆れ、同時に感嘆を漏らしそして一抹の不安を抱く。
切らねばならぬのなら仲間であろうと斬る、斬る必要があるのなら全て斬り捨てる。
ある意味荒みきった考え方を、ある意味完成された物差しを持って村正は己の在り方を見直す。
決して、その思考は無駄にならないと確信し。
彼、すなわち村正。
『妖刀工』千子村正、自ら名乗った覚えはないその異名は村正が作り上げた刀の全てに特殊アーツが宿っていることから付けられた異名だ。
幾重に数多の殺しの刀剣を輩出した村正にとって、その異名はある意味光栄とまで言えるモノ。
ゲーム的意味合いを含めず妖刀というモノを語るなら、それは人の死に関わるモノ。
数多の人間を切り殺した刀、あまりの鋭さゆえに誤って切り殺した刀、もしくは握らせた人間に切り殺させたいと思わせる刀。
すなわち、人を殺すことに特化した刀。
今でこそ装飾品以上の意味を滅多に持たない刀だが、その本来の目的は殺すこと。
刀としての極地の称号を二つ名として得ることが出来るというのは、刀工としてこれ以上ない話だ。
そして、そんな事を思えてしまうが故に村正は己が悪であると否応にでも自覚してしまう。
(人を殺す、其れを許容するならばまだ良い。だが人殺しの道具を作り上げ、そして人殺しの道具として怖れられる畏怖の称号を与えられて喜ぶ。其奴は、ただの悪でしかねぇ。……まぁ、そう言ったところで儂はこの道を進んでいくんだろうがな。)
呆れ、そして諦め。
一見すればそう見える思考だが、中に含まれる感情はどうしようも無い自分に対する喜び。
もしソレを風景とするのなら、彼の心象は燃え盛る情熱の炎であり鍛冶場の炉に灯る赤い焔。
錬鉄を赤く染め上げ、炉端を熱く燃え上がらせる情熱の炎。
その炎は鍛治士すら燃やそうとするように舞い上がる代物であり、同時に鍛治士の思いに応える灼熱の獄炎。
それこそが彼の心象に広がるモノだろう。
「どちらにせよ、儂はどうしようも無い人間って訳か。」
「ん? どした、村正。お前は相当真っ当な部類だろう? 少なくとも俺よりは。」
「っは!! 笑わせる。狂人が狂人に向かってそんな事を宣うんじゃねぇよ、何の慰めにもなりゃしねぇ。」
「アレ? 励ましたはずなのに貶されてねぇか? 俺。」
黒狼を貶しながら、散らつく枝葉を取り出した短刀で軽く切り村正は静かに睨む。
何を? 答えは騎士が現れた先の場所を。
彼が走ってきた道、そこに草に踏み跡が付き土塊が飛んでいるのが見える。
何かから逃げた、その上で激昂し彼に切り掛かった。
何故? 情報が足りない、条件が絞り込めない。
所詮、村正は19世紀末の名探偵や高校生探偵。
他にオリエント急行の名探偵やABCの探偵には遠く及ばないのだ。
故に、怪しさを醸し出すキッルを警戒しつつも村正は手を出しあぐねていた。
「そろそろ中心部ですね、何かあると良いのですが。でしょう? キッルさん。」
「一応、中心部には建築物がありますよ。我々はそこに向かっていると言った感じです。」
「建物? どんな感じの? ジグラットみたいな感じ?」
「よく古代の産物を言ってくるな……、紀元前だろ? ソレ。」
ロッソの博学に驚くと同時に、黒狼は軽く言い返す。
内容のない会話、無駄としか言えないソレは何よりも黒狼の心に余裕を齎した。
故に、その建築物が見えた時。
黒狼は失策を悟り、ファタは敵にむけて仕込んでいた魔術を展開した。
*ーーー*
建造物、ソレはそう称されたものは決して建造物などではなかった。
ソレは棺であり、保管容器であり、異邦ですら作り得ることができないモノ。
星を征く銀の流星、すなわち宇宙船。
星間航空を目的とされたモノが大地に落ちたモノだった。
「やはり偽物ですか、プレイヤーの肉体をどうやって奪取したのかは不明ですが……。」
「言ってる場合か!! 誘い込まれたんだよ!! 俺たちは!!」
「ソレを承知できているのでしょう? 驚くに値しません。」
そして無詠唱で放たれた魔術によって大きく吹き飛ばされたキッルを冷ややかな目で見ると、正体を現せと言わんばかりに追撃を放つ。
同時に村正は周囲を焼き払うためロッソに魔術の展開を要求する。
ここは相手の腹の中、鬱蒼とした森林の中で戦うなど言語道断。
相手は何らかの手段でプレイヤーの肉体の奪取を行なっていると告げられたのであれば、真っ先にすべきは安全の確保だ。
なればここは周囲を焼払い、見渡せる空間を確保すること。
冷徹な思考でそう結論を弾き出した村正はロッソにそう告げ己も周囲を焼こうとするが……。
その行動は他でもないロッソに止められた。
「手前!! 何をしやがる!! 仲間割れを起こす暇はねぇぞ!!」
「違う!! その行動は悪手なの!!」
その言葉に疑問符を浮かべ、険しい目でロッソを睨む村正だが次の瞬間にその疑問は氷解する。
肌に張り付く髪、この森の湿気は相当に高い。
ソレがただの水分であれば問題なかった、魔術や魔法を展開するにあたり大きな障害とはならなかった。
だが、ソレはただの水分などでは無かったのだ。
「一種のガスが充満してる!! このバイオ結界の構成素材となるね!! 大規模の魔術や魔法を展開しようとしたら阻害されるわ!! だからの魔女はいつもみたいに魔力のゴリ押しをしないのよ!!」
「失礼ですね、技術も存分に使っていますよ? ロッソ。」
瞬間、黒狼は違和感の正体を得た。
ここに突入した時から感じていた違和感の正体。
ソレは、間違いなくこれが原因なのだ。
「おオ、全く何故急にコう撃をしてきたんですか?」
「うむ、気色悪い!! 疾く消え失せるが良い!!」
ファタ、いや変装を解いたヴィヴィアンが放った魔術の数々。
ソレを受けて肋がおれ腕が曲がり、バランスがおかしい状態のキッル。
上手く呂律が回らない口調で平然とヴィヴィアンにそう告げたキッルは、世界観にそぐわない近未来的な銃を腰の後ろから取り出した。
「腰当が落ちてたのはそいつが原因か、普通なら落ちてる筈がねぇから不思議に思ってたんだよ。」
「鑑定結果は電気銃!! 気をつけろ、食らったら麻痺の状態異常が80%で発生するぞ!!」
「何それ、いや何それ!! 強すぎない!?」
「このイベントの最終的な敵でしょう、これが他にいくつもあるのですか……。なるほど、厄介です。」
瞬間、電気銃が青白いスパークを発生させ銃撃が発生する。
狙われたのは村正、咄嗟に刀を避雷針として扱うように投げ捨てた。
同時に、地面を縫うように接近した黒狼が槍を突く。
だが、その攻撃はいつのまにか分泌されていた緑色の液体が変化し構築された防御壁により防がれた。
「バイオ結界、いやこの場合はバイオ装甲って言うべきか!!」
「セい解、成程この程度はサっせますか。」
短いやり取り、そこで実態を把握した黒狼はそのまま剣を叩き込む。
だがその攻撃もあっさりと防がれ、ソレどころかキッルは手に持つ銃で応戦してきた。
引き金が引かれる、電気がスパークし黒狼を貫く。
多大なダメージと8割の確率での硬直、だが前者はともかく後者は状態異常無効により確率の壁を消しさった。
だが代わりに、そのダメージを受けた結果黒狼は纏っていた偽装の魔術を剥がされた。
「何!? ホねだと!!」
「ハッ!! 今更かよ!!」
その言葉とともに突き出された槍の一撃、またもバイオ装甲がソレを防ぐが完全には相殺しきれなかったのか穂先がキッルに届く。
そして、同時にヴィヴィアンの魔術が展開されキッルのバイオ装甲に突き刺さった。
大きく吹き飛ばされたキッル、そこに追撃を仕掛ける黒狼と少し遅れて前衛に立つ村正。
その攻撃は少ないながらもキッルに有効的ではあった。
流れは明確に黒狼たちが掴んでいる、そのはずだった。
「ポーション、良い文明産物だ。」
「その硬さで回復手段の保有はズルだろ……!!」
「糞っ!! 有効打に発展しやがらねぇ!! あの結界ほどは硬かねぇが……、十二分に硬てぇじゃねぇか!!」
4人による一斉攻撃、何度か戦ったことにより役割分担は明確化されその連携は決して劣ることはない。
だが、ソレでも有効打は一切発生しなかったのだ。
ソレどころか、受けているダメージで言えば黒狼たちの方が大きい。
状況を打開する可能性がある『復讐法典:悪』は、Ⅻの難行ほど圧倒的な攻撃がなく致命傷に発展するものがない為使うメリットが薄い。
他の人物の保有する手段もここで切るには全て中途半端なものしかなく、取れる手段が殆どないのだ。
「どうするの!! 純粋に攻撃力当たりないわよ!!」
「……状況を打開できる手段はありますが、この結界内で展開することは困難でしょう。攻撃性を孕む魔術の悉くが不安定になります。時間的猶予が必要ですね、それも相応の。」
「儂に頼られても無駄だ!! ここで出すべき品はねぇ!!」
「言うまでもないけど俺もな!!」
何発も何回も放たれる蒼電、主にソレを受けているのは黒狼だった。
刀を避雷針代わりにして避ける村正でもその精度は完璧ではない、時たまに食らっている事を鑑みればソレは間違いはないだろう。
避け切れなけれ痲痺が発生する、状態異常無効を保有する黒狼だからこそそのリスクを受ける事がない。
だが、ソレでも。
リスクが低いと言ってもダメージは大きい、何回もダメージを受けた黒狼は目減りするHPを見て焦りが表面化する。
「落ち着け!! 手前が倒れれば負けるのは儂等だぞ!!」
「わかってる、わかってるさ!! けど5割を切ってんだよ!? 落ち着けるか!!」
「『癒しをここに、麗しき女の手を。【癒しの御手】』」
「ぐわぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!? HP減ってる!? 減ってるよ!?」
アンデットにとって生命力を活性化させ、肉体を癒す回復魔術は毒でしかない。
魂が主なアンデットと言う存在は、肉体に生命力がが宿っていないからこそアンデットとも言える。
故に前提の定義が崩れれば、前提の定義を再構築しようとしHPを損傷させるのだ。
だが、この仕様はあまり知られていない。
だからこそ、情報通なヴィヴィアンも無知ゆえに黒狼に回復魔術を施してしまったのだ。
「ちっ!! 黒狼!! 回復薬は!?」
「無い!! くれ!!」
「ほらよ!! 大切に使え!! 儂も大して持ってねぇからな!!」
その言葉を叫び村正は再度攻撃を再開する。
この装甲は、鋭い攻撃であればあるほど貫通するらしく村正の刀の攻撃は4人の中では最も有効な攻撃手段だった。
だが、ソレでも。
有効打には、程遠い。
「仕方ない、ここは無理矢理にでも私が……!!」
「余の出番だな!! つ・い・に!!」
「ちょっと待ちなさい!? 貴方、戦えるの!?」
だから、ここで名乗りをあげたネロに全員驚愕した。
そもそも彼女は戦闘が非常に苦手だ、今まで一切の戦闘に参加していないことからもソレは窺える。
そんな彼女が、出番と告げた? 何故?
疑問は渦巻いている、だがその疑問を打ち消すかのように彼女は引きずるように持つフランベルジュを。
トラゴエディア・フーディアを、地面に突き刺した。
「とくとみよ!! 余の心象、余の世界、余の究極極限最強魔術を!!」
阻害されるはずの魔術、だがソレはそんなものを関係ないとばかりに煌々と光り輝き現れる魔法陣。
今この瞬間、彼女の劇場が開かれる。
ネロの奥の手? みたいな? ものは次回に明らかになります。
そして魔術を封じるというこのパーティーのガンメタを貼ってくるキッル(仮)さんやぁ……。
まぁ、それだけなら負けないんですがバイオ装甲が厄介ですね。
純粋にダメージが入らない……。
(以下定型文)
お読みいただきありがとうございます。
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また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
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